【きんにく!】エリスレルと僕とXXXな小隊【まっする!】
18小隊プラス1。総勢108名で出発した。僕はその先頭で、ルシェイナ小隊がすぐ後ろについてきてくれている。
CHにおいてソロプレイのメリットはほとんどない。ドロップ管理が楽だってことくらいだ。経験値は多くもらえるけど六倍なわけじゃないし、モンスターも一匹じゃまずでてこない。それに人類側はモンスターに対していくらでもエンカウントできる。
デメリットは非常に大きくて、まず単純に戦力が足りない。メイジ職ならなおさらだ。持てるアイテムも少なくなるし、なにより六人小隊を結成した際のステータス上昇ボーナスがないのが痛い。小隊プレイが推奨というより前提になっている。魔法なんかもいろいろ面倒くさくなるし。
僕が一人ソロになったところで全体の戦力にたいした影響はないので、本当に嫌悪派の八つ当たりだ。勢力が大きいのがやっかいなところで、18小隊のうち実に7小隊がラメ側である。
それでも僕はラッキーだった。ルシェイナさんたちがバックアップをかってでてくれたし、
「よう」
出発直後に合流してくれたのがオーシー達だ。
あれからどうだというような世間話をして、小隊長のトリプルXXXを紹介してもらう。どうでも良いけどトルプルトリプルエックスではなくトリプルエックスと読むらしい。めんどくさいんでXXXと呼ぶ。
小隊長ってことは昨晩の議論に参加してたわけで……うわあ、この名前でバードだ。肉弾戦バリバリのバードなのか? 触れていいのかそこ。
「昨日はまずったねぇ。どうしてあんなに挑発したの」
「好き勝手言われてむかついただけですよ。後悔してます」
「ホントにぃ?」
なんだこの笑い方。いやらしい。
「みんなからきいたのと違うなあ。ケンカ買うようなタイプには見えないけど」
ひょうひょうとした雰囲気の中年だった。他のプレイヤーに比べてアバターが老けている。わざとそういう風にしているのか、実年齢に併せているのか。
とにかくこの人の雰囲気では、昨日の僕はちょっとわざとらしく映ったみたいだ。
「とにかく、よろしくね。俺のところはいっぱいだけど、できるだけサポートするよ」
「ありがとうございます」
「エックスさん、話終わったあ?」
ぎゅ、と僕らの間に顔を突っ込んで来たのはエリスレルだ。
「終わったよ。どうぞ」
「どうもー」
僕に並んで先頭に出てくるエリスレル。確かにこの辺のモンスターはかなり弱く感じるようになったけど、全体的にこの小隊、緊張感がない。ちょっと不安になるな。
まあソロなんだしダメでもともとだと考えれば、なにかあっても諦めがつく。
オーシーとオトメノも前に出てきて懐かしい顔ぶれになった。
「いじめられっ子ジェスト、大丈夫か」
「個人的には問題ないです。立場的には危ういです」
声を上げて笑うオーシー。ユージンのフレンドだが性格はガートランドに似てる。臨時の時もしっかり盾やってくれたし、なんだかんだで頼りになるヤツだな。
「まあ、俺らもはぐれ小隊みたいなもんだよ。俺ら以外はバード、ハンター、グローバ。なかなかお呼びがかからん職業ばっか」
確かに。しかもすごい偏り方だ。前衛がオーシーしかいない。
「それ、やっていけるんですか」
「金を全部つぎ込んでXXXの装備を二段階上げてある」
パワープレイだな。だからみんな初期装備なのか。
ん? ちょっと待て。
「無音対策は?」
「そんな金はない」
なんということだ。
「……え、エル、マジで?」
「ないない、無音装備用意するお金、全部エックスさんの装備に使ったんだもん。ちょこっとあたしの弾代」
脳天気に笑いながら手をひらひらさせるエリスレル。
なんだこの小隊。いや待て、確かにオーシー以外に前衛がつとまりそうなのはバードしかいない。歌を諦めれば、多少武具の扱いには長けている職業だ。足りない分を装備で補うという点は間違っていない。モンスターと渡り合う装備が必要なら、一時的な無音対策よりも防御数値にこだわるのもアリだ。
幸い後衛火力が揃っている小隊である。特にガンナーの火力は高く、雑魚相手なら(弱点部位がわかっていれば)一撃死も可能な後衛版サムライだ。オーシーが引きつけまくってXXXがサポート。その間に後衛がボコボコにするのは不可能ではないし、例え無音に陥ったとしてもそこまで致命的な状況にはならないのではないか。
