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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
クエスト「新たな境地」
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エイタローとバグとあと神殿とか

 神殿、というべきか。


 ミウルの里を出発した僕らは、二日かけて北上。スコイア湿地帯をかすめて、ちょうど東域を左右に長い長方形に見て、左上のあたりまでやってきた。直線距離からすればオルトノグェイクともそう離れていない。実際、場所を送ったガートランド達ともほとんど同時に合流できた。


 意外と近くに転職場所があったもんだ。


「アールター神殿。ミウルの聖域だ」


 男爵がつまらなそうに呟く。まだ僕に負けたことを根に持っているのか、僕をほとんど無視していた。イイリコさんにばかり話しかけているから、案外決闘の目的がイイリコさんだってのも嘘じゃないかもしれない。


 僕ら一次職組二十四人。これが今からクエスト「新たな境地」に挑戦するメンツである。正直レベルは心許ないけど、いちおう制限はないしたぶんクリアできるだろうというのが先達からの評価であった。


「単純なバトルイベントじゃないから、むしろレベルがどれだけあっても無理な時は無理だ」


 男爵の言である。運ゲーみたいな言い方するな。


 森の中にひっそりと広大な神殿が鎮座している。山上のオルトノグェイクから見えなかったのが不思議だけど、巧妙に隠されてたりするんだろうか。


 僕らが足を踏み入れようとしたら、階段の上の入り口になにかがあらわれた。


 ミウルの女性で、上品な飾りと純白の衣服に身を包んでいる。なんでか知らないが半透明で、だからきっと、ずっと昔の人なんだろう。そういうもんだ。


「勇者達よ、待っておりました」


 ミウルの女性は静かにしゃべり出す。


「ムービーっすね」

「我らミウルの秘技をここに授けます。試練を乗り越えたのち、あなた方は今より遙かに強大な力をもつことでしょう。願わくば我が子らとよく、魔王へ立ち向かうよう」


 ……


 ミウル語じゃない。メッセージも僕ら人類に向けてのものだ。


 であれば、ミウルは人に対してこんな施設を残したのか?


 いや、ゲームの設定だってわかっちゃいるけど、でもなんかひっかかるな。確か利家の話では、ミウルは遙か昔に絶滅していて、そうか、人間との交流がないのはWWでの設定だ。


 CHはどうなんだ? 絶滅しているはずのミウルが生きているんだから、時代設定が過去であるという可能性はあるけど、でも全体マップは時代とかそういうものじゃなく別モノだ。ここはミウルがこういう施設を残すほどに人間と親密だった。少なくともモンスターの進行より前のいつかの時代では……と考えておこう。とりあえず利家の意見を聞くのは後からでもいい。


「試練は一組ずつ行われます。人数が多いようですね」


 ん?


「一小隊ごとだ。順番を決めな」


 小隊長四人が話合って、結局僕らが行くことになった。「最初に行きたい人手あげて」で全員が挙げたから、ジャンケンで。運が良いな、イイリコさん。


「おい」


 階段を上りきる頃、下から男爵の声。


「夕闇男爵はまだ負けていない」

「バロン」


 レツリンが止めようとするけど、男爵は構わずに言い放った。


「俺はお前に一つ嘘をついている。とびっきりのヤツだ。それがわかるまでは、まだお前は掌の上だからな」






 こんな綺麗な施設、たぶん初めてだろう。サンダマスヴェリアは質実剛健というか完全に戦闘用の城砦だし、オルトノグェイクもそうだ。マーシャヴェルナは雑多な港町で、アーシュアは寒村。


 序盤をちょっとすぎるあたりでこういう施設が出るのは、ゲームらしいっちゃらしい。


「さっきのアレ、負け惜しみかな」


 イイリコさんが機嫌よさそうに言った。


「まさか。男爵なら負け惜しみで言う台詞じゃないでしょう。なんかあるんだ」

「ジェスト、なんかアイツのこと過大評価してない? ただの小物じゃない」


 姫代子は姫代子で過小評価しすぎな気もするけど、言いたいことはわからないでもない。


 子供染みているといえば外れていないだろう。僕に負けたのがずいぶんショックだったみたいだし。


 でもWWで伝え聞いた男爵の噂話は、そんなんじゃ終わらない。男爵は言葉の裏にどんな罠を仕掛けているのかわからない。


 あの決闘が僕の勝ちで終わることで、男爵はなにか得をしたはずなんだ。そういう風にことを運んでこそ男爵だ。


「かわいそうなのはハンマーナックルだろ。バスとか言ったっけ」


 イイリコ小隊に復帰したガートランドがぼやく。


「全部自分が狙われてたって、そりゃないよな……あそこか?」


 木漏れ日の中を歩く。凄く静かで、僕らの足音が響いている。広い廊下の先に、両開きの扉があった。


「男爵はこのクエストの攻略方法は教えてくれなかったわ。まあ、あんまり攻略方法教えてもらうのもアレだし。ダンジョンアタックは久しぶりだけど、気を引き締めていきましょう」

