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突撃準備

 砦が見えた。


 木陰に息を潜めて、僕らは石造りの外壁を注視している。


 まだかなり遠いが規模は大体わかる。サンダマスヴェリア城と比べると非常に小さいけれど、城砦型だ。攻めるのに都合が悪い。


 攻城戦は誰もが未経験である。WWにそんなのはなかった。


「普通、城を攻める時ってかなり時間をかけるだろ。攻める側も犠牲が多いし、この人数じゃ足りないんじゃねえかな」

「その時間をかけるってのはどこからの情報?」

「マンガ」


 さいですか。ただオーシーの言いたいことはよくわかる。見た感じ、どうやって門を開けばいいのかわからん。


 鷹の目で見たところ、門の耐久は15000。耐久力はそのままHPで置き換えられるから、実にバトルオークの十倍である。こっちのレベルや武器が上昇していることを考えてもかなり厳しい。城壁やフィールドからの攻撃もあるだろうし、作戦はどうしても必要である。


 シーフやハンター達探索組がばらばらと出かけていって、戻ったのは半数くらいだった。


「捕まった!?」


 後ろの方から悲鳴が聞こえる。やはりここのモンスターはプレイヤーを捕らえるのだ。そして捕まったということは、僕らの襲撃がばれたということでもある。


「かなり索敵に割いておる。見つからずに門までたどり着くのは難しいな。かなり手前でホグマスターの襲撃を受けるであろう」


 ホグマスター。野生のワイルドホグを使役して性能を引き上げるゴブリン型のモンスターだ。適正レベルは今の僕らでちょうどくらい。となるとやはりノリアキングの情報は偽物だった可能性が高くなる。


 マッスル大帝は戻ってきたハンターの一人だった。この巨体で斥候としても優秀らしく、かなりの情報を持ち帰ってくれている。


「キラーマンに、城壁の上はホビットアーチャー。中にはどんなタフガイがおるかわからん」

「だが私にかかれば一ひねりよ」

「いや私にかかれば一ひねりだ」

「私たちにかかれば!」


 そのネタ毎回やるのか。


「ホビットが、敵なんですか」

「みた限りはな」


 ホビットはWWで人類に協力的なNPC種族の一つだった。他にもいくつかあるが、CHでもおいおい出てくるんじゃないか。それがモンスター側にいるとなると、設定が変わったのか? もう別ゲーだからあってもおかしくない。


「モンスターにこき使われてるんじゃないの」


 竪琴を鳴らしながらXXX。演奏スキルはやや特殊で、一度ジェスチャーマクロでスキルを発動した後は所定の順番で音を鳴らすことにより効果を発揮する。バードの生命線なので、初心者でも暗譜は必須らしい。


 WWではなかったけど、隷属にある異種族なんかはファンタジー小説では珍しくない。あってもおかしくない。


 さて、ユタ達はどんな作戦を考えてくるか。


 自分で見たわけじゃないが、入り口が門だけならおとなしく突撃するしかあるまい。タクティシャンがいれば攻城用のスキルがあるかもしれないが、今回トシヒコはいない。確かにジュリアさんの小隊に入ったからには容易に城を出ることはできないが、解放戦に毎回不参加というのはちょっと困るな。今度ジュリアさんと話してみよう。


 WWを思い返してみるに、使えそうな手段はいくつかある。高所に上るための投げ縄かぎ爪付だったり、ドラゴンペンダントのドラゴン召喚だったり、スカイマスターのスキルだったり、城壁を乗り越えてしまう方法は枚挙にいとまがない。やり方さえわかれば中から門を開けることもできるだろう。ただし今は全員初期職でアイテムも充実していない。城壁を乗り越えるのは不可能だ。


「抜け道なんかは……ないか、砦だもんな」

「モンスターに門を開けてもらう方法ってないかな」


 エリスレルの言葉。


 真剣に考えてみよう。


 モンスターが門を開ける。実現すればかなり楽になるが、果たして有効だろうか。


「配達ですーって」

「大帝、モンスターに捕まったプレイヤーはどうなった?」

「見ておらん。砦の中に連れ込まれたのは間違いなかろうが」


 たとえば、捕まえたプレイヤーを砦内に連れ込む際。

 城壁が分けた外と中をつなぐ道が必要である。門かも知れないし、もしかしたら他に出入り口を通るかもしれない。


 どうだ? 人間を連れ込むために砦の入り口を開けたとき、そこに突撃すれば。


 閉じた門を破壊するより手っ取り早くないか?


