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緊急小隊長ミーティング:『ノリアキングがつかまった』

 送信者元:Noriaking

 送信先:(主な小隊長と数人のプレイヤー)

 送信日時:7/1 19:18

 タイトル:SOS

 本文:砦に囚われている。エントランス右手からの地下牢。敵リーダーはジャイアントホブゴブリン。雑魚キラーマン、ゴブリンナイト、レッドアイ種ウルフ。要平均レベル24。注意されたし


 宿の一階、酒場は騒然となっていて、だからメッセージを受け取ったプレイヤー以外はいったん自室待機と誰かが叫んだ。残った小隊長は見たことのある連中で、多くはマーシャヴェルナ解放時に顔を合わせている。


「なんで二人いるの」


 僕らを嫌っているのもその中の小隊だ。僕とイイリコさんがいるのを見てナイトが吐き捨てる。


「僕もメッセージをもらってるからです」

「あっそ」


 そんな答えなど気にしてない、とにかく難癖をつけたい。と言いたそうだ。僕も人を見る目がついてきたかもしれない。


「ま、ま。今は仲間割れしてる場合じゃないでしょ」


 ルシェイナさんがうまく割り込んでくれた。


「それより誰もノリアキングさんは見てないってことでいいかしら。彼だけじゃなくてノリアキング小隊のメンバー」


 返事はない。ノリアキング隊がアーシュアを出発して、少なくともここに戻ってきてないということだ。


 となると、やはりこのメッセージの通りに捕まっているのか。いや、おかしい。システムとしてそれはおかしい。


「助けに行かないと」

「でも24必要って書いてるぜ。レッドアイウルフなんて俺の小隊じゃ相手できねえよ」

「相手できないって、レッドアイって基本パーティなら19で三匹くらい相手できるでしょ」

「私の小隊、無音対策三人しかできてないんだけど」

「てかノリアキングさんが負けたんなら俺たちが勝てるはずねーじゃん!」

「延期した方がいいんじゃない。確実に助けられるように平均24までレベル上げて」

「どうすんだよマジで」

「いつ殺されるかわかんないのに」

「いやデスったら戻ってくるでしょ」

「あ、そうか。戻ってきて話きいた方がいいか」


 好き勝手言いたいことを。確かにノリアキングがまとめていないと、参加プレイヤーの大半はまとまらない。そしてまとまらなければ、あらかじめ決めていた拠点開放までも台無しになる。


 しかもこの話題の移り方は好ましくない。


「ルシェイナさん、気づいてますか」

「そうだね。どうする、あたしから言ったほうがいい? 復権するチャンスだと思うけど」

「もし反発されたら面倒くさいことになるんで。今はノリアキングのことが第一です」

「おっけ……ちょっとストップ! このメッセージ、ちょっとおかしい」


 ルシェイナさんの一声で、静まりかえるプレイヤー達。


「……なにが」

「砦に囚われてるにもかかわらずメッセージを送ったわけだよね。それなら少なくとも両手は自由ってこと。入力はともかく、メッセージの画面を出すにはマクロ操作が必要だし」

「それがどうしたの。手とか縛られてないなら普通じゃん」

「手が縛られてないなら通信もできたでしょ。どうしてしなかったの」

「見張られてるからでしょ。牢番とかいたら声出せないじゃん」

「メッセージの操作も見られるかもしれないでしょ」


 ルシェイナさん、なんとかって方法で説明しているな。なんだっけ。一問一答で話を進めていくの。


「メッセージならちょっとずつ打てるでしょ。なにがおかしいんだよ」

「その通り。じゃあなんで送信するまでにこんなに時間がかかったと思う?」

「捕まったのが今日だからだよ!」

「それおかしいでしょ。今日はノリアキングさん達、この村に戻ってるはずだったんだし。片道三日かかるから捕まったのは今日じゃない。少なくとも三日前。その間にメッセージでも通信でも、何らかの連絡をもっと早くとれなかったのはどうして?」

