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ラメが怖い

 一番やっかいなのは斧での横薙ぎ。


 あたれば一番痛いだろうけど避けやすいのが火球。


 突然の跳躍はあれからないまま、ガランスギュエックのHPは四割まで減少している。


 WWからCHになって一番大きく変わったのはあたり判定だ。命中判定が見かけ通りになったことで、意識して避ける、という行動が大きく戦況を左右するようになった。


 実際の所、ガランスギュエックはWWだともっと高レベル帯のモンスターだったはずだ。一撃の威力が高く、HPが高い。WWならもっとプレイヤーに攻撃があたり、今の僕らだとHPの回復が間に合わずじり貧になる。パーティ制限もあるからハンター達の援護も望めない。


 となると、ウルフキングへイイリコ小隊のみで戦ったあれはどうあがいても絶望的だったわけだ。おそらくウルフキングもCH用の調整をされているから、思ったよりずっと強いはずだ。万が一なんてなかった。


 ここにきて、僕はCHの戦闘システムをようやく理解でき始めているのかもしれない。


「火球、きます! 縦!」


 今度は火球後に縦の斧。前衛組も慣れてきているようで、僕が叫ぶ前に動き始めている。


 ハンターの斉射。


 悪くない、ここまでは悪くない。


 ボス相手にも一歩も引かない戦いになっている。戦闘開始から十分後、手応えは確かにある。


 だけどこのまま最後までいけると思ったら大間違いだ。ウルフキングが一気に僕らをスタンにしたように、どんな一撃が致命傷になってもおかしくないんだ。


 そして案の定、それは訪れた。


 尾が燃え上がり、激しくむち打った。


「火きゅ……」


 叫びかけたぼくは違和感を覚える。尾を振ってから攻撃に移るまでが長い。


 とっさに横っ飛びにとんだ前衛達も、予想していた攻撃がないことに戸惑っているようだ。


「下がって! 下がって!」


 慌てて僕は続けた。攻撃動作が違うということは、別の攻撃が来る。


 ガランスギュエックが大きく上体をのけぞらせた。ギュウっというような、空気が渦を巻いてヤツの口に集結する音。


「下がって!」


 体勢を崩した前衛に向かって、ガランスギュエックは激しい炎を吹きかけた。


 火球ではない、火炎放射だ。


 驚いたのは範囲で、おおよそ150度の扇状をくまなく、前衛だけでなく後衛も飲み込みかねないほどに広かった。


 燃えさかる炎に前衛達はなすすべなく飲み込まれ、後衛の何人かも被害を食らう。


「回復薬持ちは全力で投げて!」


 炎ダメージは僕自身が体験したように深刻な状況を引き起こす。パニックと、継続ダメージだ。だが後者には助かる点もあって、継続ダメージ中に回復すれば総ダメージが致死であっても助かる。僕も自分の袖から回復薬を取り出して……届かないので、駆け寄る。


 被害は甚大。


 HPが減っていたノリアキング隊のグラップラーエリック(全部名前)、もともとHPの高くないXXX、巻き込まれたマッスル御大、宗佑隊のマリマリ、むっちが一撃死。そのほかのプレイヤーも、全員が一気に危険域で、間に合わなかったゴンベーがデス。


 二十秒後にはどうにか立て直すものの、いきなりの攻撃に誰もが面食らっている。


「ハンター、休まないで! シーフは後方に下がって小隊組のサポートに入ってください!」


 といっても、すでにシーフは二人が流れ弾を食らって死んでいる。僕も参加すべきだ。


 炎を吐いたガランスギュエックは一息ついているというか、攻撃後の硬直が長いようだ。まだ動き出しはしない。最初に動いたのはルシェイナさんとノリアキングの二人で、無防備なガランスギュエックに打ちかかる。


 幸いにして、火炎放射での攻撃力の減少はあまりない。こっちで減ったダメージソースはエリックとマリマリ。メイン火力のハンター連中は無傷だったし、スーパーマギと宇留川のフェアリーメイジもいる。


 あと四割。大丈夫だ。火炎放射はモーションが長い。落ち着いて対処すれば大丈夫なはずだ。六人小隊の能力値ボーナスは、最初に六人で組んでいれば死者が出ても継続される。人数が減ることによる弱体化は仕方ないけど、致命的ってほどじゃない。


 大きく回りこんで小隊の後ろにつく。砦攻めでは主に回復役の予定だったから手持ちの回復薬はかなりある。


 現状をまとめる。こちらは数える暇が無いけど、おそらく三十人前後まで減っている。対してガランスギュエックはHP三~四割と言ったところ。おそらく攻撃手段は全部出た。砦へ続く鉄門側にガランスギュエック、奥に小隊組とシーフ、そして僕。僕から見て右手の壁に沿ってハンター連合。


 作戦は継続。


「アシッドアロー、行きます!」


 ここからは僕も攻撃に参加する。といってもアシッドアローを一回撃つとMPが枯渇するから、本当に微々たる働きである。アシッドアローは五つの酸の矢を放つ暗黒魔法で、対象は自由に選べる。一つの対象に五本全てをあてることも可能で、だから普段の使い方よりはちょっとマシだ。