「それを実現するには、捕まったプレイヤーが連れ去られるところをストーキングしないといけないな。そろそろ二次隊がでるし、ちょっと打診してみるか」


 XXXは後方の作戦本部的なところに向かっていった。試したいことではあるけど無事に完遂する保証もないから不安ではある。


 連れ込む方法にしても、ゲーム的に一定時間拘束したら自動的にテレポートする、みたいな運用だったらお手上げだ。あくまで現実に即して、物理的に城壁を通り抜けることが確認できた場合のみ有効な案。


 だからやはり、XXXの言ったとおり確認が必要なのだ。


「ダメだ」


 だが彼の返答は、ある意味で予想通り。


「これ以上戦力が減ると門突破が難しくなるって考え方みたいだな。二次隊を少数で出して再確認、それから君を先頭に門に突撃だそうだ。大帝、行ってくれ」

「任せられい」


 モリくんは今回はいいよ、とルシェイナさんの声。XXXと一緒に戻ってきたようだ。


 突撃となった以上、従うほかない。嫌悪派が怖いんじゃなくて、僕の作戦はヤツらの協力が必須だからだ。例え僕の作戦がはまったとして、侵入するのが誰であれ外から門やホビットを攻撃するプレイヤーが必要である。できれば脇からも攻撃して、侵入隊が袋だたきに遭うのを防がねばならない。どのような形で入り口が閉じられるのかわからないから、少なくともそれが確認できるまで耐える時間が必要だ。独断専行して成功する案ではない。


 せめてこの二次偵察で連行シーンを誰かが見られれば……いや、プレイヤーが捕まるのを望む考え方が嫌悪派につけ込まれる原因だ。今回くらいは王道で行ってもいいんじゃないか。


 不安要素はあるにしろ、僕らが現行戦力で戦わざるをえないのは事実である。案ずるより産むが易しというじゃないか。なんか無理に自分を納得させるような気がしてイヤだけど、とにかく大事なのはこの解放戦を成功させることである。渦中の僕が意地を張ることで人類側の連携が取れなくなるのだけは防ぎたい。


 とすると、僕が一番心配せねばならぬのは生き残る方法だ。作戦もへったくれもない。


 幸いルシェイナ隊、XXX隊という頼もしすぎる連中が一緒に突撃してくれる。ルシェイナ隊が門を、XXX隊がホビットを受け持つという、ちょうどよいバランスになっている。森に散らばっているホグマスターは後続の連中に任せるとして、死ににくいのはおそらく門に張り付くというポジション。


 できればもういくつか協力してくれる小隊が欲しい。少なくとも一小隊、一緒に突撃してくれるところ。門は広く、前衛のルシェイナさん、カイト、おおたま、オーシーだけでは殴る隙間が空く。それとローテーションで後退してくれる連中。


「ルシェイナさん、スパルタンって他にもいますか」

「どうして?」


 僕は考えたことを喋っていく。門を破壊するために、一点集中火力として最大級のスパルタン、もしくはサムライが欲しいことを伝える。できれば最大で、継続火力もあるスパルタン。そしてレア職が複数いるなら、もしかして連絡を取ってはいないかということ。


「なるほど、そういうことなら……といいたいけど、彼、アレなんだよなぁ」


 アレ、というせりふだけでわかる。嫌悪派。


 ならばサムライでも、とは思うけど、やはりスパルタンがいい。知り合いにいないならともかく、いるのであれば使わぬ手はない。


「あたしもちょっと挨拶しただけだし、なんか取っつきづらい人だし。嫌な思いするかもよ?」


 僕はこの事態を招いたことでイイリコさん達に借りがある。それを考えると、とても逃げ出すわけにはいかない。イイリコさんを連れ戻すときにさんざん考えたはずだ。今都合の悪いことから逃げたら、先がないことを。


「構いません。この砦をおとす、ノリアキング隊を救出する。この重要性がわかれば、協力してくれるはずです」

「……まあ、そこまで言うなら呼んでみる。条件として、最初に私とエックスくんで交渉させてね。またこの前みたいに煽られたら爆発するかも知れないし、それが後ろに伝わったらもっと印象悪くなると思うし。みんなジェストくんみたいに私情を抑えられるわけじゃないんだから、意固地な人もいるからね……それはそれとして、ノリアキングをダシに使うのは諸刃の剣かもねえ。彼のことを尊敬しているひとほ」

「ルシェたん、急ぎなよ」


 えみさんグッジョブ。






 マッスル御大が大帝と通信しているのが耳に入る。斥候の実況中継である。


 背後から聞こえてくる不快な問答をできる限り平易なフィルターに通しながら、オトメノに薬をわけてもらっていた。今回は僕のネクロマンサーとしての出番は、特に序盤はあまりないだろう。耐久力が鬼のように高い城門が相手では無力である。ホグマスターを躁屍で操るくらいしか貢献できない。