「ですね。また変なことが起こるかも知れない」


 そう、例えば……ゴブリンシャーマンが変に配置されていたような。


 なにが起こるかわからないんだ。


 近づくにつれ自動的に開いていく扉の向こうには、更に扉。


 イイリコさんを先頭に、僕らはゆっくりと足を踏み入れた。






「……っ?」

「あれ?」


 なにが起こったのかわからなかった。最後尾の僕が足をついた途端、前のみんなが消えた。


 それどころか、僕が立っているのは広間ではなく、さっきのよりずっと狭い、窓もない廊下。


 前も後ろも、途中で折れ曲がっているから先は見えない。でもなんか、そう、床も壁も材質は同じだけど……違う場所だ。


 もしかして消えたのは僕か? いや、隣にエイタローがいる。僕とエイタローだけ、転移したのか。


「……なんか罠っぽいの、あった?」


 首を振るエイタロー。そりゃそうだ。イイリコさんがわからなかったら僕らにわかるはずがないし。


「しまった……最初の一歩から失敗したかも」

「ここどこだろ。ねえ、なんか地下みたい」


 それだ。地下っぽいんだ。小鳥の声とか葉擦れの音とかが聞こえなくなっている。この閉塞感。地下ダンジョンっぽい。


「明かりがあるのはサービスかな……まあ、ここでのんびりしてても仕方ない。合流しよう」


 メニューを開く。おっと、ログアウト不可……通信も不可だ。


「足で会えってさ。行こう」

「僕が前に出るよ。あんまり後ろに注意行かないから、お願い」


 なんだエイタロー、やる気だな。ここは他の目がないのに真琴じゃない。


「そんなきばんなくてもいいよ」


 確かに二人、というのは心許ない。挟み撃ちになったら僕はかなりヤバい。ただこの転移がどういう意図によるものかで変わってくる。


 例えばこのクエストは『二人で攻略するものなんじゃないか』とか。


 ガチャガチャと鎧を鳴らしながらエイタローは進む。布生地に間に合わせの皮当ての僕に比べたら頼りになる。サクラさん達のおかげで装備はかなり充実したけど、それでもネクロマンサーはネクロマンサーだ。


 戦闘になったら嫌でもエイタローが前に出ることになる。しっかりサポートしてやらなきゃな。


 盾としてのエイタローだけど、ここ数日でずいぶんうまくなったと思う。コツを掴んだのかこれまでの努力が報われてきたのかはわからないけど、そろそろ安心してバトルの先陣を任せられるようになってきている。


 もともとスキル自体はあるんだから、盾としてのセオリーを覚えてしまえば問題ないんだ。ちょっと不器用だからそれに時間がかかったって感じだな。


 二次職で防御側の職を選べば、信頼は増す。


「サマになってるよ」

「え?」


 振り返ってきた。そんな意外だったか?


「サムライの盾」

「え、ど、どど、どうしたの急に」

「そろそろ教えること、なくなってきたな」


 顔を赤くして向き直った。


「まだまだだよ……僕は、ずっと見てたんだ」

「ん?」

「ずっと、ジェストくんを見てたんだ。まだ足りない」

「エイタロー、さっきも言ったけど、あんま気張ると……」


 あ。


 くそ。


 そうか。


「……わかった。うん、頑張れ」







「エイタローさんが相談してきたっすよ」


 神殿への道中だった。確か昨日の昼過ぎだ。


「そういうのって言っていいの、僕に」

「表向きはいかんですが、ジェストさんに言った方がいいことでしょう」

「なんでユージンなのさ。エイタローが相談っていったらイイリコさんか姫代子だろ」

「色恋ってよりはゲームについてのことっすからね」


 話が見えん。間違ってもエイタローに悟られないように、こそこそ僕らは話した。


「なんなんだよ」

「ジェストさんが優しいって」

「……はあ?」


 ユージンによれば、僕はエイタローにとても優しくて、気を使ってて、気を悪くするようなことなんてなにもしなくて、


「なんだそりゃ。それって悪いのか?」

「いやまあ、ケースバイケースですけど。問題はね、エイタローさんはジェストさんの彼女っすけど、イイリコ小隊の一員でもある。ひいてはCHのプレイヤーの一人ってことっす」

