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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第四次侵攻 あるいはいかにしてジェスト青年は答えをだすか
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60/115

誰だよ気持ち悪いっつったの

ジュリア軍団(423/500)

 軍団長:ジュリア

 近衛隊:リリイ、外乃海、たなかたろう、トシヒコ、ゆりあ

 所属小隊数:38

 平均レベル:19

 功績値合計:20056





 ログアウトプレイヤーが多い。リアルではそろそろ空腹の極みに達している連中も多いだろうし、これから人数は頻繁にチェックしておいたほうがいいかも。


 砦の部屋で一人。さっきイイリコさんからメッセージが届いて、『どうなっても大丈夫だから、自分の気持ちに正直に』とだけ書かれていた。


 エイタローはどこにいるのだろう。


 二年間、同じ人間を好きでいるってどんな気分なんだろう。


 僕にはわからない。小学校以来、誰かに片思いしたことはなかった。そのときだって告白する勇気はなかった。自分に魅力が無いと、知っていたから。答えはわかりきっていたから。


 エイタローはどうだったのだろう。


 僕自身が思い知っているように、告白ってのはたぶん、誰にとっても勇気がいることなんだろう。よっぽど自分に自信がなけりゃ、そうだ。


 それで、エイタローはそこまで自信家には見えない。


 二年間も伝えられなかったんだから、もしかして辛かったのかもしれない。CHを始めてからも、リアルで会ってからも、ずっと辛かったのかもしれない。WWの時より人と人との距離がずいぶん近くなったのは、僕もそう思う。だとするとより辛さは増したんじゃないか。


 ああ、そうか。エリスレルやルシェイナさんの名前が出たときにいろいろ反応がアレだったのはこのせいか。自分の知らないところで女性プレイヤーと仲良くしてるんだったら、不安にもなるんだな。


 いい、それはいい。僕がエイタローの立場になってどうする。


 僕の気持ちが大事だとみんな言っていた。


 人の告白を受けて、どうするか。その基盤になるのは僕の気持ちだ。


 それがよくわからないから困ってるんじゃないか。


 エイタローのことは好き嫌いで言えば好きだ。姫代子も言ってたけど当たり前だよ、それ。


 だけどそこで、友人以上として好きかというと、わからなくなる。そんな気もするし、でもそれは今、エイタローが告白してきた上での気持ちじゃないかとも思う。ん、いいのかそれ?


 だいたいさ、好きって、好きとどう違うのよ。言葉遊びじゃなくて、その、ライクとラブだよ。死語か。


 エイタロー告白以前の……もっというとエイタローが僕のことを好きだって、それを知る前の、僕のエイタローへの気持ちはどうだっただろうか。アレは好きだったんだろうか。わからん。


 今はさ、その、エイタローの顔を思い浮かべるとどきどきするし、なんか恥ずかしくなってくる。次に会ったときのことを考えるとちょっとやばい。


 でもそれって、さっきも言ったけど、エイタローが僕に告白したのが前提なんだよな。


 なんか告白されたから好きになるって、どうよ。僕を好きな相手なら誰でもいいってことにならないか。なんかクズじゃないかそれ。クズなのはわかってるよ、でもそういう問題じゃなくて。


 恋人ってどういうもんなんだ?


 今更そこかよ。いや、僕にとっては大事なことだ。生まれて初めてのことだよ。だてに26年彼女ナシじゃないぞ。


 僕には基本的なことがかけている。それはまず、認識しなきゃいけない。


「先に進まない」


 自分でツッコミを入れないといつまでも同じことを繰り返しそうだった。


 軍団情報からメインメニューに切り替えると、すでに午前三時だった。部屋に帰ったのが一時だったから二時間ぐらいぐるぐるしていることになる。


 メッセージに気づいていなかったあたり、よっぽどだな。受信は一時半頃。


 エイタローだ。


 開くべきか。開かぬべきか。どうする? なにが書いてある?