 そういうわけで、回復薬をオトメノと分担することにした。周知の通り、オトメノを含むXXX小隊は無音対策を全くしていない。城壁に張り付いている間、背後からのモンスターも警戒せねばならぬとなれば一大事である。


「一応、天使の囁きも二つ作れた。もっといて」


 無音回復薬。ステータス異常は戦闘中に甚大な影響を与えるものが多く、さらに使えるモンスターは頻繁に使用してくる。そしてプレイヤー側はまず無音対策の防具によって判定が行われ、その後相手の攻撃属性(物理か魔法か)の命中とプレイヤーの回避で判定を行う。キラーマンと今の僕なら無音命中率35パーセントってところだ。エイタローからもらったお守りの無音耐性を含めた数字である。


 対策していないプレイヤーは平均で65パーセント程度の命中率になるだろう(上位のモンスターなんかじゃもっと高くなる。あくまでキラーマンの数字)。50パーセントって言ったら、連発されたらほぼかかる。


 だから回復アイテムはいくらあっても足りない。そして僕らの行動圏内に、無音対策のアイテムを売っているところはない。


 WWに比べて、売っているアイテムがかなり減少している。というより、麻痺回復なんかは売っているのだから地域によって変わるのだと思われる。


「誰に使うかは任せるようにってエックスさんが。ジェストさん無所属だし、俺ら以外の小隊でも遠慮無く使って」

「……まあ二つだし、使いどころは考えるよ」


 アイテム名はアレだが見た目は瓶に入った液体である。飲むものかどうかは知らない。対象に使用すれば霧散して効果が発揮される。使った後には空き瓶が残り、リサイクルが基本だ。


「だからあ、アレと一緒なのがイヤなんじゃん」


 よりにもよってアレ呼ばわりとなるとさすがにむかつくが、ルシェイナさん達がギブアップするまで僕は引っ込んでいる約束だ。


 嫌悪派のリュー小隊。ランサーのリューを筆頭にした基本的な編成のパーティである。メンバーの一人がスパルタンのロクサニウス。しかしなんか……さっきから喋っているのはロクサニウスだが、なんか妙だ。


「あなたの意見は聞いたっていったでしょう。リューさんはどう」

「んー……そうだな」

「リュー! あの卑怯者にナニ取られるかわかんないのに!」

「まあ、俺は別にどうでもいいんだけど、全員が納得できないことはやらないようにしてるからなあ」


 さっきからこの調子だ。リューという男はのらりくらりと受け流しているばかりで、肝心なイエス/ノーを表明しない。ロクサニウスもなんか演技過剰のケがあってうさんくさい雰囲気丸出しである。下心丸出しといってもいい。


「……ちょっと、待って」


 距離を置いて、ルシェイナさんとXXXは小声で相談を始める。小さくてこっちまで声は聞こえてこないが、相手の態度から考えるとなにについてなのかは大体予想がつく。


「大丈夫かなあ」


 一応、僕の姿が見えにくいようにオトメノ達が囲んでくれている。正確にはオトメノ、オーシー、エリスレル、御大のXXX小隊員達だ。今の言葉はエリスレルのものだ。


「あそこまでしてほしい戦力かよ」


 ルシェイナさん達には本当に申し訳ない。条件については断ればよかった。二人に交渉なんてイヤな思いをさせるつもりはなかった。だから早くギブアップして僕と変わって欲しい。


 だけど意外にも話はまとまったようで……つまりそれは、二人が相手の要求をのんだということだった。


「参加してくれるってさ……ま、条件付きだけどね」

「ドロップですね」


 ちょっと驚いたような顔をしたルシェイナさん。


「なんだ、予想してたんなら先に言ってよ。まあ、ね。この辺ならまだ特段レアなものは出ないと思ってオーケー出したけど……この戦いで私たち2小隊とジェスト君が入手したドロップ品は全部あいつらのもの。ごめんね」

「いえ……すいません、イヤな役を」

「スパルタンの強さってさ、あたしが一番よく知ってるんだ。相手が動かない門なら、一人増えたら戦力は五倍くらい。城門を相手にしてみんなが生き残るには、どうしても必要だと思うよ。功績値はちゃんともらえるんだし、まあ平気でしょ。消費アイテムは中で全部使えば良いし、Gは入手量がわからないから例外。あいつらに渡すのはどうでもいい素材とか装備くらい。成功率が上がるならそのくらいは痛くないね」

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