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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第四次侵攻 あるいはいかにしてジェスト青年は答えをだすか
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まわりのプッシュがすごい

 喧噪は続く。僕は両手を取られ、固まっている。


 僕らの一角だけが固まっている。


 不意打ちだ。卑怯だ。


「爆発しぐぇっ」


 見えないが、どうやらスーパーマギが殴られたみたいだ。


 目の前のエイタローの顔は……なんだか怒ってるように見える。僕の手を握っている力も妙に強い。中のお守りが潰れそうだ。


 いや、怒っているんじゃなくて、これは今にも泣き出しそうなんだ。顔を真っ赤にして、気が緩んだらあふれ出しそうななにかを必死に抑えている、そんな顔だ。


 しまった、卑怯でも何でも無い。


 ここまでずっと我慢してたんだ。


 我慢してたんだ。


「……あ、その」


 困った、なんて言えばいいんだ。いやエイタローが嫌いなわけじゃない。拒絶することもないし、僕の人生でもっとも親しい女子の一人だし可愛い。


 でも、わかるだろ?


 逆に言うと、僕の人生はそんなもんだったんだ。ろくに人と話さないし、現実ではまだ相手の顔がぼやけていないと会話できないし、ひきこもってたし、人との関わりなんてゲーム上でしかなかった。


 慣れていないんだ。


 人の好意を素直に受けることに慣れていない。


 今にも破裂しそうなエイタローに対して責任を負うのが怖い。


 良好な関係がもしかしたら変化してしまうのではないかと思うと、今以上に深い間になるのが怖い。


「ずっと、前から」


 エイタローの言葉が胸に刺さる。


 どうして今なんだ?


 どうしてよりによって、みんなが集まっているこの場面なんだ?


 逃げ場がないじゃないか……あ。


 逃げ場が、ない。


 なるほど。


「エイタロー、わかった」


 いつの間にか、自分の顔も熱くなっていた。そういや告白されたのは生まれて初めてじゃないか。まさか相手がずっと男だと思ってたエイタローだとは思わなかった。


 でもエイタローはCHに入ってからずっと匂わせてきていたはずだ。思い返せば最初の頃から、そんな気配がなくもない。


 となると、ここら辺が限界なんだな。


 僕が考えているような「良好な関係」ってのは、結構前から変化しつつあったんだ。


 ならここらあたりが本当に限界なんだろう。


 僕は答えを出さなきゃいけないんだ。


「二日待って」







「あんたどういう神経してんの。甲斐性なしだとは思ってたけどここまでとは、もう、ホント殴りたいわ」


 殴ってから言わないでほしい。


 僕が最善だと判断したあの言葉は、思った以上に大ブーイングをくらった。肝心のエイタローは頷きながらガチャガチャと走り去り、イイリコさんが任せろと追いかけていった。


 オルトノグエィクには簡素ながら食料があり、今は酒盛りの真っ最中だった。こんな時に酒はないだろうと抗議したけどお構いなしである。


 メンツもかなりやばい。姫代子を筆頭にユージン、ガートランドのイイリコ小隊はともかく、ルシェイナさん、えみさん、スーパーマギ、オーシー、オトメノ、エリスレル、大帝、モリツグと僕の知り合いのオンパレードだ。砦攻略貢献のこの一団がいるため、幸い嫌悪組は寄ってこない。ラメたちはノリアキングのリスポンを今か今かと待っていると聞く。


 特にすでにできあがっているのが姫代子とルシェイナさんで、この二人は基本的にペースを考えないで飲むところが似ている。絡んでくるのも似ている。


「あんたさあ、いっつも理屈で考えようとするからダメなんだって。オタクにありがちだよね。アルコールでそういうの飛ばしちゃえば自分の本心がわかるから」


 その理屈はおかしい。体育会系のアルハラだ。酒で勢いをつけるのはありがちだけど、本心がわかるってのは初耳だぞ。


「初めて見たけどエイタローって子、可愛いじゃない。どうしてオーケーしなかったの? 別に会って間もないってわけじゃないのに」


 そういや、ルシェイナさんが会ったことあるのはイイリコさんだけでしたっけ。


「そりゃそうなんですけど、その、なんというか」

「なにが不満なのよ」

「不満ってわけじゃなくて、わかってよ、その、僕がさ、ほら」

「エイタローがわかってないと思ってんの? それで限界だからアレなんでしょうに」


 ぐう。助けてくれユージン、と目配せを送ってみる。


「んー、まあ、年貢の納め時ってところっすかねぇ」


 フォローしろよ!