なんか変な方向からうまくやりくりしている小隊だな。案外ガチでいけるのか? いや、バードではいくら強化しても前衛として不安が残る。しかもハンターとグローバだ。はまれば高火力だがムラがあるのはいなめない。ハンターは当てづらいし、グローバは場所によって変わる。ここは森の中だから、直接的なダメージ源にはなりにくい。
「あ、紹介するね。ハンターのマッスル大帝、グローバのマッスル御大」
「なんだって?」
ちょっと理解しかねる名前に振り返ると、やたらマッチョなハンターとグローバがいた。どちらも同じ顔で、むさい。
「筋肉と言ったら?」
エリスレルの言葉を合図に、
「私だ!」
「いや私だ!」
「私たちだ!」
うわあ。
マッスルポーズでハモった二人の間にエリスレルが飛び込んでいつものポーズでキメ。なにがしたいのかさっぱりわからんけど楽しそうなのは伝わってくる。
アバターのサイズは自由にいじれるから、ひ弱そうなナイトやグラップラーだったりこんなイロモノを作ることは不可能じゃない。が、それにしてもここまでコンセプトを決めたアバターというのも珍しい。双子みたいだ。
「……ん? 双子?」
「その通りだ少年。私たちはリアルでも双子」
「ゆえに連携は任せてもらおう」
ハンターとグローバってろくな連携なかったはずだけど。そもそも同じパーティにいることが珍しい。
それにしてもこんなロールプレイする人もTOP500にいるんだな。しかも二人で。有名なロールプレイヤーだと僕とは違うサーバーのバロン・ド・ソワァルとかが有名だったけど、そういやヤツもかなりの廃人だったはずだ。このゲームには参加してるのかな。
ものすごく暑苦しいので二人との挨拶はそこそこにする。ついでといっちゃなんだけどモンスターだ。
「イノシシ五体、来ます」
するとなんということか。
僕が構えたときにはすでにXXXが突進していた。
「うぉ、おい!」
思わずツッコミを入れてしまったが、とにかくブラインドを撃つ。ナイトより前にバードが立つなんて前代未聞だ。
「フォーメーションCだ! かかれっ」
「ラジャッ」
なんのことだ。
「よっしゃ、こいや!」
オーシーも負けじと飛び出して、XXXに飛びかかろうとしていたワイルドホグのうち二体を引き受ける。いや三体だろそこは。メイン盾がバードより少ないってなんだよ。
そこにエリスレルの銃撃がヒット。相手は素早いから狙撃は難しい。ブラインドがワイルドホグ全体にぎりぎりヒットし、オーシー側の一体、XXXの一体を暗闇に。
「兄者!」
「おう!」
僕を追い越してマッスル兄弟。御大が兄らしい。しかし、いやいや、僕より前に出るってここが後衛の前線推奨ラインだって。
「きんにく!」
急に御大が叫び、とんでもない声量に思わず身をすくめてしまった。
どうやらジェスチャーマクロだったようで、手を腰のあたりでマッスルポーズ。うわあ……
XXXに体当たりした一匹をツタが絡め取った。グローバのスキル「蔦地獄」だ。なんということか。しかもなにを使うかを宣言しなかった。ジェスチャーマクロが声であれば、そして小隊内で周知できていれば問題ないけど、よりによって「きんにく!」だぜ。逆にわかりやすいのか。
「まっする!」
今度は大帝の方が叫んで、体格と比べてかなり小さく見えるロングボウを構える。いつの間に矢をつがえたのか、そして狙う時間もそこそこに発射。矢は過たず『蔦地獄のかかっていない、そして暗闇でもない』ワイルドホグの眉間に命中し……続くXXXの一撃で絶命せしめた。なんだそれ。そしてどうやら大帝が使ったのはハンターの『急所狙い』のようだ。こっちのジェスチャーマクロもこの方向性かよ。
続けてエリスレルの攻撃。ガンナーは攻撃間隔が短くてすむのが利点である。大樹で腕を固定し、蔦地獄のかかっているワイルドホグに狙撃。動けないのだから外しようがない。距離も近いし。一撃死が発動して、瞬く間に残り三匹。そのうち二匹は暗闇状態。
「にくたいび!」
再び御大が叫んで、XXX側の残り一匹を絡め取った。なにを狙うとか、そういった逡巡がほとんど無い。となればきっとフォーメーションCの基本的な動きから外れていないのだろう。
