"闇よりのガランスギュエック"
「とはいえ、楽観視できる状況じゃないです」
ルシェイナ隊はカイトが欠けているため、鍵奪取はXXX隊が行うことになった。
「確認したいんですが、SOSのメッセージは罠ですか」
「罠だ。俺だけ外に連れ出されて、指定の文面を送信するように言われた」
さて。
となると、ノリアキングの行動にいくつか疑問が出てくる。
「そのとき、ログアウトは?」
「できなかった。モンスターに囚われた場合、捕虜のステータス異常がつく。捕虜中はログアウトが制限される」
僕は左目を閉じてメニューを出した。ログアウト可能。ということはこの砦一帯はログアウト不可地域じゃないってことか。通信不可なのはルシェイナさんが確認している。
捕虜のステータス異常。問題だ。これが意味することは、今回ノリアキングが囚われたのがこの砦戦だけのイベント的なものではなく、これからも起こりうるから。その後の連絡が不可能になる点でデスより相当やっかいである。
「解除方法は」
「わからん。だがまあ、ここを落とせば外れるだろう。問題は……」
そう、問題は……メッセージがやはり罠だったことだ。
モンスターに関してはとりあえずいい。強く見せて僕らの出足をくじく。一応そう認識しておく。大事なのはノリアキングを捕らえている場所があっていることだ。罠なら別に、牢屋の場所を偽るなりすればいい。それをしないのなら、罠を成功させる上でノリアキングをここに閉じ込める必要があったということになる。
どこかに続いているかもしれない地下の空洞。牢獄にしては広いこの空間。
僕らは予想していた。ノリアキングがいるにしろいないにしろ、モンスターが配置されているだろうと。
「鍵、あったぞ」
XXX達が戻ってきた。妙に早い。ゴブリンレイダーがいたはずだが、戦闘があったようにも見えない。
「もぬけの殻だった。ざるだぞ、ここ」
XXXもいぶかしげな表情をしている。牢獄に目を戻すと、笑みの消えたノリアキングと目が合った。
「急いで開けて!」
反射的に叫んでいた。
同時に地響きが。
「ラメちゃん。言いたいことはあるだろうが、約束は約束だ。最初にここに来たのがジェストだった以上、これ以上の文句はナシ。協力は惜しまず」
ぶすくれながらも頷くラメに、他の小隊員。なんだその約束。僕らで賭やってたのかよ。
「では協力といこう。先にやっててくれ」
ルシェイナ隊、XXX隊も異変を感じ取ったようだった。断続的な足音は明らかに近づいている。巨大ななにものかが、暗闇の奥から。
僕とルシェイナさん、XXXで顔を合わせる。
「鍵は一つしかない。モリツグが開けてまわってる。広いからな、全員出るには結構かかるぞ」
「どっちにしろ扉の向こうはゴブリンばっかだし、逃げるのは無理。戦うしかないでしょう。このレベル帯だとタイタン……でもないわね、地下にはいないはずだし」
「なにがくるにしても、とにかく並びましょう。牢屋が開けばこっちの数は増えます。ざっと見たところ全員で四十人いかないくらい……」
まさか。
ふと頭をよぎった最悪の想像。この砦戦に仕掛けられた罠の、本当の所。
ゲームバランス。そういえば囚われのプレイヤー達は、捕虜であるにも関わらず完全武装だ。
「……一連の進行から考えて、とんでもないモンスターが出るとは考えにくい。勝てます」
とは言ったが、正直なところ焦っていた。
メッセージに、何故ノリアキングの場所が……すなわち囚われたのプレイヤーの場所が正しく書かれていたのか。
なぜこの砦戦において、敵は先制攻撃をしてプレイヤー達をさらおうとしたのか。
全てがこれからくるモンスターに向けての、運営のもくろみだとしたら。
『囚われたプレイヤーを助けて、全員でボスと戦う』イベントだとしたら。
「閃光のジェスト」
振り返ると、牢屋を脱出したノリアキングが立っている。
「おせっかいかもしれんが、この前から悪い方に考えすぎだ。MMOは全力で遊べ。メタ読みなんぞつまらん」
まるで僕の考えていることを読んでいるかのように……というより、きっとノリアキングも同じような予想に至ったのではないかと思う……言い放つ。
だけど僕らは侵入するとき、運び込もうとしていたモンスターを邪魔した。人類側の適正人数があらかじめ設定されていたとしたら、今の僕らは人数不足の可能性が……
「顔に出ている」
だけど、
「ハンターとシーフが多いが、適当に臨時を組ませよう。まともな構成なのはルシェイナのとこと俺の所と……あー、この二隊だな。気を悪くしてほしくないんだが、ネタ構成じゃないよな?」
もちろんXXX小隊のことだ。
「お前のとこより強いぞ」
「マッスル兄弟がいるなら、まあそうか」
嫌な納得の仕方をするノリアキング。有名なのかノリアキングの顔が広いのか。どっちもかもしれん。
「じゃあ、核はこの三隊でいこう。閃光のジェスト、君がソロな理由はだいたい見当がつく。他の五人が全員死んだとは考えにくいからな。すまんがもう少し頑張ってくれ」
「どうも。ダメソースがなくて雑魚もいないんで、役に立てそうもないですけど」
「それなんだがな。ちょっと俺に提案がある」
その後、ノリアキングが話した内容は恐るべき内容だった。ネクロマンサーの僕自身でもにわかに信じがたい。
「これだと君の危惧している人数不足も補えると思うぞ」
「いや……ていうかできるかどうかもわかんないんですが」
「試してみろ。ターゲットできるか?」
やってみた。
できた。
マジか。てかノリアキング、自分の職業でもないくせにずっと考えてたのか。
「タゲ取れるからって可能かはわかりません。説明にもモンスターって書いてましたし」
「ダメでもともとだろ」
そう言われるとぐうの音もでない。期待しないでほしい。
地響きがいよいよ迫った。
「じゃあ、指揮は任せた」
は?
