ガールズトークは男の存在を無視することが判明
「だはは、ジェストくんの評判悪いよ。まあそうじゃない人の方が多いのは間違いないけどね。でも注意したほうがいいかなぁ。実際に小隊組めば違うってのはわかるだろうけどみんなと組めるわけじゃないしねえ。ジェストくんと話したことないニート組なんかは話だけ聞いて毛嫌いする人は多いかもね。ま大丈夫大丈夫。まだ先は長いし、そろそろあなたたちの小隊が攻略データ提供する側になるだろうし、そうなればだんだんわかってくるもんだと思うよ。まあいっちょここでノリアキングを救出すれば逆転できるんじゃないかな。先鋒で突撃してそのまま地下牢までいってドギモをぬけば万事解け」
「ルシェたん、長い長い」
相変わらずルシェイナさんのマシンガントークは速いし長い。えみさんが止めなけりゃいつまでも続きそうだ。おそらく初体験と思われるオーシーとオトメノは呆然とメシを食べるだけだったけど、同じく初めてのはずのエリスレルはハムスターのような目で何度も頷いている。マッスル兄弟は変わらぬ筋肉ぶりで、XXXはどこ吹く風でたそがれていた。こいつら手強いな。
ルシェイナ小隊、といえば懐かしいメンツも揃っている。ツッコミ役のえみさん、名前しか存在感のないスーパーマギ、鍋番長として妙に活躍するカイト。おおたまとモリツグの二人は、マーシャヴェルナの時は死んでいたので僕と初対面だ。シーフとハンターであり、モリツグはこの二日間、マッスル大帝にアドバイスを求めて止まない。
総勢十三名が人類側の一番槍であり、その他の連中は少し後ろ側で同じくキャンプを張っている。山の中、星空の下で野営である。ぶつくさ言ったり怯えている連中もいるが、シーフなんかが『潜伏』をかけてるし、この人数であればモンスターが来ても怖くない。
アーシュアの宿できいたノリアキングの情報によれば、明日は砦にたどり着くはずだ。一応地図をもらってはいるがかなり曖昧である。本来なら出発の日、詳しく調べた地図をみんなで共有するはずであった。
「それいいですね! ジェストくんがきゅーっていってばばーっと助けちゃえば、ノリアキングさんも感謝感激あめあら……!」
それは古い、ということに気づいて止めたのかも知れないが、エリスレルの実際の年齢が気になるところだ。
しかし実際のところ、ルシェイナさんの言ったことは大筋で理想である。ラメがどういう反応をするのかはわからないが、ノリアキングをぞんざいに扱っているという噂が広まっているのならノリアキングを第一に助けるのが汚名返上としては最良だ。それでも嫌悪派はなにかと理屈をこねるかもしれないが、ボスを狙って横取り呼ばわりされるよりずっとマシだろう。
「とすると、牢屋の位置が正しいかが問題だねえ」
黄昏れていたXXXが会話に参加してくる。
「エントランスから右手。たぶん牢屋はあります」
「罠だっていったんだっけか」
オーシーが指を立てた。
「じゃあモンスターがいるな」
頷く。その可能性は高い。あえてあのメッセージを送らせたのなら、文面も検閲済みであると判断した方がいい。それであの内容なのだから、ノリアキングがいるにしろいないにしろモンスターが待ち構えていると考えるべきだ。
「それにそもそも、城の地図ないからね。エントランスまでどのくらいあるのかもわからないから」
絶対的に情報が足りない。マーシャヴェルナはまだマシだ。外壁などがないから進入は容易だし、行き来もたやすい。
砦といってもタイプがある。ただの村を木の柵で囲んだようなのから小さな城と呼べるようなものまで。今回、そういった話は誰も聞いていなかった。みんなノリアキングが戻ってくると信じていたから。ぶっちゃけ攻略としてはかなり致命的なミスだ。
『もしもし、今いいっすか』
耳に響くユージンの声。通信が入ったことを伝えて、僕はたき火からちょっと離れる。
『どうしたの』
『ノリアキングのメッセージ見てて思ったんすけど、ジェストさん、これ罠だって言いましたよね』
『うん』
『別に否定するつもりはなくて、ただ疑問なだけなんですけど、ログアウト不可エリアがある、と仮定して、そこから通信・メッセージ不可エリアが砦近くに張られています。そしてこのメッセージを送信したとき、ノリアキングはモンスターの手によってそのエリアから出ていた』