「なにが言いたいんだよ!」

「気づかなかっただけじゃん」

「それじゃあもう一つ。どうして彼はログアウトしてないの」


 これに答えられるプレイヤーはいなかった。本来ならデスなんかより先に問題にすべきことだ。なぜって、ゲームで『動けなくなったプレイヤー』はログアウトするはずだからだ。特に想定外の事態で捕らえられてしまった場合なんてなおさらだ。わざわざ頑張ってメッセージなんかを送るより、いったんログアウトしてしまった方がいい。次のログインは結局ログアウトしたところからになるけど、外から誰かに連絡して事情を話すことができる。


 このメッセージ自体がすでに異常なのだ。本来なら、送信する必要の無い代物なのだ。


 ここから導き出される結論はなにか。


 WWの仕様の延長で考えられる。WWは特定のダンジョンや場所では通信不可なところがある。CHで言えば僕らがこなしたクエストのダンジョンがそれだ。


 それを延長して考えると……


「ログアウト不可エリア」


 群衆の向こうから、誰かが言った。そう、順番に考えて行けば、何人かに一人はこの予想に突き当たる。そしてその可能性は高い。他のプレイヤーならともかく、ノリアキングがログアウトに気づかないとは思えない。『想定外の事態』に遭遇したなら、絶対に考えるはずだ。WWにはなかった。そんなシステムがあったらリアルにも関係してくるからだ。好きにログアウトできたし、そもそも捕らえられるなんてイベントがない。


 想定外の事態。


 モンスターがプレイヤーを『捕らえる』という事態。


 WWではありえなかったのだからこれもCHの新要素だ。しかもヘルプへの記載なし。

 ネスレージャソフトはなにがしたいんだ。もしかしてサプライズのつもりか。説明しているものとしていないものに何か線引きはあるのか。


 人間を全滅させるのが目的のモンスターが、プレイヤーを捕らえるはずがない。捕らえてなにをさせようってんだ。こっちの襲撃計画を吐かせるつもりか。


 NPCが?


 そんなリスクの高いAIを組むか? 計画を知らないプレイヤーだったらどうするつもりだ。今回はたまたまノリアキングだったけど、もし空振りしたらそのプレイヤーはなにもせず牢屋に囚われることになる。退屈の極みである。ログアウトも許されないそんなクソみたいな展開を、果たして運営はしかけるか?


 このゲームにリアル性を持たせるためか?


 とにかく、モンスターがプレイヤーを生け捕りにするというのは……MMO全体ではわからないが、少なくともWWではありえないことだった。もし導入すればクレームの嵐だったろう。救出クエストなら適当なNPCを救出対象にすればいいんだ。わざわざプレイヤーの行動を制限して、判断によっては『助けに来ないかも知れない』のに、そんなイベントを取り入れるか?


 そう、今まさに『拠点への侵攻を延期』という流れになりつつあった。


 なにかがおかしいのだ。


 ノリアキングがモンスターに捕まった。ログアウトしない。メッセージの中身。全てが変だ。一貫性がない。


 順番に考える。ノリアキングを捕らえる。これはまあ、ずっと彼と連絡がとれないのは間違いないから『アリ』だとする。実際にノリアキングが囚われている可能性は高い。ログアウト不可。これも『アリ』だ。ルシェイナさんが導いたとおり、囚われたノリアキングがしていないのだから何らかの理由でできないのは間違いない。


 なぜログアウトができないのか。リアルで情報を伝えられないようにするためだ。だってそれを許したらただのスパイであって、捕らえたモンスター側へのメリットがない。


 続けてこう考える。ログアウト不可なのは敵側の情報や現状を伝えられないようにするため。


 じゃあ普通はメッセージ、通信も不可にするだろ?


