第3話:神様、ついにリセットボタンを押す。
えー、みなさんこんにちは。春日部つむぎです。
前回、人類初の「他者消去」という最悪のバグが発生しました。それから時間はさらに流れ、人間はどんどん増えていきます。普通、人数が増えれば技術が発展したり、文化が豊かになったりして「いい感じ」になるはずですよね?
でも、自由意志という名のバグを抱えた人類、増えれば増えるほど「やらかし」の密度も上がっちゃったんです。今回は、神様がついに「このプロジェクト、一旦白紙に戻そうかな……」と遠い目をする、歴史的大惨事のお話です。
神様、世界をもう一度やり直す。
それでは、第3話「神様、ついにリセットボタンを押す。」いってみましょう。
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世界、炎上中
さて、当時の世界の状態ですが、一言で言うと「世紀末」です。
みんな好き勝手やって、奪い合い、傷つけ合い、もはや神様が最初に設定した「善」のプロトコルなんて、影も形もありません。システムログを見れば、エラーコードと不正アクセス通知が画面を埋め尽くしているような地獄絵図。
それを見た神様の独白が、これまた切ないんです。
「あーあ、人間なんて作るんじゃなかったな……」
全知全能の神様に「後悔」という概念があるのかよ! ってツッコミたくなりますが、それくらい当時の人類の暴走は、神様の想定(期待)を遥かに超えてひどかったわけです。神様は決断します。
「よし。地上にいるもの、全部消去しよう。……でも、全部消すのはちょっと忍びないな」
ここで、神様の視線が一人の中年……いえ、真面目なおじさんに止まります。それが、今回の主人公「ノア」さんです。
究極の「無理ゲー」発注
ノアさんは、そんな荒れ果てた世界の中で、唯一「ちゃんとしてた」人でした。神様との接続をしっかり維持して、周囲のバグに染まらずに生きていた。神様はノアにだけ、極秘のバックアップ計画を伝えます。
「ノア、これから大洪水で世界をリセットするから、巨大な箱舟を作って。サイズはこれくらいで、階層は三階建てで……あ、あと、世界中の動物たちを種類ごとに乗せてね」
……いや、神様。発注が雑かつ重すぎません?
今みたいに重機があるわけじゃないんですよ。ノアさん、ここから何十年もかけて、たった一人(と家族)で山の上に巨大な船を作り始めます。
たぶんノアさん、何度も不安になったと思うんですよ。
本当に雨なんて降るのか。自分は神様の声を聞き間違えたんじゃないか。家族まで巻き込んで、山の上で船なんて作って、もし何も起きなかったら……。周りからは「ノアのやつ、ついに頭いかれたな」って指差される日々。それでもノアは、木を切り、板を組み、釘を打ち続けました。
信仰って、たぶん「疑わないこと」じゃなくて、疑いながらも「神様の仕様書」通りに手を止めない、狂気的なまでの実装力のことなんですよね。
デバッグ開始:40日間の水没
ついに、箱舟が完成しました。ノアの家族と、世界中の動物たちがゾロゾロと船に乗り込みます。そして、神様が自ら箱舟のドアを外側から閉めました。これ、完全に「ロックがかかった」状態です。もう中からも外からも開けられません。
その直後、来ました。大洪水です。
天の窓が開き、地下の泉が湧き出し、世界は一瞬で水没しました。
この時の箱舟の中、想像してみてください。
決して快適なクルーズ船じゃありません。木の匂い、濡れた獣の匂い、湿った空気。足元は絶え間なく揺れ、壁の向こうでは激しい雨音が叩きつけ、暗闇の中で動物たちが怯えて鳴いている。
外に出ることはできないし、窓から見えるのはただの「水」。
昨日まで自分を馬鹿にしていた世界が、冷たい水に飲み込まれて消えていく音を、ノアたちは箱舟の内側から聞いていたわけです。
これ、神様からすれば「洗浄」なんですよね。あまりに汚れすぎたシステムを、水という強力なクリーナーで洗い流している。でも、そのクリーナーの中に、ノアという「最小構成のバックアップデータ」だけを浮かべて守っている。神様のツンデレ補正、ついに地球規模にまで拡大しました。
鳩とオリーブ、そして「ロック」の契約
水が引くまで、かなりの時間がかかりました。
ノアさんは、外の様子を伺うために鳥を放ちます。最初はカラス。次は鳩。三回目に放った鳩が、オリーブの葉をくわえて戻ってきた時、ノアは確信しました。「あ、陸地が出てきた。再起動完了だ!」
船を降りたノアが最初にしたことは、神様への感謝の献げ物でした。神様、その香りを嗅いで、こう思います。「うん、やっぱり人間って、放っておくとまたやらかす生き物なんだよな。でも、もう二度と、洪水で全部消すようなことはしないよ」
ここで、神様は人類と「新しい契約」を結びます。その証として空にかけたのが、「虹」です。
虹はただの演出じゃありません。神様が自分自身にかけた「制限」なんです。「虹が出ている間は、私がこの約束を覚えている印だよ」……つまり虹は、神様が「リセットボタン」にかけた物理的なロックなんです。二度と全消去はしない。神様、自分自身の運用ルールをここで定義したわけです。
補正の結末:初期化は解決策か?
こうして世界は、ノアの家族からリスタートすることになりました。でもね、これでお話が終わらないのが、このドキュメンタリーの恐ろしいところです。
世界を綺麗に洗い流して、一番マシな人間だけを残した。完璧な再起動のはず。なのに、リセットしても、人類のバグは消えなかった。
結局、システムを初期化しても、人間の中に組み込まれた「自由意志という名のバグ」はそのままだったんです。
神様は、この「バグを抱えたままの人類」と、どう付き合っていくのか。
人類は、この広くなった世界で、今度は「一人」ではなく「集団」としてどんなやらかしを披露するのか。
次回、第4話。
「高い塔を作ってバズろうとした結果。」
お楽しみに。……次は「言語の壁」という名の、神様による通信制限のお話です。




