やっぱりこうなるのよ。しょうがないじゃん、これしかないんだから(言い訳)
非常に運がよかった。まず一つは、相手の着地と同時に僕の無音がとけたこと。もう一つは、そいつ……キラーマンが狙っていたのが僕ではなかったこと。
ヤツのターゲットは僕のすぐ後ろにいた、リュー小隊のフェアリーメイジだった。正確に言うとヤツが着地したのは、僕ではなくフェアリーメイジのすぐ後ろだった。
フェアリーメイジは無音にかかっていたようだった。振り返った僕を不思議そうに見つめていた。その後ろで、木の葉装束の暗殺者がナイフを振りかぶっている。
このような状態に陥ったとき、プレイヤーができることは基本的にない。一秒も満たぬうちにキラーマンの攻撃は完了するし、僕とキラーマンの間には被害者という障害物がある。ジェスチャーマクロで魔法を撃っても、相手に届くのは攻撃後である。
だから僕としてはメイジのHPが必要十分にあることを祈りながらアシッドアローのジェスチャーマクロを入力することだけだった。
ここまでは僕の対処である。運がよかったのは僕だけでなく、フェアリーメイジもだ。名前を確認する余裕はなかったが、そいつは恵まれていたといえる。キラーマンは突然現れたのではなく、ずっと木の上にいた。それをめざとく見つけ、エリスレルがすでに行動に移していたのだ。
フェアリーメイジの髪の毛がチリ、とかすれ、まさにナイフを突き立てようとしていたキラーマンがよろけてダメージ。エリスレルは僕の斜め前にいたから、おそらくメイジにはエリスレルが自分に銃口を突きつけているように見えたはずだ。悲鳴を上げながら頭を抱え込むと、さらに銃声が響いて二発目が着弾。僕はアシッドアローのマクロを中断し、杖を振りかぶってたたきつける。
何かを殴ったときには必ず手応えがあるが、こう、人の形をしたものを殴るのはいやな気分だ。僕の攻撃ではろくにダメージは入らないが、ようやく動き出したリュー小隊の前衛がキラーマンの背後から襲いかかった。ロクサニウスの一撃でキラーマンは倒れる。やっぱスパルタンだけはある。
リュー小隊に構ってもいられない。前線はホグと戦っているはずだ。視線を戻すとすでに乱戦である。ホグが見えるだけで四体。草むらの中に何匹いるかはわからないが、揺れているのでいないってことはない。
すると、ホグマスターはおそらく二体。
「無音!」
御大の拡声器のような声が響いた。キラーマンの攻撃である。僕はかかってない。
キラーマンはまだいる。僕が視線を上に向けたとき、
「ふんぬぁ!」
とさらなる御大のソウルシャウト。いちいちびびるわ。
木の枝がざわめいて、蔦に絡め取られたキラーマンが宙づりになった。蔦地獄は視認できる地点に触手を出す魔法なのででたらめに発動したわけじゃない。御大は無音に陥っても冷静にキラーマンを探していたわけで、いよいよもってプレイヤースペックが異常である。
汗臭いポーズを取っている御大の横で、やはり汗臭いかけ声で精密射撃を発動(まっする!)した大帝。キラーマンのこめかみに矢が突き刺さった。この間わずか五秒で、あながち双子の連携というのも伊達じゃないな。
同時に、前衛を突破したのか回り込んできたのか、ホグが二体、僕とエリスレルの間に割り込んできた。そのまま一体ずつが僕らに突進し、もうこれはどうしようもない。この至近距離では避けられない。二人とも腹に一発もらってしまう。超痛ぇ、ちくしょう。
浮き上がって落ちた僕の背後で、リュー小隊の悲鳴が上がった。たぶんホグがそのまま突っ込んだんだろう。痛みに耐えながら起き上がると、同じく体を起こそうとしていたエリスレルに向かって、さらなる突撃を咥えようとしていたホグが目に入る。
これ以上好きにさせてたまるか。ブラインドを入力。視界を失ったホグは体勢を崩して、エリスレルの背後を転げながら通り過ぎた。
つまり僕の目の前で倒れる。ブラインドはしっかりかかっている。
僕が殴ってもわずかしか減らない。エリスレルが三発撃ち込んでようやく沈静化。
「すいません」