……ん? さっきとかけ声が違う。
とするとあれはただのフレーバーでポーズだけがジェスチャーマクロか? そんな馬鹿な。いつ誤爆してもおかしくないじゃないか。意味不明すぎる。
XXXが竪琴を取り出して……ちょっとまて、そんな最前線で歌うつもりか。
案の定歌い出してしまい、僕はもうなにを言っていいかわからん。なにもかもおかしい。
エリスレルが全弾撃ち尽くして、大帝の弓がさらにヒットして、XXX側のワイルドホグは全滅した。後衛火力のすさまじさに僕が唖然としていると、これまたいつの間にかXXXが隣にいる。なんでそうなる。演奏しながらこんなに早く移動するってどういう了見だ。
しかも致命的なまでに音痴である。
バードの専用スキル「演奏」は楽器のみと音声を付け足したときとで効果が変わる。会話や音声でのマクロを制限されるので、歌った方が効果が高くなる。この点では羞恥心や実力との戦いになるけど、歌が下手だからといって効果が弱くなったりはしないのでそれは問題ない。僕みたいに体から力が抜けてしまうくらいのデメリットだ。
今演奏しているのは『闘争のあけぼの』。小隊員の攻撃力をアップする歌で、つまり……このバカみたいな火力がさらに上がるわけだ。
僕が惚けているといつの間にか戦闘が終わっており、エリスレル達はドロップ品をどうこう言い合っていた。
「あ、ジェストくん、なにかいるのある? 肉と肉と、あとお肉」
「いや……いい、食料あるから」
職編成が偏っているとかそういうレベルじゃない。プレイヤー達がおかしい。
防具を強化しているとはいえナイトより前に出るバードと、異常な精度で弱点部位を狙うハンター。躊躇無くベストな標的を選び出すグローバに。オーシーやエリスレルと比べてキャラが濃すぎる上にうますぎる。オトメノはかけらも出番がなくて僕も忘れていた。
「やあ、支援ありがと」
XXXがにこやかに握手を求めてきた。拒否する間もなく強引に手を握られる。
「ブラインドのおかげで楽だったよ。これからもヨロシク」
土下座したくなった。下手な基本職パーティよりも数段強いぞこの小隊。
WWでハンターが敬遠される原因が、矢の当たりづらさと火力不足だ。剣などの近接武器は切り払ったりすることで、ミス判定をある程度減らすことができる。CHほどではないにしろ、たとえば見当違いの方向を攻撃したらミスするのがWWだ。まず武器ごとに設定された攻撃範囲にモンスターをとらえねばならない。
ハンターはこれが狭い。矢は刺突系の攻撃範囲をもち、やじりの前方に攻撃範囲が設定されている。それだけなら刺突時の槍や拳などもそうだけど、モンスターとの距離が離れているのが大きな違いだ。このコンボによって、矢を当てるのはかなり難しい。以前にも言ったとおり、前衛火力が豪華なWWでは不要なのだ。
だが、目の前で起きたことはまったくそれに当てはまらない。まずXXX小隊は前衛職が一人しかいないし、もう一人は前衛として非力なバードだ。前衛火力がない。
それだけなら詰んでいるけれど、敵の足止めに長けているグローバが補っている。特に森や草原で使える蔦地獄は相手を行動不能にするので、無敵の盾が一体引き受けるのと同じだ。
そこに恐ろしい精度、スピードのハンター。突進するワイルドホグの弱点を狙えるプレイヤースキルがあればハンターのデメリットなど無いに等しい。ガンナーの攻撃力とあわせて、常識外れの後衛火力である。
それと、小隊長のXXXの動きだ。
僕が叫んだ瞬間には最前線に飛び出して、しかも歌いながら戻ってきた。ありえない動きだが理にかなっている。なにせ金を全部つぎ込んだ防御を持っているのだから、ある程度盾としての信頼はあるんだろう。それでもスキルが後衛寄りなので長いこともたないのは必然だ。
だからオーシーがいくらかモンスターを引き抜いて、とにかく全力でXXX側を全滅させるのである。グローバが足止めしてダメージを減らし、超火力の二人が始末していく。
それもこれもハンターのプレイヤースキルが人外なことが前提だ。普通こんな作戦組み立てない。奇想天外すぎてルシェイナ小隊もなにもできなかった。
僕なんかいらねーじゃねえか。もしかしたら本当に守ってもらうだけになるかもしれん。