そうだな。そうなる。
『そのとき、ログアウトできませんか?』
ログアウトのジェスチャーマクロは酷く単純である。メニューを出した後に『ログアウト実行、イエス』と言うだけだ。例え沈黙状態であっても実行されるし、縛られていても関係ない。可能な場所では他の何者にも縛られない絶対の権利がログアウトである。
『それはもう、ログアウト不可エリアの方が通信不可エリアより広いって考えるしかない。他にも可能性はあるけど、メッセージが送信されたから罠っていうのは変わらないと思うけど』
『まあ、そうっすけど。いや、まあ』
歯切れが悪いな。それにユージンがその仮定に到達しないはずがないし、こんなことで通信してきたりもしない。ヤツがなにか連絡してくるなら確固とした用件があるはずである。
『なんか別件?』
『あ、わかるっすか……そのですね、できれば、エイタローさんに連絡とってほしいというか』
……
お守りのお礼なら言ったぞ。初日の夜に。
『いや、今は嫌悪派の目が結構痛いんでジェストさんとの連絡自体とりにくいんすけど、ちょっとだけ声かけって言うかアドバイスっていうか』
『……わかったけど、あんまり期待しないでよ。あのさ、僕、そういった経験無いんだ。絶無』
『前から聞いてるっすよ。だいじょーぶ、エイタローさんが告ったわけでもなし、いつも通りで結構です』
そのいつも通りが難しいから困ってるんだよ。
好意を向けられたこと自体がほとんどないんだ。ちょっと手を握って声かけ(コンビニのバイトの人)られただけでドキドキするヤツなんだぞ。
それが『好きだ』って言われてみろよ。言われてないけど、言われたも同然だ。
『すぐに連絡すると疑われちゃうんで、一時間くらいたってからお願いします。いいっすね。起きてますから』
『了解』
通信を終了してみんなのところに戻る。八時だから九時過ぎに連絡すればいいか。
「小隊の人?」
エリスレルが聞いてくる。今はなんかの漫画の話で盛り上がってるらしい。
「ユージン。定期連絡みたいなものだよ」
「ふうん」
差し出された水を飲む。
「あ、ユージンくん? 彼今度紹介してよ」
聞きつけたえみさんの一言が場を凍り付かせた。
「……あれ?」
原因がわからないようで困惑するえみさん。ユージンと会ったことないのはこの中では五人。XXX小隊の三人とルシェイナ小隊の二人。彼らはユージンが誰だという風に首を傾げているが、それ以外は固まったままだ。
「ええと……いいですけど」
僕も困った。あまりにもあっさりと口にしたその一言が、今の僕には胸の内をつつかれているような気分だ。男が固まったのは、そういった話題自体になれていないせいだと思う。
「えみちゃん、意外とミーハー」
ルシェイナさんの言い方が酷い。
「み、ミーハーってルシェたん、かっこいいと思うでしょ?」
「え、顔? アバターだよあれ」
「たたずまいがイケメンでしょう、どう考えても」
「そーお? だって廃人なんだよ」
えげつねえ。ここにいる男連中にケンカを売っている。しかもあっているのはえみさんの方で、リアルのユージンを見た僕が言うからたぶん間違いない。
「エルたんもそう思うよね?」
「タイプじゃないかなあ、遊んでそうだし」
すごい言われようである。エリスレルとえみさんはいつしか仲良くなっているようだった。
「じゃ、どんなのがいいの?」
ルシェイナさんに言われ、言葉を濁すエリスレル。
「言葉にしにくいなあ……」
「この中だと誰よ?」
うわ。
スーパーマギのせりふに他の男はどん引きだった。XXX小隊の三人はロールプレイが徹底しているというかなんも変わらんけど、そのほかの(つまり、オーシー、オトメノ、カイト、おおたま、モリツグと僕)メンバーにとってはいい迷惑である。空気読めよスーパーマギ。
案の定エリスレルも困っている。ここは合コンの席ではない。これからずっと付き合いのある小隊のメンバーが集っている。そんな中で誰かを選ぶということ事態が余計な不和を引き起こすとかどうのこうの。難しい言葉を使わなくてもいい。ルシェイナさんの言葉だけどここにいるのは廃人ばかりだ。そういう色事事態がタブーなお約束があるのだ。
「どうしたの。あ、もしかして好きなヤツいる?」
スーパーマギ死ね。