『なかったことにしてください』


 それはかなり微妙だ。へこむだろう。かといって他の文面だったら安心ってわけでもなくて、なんにせよエイタローはたぶん寝てるだろうし、もうしかたない。見る。


 開いた。




『おやすみなさい』




 ……


 ……


 ……


 うお。


 やば、なんか固まってた。ちょっと予想外だったかもしれない。


 いやどんな文章が来ても予想外だっただろう。たぶん。


 ええと、どういう意味だろう。この七文字に込められた裏の意図がもしかしてあるんじゃないか?


 そういう駆け引きをすべきなのか?


 エイタローってそんな器用だったか? でも女子の、いや他人の心なんてわかったためしがない。もしかしたら手練れかもしれん。


 いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。エイタローはあの瞬間まで我慢してたし、というより僕が考えるべきなのはそんなことじゃない。みんなに言われただろう、相手の事情なんかじゃなく、僕の問題だと。


 だからここは、僕の心のままに返すべきなんだ。つーか届いてから一時間半も過ぎてるけど、さすがに寝てるよな。でも返さないのは悪い気もするし、メッセージは送信時に受信音を出すか出さないかが選べる(受信側でも選べる)から便利だ。音を出さないようにして……まあ、返す文面は……


『おやすみ』


 送信。


 ……


 うおお、なんか恥ずい。


 今までも夜にパーティや小隊を解散するときは口で挨拶していた。おやすみも当然言ったことある。でもなんか、そんなのとは全然違う。やべぇ。


 深呼吸深呼吸。


 ……うわあ、ずいぶん体に力入ってたんだな。なんか疲れた。こんなんで身が保つのか。


 ん?


 おや?


 メッセージが届いた。あれ、ちょっと待てまさか。


 まだ起きてたのか?


 ちょちょちょ、予想外だって、レスは予想外だって。ええと、送信してから四分くらいか。即レスって速さじゃないけど、予想外には変わりない。


 やっべ、なんか四文字だけ返したのが心配になってくる。ていうか返事棚上げしたままでおやすみはマズかったか? でも夜の挨拶の返事だし、あそこでおやすみ以外返すのもおかしくないか、ええと、どうすりゃいいんだ。見るか。見るしかないか。


『はい』


 なんだなんだ。どういうことだ。


 ちょっと、誰か、ヘルプ、プリーズ。


『ユージン、ユージン』


 通信で呼びかけて気づく。これ、他人にきいていいことなのか。でも僕はわかんねーし、経験豊富そうなユージンにく、さわりだけでも聞いていいんじゃないか。ほら、たぶんきっとエイタローだって相談とかしてるんじゃないの? あれ、前に姫代子とユージンなんて言ってたっけ。でないな。あ、寝てるのか。


『はいはい、なんすか』

『あ、起きてた?』

『起きてると思うっすか。寝てました』

『あ、ごめん』

『別にいいすけど。どうせエイタローさんのことなんでしょう』


 なんでわかんの。

 僕が一連のメッセージのやりとりを話すと、


『ええと……そうっすね。言ってしまうと全然面白くないんですけど』

『そんな簡単にわかんのかよ』

『順番に考えればいいんじゃないですか。ほら、いつもやってるみたいにエイタローさんがなにをしたいか、それでなにをできないか、整理していってください。たぶんジェストさんなら正解だと思いますよ、それで』

『答え教えてくれないの?』

『人から教わるより自分でたどり着いた方が、エイタローさんの心がよくわかると思うっすよ。おやすみなさい』


 一方的に切られた。なんぞや。


 ええと、じゃあ仕方ない。考えてみるか。


 まずエイタローがなんで僕に『おやすみなさい』というメッセージを送ったかだ。今まで口頭で言えるときは言ってきたけど、離れていた時にわざわざメッセージでやりとりするようなことは特になかった。


 それにエイタローが僕に告白してきた直後のことだから、これはやっぱなんかあるんだ。


 エイタローは僕のことが好きだった。それを僕に表明した。その後にこれだと考えると……つまり、表明したから送った。


 表明する前は送れなかった?