「いあいあ、こっちこそ」
バラバラと空薬莢を落としながらエリスレル。前衛もモンスターを全滅させたようで、進軍再開のかけ声。
「まだ見えますか」
「うむ。外壁を回り込んでいるな」
となると、一番不安だった「門の前で消える」というゲーム的な処理ではないということになる。おそらく他に出入り口がある。
先頭もモリツグの鷹の目で状況を確認したらしく、ハンドサインで指示を送ってくる。モンスターの対応で少し離れてしまったので急ぎ足だ。
森の中にいる場合、頭上からの飛び道具への不安がかなり制限される。今回は城壁の上にいるホビットアーチャーからの攻撃がほとんど無効化されている。木々が邪魔なわけだ。おかげで敵の射程範囲に入っても矢が飛んできたりはしなかった。そのまますすむと、追っていたものの他にも、プレイヤーを背負ったホグが集まってくる。結構な量だ。
先頭が止まった。腰を下ろして、XXXが僕を手招いてくる。慎重に、見つからないように進む。
草むらの間からのぞき込むと、ホグが順番待ちのように並んでいるのが見えた。その先頭、つまり砦の壁に、勝手口のようなものが開いている。
「よかった。入れそうだ」
モリツグが鷹の目をすると、勝手口の耐久は3000。今は開いているから、閉まらなければ0だ。そしてホグの量から考えて、しばらく閉まりそうにない。
かといってノコノコ出て行くのであれば、すぐに閉じられるだろう。見たところ外にはゴブリンレイダーが二匹いる。油断なくダンビラを構えているが、こちらには気づいていない。
「できるだけ倒したいけど、それ以上に大多数を無力化して素早く滑り込んだほうがいいかもね」
再度ユタに通信しようとしたルシェイナさんが、しばらく(僕からは見えない)画面を見て固まる。
「どうしました」
「……忘れてた、もう通信不可とログアウト不可のエリアだわ」
そういやそんなのあったな。途中からもう諦めていたけど、ここからはやっぱり司令部の連中に報告もしないで独断行動だ。
ルシェイナ小隊とXXX小隊から後衛が集められた。
敵までの距離はそう遠くないが、いくつかのスキルの射程外だ。具体的には僕のブラインド。だから後衛は草むらから出てスキルを発動する必要がある。重要なのはレイダー二体をどうにかすること。扉は外側に開いているから、中からは閉めにくいはずだ。そこを狙う。
最初は僕だ。飛び出した僕は、こちらに気づいたレイダーをターゲットしてブラインドを放った。暗闇の塊が飛び出し、なんと十二に分裂。範囲内にいたレイダーとホグに命中する。そんなに密集していたのか。
大半が暗闇にかかり、ホグはプレイヤーを乗せたままちりぢりに走り出した。アレの対処は他のプレイヤーに任せよう。たぶん気づいてくれる。
僕がそんなことを考えている間に、飛び出してきたのはエリスレル、マッスル兄弟、モリツグ、おまけでスーパーマギ。思い思いに攻撃をぶち込んで、続いて僕らを追い越すように前衛が全力疾走。集中砲火を食らったレイダー二体のうち、ブラインドがかかったのは一体だけだ。そのもう片方を、御大の蔦地獄が絡め取る。グッジョブ。残っていたホグはマギの攻撃に巻き込まれた。つまり……そいつらが背負っていたプレイヤーにもダメージが。
緊急事態だから、しかた、ない……ということにしておこう。
視界がふさがれながらも扉を閉めようとしてたゴブリンの腕をXXXの片手剣が切り上げる。突撃時の思い切りの良さといったら、おそらくプレイヤーいちだと思われる。バードなのにスパルタンやナイトより速い。そのまま切って切って、相手の目が見えないのをいいことに一方的に攻撃。
二番手のルシェイナさんは、中から扉を閉めようと伸びてきた腕、おそらくレイダーが中にもいたんだろうが、それを走りながら思い切り蹴りつけた。いわゆるヤクザキックで、扉にたたきつけられた腕が変な形にねじ曲がって悲鳴が聞こえる。