「なあ、俺、初耳だったんだけど。いつからそんなことになってたん?」

「そこまでいくと非常識っすね」

「なんか知らんがすげえバカにされた気分」


 くそう、誰か助けてくれるヤツはいないのか。


 横の方から別の会話が聞こえてくる。


「マギくん、だからモテないんだよ」

「だってあの場面ってそういうこと言うべきところじゃないの?」

「だからモテないんだよ」

「えみさんさあ……こうなったら俺もやったろうじゃん。もてないもてないって、泣いても知らんからな。エリスレルちゃん、この前の続きなんだけど、俺とかよくない?」

「お酒の方が好きかなぁ」


 時間を無駄にしてしまった。


「そんで、ジェスト、お前ってどうなん」


 ガートランドはこれまでの遅れを取り戻そうと積極的に介入してくるつもりのようだった。でもすでに姫代子とユージンからされている質問だ。


「それ、あたしたちもまだ聞いてないのよ、答え」


 あー、あのときは確かノリアキングからのメッセージで中断したんだったよな。今思うと数日前なのに妙に懐かしい。そういやあのときも姫代子が酒を持ってきてたな。


「嫌いじゃ、ない」

「当たり前でしょ、そんなの」


 そりゃそうだ。長年パーティを組んで、CHでも小隊を組むんだから嫌いなわけがない。ここで問題なのは、友人以上に好意を持っているのかってことだ。


「てかさ……その、エイタローって二年前だっけ? くらいから、僕のこと、その……」

「好きだった」


 うぐ。


「二年前から?」


 ルシェイナさんは心底驚いたようで、


「どうしてそんなに」

「エイタローさん、もともとネナベだったすから。カミングアウトしてなかったし、ジェストさんもこのゲーム始まるまで気づいてなかったらしいんですよね」


 いかん、脱線する。


「あのさ、これ本当に不思議なんだけど、そんな惚れるような要素が僕のどっかにあるの?」


 その途端、姫代子はゲンナリしたように肩を落とす。


 あれえ、なんかおかしいこと言ったか。


「それ、本人に言ったら絶対にダメだからね」

「え、あ、そう、なの?」

「ジェストくん、知りたいの、それ」


 ルシェイナさんがニヤニヤ笑っている。なんだ、なんか心当たりがあるのか。


「いや、ええと、その。別に知ったからってどうなるわけでも」

「エルちゃーん」


 なんだと。


「お酒もってこっち来て。ほれ、男はどいて」

「うす」


 すっかりユージンはルシェイナさんの舎弟みたいになってるな。エリスレルとユージンが場所を交代して、僕、姫代子、エリスレル、ルシェイナさんになった。なんだよこの構図。針のむしろじゃないか。


「あ、あら? なに用でしょうかしら?」


 こちらの妙な雰囲気に戸惑うエリスレル。西部劇風のハットは、今はない。後ろでまとめた髪を背中までおろしている。そういやハットをとったのも初めて見たな。いつもより目がよく見える気がする。


「ジェストくんがねえ、自分のいいところ知りたいんだって」

「え?」

「ええと、エリスレルだっけ。ジェストがお世話になったっていう」

「ああ、うん、そうだよ。エルって呼んでね」


 握手。女子ってヤツはすぐに仲良くなる。


 しかしなんでエリスレルを呼んだのか、ルシェイナさんの真意が読めない。イイリコ小隊を除くと付き合いの長いのはエリスレルとルシェイナさんだろうけど、それにしたってエリスレルは僕の良いところを知ってるっていうのか?


「なんだっけ、ジェストくんのいいところ? いあ、それあたしにきくってルシェイナさんも意地悪いなぁ」


 なんだ、特にルシェイナさんに確たる根拠があるわけじゃなかったのか。そりゃ突然言われたらエリスレルも迷惑だろうに。


「ええと、でもジェストくんのこと好きって人がいても、あたしは意外じゃないよ」


 という当たり障りのない答えに、なるわな。


 しかしこの会話、どうにかならんか。さっきから気恥ずかしさがマッハなんだけど。


「……んん?」


 姫代子が急に首を傾げた。おいおい、大丈夫か。さっきから目が据わってるぞ。


「ルシェイナさん……あなた」

「なに? 私よくわかんないなあ」


 テキトーに喋ってないかこの人。


「いあ、まあ、大事なのはジェストくんのほうじゃないかな。自分じゃ気づいてないいいところ、人にはあるもんだよ。もうエイタローさんの気持ちは伝えてもらってるんだし、ジェストくんがエイタローさんのこと、どれだけ大事にしてるかじゃないかなぁ」

「ガートランド」


 姫代子の言葉に大帝、モリツグとむさいトークに花を咲かせていたガートランドがこちらを振り返る。


「なに、蚊帳の外のガートランドですけど」

「お酒なくなった」

「なんで俺にいうのかな、それ」


 言いながらもカウンターまで従順に取りに行くヤツは、何度も言ってるけど基本的にはイイやつだ。我らがイイリコ小隊は女子の力が強い。


 そういや普通にアルコール飲んでるけど、このゲーム、成人以上じゃないとプレイできないとかあるんだろうか。WWにも酒はあった。ゲーム内とはいえ酩酊感を覚えるので(それがウリでもある)、未成年には飲めないようにロックがかかっていたけれど、CHにはそういうのはない。プレイヤー選別の趣旨からいっても基本的にみんな成人なんだろうけど、それが前提になっているのだろうか。もし一般に公開されることがあったとして、やっぱりロックはかかるんだろうな。


 つまりこの事実は、やはりみんな二十代以上だということだ。今更だけど。


 会話が途切れたのでまた向こうに目を向ける。エリスレルと席を交代したユージンがえみさんに言い寄られている。ああ、そんなこともあったな。ちょうどいい機会だ。隣で不機嫌そうなのがスーパーマギで、オトメノは凄い居心地悪そう。


「ん……あ、待って、カイトくんから通信入った」


 ん?


 今のタイミングで来たのはありがたいけど、酒盛りが始まってから一時間ほど経っている。とうにリスポンしている時間だし、というよりこの砦、通信不可じゃなかったか。

 試してみたら通信できるようになっていた。なんだなんだ。


「アーシュアで生き返ったみたい。なんか今まで通信できなかったのがいきなり可能になったって」


 なんかあったのか。解放して時間が経ったら通信も可能になるのだろうか。


『閃光のジェスト』


 僕にも通信が入ってきた。ノリアキングのヤツ、どうしても呼び方を改める気はないらしいな。


『はい、なんでしょう』

『第二月曜までに城に戻ってくれ。次の襲撃は城だ』

『それなんですけど、ここかマーシャヴェルナが狙われる可能性はないんですか?』

『うん、次に攻められるのはサンダマスヴェリア城、ボスが来る』 

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