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マーシャヴェルナ行きご一行様

「最初にラメちゃんが怒ってたときは、正直なんのことかわからなかった」


 イイリコさん達を先に帰して、ラメからも離れて、僕とノリアキングは酒場の隅で話している。ものすごく嫌そうだったが、個人的な話をしたいからというノリアキングの提案をラメは一応受け入れた。


「悪い。みんながここまで団体行動に依存するとは思わなかったんだ」


 そもそもノリアキングのプレイスタイルは「ま、それぞれだな」という口癖によくあらわれていると思う。ノリアキングは取りかかりやすい目標を与え、ゲームの楽しみ方がわからない連中に提案をしているだけだ。だからルシェイナさんが地下三階を探索していたように、食料集めだけじゃなくて他の行動を取っていたプレイヤーもいる。食料集めや大規模戦闘。CH独特のシステムをうまく使ってプレイヤー達に、いわばガイダンスを行っている。


 組織だって行動するのは悪くない。特にこういったストラテジー要素の強いゲームの場合、WWのようなプレイ方式だと全滅は近い。


 大事なのは全員が攻略する意識を持つことである。だからノリアキングは、それがないプレイヤーに道を示す。


「みんなが遊び方……ま、俺の考えるだけど……遊び方を把握したんなら、その上で好き勝手行動するのはいいことだよ。君みたいにな。君がいなかったら俺たちの領土はまだ城だけだったろう」


 それは言い過ぎだと思うけど、かなり長い間を食料に悩まされていたのではないか、という点では同意見だ。


「思った以上に集まったプレイヤー達の結束が強い。ラメちゃんなんかはルールを厳格に定めた方がいいと言ってる。ピラミッド構造にして指示を俺が出して。それはしたくないと伝えてるけど、そういう意見は多いんだ。そのうち押しつけられるかもしれん」


 ノリアキングによって鼓舞されたプレイヤーは多く、ちっぽけな人間支配圏の中で彼の存在は大きい。大きすぎるといってもいい。明言はされていないがノリアキングは間違いなく人類のリーダーだろうし、それに乗っかろうとするプレイヤーもいるだろう。他人の真意をくみ取るのは難しいが、ラメも彼に心酔するプレイヤーの一人かもしれない。話ではWWからの付き合いらしいから、ノリアキングといた時間はかなり長い。


「俺の自由がなくなるのは覚悟していたよ。けどここまで行くのは計算外だ。君らだけじゃなくて、港の時に持ち場を離れた外組の連中も排斥しようとする動きが見える。ウェイヴって映画、知ってる?」

「いや」

「独裁をテーマにしたゼロ年代の映画。カルトだけどシチュエーションが今に似ている。どうにか止めようと思ってるんだけど……所属を示すシンボルとかの話までいったらさすがにこらえきれんからなんかするが」

「大体話はわかりました。迷惑かけてばっかですいません」

「気にするなよ、ってのは無責任か。俺のせいでもあるから謝らなくていい。あわせるかはそっちで決めてくれ。どうなっても俺の態度は変わらないと約束する。まともに攻略しようとしてる君らのこと、信用してるからな」






 ノリアキングの溢れんばかりのリーダーシップに感銘をうけたプレイヤーの数割が、僕らを嫌悪している。逆に言えばそうでないプレイヤーはそれにノってないわけで、怖々とメッセージを送ってみたジュリアさんとルシェイナさんからは好意的な返事をもらえた。オーシー達にも遅ればせながら協力感謝のメッセージを送信。現状には深く触れないでおこう。


 返事には流れている噂についての注意喚起があって助かる。どうやら二ヶ月熟成された僕らの蛮行は尾ひれがついていて、とりわけ小隊長だった僕への印象が悪いらしい。


『マギくんがお世話になったから、なんかあったら頼っていいよ』


 正直いって嬉しい。


 各メンバーの装備完了までにはいくつかばらつきがある。コネのあったイイリコさんとユージンの分はもう受け取ったけれど、他の三人の分は翌朝受け取りだ。想定外の事態ではあるがどうしようもない。


 城の周りはモンスターのレベルが低い。マーシャヴェルナに続く山もそうだからいくらなんでも効率が悪い。翌日にアーシュア北まで赴いて功績値ブーストを利用することで意見はまとまり、今日はマーシャヴェルナに観光に来ていた。


 女性陣達は初めての港町である。NPCもアーシュアより多く、逆にプレイヤーは少ない。砦攻略に向けて北の方に集中しているためだ。


 こんなところにいるのを嫌悪派に見つかったらややこしいことになりそうだけど、だからといって僕らの行動を制限されるのもしゃくなものである。役に立つかはわからないけど念のため言い訳を用意していた。