 むしろこっちの方が僕らにはなじみがある。WWからあったから。ログアウトができないのであれば、通信ができない。特に相手がプレイヤーを『捕らえている』のであれば。


 おかしいのだ。


 ノリアキングがメッセージを送信できていること自体が、なにかおかしい。モンスターが徹底していない。これが単なる穴であれば問題ない。だけど僕は、クエストで『おかしい動きをするモンスター』に出会っている。


 まるで人間が操っているような。


「罠だ」


 ふと口をついて出た言葉が妙に響いた。さっきまでの喧噪はどこへやら、今は慎重な議論が交わされている。


「罠?」


 ルシェイナさんが聞き返してきた。


「……あ、その」

「なにか気づいたの?」

「気づいたって言うか、予想なんですけど」

「じゃあ黙ってろよ!」


 ヤジが飛んでくる。それに反対する声が上がって、またフロアが騒がしくなる。しくった。ルシェイナさんにそっと伝えればよかった。


 僕はまずログアウト不可から通信・メッセージ送信不可へ至った推測を話す。


「それではノリアキングはなぜメッセージを送信できたのか。モンスターが許可したからです」


 おそらくモンスターが送信するように指示したのだ。一時的にノリアキングをエリア外に出せば、可能。


 それもまた、AIではできそうもないことである。順番に考えているだけなので、間違っている可能性もある。


「ちょっと待った。モンスター側のメリットってなに? ノリアキング、敵の構成も書いてるよ」


 男性グローバが質問してくる。冷静な人だ。


「ですから、少なくともモンスター構成はウソです」


 近くの小隊長達がざわめく。

 やじってくる数人の嫌悪派を黙らせるように誰かが叫んで、また一悶着おきる。


「可能性は二つ。実際より弱く見せて僕らを待ち伏せるか、実際より強く見せて僕らの侵攻を先延ばしにさせるか。どっちかはこれだけじゃわかりませんけど、もしかしたら後者なんじゃないかと思います」


 なぜかといえば、僕らが拠点開放のため攻めて相手の罠にかかったとする。その場合、前者で全滅はするかも知れないが、こちらは即座に相手の陣容を知ることができる。逆に後者だった場合、やらなくてもいいレベル上げに時間を取られ、結果的にゲーム進行が遅くなる。


 というのはメタな考えかただで好ましくないけど、僕はやっぱりこっちであってると思う。みんなに話すのはそっちだ。


「弱く見せるには、要求レベルが高すぎます。このモンスター陣容だとキラーマンだけが弱い。どういう手かは知りませんが、敵は僕ら人類がキラーマンの情報を得ているという前提でこのメッセージを送信しています。でないとレベル差のあるこいつをメッセージに入れる理由がない」

「ちょっと無理矢理すぎないかな」

「承知の上です。でもこのモンスターにキラーマンが含まれていることには違和感あるでしょう」

「確かに、一つだけ弱いな」

「そこから解釈しているんで、ほかの解釈があれば遠慮無く。全部推測なんで」

「……じゃ、ええと……ジェストさん。君の考えでは、これは罠ではあるけどモンスターは書かれているより弱い、ということだね」

「そうです。ユタさん」


 ユタ、と呼ばれるグローバは周りを見回して、


「どう思う?」






「結局、途中からジェストくんが言っちゃったね」


 イイリコさんにからかわれて僕は口ごもる。面倒事を避けるはずだったのがこの様だからなにも言い返せない。小隊長達はまたあれこれと意見を言い合っていて、僕の言うことなど無視しろ派と一理ある派の戦いみたいになっている。僕が関わるとまた泥沼になっていくので、ユタに引っ込んでいるように言われた。おとなしく従う。


「でも、疑問がないわけじゃないよね」


 ルシェイナさんが水を飲みながら言った。


「そんなこと、モンスターがする?」

「……まあ、CHにあたってAIを強化したとか、そういう可能性もないわけじゃないですけど」


 違う可能性を僕は考え始めていた。


 クエストでのゴブリンシャーマン達の動き方。


 今回の、プレイヤーを捕らえるモンスター。

 そういう風にプログラムを組まれている可能性は、もちろんある。ただプレイヤーが狩るだけじゃなくて、相手も考えているというような演出をさせているかもしれない。ネスレージャの意気込みはそのくらいあってもおかしくない。なにせ燃える時のフィードバックまで用意しているのだから。


 だけど僕はもう一つの可能性を頭に入れておこうと思う。まだ全部プログラムの条件なんかで説明できるから、あくまでも『もしかしたらあるかもしれない』程度だけど。


 モンスターを運営がリアルタイムに操作している可能性を。

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