 間違ってるか? するとつまり、エイタローはずっと僕にメッセージでおやすみと送りたかった。


 それができなかったのは……小隊の中で僕だけに送ると、邪推が発生するから、だと仮定する。一人をひいきすると、まあ、なにかしらを疑われても仕方ない。だからって全員に送ればいいかというと、なんかそれ賢しい感じだな。エイタロー、そういうのじゃないもんな、たぶん。今までできなかったことをついにやったと思おう。


 ……ええと、次だ。受け取った僕は、エイタローがなにを考えているのか困惑。そうだな。それはそうだ。真意がわからなくて戸惑う。それで一応理屈をこねたあげく、無難だと思われる返事を返した。


 よし、じゃあそれを受け取ったエイタローはどうだ。


 おやすみなさい、と送って、おやすみ、という返事を受け取ったエイタローは。


 僕が返事を棚上げにしたまま、そのまま返信してきたのを読んだエイタローは……ここもあくまで仮説だけど。


 たとえば、僕の真意が読み取れなかったり、とか。


 それで返事を迷って、無難な答えを返した、んじゃないか。レスとしてはまたおやすみを送るのはおかしいもんな。かといって他の言葉だとやっぱり変だよな。おやすみのあとって寝るもんな普通。


 じゃあ、なんで返そうと思ったんだ?


 そこだ。普通はおやすみが往復したら寝るもんだろ? それなのに何故エイタローは返事をしたのか。


 僕は送信メッセージを確認する。確かにサイレントで送っている。受信音で起きたというのはありえない。エイタローは起きていた。


 ……たとえば、たとえばだよ。


 エイタローは起きていた。それを伝えたかったとしたら。


 僕が起きていることを知って、自分も起きていることを伝えたかったとしたら。


 それでなにか反応を返そうと思っているのだとしたら。


 僕に伝えたいのだ、と、したら。


 いつの間にかメッセージウィンドウが開いていた。


 空白。


 どうして開いたのかわからない。


 わからないけど……


『うん』


 その二文字を打ち込んで、送信した。






 

「ええと……あの、まさか一晩中考えるとは思わなかったんす。すいません」

「いや、それはいいよ、いい」


 僕の顔を見るなりユージンのこれである。


 結局一睡もできなかった。いうなればユージンのせいだけど、別に責めるつもりはない。助けを求めたのは僕だし、ヒントをくれたのは確かだ。


 僕の仮説は、今になっては確信だと思える。


 なんでもいいから言葉を交わしたい。きっと好きな人ができたら、意味の無い言葉でも、少しでも交わしたいと、そう思うんだ、おそらく、たぶん、きっと。


 砦の食堂にエイタローはいない。イイリコさんと二人で、いろいろぶらぶらしていると姫代子から聞いた。


「少しは真剣に考えたみたいじゃない」


 いつだって真剣だよ。見ろこのクマ。


 朝食を食べる前に、もう一度左目を閉じた。すっげえ眠い。メイン画面からメッセージボックスに移動する。


 これ、他のプレイヤーには見せられんな。


 エイタローとの送受信記録。Re:が積み重なっていくタイトル欄。


 結局、僕らはずっとメッセージを送りあった。


 それが普通なのかはわからない。


 人によっちゃ異常かもしれない。


 でも僕はさ、きっと僕とエイタローにはさ、これが必要なんだと思う。


 隠し事が下手なくせに、隠し続けようとして我慢できなくなったエイタローと、人間関係に疎くて恋ってものに未熟な僕らには、こういった、根気が必要なんだと思う。


 もしかしたら期待を持たせちゃってるかもしれないけど、それは心配だけど。


 とにかく、答えるまではずっとエイタローのことを考えていようと思う。

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