反応する前にノリアキングは走り出した。おい、なに言ってんだよ。こんな大人数、ノリアキング以外に扱えるはずないだろ。叫んでもシカトしやがった。
バラバラと捕虜達が出てきた。何事かと顔を見合わせているが、
「来るぞ! 閃光のジェストの指示に従え!」
ノリアキングが余計な鶴の一声。捕虜達は戸惑ったり驚いたり露骨に嫌な顔をしたりする。チクショウ、わかったよ。どうせ戦闘能力がほとんど無いんだ。見るぐらいやってやるさ。
「ハンターとシーフ、それぞれで小隊を組んでください! シーフはノリアキング達に並んで、ハンターはその後ろ! それ以外の職業は……ええと、ナイトはせっかくなんでルシェイナ小隊に! 他は、五人ですか? シーフ入れて、四小隊で先頭をお願いします!」
暗闇のなかから、唐突に巨躯があらわれた。
見たことがない。いや、ある。ものすごい違和感。名前も思い出せない、なに系統のモンスターかもわからない、デカブツ。体の大きさはプレイヤーの七倍はある。顔は禍々しい爬虫類系。上半身がびっしり鱗で覆われており、一見してリザードマンのように見える。だけど不気味な肌は途中から毛に変わり、下半身はまるで馬のようだ。ケンタウルスの上半身がリザードマンになったような、そんなの。それが照明である炎に照らされて不気味な影を作っている。
なにより手の斧がデカい。ヤツのサイズに合っているから、やはり通常の七倍ほどの大きさ。破壊力もやばそうだ。
思った以上に強敵のようだった。新モンスターだ。いや、ただ新しいだけじゃない。なにか、なにかがある。
「ボスだ!」
ノリアキングが叫んだ。その言葉で、僕はこいつをどこで見たのか思い出した。
サンダマスヴェリア城の地下3階。そこにある壁画に描かれていたモンスターの一匹。
ボスモンスターの一匹。
「鷹の目!」
叫びながら左目を閉じる。名前はガランスギュエック。当然ながらHPがどのくらいかはわからず、
「識別不能!」
鷹の目もちから帰ってきた言葉もだいたい予想通りだった。
「とにかくナイトの防御を高めて! リザード系列だと炎に注意! 念のため炎耐性つけれる人はつけて! それ以外は若干下がり目に!」
ほぼ全員が無音耐性を得るためのクエストを受けているはずだ(XXX小隊除く)。となるとゴブリンシャーマン対策にフレイムピアスを持っててもおかしくない。僕らが買ったときは一つしか無かったから。
「スーパーマギ、コールドジャベリン!」
エンカウント!
まずはリザード系列の多くが持っている弱点の氷属性を試す。雑魚にゴブリンレイダーが多いのも、このボス用に氷属性の攻撃手段を用意させるための可能性もなくはない。いや、今のところはノリアキングの言ったとおり、メタ読みは自重しておこう。
マギのコールドジャベリンがヒットしたが、HPはわずかしか減らなかった。弱点だがHPが異様に多いのか、弱点ではないのか、魔法防御が高いのか。いずれにしてもボスだ。一筋縄ではいかない。
「斧に気をつけて! ハンターの斉射後、戦闘どうぞ!」
ノリアキングのお墨付きだ。好きにやらせてもらうぞ。
見たところガランスギュエックの攻撃手段は斧。口から炎もあるかもしれん。魔法を使ってきてもおかしくないし、下手をすると目から石化光線を出してきてもおかしくない。ボスだ。なにが来ても動揺しないようにしなければならん。
ハンターの総数は十六人。エリスレルと大帝を含めて後衛物理は十八人。フェアリーメイジはスーパーマギ、ノリアキングの所の一人、捕虜に一人。ナイトはノリアキング、オーシー、捕虜に一人。ライトメイジはえみさん、ノリアキングの所の一人。グローバもヒールは使える。洞窟だとボス相手には有効な攻撃は難しいだろうから、御大とラメも回復要因。そこにファーマシストのオトメノが加わる。スパルタンはルシェイナさん、バードはXXX、ノリアキング小隊残りの二人はグラップラーにサムライとガチの戦闘集団だ。
そこに各小隊、野良のシーフ九人が加わる。最後に僕、ネクロマンサーを入れて総勢四十三人。
これが人類の戦力。
どうなる。