「うわあ」


 エイタローのため息。城は無骨な作りだしアーシュアは寒村。どっちもそれなりの良さはあるが、マーシャヴェルナはひときわ景観がいい。エイタローの気持ちもわかる。


「俺らも数時間しかいなかったっすからね。普通のマーシャヴェルナは初めてっす」


 歩き回りながら、開放戦の時の話をした。トシヒコの伏兵スキルを利用してみんなでスニーキングしたこと、160人を二つにわけて戦闘に突入したこと。この広間にバトルオークが陣取っていて、これこれこういう初期位置、あいつのやたら強い突進攻撃、それを止めた五枚盾。臨時で組んだユージンのフレンド、OC=Uがその一枚であること。しかもヤツは二回受け止めている。


 五枚盾は現状、CHの名物としては最大の好プレー扱いになっているらしい。特にノリアキングが最後の一枚であることが大きい。臨時ジェスト小隊でもオーシーは比較的被害を免れている方で、ヤツがジェスト小隊以前に臨時を組みまくっていて知り合いがもともと多かったことが影響している。


 五枚盾は僕らの小隊の行動が起因だったけど、どうやら流れとしては僕らの独断の結果尻ぬぐい的に発生したノリアキングの英雄的行動という祭り上げ方になっている。最初から最後まで見たメンツがほとんどいないので(僕らを除けばルシェイナ小隊員と、最後だけノリアキング小隊員の生き残り。ラメもいる)装飾には事欠かない。


「キャプチャとかすれば、宣伝の時のネタにもできただろうにな」


 ガートランドが言った。それはイヤだ。あのとき僕らはノリアキングに放り投げられている。そんなもんが公開されたら恥ずかしい。


「でもこれ、どういう扱いなのかしらね。こんな大規模なゲーム、家庭用に発売されるわけないし」

「でも今回だけだったらいくらなんでもドブにお金捨てるようなもんでしょ」


 広場のオープンカフェ……僕らがログアウト前に座っていたところだ……で昼食をとりながら話す。


「技術デモみたいなものじゃないかな」

「どうっすかね。技術デモならここまで作り込む前にやると思うっすけど」


 ネット上で喧々囂々と議論されたCHの位置づけ。ゲーム参加者は見ているはずだ。議論自体には参加していなかったプレイヤーもいるかも知れないけど、自分が関わるゲームの話題は仕入れたいに決まっている。たぶん。


「制限時間付きのMMOってどうなのよ。それともMOみたいな感じになるのかな。それだったら時間もかからなくて現実的かも」


 姫代子の意見は僕も同意する。このシステムで大規模なMMOを実現するのは今の技術じゃ不可能に近いから、量産を考えているならかなり制限されるはずだった。それにうってつけなのはMOだ。


 制限時間の中、数人で目標を達成するゲームスタイル。その程度なら何とか実現できそうである。WWが発売された直後のように、プレイヤーに投資という負担は課せられるだろうけど。


「どうせまた問題になるんじゃねーの。フルダイブって映画とかの話だったけど、なにげに実装されたのって初めてだろ、確か」

「ニュースなんかではあったっすよ。こんなに規模が大きいのが初めてってことです。完全シームレスだったらやばいっすよこれ。ユーラシア大陸くらいあるんじゃないっすか」

「やっぱ金かかってるよね」

「金ってか謎の技術というか。やっぱ宇宙人ですって」


 アバターのキャラはそれでいいのか。


「謎の技術って言えば一年が一日ってのもおかしい話っすよね。なにをどうしたらそうなるのかさっぱりなんっすけど」


 技術的な知識が皆無な僕もそれはわからん。一週間が終わって情報解禁されたら運営に質問するなり、誰かがどっかから論文を引っ張ってくるなりするかもしれない。


「あの、僕の案内してくれた人にきいてみたんだけど、一言で表すと夢みたいな物だって言ってたよ」

「俺、教えてくれなかったぞ。内緒って」


 僕は帝に質問しなかった。キャラクターのことだけ聞くので精一杯だったからだ。その後ディスプレイ越しに話したときも質問する機会はあったけど、あのときはネクロマンサーに気をとられてたからな。


 しかし夢、というのは納得いくようないかないような話だ。確かにうたた寝でかなり長い夢を見ることはあるけど、あれはあくまで頭の中だけの出来事である。それを他人と共有してリンクさせる、つまり全員で同じ夢を見てお互いに影響し合うというのは夢の一言では説明できないはずだ。それに帝はCHのフルダイブの仕組みはWWと大きく変わらないとか言ってた気がする。


 となると僕らがダイブしているのは技術的には「催眠によってディスプレイに映った映像をリアルに認識している」のであって、サイバーパンク小説みたいに実際に電脳上に意識がうつっているわけじゃない。もちろんゲーム内で死んだり強制解除されても、意識がゲーム上に取り残されたりはしない。


 あくまで技術的に謎なのは全員に対するほとんど完璧なフィードバックと、各プレイヤーの動きを反映させている演算力だ。ゲーム内時間が引き延ばされているということは、それ自体が謎技術なうえ、リアルではほとんど一瞬で恐ろしい数のイベントが起きていることになる。草をむしったりモンスターを斬ったり、500人のプレイヤーはほとんど全員なにがしかの行動を取っている。


 計算すべき項目は甚大で、それを扱えるようなコンピュータ、あるのか? というのが主な疑問だ。しかもGMたる帝たち開発者はそれをリアル世界から確認して、バグがあれば修正、プレイヤー達への対応なんかといったことも行わなければならない。24時間体制で。


 素直に感心しておくべきなのか、なにかがおかしいと疑問を持つべきなのか。


 実際はどうなのかがわからないのだから、考えるだけ無駄なのはわかっている。それでも気になるのが人間ってもんだろ?


