そういやこの人数の指揮って史上初じゃないの
四十三人のプレイヤーが一体のモンスターと戦うことは、WWではありえない。CHでいうボス、つまりNM級で設定されているのは「最大三パーティ」。人数では十八人。それ以上はエンカウントすることができない。もちろん強いモンスターは報酬も豪華なわけで、加えて再出現までの時間が長めに設定されていたりするから順番待ちのプレイヤーで溢れかえる。
CHは一体に対してのエンカウント制限がない。かわりに先着で経験値が変わる。詳しいシステムは最初の方に確認しているけど、そんなのは些末事だ。
極端な話、五百人の総力戦が可能なこのシステム。
運営はそれを見越した強さのモンスターを設定している可能性がある。いや、そうでなければエンカウント制限を撤廃した意味があまりない。
加えて僕の想像でしかないけど、この砦のモンスターは意図的にプレイヤーをこの場所、つまり地下の牢獄へと移動させてきていた。鉄の扉を用意して雑魚から遮断、そして牢の鍵を手に入れてからあらわれるボス。
これが運営の考慮したシナリオの流れだとしたら……
僕らの戦力は四十三で足りるのか?
「ハンター、攻撃どうぞ!」
コールドジャベリンでわずかにひるんだガランスギュエックに、矢(一部弾丸)の雨が突き刺さる。人類のおよそ半数を占めるハンターの攻撃は……たいして効力が無い。的が大きいからハズレもほとんど無いにも関わらず、コールドジャベリンよりわずかに減少量が大きいくらいだ。そしてその減少量はドット単位といっていい。
それぞれ陣容の整っている四小隊が戦闘に入った。といってもベストコンディションにあるのはノリアキングとXXXの二隊。ルシェイナさんの所はカイトの穴を捕虜ナイトが埋めているけど、他の五人とはろくに挨拶もしていない。最後の一隊は完璧な急増で、基本的な連携はともかくここ一番の判断力に不安がある。それにナイトのゴンベー、フェアリーメイジのマリマリはともかくとして、宗佑とむっちはシーフ、グレノシンとケイヤはハンターという貧弱なメンツだ。とても満足な戦力とは言えない。
VRが進化した弊害だ。テキストチャット主体の頃と違って、音声や動作での情報量が増えた。それに従ってプレイヤーが取れる戦術も幅が広がり、プレイスタイルもどんどん増えてくる。となるとナイトだからこういう、メイジだからこういう、という戦い方もなかなか定着しにくくなる。基本的な推奨スタイルはあるにしても、パーティを組んで慣れてくるとどうしてもアレンジしたものの方が戦い安くなる。
そうなると、新しくパーティを組んだ場合、各プレイヤーが好むスタイルの把握がまず必要になるわけで、だからWWの場合、とりあえず組んだら格下のモンスターと数戦するのが常識になっていた。
それが今はできない。
ノリアキングを初めとしたナイトが先頭で、それぞれ護身を発動する。防御力を上げるスキルはグラップラーの内気功を初めとして数があるが、上昇率から考えると護身が頭一つ抜けている。ソロ、パーティ、盾、矛といったプレイスタイル抜きにナイトの最優先取得スキル。
ハンターの第二波。
どんな攻撃も、吸収されなきゃしないよりマシだ。ダメージは確実に与えている。ライトメイジがそれぞれの小隊のナイトにフィジック。直接打撃最強のルシェイナさんの一撃は、目に見えるほど減らない。やっぱハンターまとめてのほうが、そりゃダメージは大きいよな。
ガランスギュエックが右腕で斧を振りかぶった。
「全員、防御!」
ガランスギュエックのような巨体を相手にする場合、気をつけないと行けないことがある。リーチが短い前衛職はぴったりと張り付く必要があるため、相手の攻撃モーションが視界の外になってしまい見切りにくい。あの角度からすると、おそらく狙いは急増のゴンベー。だけどどんな効果があるかわからないから、最初の一撃は慎重に行こう。
ゴンベーの構えた盾の上に、その数倍はある斧が振り落とされた。
やっべえあれ潰れるんじゃないか。
もちろんナイトは筋力が高いから、そんなことにはならない。だけど他の職業ならわからないし、今の一撃でHPが一気に危険値にまで減った。
ナイト+護身+防御でこれかよ!
ゴンベーの属する宗佑隊にはヒーラーがいない。シーフのケイヤにいくつか回復薬を集めていたはずだが、地面が揺れるような一撃にびびったのか動く気配がない。
「ゴンベー、回復急いで!」
ハンターの第三波。見た目には効いてるのか怪しい攻撃だが、積み重ねて行くしかない。
これまで見たところ、有効な攻撃はコールドジャベリン、もしかすると魔法攻撃かもしれない。一撃のダメージはコールドジャベリンが一番高いように思う。だけどフェアリーメイジは三人しかいない上に、全員が修得しているとは限らない。しかも消費MPが高いので連発はできない。
となると、定期的に継続ダメージを与えられるハンターが今回のキモだ。まだ相手は通常攻撃しかしていない。前衛はしばらく様子見だ。
という僕の考えがもしかして読まれたかもしれなかった。
ガランスギュエックの巨体が、信じがたいことに跳び上がったのだ。
ほとんどモーションがなかった。馬のような下半身がそれを可能にしているのかも知れなかったけど、今は驚いている暇はない。
「散れーっ!」
間に合うわけがない。
誰もが予想外だった。巨人が跳ぶなんて考慮外だ。常識で考えて、ない。ていうか見た目的にない。
バカか僕は。
ここはゲームの中なんだぞ!