ルシェイナさんはすぐに後退すると、カイトとオーシーに道をゆずった。ついでにモリツグがXXXの隣に立って、敵の増援がないか見張っている。装備のいいカイトが最初に砦内に躍り込む。続いてオーシー、ルシェイナさん、念のため回復薬のえみさんが僕の視界から消える。次はマッスル兄弟。
ここで僕らの頭上から矢が降り注いできた。
「急いで!」
壁の上の連中に見つかったんだ。僕らは壁に張り付いて、矢が当たらないように構える。できればホビットは倒したくない。もともと人類には友好的な種族だから。メタ的な観点からすると、もしこれが支配されての行動であったなら、支配から解放したときになにかいいことが起こるのではないか、逆に倒してしまうとデメリットがあるのではないか、という邪推がある。
だからできるだけ、矢は耐える方向にある。とはいっても無抵抗なのもしゃくだから、エリスレルが上空に向かって威嚇射撃をした。あたらないように射線は外している。
残りのメンバーが入って、最後に僕らだ。
扉を抜けると、やはり戦場だった。狭い通路にレイダーが群がっている。カイトとオーシー、二人が通路の左右を張っていて、そこから押し寄せるゴブリンレイダーを抑えている感じだ。さきにえみさんが突入してよかった。さすがに保たん。
「行きましょう」
僕らは南からこの砦まで侵攻してきた。よって「エントランスから右手」とは、南の門を入って東に進む、ということだ。そして僕らは外壁を回って東から突入した。つまり南に進めばノリアキングの囚われているところ、そうじゃなくてもなにかがあるところにたどり着く。南とは僕らから見て左手、カイトが前線にいる方。
通路は二人が並んで一杯になり、武器を振るうなら一人でないと無理くさい。プレイヤーだけで十人以上がひしめき合っているので密度が半端なかった。突入隊の欠点と言えば、槍を使えるプレイヤーがいないことだ。ガートランドがいてほしい。
いないものを望んでも仕方ないことはわかってる。とにかくここを強引にでも突破したいが、残念ながら僕にできることはあまりない。オトメノが来るまで、後方で耐えているオーシーのHPを回復することくらいだ。
「ちょっと、詰まってる詰まってる!」
「どうすればいいんだよ!」
ルシェイナさんとカイトだ。レイダーの攻撃がなかなか激しく、前に出ることができない。ルシェイナさんのリーチだとカイトが邪魔になって攻撃できないし、ここは、
「ルシェイナさん、下がってください」
「はあ? ここにきて下がれってどんな了見……」
抗議しようとしたルシェイナさんの首根っこをむんずとつかんで、マッスル大帝がこっちによこした。
「適材適所というものがある。今は見ておれ」
そういって、このクソ狭い中で器用に弓をつがえて、カイトの腕と顔の隙間からレイダーを射撃した。
「うおおっ」
びびるカイト。突然目の前の顔に矢が突き立ったんだからしかたない。
「殺す気かバカ!」
「下手に動くと当たる。大人しくガン防御しておけ」
大帝の頼もしさは異常。だけどカイトの向こうでレイダーがひしめき合っている。さすがに一人じゃ時間がかかりすぎる。
「おい、どけどけ、おい」
僕らをかき分ける腕があった。狭いってことわかってんだろ、誰だよ。と思ったらスーパーマギだ。完全に忘れていた。
「ゴブリンには魔法よ、魔法。なんのためにコールドジャベリン覚えたんだって」
言いながら、カイトの脇から杖を突き出す。
「満ちる白露の手槍」
ぞくり、と背筋に悪寒が走る。公式の呪文詠唱。
「射て!」
杖の先から飛び出した冷気の槍がレイダー達を貫く。氷とは違い、極端に冷えた力場を形成するとかそんな意味のわからない説明文になっているが、要するに凍り付く。ジャベリンとは言っているが一定空間に影響する範囲魔法である。こういった魔法は対象を凍傷、もしくは氷結のステータス異常に陥らせることがあり、なおかつゴブリン系統のモンスターは冷気が弱点だ。狭い空間に密集しているだけあって、ほぼ全てのレイダーにダメージが入った。エリスレルと大帝の射撃が追い打つ。
後ろではオーシーを初めとした持久組が耐えている。速く進まないと。