「それで?」

「例えば何ですけど、ジェストさんがエイタローさんだとします。戦闘の時に無理するなとかここは任せとけとか、クリティカルでモンスター倒した時も褒めるより傷の心配されたり、レベル的に失敗しようもない相手に対して事細かに指示を出されたらどう思います?」

「なにって……なんだ。僕ってそんなだった?」

「少なくともそうでないとは言い切れません」


 なるほど。


「過保護っていいたいのか?」

「悪いとは俺は思わないっすけどね。今までイイリコ小隊の壁だったのがジェストさんで、このゲームからそれを引き継いだわけです。そんでジェストさんはステータス的には非力なネクロマンサーでしょう。前衛の経験あんまないからわかんないっすけど、もっと頼ってほしいって気持ちがあってもおかしかないと思うっすよ」

「そんなもんか?」


 とは言ったものの、エイタローには自分の分のお守りを僕によこした件がある。あれもそういう気持ちからでた行動だと考えることはできる。


「悪く言えば、先生と生徒なんですよね。ことエイタローさんはジェストさんに盾の指導を受けたりしてたし、まあ、微妙な所ですけど、そういったことです。ここまではっきりとは言わなかったっすけどね」







 僕は長いこと盾やってたから、その気持ちは非常によくわかる。盾ってのはパーティの最初の防壁なわけで、先頭に立ってモンスターに突っ込むから、自分がみんなを守っているという自負がどうしても芽生える。これは避けられないもんだし、むしろ居丈高に振る舞わない限りは美徳だ。


 エイタローの背中を見る。


 エイタローは女の子だ。だけどCHでは男女でステータス差があるわけでないし、彼女もこのゲームの参加者である以上、筋金入りのゲーマーであることは疑いない。


 まいった。いくら僕が免疫がないとはいえ、ずいぶん舞い上がってたみたいだ。


 エイタローが今、真琴でなくエイタローとして振る舞っているのもそうなんだろう。僕の彼女である、大人しい引っ込み思案の真琴ではなく、イイリコ小隊の盾である元突撃武者、サムライのエイタロー。


 僕らは普通の関係じゃない。背中を預ける仲間同士でもあるんだ。


 悪かった。これから気をつける。







「……敵、出ないね」


 三十分ほど歩いただろうか。


 景色はいっこうに変わらない。相変わらず狭い廊下が延々と続き、出口らしきものはない。あんまり変化がないから、途中からマッピングを始めた。少なくとも同じ場所をグルグルまわっているわけではなさそうだけど、それにしても終わりが見えない。


 しかも地図が正しかったら、広いってもんじゃないぞ。


「敵もそうだけど、これ、出られるのかな」

「ロ、ログアウト不可で出られないって……ないよね?」

「わからないぞ。例えば運営のミスで出口を作ってないとか、バグとか」

「脅かさないでよ……もう」


 いかん、冗談にしてもアレだったか。正直通信不可地域でも帝に繋がらないってことはないだろうし、今までの経験からいってこのゲームにそんなわかりやすいバグがあるとは考えにくい。


 ……


 なんでだろう。


 バグってのは作るものの規模が大きくなればなるほど、どうしても出てくるものだってきいたことがある。商品として発売されているゲームにも大なり小なりで、バグのないものなんかないと言い切れる。実際、WWだって初期の無限増殖バグだったりポリゴンにハマって身動きが取れなくなったり、致命的なバグはヤマほどあった。


 それがCHにないなんて、そんなことあるか?


 いや、僕が幸運にも遭遇してないだけで、いくつも発生しているのかもしれない。でもそういったことはすぐに共有されるはずだし、ハブられ気味の僕にも、むこうの組織のトップであるジュリアさんやノリアキングがいる。それでなくても好意的な知り合いはエリスレルやルシェイナさんとかそれなりにいる。バグが発生したら僕が知らないってのは考えにくい。


 ネトゲのバグはだいたいがゲームバランスに直結する。有利なものならみんなが殺到するし、不利なものなら誰も近づかなくなる。そうでなくとも検証されるから、見つかったら共有は基本だ。


 ということは、少なくともここまで、バグは一つも発生していないことになる。この広大な世界で、僕らに五感までも錯覚させるリアリティを提供し、多くのオブジェクトを制御しているこの大規模なゲームで。


 おかしくないかそれ。 

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