 昼食後は女性陣の強い希望で買い物をして回ることにした。装備品の依頼が予定より安く上がったので、そのほかの雑品や趣味的な物を買ったり。WWは自室や家具やペットやら、とにかく攻略に関係ない品物を買ったり売ったり作ったり破壊したりできた。システムの大幅に違うCHではどうだかわからないけど、確かに店は多い。


 見たところオーソドックスな雑貨、武器、防具、装飾品の他にパン、野菜、肉や魚といった調理用素材、が充実している。港町のせいか魚は特に種類が多くて、WWにはない種類のものも目についた。本屋なんかまであって、手に取ってみると全て内容が書かれているのは驚きだ。噂では城の図書館にある山のような書籍も中身があるらしく、全て違うのかが気になる。


 つまりこれも、謎技術。どっかからパクってなけりゃ恐ろしい量の文章を開発が書いたことになる。ありえん。なんかタネがあるはずだ。


 本には読書用、武器、スキル修得用のものがある。見た目は全てただの本で名前もあるけど、置かれているコーナーで別れているようだ。本を武器にする職業はまだ僕らにはいないし、スキル修得用のものは異常に高い。レベルを一つ買うようなもんだからそりゃそうだろう。


 いくつか見繕った中で『暗闇のベルタニーシュ』というホラー小説を買った。1000Gとかなり高い。自由に使える小遣いがほとんどなくなる。


「なぁに、そんなもの買って」


 効率厨の姫代子にはウケが悪い。彼女は風のピアス、デルシナール環飾を身につけ、腰にイルカの木彫りを下げていた。僕らのレベル帯では適したアクセだけど統一感がまるでない。WWおよびCHでは装備の外装反映をいじれるから特に問題ないけど。


「パクりじゃないか検証しようと思って」

「なんか役に立つのそれ」


 そういうのじゃない。


 ある程度買い物が終わったら、後は思い思いに過ごすことになった。夕方まで一時間ほど。五時にはここを出て城に戻る必要がある。


 そういえば戦闘もやることもなしにのんびり過ごしたのは今日が初めてじゃないだろうか。WWでも狩りとか狩りとかクエストとか休む暇無く戦いに明け暮れていたから、こういう経験自体が初めてだ。


 なんか手持ちぶさたである。


 いつの間にかNPCの喧噪が遠ざかり、船着き場へとたどり着いていた。何かのイベントをクリアする必要があるのか、船の往来はなく船員などもいない。だから静かで、鳥と波の音だけ。


 あんまり良い思い出のあるところじゃない。でも海、見たくなるよな。僕ら内陸に向かって進んでるわけだし。


 桟橋に腰を下ろして、とりあえず忘れないうちにノリアキングにメッセージを送っておいた。クエストに現れたシャーマン二体、ウォーゴブリン二体の組み合わせのことだ。おそらくほとんど必要ない情報だろうけど、ニート組が復帰したらとりあえず挑むにはうってつけのクエストだから、これから事故が起こらないとは限らない。


 ちょっと考えて、AIについても言及しておく。


 さて。


 今日が終わったら、明日からはまたレベル上げだ。半日くらい遅れているので功績値ブーストはやむを得ない。砦攻略に参加して、その次は……まあ、おそらく防衛戦になるだろう。どうする気かはしらない。なにか用意があるなら無理に聞き出すことでもないので、とりあえずはノリアキング任せである。


 防衛戦の次は……やはりどこかを攻める。しばらくは新たな拠点を探すことになるだろう。クエストをクリアするのもいいかもしれない。それを繰り返して……七年後にはクリアだ。


 七年。まだ開始して三ヶ月目。遠く遠くの未来に思えるけど、僕はまだ実質一週間ほどしかプレイしていない。これから多々ログアウトすることになるだろう。それを含めて……思った以上に、終わるのは早いんじゃないかと思う。


 そう考えると、今のうちにできるだけ見ておきたい。特に海。この世界でしか見ることのできない海を。


「あの……」


 一人でセンチメンタルな感傷に浸っていると、声をかけられた。実際はがちゃがちゃと音が聞こえていたのでもっと前に気づいていたけど。


 エイタローである。  

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