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先制攻撃(敵の)

 砦はさながら城のようだった。


 相手に見つからないようにと木々の間から観察する、僕を含めた特攻隊十九人。だけどホビットは目がいい。たぶん見つかっていると考えて行動すべきである。


 城までの距離は徒歩で二十分ほどで、これはマッスル大帝とエリスレル、モリツグが全員で鷹の目をしたから信用できる。その情報によれば、城壁の上にいるホビットアーチャーが五名。ゴブリンレイダーが二匹で、こいつらがアーチャーの指揮を行っているらしい。


 ゴブリンレイダーの推奨レベルは十六。やっぱり弱いぞ。判明したモンスターはホグマスター、キラーマン、ホビットアーチャー、ゴブリンレイダー。どいつもこいつも、ノリアキングのメッセージにあったモンスターに比べて二段階は弱い。僕らの強さがちょうど良いくらいで、砦がなければ楽勝な相手だ。もちろん数にもよるけど。


 やはり問題は砦。僕らの進路に門があることはすでに確認している。ホグマスターとキラーマンはおそらく門の外で襲ってくる。アーチャーは上から弓を射かけてくる。門を狙う小隊はあらゆる方向から攻撃を受ける。


 そうなると他の小隊の協力が不可欠である。後続が大きく森に散って、外野部隊を各個撃破してくれないと厳しい。この点、ルシェイナさんもXXXもリューも異論無し。ユタも想定済みで、僕らが仕掛ける少し前に全体をばらまくようになっている。


「もう少し先に進みましょう」


 ルシェイナさんの言葉で、僕らは前進を再開する。所定の位置。すでに大きく外壁を見上げる形になっており、砦にしてはなかなかでかい。というか壁が高い。山岳部の奥の山の上でここまで壁が高いとなると、かなり堅牢な部類である。


 ユタに、十分後に突撃をかける旨を連絡。僕らは持ち物の最終チェックをして、草むらに潜んだ。


 後方がにわかに騒がしくなる。ユタの指示で小隊が広がっている騒がしさだ。木々の間でプレイヤー達の姿がチラチラ映る。モンスターの情報を得てから、少し前まであった緊張感が薄れているようだった。なにせ実際に戦う相手が雑魚だったのだから自然だ。僕としても安心できる。


 あと三分で突撃、というところ。


 僕らは甘かったことを気づかされる。


 突然、前方から草をかき分ける音が聞こえた。反応したのは僕とマッスル大帝、ルシェイナ部隊の面々。大帝以外のXXX小隊のメンツはそのまま前方を注視している。


「イノシシ、くるよ!」


 ルシェイナさんが叫んだ。判明しているモンスターで、草むらに隠れて見えないほど背が低いのは一つだけだ。ホグマスターとそいつの操るワイルドホグである。


 相手が先制攻撃してくる、という可能性は、考えてはいた。ただしこのタイミングではアーチャーの支援が期待できないし、なにより人類の数が違う。来ても問題なし、というわけで……


「キラーマンもいます!」


 僕が叫んだと同時に、あらゆる音声が途絶える。全くの無音。自分の声すら聞こえなくなり、ホグが接近する音などなにをか況んやである。


 つまり……そう、つまり、無音耐性していなかったXXX小隊の大帝以外は、一足先に無音をたたき込まれていたのだ。


 ようやく耳に違和感があることに気づき、エリスレルらがあたりを見回す。しまった、いっそのこと前を見続けていれば、飛び出してきたホグをとらえることはできたはずだ。

 ルシェイナさんが飛び出した。続いてカイト、おおたまなど彼女の小隊員。ほぼ全員が無音に陥ったXXX小隊のサポートに回るためだろう。草むらから躍り出たホグに対し、出会い頭に鼻っ面へ拳をたたき込み、ルシェイナさんはハンドサインで指示を出す。同じくXXXが大きく両手を振った。あらかじめ決めておいた、無音時の会話方法である。複雑な情報は伝えられないが、とにかく指針はできる。ホグマスター一体にワイルドホグは五体。つまり、あと四体のホグが控えている可能性がある。


 ホグマスターは一人に対してホグを多量に仕掛ける傾向があるため、序盤の初見殺し筆頭だ。逆に言えばそれさえ知っていれば対策も容易である。前衛が固まって死角を作らないようにすればいい。ルシェイナさん、カイト、オーシー、XXXが一列に並び、その時点で僕に音が戻ってきた。お守りのおかげで、無音状態の時間も短くなっている。


 同時に、悲鳴や騒ぎも聞こえてきた。周り全部からだ。プレイヤー達が散っていった先でも騒ぎが起こっている。


 次の瞬間にまた無音をたたき込まれて、僕は周りを見回した。近くに絶対キラーマンがいる。前方ではルシェイナさん達がホグをボコボコにしていて、それは問題ない。他の小隊員の動きを書いておくと、まずえみさんとオトメノのヒーラー二人は前衛を注視してHP管理。とくに問題は無いはずだけど、万が一がある。無音状態の場合、SOSは目で確認するしかない。


 それ以外のプレイヤーは木に寄り添って頭上を見上げる。または周囲を見渡す。キラーマンの特徴は、必ずしも地上にいないことだ。木の上を渡り歩き、突然上から不意打ちを食らわせてくる可能性がある。これはなにげに驚異で、不意打ちによるダメージアップとスタン効果をいきなりやられたらまず冷静ではいられない。


 エリスレルなんかはロングバレルを構えながら索敵していて、これは大帝やモリツグも含めて、飛び道具が獲物である職業のメリットだ。この点、魔法は発動までの平均時間が少し長い。


