【砦は】衝撃の結末【攻略したけど】
「あんた……あんた、なんてこと!」
彼女の表情を見るに、僕がなにをしたかは察しがついているようだった。とすると、ノリアキングは一連の出来事をラメに話していた可能性がある。いつか、と言われれば、戦闘中のいつかしかないわけで、さすがに連携力あるわ。
詰め寄ってくるラメの真意は、他のメンツにはわかるまい。ノリアキングの提案を聞いていたルシェイナさんはわかるかもしれない。XXXは死んで、いない。
「ノリアキングの提案です」
とは全く正論だが言えない。激昂するのは間違いない。一応僕にも考えはあって、確かにノリアキングをわざわざ躁屍せずとも戦いには勝てただろう。それを考えると、禍根の残りそうなこの方法をとったのは悪手だと言える。
それをおして僕がなぜノリアキングに躁屍をかけたか。それを言うのもためらう。僕の考えは理にかなっていると自分で思っているけど、正論が必ずしも説得に有効なわけじゃない。特にラメはノリアキングに対し、論理以上に感情が優先している。
こういうのは本人から言ってもらうのが一番いい。そのためには……
「ラメさん、言いたいことはわかりますが、まだ砦戦は終わってません」
殴られた。
慌ててルシェイナさんが止めに入る。
「大丈夫です。残りの戦力を確認して、砦に戻りましょう。ボスを倒した今がチャンスです」
「なあ、ノリアキングさん、どうなったん?」
躁屍を理解していなければ、回復が間に合ったと考えるのが普通だ。だからハンターの言葉もわかる。
「事前に作戦を組んでおきました」
言い過ぎだけど、まあ死ぬ直前にアイコンタクトがあったんだからいいだろ。
「ノリアキングが死んだ場合、僕が躁屍で彼を蘇生させる。時間制限があるので、その制限が切れて彼はデス。火炎放射で、もともと彼はデスしていました。ネクロマンサーのスキルで少しだけ生きながらえさせた」
「そんなことできんの?」
「まあ、できるからやったってことで」
これも嘘だ。ノリアキングの提案から実際にやるまで試す暇はなかった。実際、躁屍が成功した場合になにがおこるかわからないからノリアキング以外にはかけられなかったし、ヤツにかけるのも最後まで躊躇したのだ。もしかしたら今、ノリアキングになにかがおこっていてもおかしくない。時間制限ありとはいえデスしたキャラクターがMP消費1で蘇生なのだから安すぎだ。
「戦力を確認しましょう。その後、オーシーを先頭に砦に鉄門から上に上がります。もし外の組が頑張っていてくれたら行きやすいかもしれない。オーシーにはオトメノがHP管理にあたってください。その後はまあ、小隊組を先に、野良は後に続いて」
とにかくノリアキングがデスしたので、復活は三十分後。その間に砦を落とし、どうにか安全に通信が行えるような状況を作っておきたい。ラメの誤解を解くというか、なだめるのはそれが一番適しているはずだ。
そういや、ここにイイリコさんがいなかったってことは偵察で捕まらなかったってことだな。捕まったとは思ってなかったけど、なんとなくいたら頼もしかったな。
イイリコさんだけじゃなくて、小隊の連中もだ。安心して前線を任せられたはずだ。
やっぱソロは厳しいな。今回は自分の単体火力のなさを実感したわ。ホーリーナイトの時とは大違いだ。
「シーフとハンターの人、いちおう鉄門の向こうにモンスターがいないか聞き耳お願いしますMP回復したら出発しましょう」
扉で聞き耳した連中が言うには、特にモンスターがいるような音はしないとのこと。
別にシーフではなくとも、扉に耳を当てれば向こう側の音を聞くことは可能だ。だけど聞き耳スキルを使うと、その音の正体を詳細に知ることができる。何体のモンスターが歩いている音だったり、川の流れの音だったり。
だから、聞き耳に成功したプレイヤーが「モンスターはいない」と言えば、それは正しい。隠密に長けたモンスターがいるとその限りではないけど。たとえばキラーマンとか。
それにしても、あれだけ扉に詰めかけていたゴブリンレイダーが全くいないってのも変な話だ。もしかしてガランスギュエックを倒したから逃げ出したのだろうか。
オーシーの合図を待って、僕は大体真ん中あたりで出る。
確かに静かだ。螺旋階段を上るため先頭のオーシーは見えないけど、戦闘音は聞こえてこない。
いや、違う。上がるにつれてわかってくる。
上で戦闘が起きている。
僕らが飛び出すと、通路にもモンスターはいなかった。右の、僕らが突入してきた方をのぞき込むオーシーの肩を叩く。
戦闘は屋外。となると人類は門を攻めている。はずだ。窓ものぞき穴もないからそう信じるしかない。やることは一つ。
ルシェイナさんと宗佑を呼んで、
「門を開けよう」
僕より先に宗佑が言った。二人で頷くと正面の通路を見る。突入した際は先が見えていたが、今は木製の扉が閉まっている。
おそらくあれを開くと中庭かホール、とにかく位置関係から考えて左側に門があるはずだ。だけどよくわからないのは門の開きかた。
ファンタジーや歴史ものの映画では、門を開けるには装置を動かす必要がある。人間の単純な力じゃとても開かない。そしてたいていの場合、装置は門に近い。たまに巨躯のモンスターが開くようなものもあるけど、アレは極端な例だ。この砦の規模からいっても考えにくい。これからそういったのが出てくる可能性はある。
「とにかくあそこを出て、門を動かす仕掛けを見ましょう」
「上にあった場合は?」