身を乗り出したヤツの脳天に女子二人の鉄拳が落ちた。誰も言葉に出さないが拍手喝采だ。
「マギくん、それセクハラ」
「だからモテないんだよ」
「え、えええ。俺はただ場を盛り上げようと」
「そういう考えがモテないんだよ」
ルシェイナ隊女性陣の容赦のない物言いがスーパーマギの心を抉る。嫌な方向にキャラ立っちゃったぞお前。この話題は僕の精神衛生的にもあまりよくないから、誰かネタフリしてくれんかね。
「ジェストくん、約束だからね。ユージンさんと最初はフレンド登録からかな」
「はあ」
まあ、ユージンも断りはしないだろう、たぶん。それ以上は勝手にしてくれ。
……実際のところ、休憩時間の半分以上はこういった雑談だ。ぶっちゃけると砦のことについては後方に丸投げというか、僕らに作戦立案権がない。嫌悪派の嫌がらせであることは疑いようがないが、一応中立のユタがいるからこれ以上無茶なことにはなるまい、と信じている。とにかく攻略について話せることが少なく、雑談になってしまうのは仕方のないことであった。
「まあそれはそれとして、あとで好みのタイプ教えてね。女の子だけで」
うわあ。
九時過ぎ。
またちょっとみんなから離れて、声の届かないところへ。シーフやハンター達が張った『潜伏』圏内にいればモンスターに捕捉される確率がかなり下がる。今はフィールドだけだけど、スキルレベルが上がればダンジョン内でも潜伏することが可能だ。潜伏の有効期間は八時間。スキルレベルにもよるけど、範囲は大体直径十メートルの範囲。そこから出た場合は、もちろん通常の判定に戻る。
目視ではあるけどぎりぎりその範囲内で、僕は木の陰に腰を下ろした。エリアから出ていないことをメニュー画面で確認する。
気が重い。さっきの話題のせいで妙に意識してしまう。
だいたい最初にユージンや姫代子があんなことを言わなけりゃ、ここまで意識することもなかった。その後イイリコ小隊から離れたのは幸か不幸かわからん。それに、ああ、他人のせいにするのは僕の悪い癖だ。
通信を起動。フレンドからエイタローを選択……いや待て、メッセージを……いやいや、向こうから通信させるのもなんか……ええい、ままよ。
『エイタロー、今大丈夫?』
通信の欠点は……今までのことから明白だが、いきなり声が響く。これはWWからの仕様で、賛否両論だ。メッセージを強引に送れるから、緊急時に『必ず相手に伝えられる』のが賛。メッセージだと相手が読んだかどうかまでわからない。否は容易に想像がつくと思うけど、突然耳元で声がするというのがかなり心臓に悪い。まあこの辺、一時的に拒否にしたり、あまり迷惑なのが続いた場合は個別に拒否したりできる。
しばらく間があって、
『あ、うん、だだ、大丈夫』
慌てた声で返事が返ってきた。
『ど、どうしたの?』
『いや……ええと』
ユージンから連絡しろと言われた、なんていくら僕でも言わない。かといって『用はないけど連絡したかった』とか歯の浮くようなことも言えない。ここに来て用件をねつ造するのを忘れていたことを後悔する。
『……ん?』
『あの……あ、明日、頑張ろうな』
よかった、ひねり出せた。
『うん。頑張ろうね……そっち、大丈夫?』
『大丈夫。ほら、前に話したルシェイナさんとかオーシーとか、エリスレルとか一緒にいるし。みんなサポートしてくれるって』
……
ん?
『と、とりあえずノリアキング救出して、少しでも立場をよくしようかってことになってさ。酷いよな。僕ソロなのに一番で突撃なんて』
『……そ、そうだね』
『何とか死なないように頑張るから、エイタローも盾でいけるように頑張れよ』
『うん、やってみる……あの』
『ん?』
『……ええと、ごめん、なんでもない』
『なに、なんか不安なことでもあるの』
『大丈夫。終わったらまた小隊でよろしくね』
『まあ、すぐだから。明日の昼過ぎには組めると思うよ』
その後、改めてお守りのお礼をして通信OFF。なんとか乗り切った。てかこれ、結構うまかったんじゃね。盾でやっていけるかを気遣うなんてアドリブというか、とっさに考えたことだけど僕っぽいじゃないか。
ちょっと経って、何故か姫代子からメッセージが届いた。
『もっと言葉に気を使いなさい』
なにが悪いんだよ。てかなんで聞いてるんだよ。