 ガランスギュエックが動き出した。


 横薙ぎ。すぐに回復薬を投げオーシーを回復。


 ハンターの斉射があたる。


 ガランスギュエックに限らず、一体で出てくるモンスターに有効なのは痺れだろう。これが無生物系や幽体系だとまた変わってくるけれど、これからダメージソース以外でのフェアリーメイジの有効性が高まってくるはずだ。初期に痺れが利用できる職はフェアリーメイジだけだから。といってもスーパーマギのようにサンダーランスを覚えていないヤツもいるだろうから、希少性はかなり高い。


 モーションを強制中断できるという効果は、こういった一撃が重い敵にはかなり役に立つ。サンダーランスの使えるフェアリーメイジが後五人いたなら、この戦いも楽だったはずだ。無い物ねだりをしてもしょうが無いけど、可能なら事前の情報把握は敵毎にしたい。


「二割! あと二割だ!」


 ノリアキングの声。長かった戦闘もようやく終わりに近づいてくる。ここでこそ注意しないと、火炎放射の食らい方によっては詰む可能性もある。


 だから、それが来たときも大して慌てはしなかった。


「火炎放射、来ます!」


 予想外だったのは、ノリアキングが体勢を崩していたこと。


 そして回復が間に合っておらず、致死圏内だったこと。


「ノリアキ!」


 ラメが叫んだ。


 ガランスギュエックの口から、炎の渦が巻き起こった。


 ノリアキングが死ぬ。


 珍しいことではない。一番レベルが高いといっても、プレイヤー間でステータスにひいきがあるわけじゃない。それにHPも減っているし、ノリアキングだから死なない、というようなことはない。それにあいつ、ウルフキングでも死んでるし。


 だがここでノリアキングが死ぬと、ナイトがオーシー一人になる。あと少しだけど、それだけに心配だ。それに今の一撃で小隊組にまた何人か死者が出る。位置関係とHPからして、運の悪い宗佑組は宗佑を残して全滅だろう。


 どうすべきか。


 僕と、今にも炎に飲み込まれようとしているノリアキングの目があった。


 同じことを考えていたのかは知らない。だけどそのとき、僕は戦闘前にノリアキングが言っていたことを思い出した。


 死を免れないノリアキング。


 ネクロマンサーの僕。


「やれっ!」


 叫びやがった。どうなるかわからないんだぞ!


 炎がノリアキングを飲み込んでHPがゼロに。


 その瞬間、僕はノリアキングにターゲッティング。


「お前の体は俺のもの!」


 炎の渦の中で、確かにあいつの立っていた床から、瘴気が立ち上るのが見えた。


 マジで人間にかかったよおい。


「回復急いで!」


 尽きていたノリアキングのHPが全回復したのを見て、ラメが目をしばたたかせている。躁屍なんて見たことないだろうから自然な行動ではある。


 炎の継続ダメージを回復して、ハンターに斉射を指示。


 さて、ノリアキングはどうなっているのか。


 説明文にはモンスターとしか書かれていなかったが、今ので人間を対象に躁屍をかけることが可能だとわかった。この場合、プレイヤーの意思はどうなるのか。


 頭で指示を出すと、ノリアキングはその通りに動く。


 これは……躁屍の状態だ。アレを動かしているのは僕で、プレイヤーとしてのノリアキングはデスの状態に変わりない。


 しかもやっかいなことに、躁屍の効果時間がモンスターのときより遙かに短い。あと三十秒。


 こうなったら攻撃だ。ノリアキングには悪いが、悠長に盾をしていたらあっという間に効果が切れる。


「ノリアキングは攻撃させます! オーシー、ガン防御! 他はとにかくダメージ突っ込んでください!」


 最大火力。一斉攻撃がヒットして、ガランスギュエックのHPは一割をきる。


 あと二十秒。


 他のプレイヤーはいったん下がるが、ノリアキングには続けて攻撃させる。


「ノリアキ、まさか……あんた!」


 ラメが何かに気づいたようだった。僕の方を睨みつけてくる。


 ラメは僕の躁屍をどこまで知っているだろうか。ノリアキングからこの可能性は伝えられていただろうか。ノリアキングを僕が操るなど、嫌ジェストからしたらこの上ない侮辱だけど……


 それを考慮しても、ノリアキングの攻撃力は頼もしかった。職差を超えて、ルシェイナさんに匹敵している。レベルが高いのとおそらく武器がいい。さすがにCHエリート層だ。HPを気にせず攻撃し続けられるので、わずかずつだがどんどんガランスギュエックのHPを減らしている。


 ノリアキングを躁屍したのはメリットとデメリットを天秤にかけたから、と今は答えておく。きっと後で詰問されるだろうから、そのときに全部話そう。


 とにかく、ハンターの次の斉射を待たずして……これは笑えることに、最後はノリアキングがタイマンでガランスギュエックにとどめをさしてしまった。


 今までに無い苦悶の咆哮を上げ、両腕を大きく掲げ、そこから斧が落ちる。みんなそれに気を取られて、躁屍時間が過ぎて消えゆくノリアキングには気づかない。いや、ラメはきっと見ていただろう。


 ガランスギュエックの巨体が倒れ、地響き。最後っ屁の可能性もなくはなかったけど、なんとなくないと思っていた。


 視界の右端にエフェクト。




『"闇よりのガランスギュエック"が討伐されました』

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