「全力で上まで。それか中で暴れて、外が門を攻撃しやすいようにするのがいいかも」
「それで」
静かに、だけど迅速に作戦を共有する。ラメを含めた数人は僕に敵意を向けてきているけど、ここをどうにかしないといけないのは同意のはずだ。問題をおこすにしろこの戦いが終わってからだろう。
「オーシー、行こう」
XXX隊はXXXと御大が欠けている。僕とシーフが一人加入して、扉の前に陣取った。
「また同じ小隊だよ」
「お願いします、エル」
「おっけおっけ、背中は任せて」
頼もしいのやら頼もしくないのやら、とりあえず背中は門なので敵はいない。
手で後ろに合図。
「よし」
オーシーがゆっくりと扉を開く。あらかじめ聞き耳した範囲では、すぐそばにモンスターはいない。ただ、同じフロアには確実にいる。ゆっくり開いて気づかないことを祈りつつ、可能なら索敵も行えればよし。
シーフのケンイチが扉の隙間をのぞき込む。後ろから見ると、目の前はやはり扉になっていた。向こう側にもこっちと同じ通路があるようだ。
さらに開き、今度は中庭を覗く。気づかれていない、というハンドサインのあと、指が立っていく。5まで行って、また折られていく。これを繰り返し、12。ゴブリンレイダーが十二匹。
いったん閉めて、スーパーマギを呼んだ。今、コールドジャベリンが使えるのはこいつしかいない。
「十二匹いる。ルシェイナさん達と僕らで護衛するから、たたき込んでくれ」
「スーパーマギ様にまっかせろ」
スライムで彩られた姿が昨日のように思い浮かぶ。
ルシェイナ隊にも伝えて、今度こそ飛び出した。
先頭はもちろんオーシー、その他、XXX隊とルシェイナ隊が飛び出す。今まで暗いところにいたせいかウルトラ眩しい。
同時にゴブリンレイダーがこちらを見つけたようで、だけど何かを叫ぶ前にコールドジャベリンがヒットした。
エリスレルと大帝、ハンター達、そして宇留川のサンダーボルトと僕のアシッドアローで追撃。うん、人数の割に全員脱出が速かった。壊滅したゴブリンレイダーはオーシーに任せつつ、上を見ながら中庭の真ん中へ出る。壁の上の連中は気づいていない。
探すのはなんか機械っぽいもの。
「あった!」
と叫んだのは野良シーフの一人。
こいつはゴツい。一人じゃ動かせそうもなくて、だから野良シーフが何人か群れて綱を引き始めた。綱を引くと歯車が回って門が開いてゆく。閉めるときは反対側の綱を引くようだ。どういう構造なんだこれ。
ガラガラと音が響いて、上の連中も気づいたようだ。だけどホビットアーチャーは攻撃をためらっている。なるほど、砦が落ちそうなときはホビットは攻撃の手を緩めるのか。もともと人類に友好的な種族が隷属されている、というXXXの説を補強するな。
他のレイダーが出てくる間に、砦はほとんど開いていた。一度勢いがつけばあっという間だ。
その向こうに、見慣れた顔がある。
イイリコ小隊の面々、一番最初に乗り込んできた。続いて見知らぬ顔、顔。そして以外にも三番手はリュー小隊だった。本気で意外だ。
ふと頭をよぎる。このタイミングで人類が攻撃を諦めていなかったのは、僕らが突入したという情報がやはり伝わっていたのではないか。そして、それを伝えたのは突入直前まで僕らと行動していたリュー小隊だったのではないか。
そして先陣をきって攻撃していたのなら、リューに対する認識を改めないといけない。
砦戦はここから、人類の圧倒的優位に進む。
僕はソロというふうに言われていた手前、欠員で入ったXXX小隊にそのまま残った。呼びかけようとすると、ガートランドが耳を指さす。無音状態。他のメンツも同様のようで、ここで僕はキラーマンの存在を思い出した。
『山岳城砦オルトノグエィクを解放しました』
マーシャヴェルナの時とは違い角笛が響き渡る。防衛戦かと体がこわばったけど、解放のファンファーレだったようだ。鳴り終わってもモンスターが攻めてくる気配がなく、それで僕らはやっと歓声を上げた。
僕らは四つ目の領土を手に入れた。ただの領土じゃない。日を跨ぐ場所への遠征、砦攻め、ボス攻略。いくつも次に繋がる要素があった。まだ防衛戦までの日数もある。考え得る限りでかなりいい条件でのクリアだ。
XXX小隊の面々と祝い、イイリコ小隊と合流する。激しい戦いだったようで、まだ回復していないイイリコさん達には細かい傷がついている。だけど一人もかけていない。それがなにより嬉しい。
「お疲れ」
「うす、うまくやったみたいっすね」
「まあ、それなりに」
イイリコさんに挨拶。ユージンとはとりあえずこれで大体通じる。
ガートランドは再度無音を食らっていたみたいで、回復まで少しかかる。無音対策の装備をエイタローに貸していたから、これはちょっと不憫だ。
姫代子はいつも通りだった。おおっぴらに喜んだりする方じゃないけど、笑顔なのはよかった。
そして……そして、エイタロー。
「ありがとう、助かったよ」
とにかく今は、そういうのは抜きにして喜ぼう。
装備していたお守りを外し、エイタローに渡そうとした。
「持ってて、それ」
といっても、僕より必要なのはエイタローの方だ。後衛より前衛に無音対策はあった方がいい。
エイタローは僕の後ろをのぞき込むと、
「エリスレルさん、ルシェイナさん……」
「うん、他にもオーシー、オトメノ、マッスル大帝、いないけど御大、トリプルXXX。後は……」
「ジェストくん」
「ん?」
「好きです」
……
……
あれ?




