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なぜ僕らは嫌われたのか。ジェストくんの嫌われ者講座

 その人は変わり者というか、歌舞伎者というか。

 ワイルドな人といった方がいいか。でもなんかちぐはぐである。


「みなまで言うな」


 話しかけようとした途端これだ。


「いやあ、言ってみたかったのコレ。ネクロマンサーって一人しかいないからね。エルちゃんから聞いてるよ。ブラックスミスのサクラ」

「どうも、初めまして。ジェストです」

「初めまして。握手」


 なんか調子狂う人だな。


 手が痛くなるほどの握手をして、用件に入る。無音対策は最近の流行で、だからスムーズに話は進んだ。


 日没間近のサンダマスヴェリア城。その中庭。すでにファーマシストやブラックスミスの屋台が並んでいて、小さくても立派に市場だ。拠点は増えたけれど、あくまで本拠地は城だという認識で間違いない。


 目の前のブラックスミスは一応女性。エリスレルによるとネカマ疑惑があるらしいが、本人にきいてはいない。でも僕もそんな気がする。


 アバターは奇抜で、ピンク色のポニーテイルにメガネ。口にタバコをくわえていて、ブラックスミスの衣装は上をほっぽり出して素肌にサラシを巻いている。押しつぶされた胸にどうしても目が行きがちで、それを期待してのことかニヤニヤした笑みを崩さない。下はさすがにズボンをはいているけれど他のブラックスミスに比べてかなりだぼだぼだ。ようするにガテン系である。


 ここまで個性を打ち出した衣装はなかなかないし、女性の好みでもなさそうだ。話し方もさばさばしていて、うん、これ男だな。エイタローはCH開始にあたり違和感を覚えて素の声と女性アバターへ変更したけど、中にはこういう人もいる。いや、女性アバターの比率の高さを考えてもかなりネカマはいそうな気がする。


 男女の実際の比率は知らない、職業もある程度ばらけているからプレイヤー選考には一定の基準がありそうだ。となると、あまり男女にも差が出ないようにしていてもおかしくはない。


 だけどそれだとトップ500が怪しくなる。どういう基準か教えてくれたりはするのだろうか。


「今からだと明日の昼くらいかね。失敗した場合……あ、これは全員に言うから……料金はもらわないけどアイテムの補償もしない。頑張るけど、失敗は仕様だからね。WWと同じ。いい?」

「大丈夫です」


 ブラックスミスには失敗の可能性を下げるスキルがある。質をよくするスキルとどう配分するかが育成において悩みの種であり、楽しい部分でもある。WWからの暗黙の了解として、ブラックスミスに依頼した場合、彼女のセリフのとおり失敗しても文句なしだ。


 一応鍛冶はブラックスミス以外でも修得できるから、任せるのが嫌な場合は自分でしろということ。もちろんブラックスミス以外には修得不可のスキルがあるから、どうしたって質は悪くなるし成功率も低くなる。


「それを踏まえて、成功率は99%。ま、ステータス防御一つだけだし。防御率は75%。着てるローブでいいの?」

「いや、僕じゃなくてこっちに」


 となりのユージンを指さした。今までいなかったように描写されなかったのは、ヤツが他人のように振る舞っていたからだった。たぶんサクラが苦手なんだろう。


「知り合い?」

「同じ小隊です。ヒーラーなんで優先的に」

「ふうん。まあ、他人じゃないなら構わないよ」

「プラスもつけてもらえますか」

「オッケー。700G。今のところ相場は安定してるし、こっちもやりやすくて助かるわ」


 確かに値段はWWの相場よりもちょっと低いくらいだ。プレイヤーの協力が重視されるというゲームの特性がよく出ている。


 ついでに僕の分は普通に強化で商談成立。二つ頼んだけど順番をおまけしてくれるそうでやっぱり明日の昼頃。

 ブラックスミスは絶対数が少なく11人しかいない。必然的に仕事に追われるわけで、普通に頼んだらとても明日以内には無理らしい。これでもブラックスミスはお互いに紳士協定を結び、全員の仕事が平等になるよう客を割り振っているという。


 無音対策の素材が足りないのは仕方がない。問題は誰が隙だらけになるかで、最も適当なのは僕だ。ネクロマンサーは戦闘直後にMPをはき出して、その後は敵が死ぬまで出番があまりない。ヒーラーはある程度戦闘が進んでから必要になるから、無音対策は優先すべきである。殴り合う連中は後ろからの指示を聞く必要があるので言わずもがな。


「エルちゃん、元気? 一時期最悪だったからさ。なかなか小隊組む機会がないんだけど心配でね」

「まあ、万全じゃないですけど。強いですよ、彼女」

「あんたが落ち込む必要はないけど、たまには連絡とってあげなよ」

「僕が助けになるかはわかりませんけど。今の状況の原因ですし」


 サクラは笑顔のまま固まる。あれ、僕を知ってるのにハブの原因が僕にあるって知らないのか?


「いやはや……」


 人差し指で頭を掻きながら、


「これは予想外だねぇ。前途多難だっけ」

「もっと直接的じゃないと伝わらないっすよ」


 どうしてここでユージンが出張るんだ?