ハンターの群れに着地したガランスギュエック。僕との距離もかなり近くなった。悲鳴を上げるハンターに向かって、また斧を振り下ろした。
三人。
一撃で三人のハンターがデス。
それと同時に、電撃がガランスギュエックに突き刺さる。ノリアキング隊のフェアリーメイジ、宇留川のサンダーランス。
やろうとしたことはわかる。サンダーランスにはダメージの他に、相手のモーションを強制的に中断させる「痺れ」がある。スタンなんかとは違い効果は一瞬しかないが、その分安価なものが多い。おそらくハンターへの攻撃を阻止しようとしたけれど間に合わなかったんだと思う。
ガランスギュエックのモーションが完了するまでに、ハンター達はバラバラと逃げ出していた。這々の体ってのがまさにそれだ。
小隊が隊列を入れ替える。四方に固まるように指示を出しながら、僕は試しにブラインドを一発撃ってみる。効果なし。よろめきもしないので完全ガードだ。いよいよ攻撃手段がない。
スキルポイントをケチらずに攻撃魔法を取得したほうがよかっただろうか。いや、僕はネクロマンサーをサポート職と認識している。攻撃力はかなり貧弱なので、フェアリーメイジの真似をしても中途半端になりがちだ。あくまでダメージソースは他の職に任せよう。
前衛が一斉攻撃をしかけ、ようやく一割ってところ。
持久戦になる。ただ、こちらは回復が絶対的に足りない。
ガランスギュエックが小隊組に向き直る。自然と僕には背を向ける形になって……その尻尾が荒ぶるようにしなっているのを目の当たりにした。
ヤツの尾。いままで注意していなかったが、先ほどとは違い、先端が燃え上がっている。
「正面からはずれて!」
通信不可エリアだから大声を上げるしかない。とっさに叫んだ僕は、ハンターに斉射を指示する。
次の瞬間、ガランスギュエックの口から炎の塊が飛び出した。間を置かず三発。
火球は人間の倍ほどもある。つい数秒前までノリアキング達がいた床に着弾し火柱を上げた。
前兆行動だ。口から火球を吐く前に、尾に炎がともる。まだ断言はできないけどたぶんそうだ。
ハンターの斉射をものともせずに、横っ飛びのノリアキングに対して斧。地面に伏せたまま盾で防御する。HPゲージが三分の一ほど減る。さっきのナイトに比べてもかなり固い。
「ハンターは間を置かず、自分の所が狙われた場合に逃げてください! 尻尾に炎が見えたらアレが来ます!」
できるだけ僕が教える、だけど知っていて損はない。
ヤツの動きは、急に跳ぶことを考慮しても速くはない。となると、一つ一つの動きを確実に見極めて一瞬でも早い対処。これだ。技術と情報さえあればノーダメでいける相手。
そうだ。僕らの戦力は少なくなんかない。そう信じて、行く。
ノリアキングに第二撃を加えようとしていたガランスギュエックを、宇留川のサンダーランスが刺した。そこに急増パーティのマリマリがコールドジャベリンで追撃。リロードの終わったエリスレルがさらなるダメージを与え、前衛組の攻撃。悪くない。ハンターの斉射を横目に、僕はヤツの背後からずれないように移動する。
ヤツの構えが変わった。
まずい。
「ナイト以外下がって!」
縦ではなく、今度は横だ。
巨体を沈めて、地を這う横薙ぎ。最初に受け止めたのはルシェイナ隊のヘルプ、オルステッド。だが踏ん張れない。筋力に決定的な差があり、吹き飛ばされた。
運がよかったのは、吹っ飛んだオルステッドがルシェイナさんにあたって結果的に彼女に斧があたらなかったことだ。だけどおおたまはまともにくらい、本気で死にかける。
続いて宗佑隊。ゴンベーも同じく盾で受け止めたが押し負けた。こっちはギリギリ避難が間に合っていたようで、他の前線にダメージはない。
最後、ノリアキングは防御せず、彼自身も避けた。すでに他の連中は下がっていたので特に問題ない。
即座に各小隊のヒーラーが回復にあたる。ハンターの斉射がとび、ようやく相手のHPは六割程度に減った。
判明しているガランスギュエックの攻撃手段は、狭い範囲を対象とした縦の斧、広範囲攻撃の横の斧。三発の火球。
これ以上はあるだろうか。高レベル帯のモンスターなら、当然ある。こいつが初期に戦うボスであることを考えると、後一つくらいはあってもおかしくない。
外見から考えると、斧は手の得物によるもの。火球は上半身のリザードマン。となるとあと一つは、下半身である馬の特性を生かしたものか。あの跳躍にそれが使われていてもおかしくないが、最悪の状況を考えると……
尾が燃え上がった。
「回避!」
今のところガランスギュエックの攻撃は前線で戦っている四小隊が主な標的だ。今回も狙われたのはXXX小隊で、あそこは全体的に紙防御なかわりに素早い職業が多い。危なげなくかわし、火球については不意打ちじゃなければ問題なさそうだ。
まだ出てこない攻撃についてひやひやしてもしょうがない。僕の役目は戦況を把握することである。
よし、余裕でてきた。早く終わらせてイイリコ小隊に戻ろう




