第4話 学校生活の始まり
「どの物件にしようか?」
俺たちは今、不動産屋に来ている。みんなで一軒家を借りるか、一人ずつアパートやマンションを借りるかで迷っているところだ。
俺としてはマンションで一人暮らしをしたい。好きな人と暮らせるのは嬉しいが、それ以上に他人の目が気になるし、何より恥ずかしさが勝つ。それに、女性ばかりの中で生活するのは、正直かなり気まずい。
三島リーダーもいるとはいえ、特別仲がいいわけでもない。正直、俺以外のメンバーで一軒家を借りてくれればありがたい。進行がまとまらなければ、後で提案してみよう。
「この一軒家なんかいいんじゃない?」
「海も近いし、お店の利便性も高そう! でも家賃が高くて毎月払える気がしないなぁ……」
時末さんが示した一軒家に希羅がそう言い、真会さんも音梨さんも頷く。
月に15万G。個人的には安いと思うのだが……。
「住む人で出し合えば負担は減らせるんじゃないですか?」
「それがいいと思いますぅ」
真会さんが、俺の考えていたことを言ってくれた。さすがだ。
俺はひたすら一人暮らし用の部屋を探す。巻き込まれる前に決めてしまいたい。
「牙城さん、いいのあった?」
「ん? あー、俺はこの部屋にしようと思ってる」
俺の言葉に、希羅は資料を覗き込む。
「一人暮らしするの?」
「うん。ほら、希羅が貸してくれた漫画あっただろ? 『BL転生物語』! あれの主人公みたいに……なんかこう……異世界で一人暮らしみたいなの、憧れててさ!」
言ってから、自分でも意味が分からない言い訳だと気付いた。
なんだよ“異世界で一人暮らしに憧れてた”って……。
「へぇ……」
「そうなんだ……」
「……フッ」
三者三様の乾いた反応が刺さる。
俺はほっぺが熱くなったのをごまかすために、資料を抱えて窓口へ向かった。
「すみません、この部屋は空いてますか?」
「はい、確認しますので少々お待ちください」
しばらくして、お姉さんが丁寧に説明を始めた。
「こちらと同じ条件の物件は、北浜グループと東郷グループの二社が扱っております。どちらから借りられますか?」
なるほど。そりゃ特典や家賃が違うわけだ。
条件だけ見れば、北浜のほうが圧倒的にお得。
……ただ、同じクラスに東郷さんがいるんだよなぁ。
俺が迷っていると、お姉さんが補足してくれた。
「北浜グループはコスパ重視の方に人気ですね。一方の東郷グループはサポートが手厚く、学生さんに選ばれることが多いです」
「へぇ〜、ありがとうございます。では、東郷グループでお願いします」
「かしこまりました。手続きをいたしますね」
その日のうちに入居できるとのことで敷金礼金を支払い、鍵を受け取った。
時末さんには「ボッチマン」「ヒネクレ坊や」など、変なあだ名を付けられた。
希羅たちも東郷グループの良い物件が見つかったらしい。
買い物を済ませ、それぞれの部屋で一夜を過ごした。
「ふあーー」
朝起きた俺は部屋を見渡す。
昨日借りた部屋で間違いない。夢であってほしかったが、現実だったようだ。
しかし、なんにもない部屋だ。元々あったのは冷蔵庫とエアコンだけ。昨日買ったのは食料と水色の布団セット。ソファーとテーブルくらいは欲しい。
今日、学校が終わったら家具屋に行くか。
8時40分からショートホームルームが始まる。
出席を終えると、さっそく昨日のテストが返ってきた。
机に戻る途中、他の人の点数が見えた。ほとんど満点。
やっぱりこのクラスのレベルは桁違いだな。
「今日は健康診断がある。その後に委員会決めをする。どの委員が良いか考えておけ。では体操服に着替えて体育館に集合だ。女子は下の更衣室を使っていいぞ」
先生はそう言って退出した。
「聞いたか? 更衣室で着替えていいってことは、教室で男子と一緒に着替えてもいいってことだぜ!」
「よっしゃー! ウェルカム・トゥ・チェンジクローズ!」
島瀬と馬波の下心丸出しの叫びに、時末さんが冷たく言い放った。
「ボッチマン、へんたーい」
「いや、僕何も言ってませんが?」
女子たちはヒソヒソ言いながら教室を出ていった。
島瀬と馬波の願いが叶う日は永遠に来ないだろう。
健康診断は順調に進む。
最後は保健室で血液検査だ。
「先生……痛くしないでくださいね……」
「はーい、動かないでねー」
島瀬はどこでもブレない。あいつの後の人が目立って可哀想だ。
そして俺の番だ。
保健医の花蘇芳先生は、赤紫色のショートヘアが印象的な大人の女性だ。白衣が似合いすぎている。若く見えるが実は40代らしい。
「牙城鐵星くーん」
「はい」
椅子に座り、腕まくりをする。
「はーい、力抜いてね……あら? 脈がない?」
「え? そんなことあります?」
一度死んだ身とはいえ、脈がないはヤバいだろ。
「あ、ごめん! ちゃんとあったわ。私の勘違いね、ははっ」
「ははは……先生、驚かさないでくださいよ〜!」
どうやらただの勘違いだったらしい。
先生も疲れているのだろう。よかった。
「問題ないわ。次で最後ね、頑張って」
「はい。ありがとうございました! 先生も無理しないでくださいね!」
聴力と視力を終え、俺は教室へ戻った。