 また音が戻ってきた。僕は頭上ではなく、周りを見渡す。見えないところで、やはり悲鳴が上がっている。


 悲鳴、を考えるに、他の小隊も僕らと同じように襲われている。そして悲鳴なのだから、あまりいい状況ではないこともうかがえる。各個撃破する予定が先手を取られたのだからショックは大きいのだろうが、それにしたって、慌てすぎじゃないか。


『状況を。繰り返す、混乱が起きている。多数のプレイヤーがモンスターに襲われている。状況をもと』


 知らんやつの声だ。おそらくはユタと同じ司令部のプレイヤーなんだろうけど、途中で切れたのはまた無音に陥ったせいだ。キラーマンにしても無音攻撃の連打が多い。AIはランダムに打撃を挟んでくるが、今回のキラーマンは一度も殴ってこない。見えない所から無音攻撃を連打している印象だ。攻撃はホグマスターに任せているぽい。


 とすればやはり不可解だ。AI強化か、もしかしたら……


 肩をつかまれた。びっくりして振り返るとマッスル大帝だ。なに用? 無音だとジェスチャーで伝えると、彼は右の方を指で示す。


 草むらの上をプレイヤーが仰向けに滑っている。


 訳のわからない描写になってしまったが、要するにあれは倒れたプレイヤーがなにかに運ばれているのだ。なにかって、ホグ以外になんかいるのかよ。


 音が戻ってきた。


「聞こえます?」

「うむ、ハンターは職業特性でわずかに無音がかかりにくい」


 そういやそうだったな。スキルを上げないと本当にわずかだから無視していたけど……つまり、大帝はスキルポイントを振ってるのか?


 大帝がなぜ、わざわざプレイヤーが連れ去られる所を僕に見せたのか。答えは大して難しくない。


 正面から突撃するのが難しくなったのだ。


 敵の襲撃は想定内だが、味方の混乱は想定外である。今の状態だと正々堂々と門を攻撃することはできない。どうしたっていったん下がり、体制を立て直す必要がある。


 しかしプレイヤー達が連れ去られた、とくに散開した小隊が狙われたのだから、今回の戦力減はかなりまずい。下手をすると詰みかねない。


 詰み。一定以上のプレイヤーが捕まった場合の処理はどうなるのか。序盤だから救済はあるだろうか。それとも初日にモンスターの大攻勢を見せつけた運営だ。帝は「このままだと全滅だ」と言っていた。ゲームバランスは決してヌルくない。


 ここで引くのは愚策だと思う。かといって馬鹿正直に門を攻撃するのはありえない。


 となると……


「さらわれるプレイヤーを追撃します」


 できるだけ大声で、僕は言った。とにかくユタ達の戦略は破綻しつつあるから、次善策を探らねばならない。このまま泥沼に陥るなら、勝手な行動をして捕まっても同じだ。

振り返ったのはXXX、ルシェイナさん、オーシーの三人。小隊長の二人の無音が回復していたのは嬉しい。念のため伝えていた「さらったプレイヤーを搬入するための別口があるのではないか」を察してくれたのか、二人は頷く。


 手で合図し、他の小隊員にも伝わったらしい。


「勝手なことするなよ!」


 後方からリュー小隊の健康組の罵声。正直構ってられないが、


「死にたくなかったら来い!」


 XXXの一言は結構効いたらしい。後で問題にするとかなんとか言いながら、最後尾をついてくる。


 進軍。独断なのだから後続の援護は当てにならない。ルシェイナさんがユタに報告をしたらしいが、返答もない。


 僕らの周りにホグはあまりいなかったようだ。予想するなら、最前線にいる僕らはあえて残し、援護から刈り取ったのかもしれない。その方が人類の受けるダメージは大きい。


 無音で攻めてくる相手に対しての進軍は、当たり前だけど注意を払わないといけない。無音に陥ったら会話も満足に行えなくなるので連携に致命的な支障が出る。キラーマンの場所がわからないのでやっかいだ。無音攻撃の範囲がそこまで広くないことからアタリをつけるのは不可能じゃないけど、見ての通り森の中は障害物が多い。


 周りからは断続的に悲鳴が聞こえてくる。一度崩れたら立て直しが難しいのがステータス異常による攪乱だ。特に五感を制限する異常はコミュニケーションが取れなくなることによる意思伝達の高難度化が原因として大きい。


 こっちが攻める側だったはずだが、まるで逆だ。相手は僕らから砦を守り抜くんじゃなくて、寄ってきた僕らを積極的に虜にしようとしている。


 周囲の音が消えて、また無音に陥る。対策を取っていないXXX小隊はともかく、他の十三人は耐性のついたなにがしかの装備がある。全員が無音になるわけじゃない、が、見ての通り無音は、他人から見てもかかっているかどうかがわからない。


 無音です、と僕は言った。自分では聞こえないが声は出ているはずだ。異常がかかっていないプレイヤーには聞こえるはずだ。案の定、ルシェイナ小隊の何人かが振り返って、ハンドサインで攻撃があったことを伝える。僕がいうのとほとんど同時に振り返ったから、他にも誰かが言ったのかも知れない。


 少し忙しくなる。常に視線を動かし、周囲にモンスターがいないか確かめる必要があるのだ。木の上、影、草むらのなか。キラーマンやワイルドホグは森を味方にする。どこに潜んでいるかわからない。


 先頭を歩いていたルシェイナさんの足が止まり、モンスター接近のハンドサイン。このときも大事なのは、前方だけに注意を払いすぎないことだ。陽動の可能性も十分ある。

 僕の耳に音が戻ってきた。



 背後で、何かが着地した音がした。


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