 二人は勝手になにかを納得して、でもサクラの放ち始めた熱視線にすぐにたじろぐユージン。なんか知らんがざまみろ。


「そうだ。あたしたちの中で二人、あんた達を嫌ってるのがいる。一応名前教えておくから、面倒ごとがイヤなら避けた方がいいよ」






「全員、依頼が終わったと言うことで」


 夕食前、僕らはガートランドの部屋に集まった。一番食堂に近いのが理由である。どうやら城に用意された個室は『キャッスル』と同じ並びになっているようで、だからなんだと言われたら僕も困る。


「ユーくん、改めてごめんね」

「いいですって、もう聞き飽きたっすよ。前からクエスト時に死人が出るのは普通だったし、序盤は蘇生方法もないっすから。俺としてはなんであんな強いモンスターが出たかを分析したいっす。それにジュリアさんの言葉を借りれば――」


 ジュリアさん?


「こういうときはありがとうっすよ。俺のおかげでクエストが成功したんなら、それが俺も嬉しいっす」


 こいつかっこいいな。いや感心してばっかでどうする。


「ありがとう、ユージン。僕のミスがなければ」

「反省会は十分したじゃないっすか。それになんかジェストさんにそういうこと言われるとむずむずするんですよね。もっと偉そうでいいっすよ」


 偉そうなのはいいところじゃないだろ。できれば早いところ謙虚な自分を取り戻したい。


「姫代子ちゃんはもうちょっとこう、スルーとか磨いた方がいいわね」


 サクラの情報が行き届いたとき、すでに姫代子が『僕たちを嫌っている』ブラックスミスに接触してしまっていた。危うくPKしてしまうところで(姫代子がそんなことするわけないのはわかっていたが、今にも殴りかかりそうなほど怒っていた、とまわりの感想)、つまりこれ以上事情を話さないのはマジで今後に関わってくる。それに当初の予定でもあるし、今から暴露大会だ。


「それで、ノリアキングから流れてきた情報が、なんだって?」


 あからさまに不機嫌な姫代子の顔。その後に受けたブラックスミスがかわいそうである。


「ああ、それじゃ……今回、僕らが特定のプレイヤーから嫌われてることはなんとなく感じてたと思うけど、一応理由があって……それを説明するためには、CHがゴールの設定されている協力型のゲームである、という前提から話さないといけない」


 エイタローとガートランドが首を傾げた。


「つまりWWなんかのMMOは、プレイヤー全員が同タイミングでとりくむ大きな目標がないってことなんだ。だから基本的にプレイヤー達はなにをしても自由だし、マナー違反じゃなけりゃ誰も責めたりはしない。そのマナーってのが、このゲームだとちょっと違ってくる。たとえば食料難のときに食料集めに参加しなかったり」


 僕らの行動そのいち。食糧難の時にぶらぶら山の向こうまで散歩していたこと。これは嫌悪組の視点からの表現だ。結果的に川を見つけたけど、あくまで結果論である。


「食料が足りないときに拠点への侵攻を主張して、ノリアキングの負担を大きくしたり」


 僕らの行動そのに。プレイヤーが食料集めに奔走しているときに、拠点攻めを主張。湖が見つかったとはいえ、そして森の中に果物があったとはいえ、根本的に食い物が足りないのは解決していない。あのときは街を開放することにどんなメリットがあるかがわかっていなかった。結果的に開放によって食糧難が緩和されたのは事実だけど、これもあくまで結果論だし、副小隊長のラメはノリアキングから僕らの事情をきかされていただろう。かなり個人的な事情を。


「ノリアキングの作戦を無視したあげく、ボスを横取りしたり」


 僕らの行動そのさん。マーシャヴェルナ開放戦の際、他の小隊の補助という役割をほっぽってあくまでボスに固執したこと。僕がとっさに判断したあの一連の行動は、後で不安になったとはいえ結果的に間違ってはいなかった。ボスを倒すまで雑魚が無限沸きするから。ただしやはりこれも結果論である。


 そしてこれらの行動は『僕らが私益を優先し、プレイヤー達のリーダー的な立場にあるノリアキングを手駒に使った』と捉えられた。ぶっちゃけ間違ってないのが痛いところだ。


「特に最後、最初にバトルオークにあたった小隊は被害が出たけど、僕らは誰も死ななかった。これ、ゲーム的にも結構大事で、一回振り分けられた功績値は譲渡なんかができないんです。小隊単位であわせて使用することはできますけど。死んだプレイヤーはそれ以降の功績値が取得できなくなります。戦闘から外れるんで。だから臨時で組んだ場合は経験値と功績値がゼロでうまみがないんですね」


 個人的にはこのゲームの欠陥だと思う。けどだからといって、プレイヤーが僕らの行動を嫌う原因になるのが筋違いってことにはならない。


「つまり港開放戦ではうまみがほとんど無かったプレイヤーがいる。僕らがボスに向かわなかったら助かったプレイヤーもいたかもしれない……結果的にジェスト小隊は全員生き残って、エリスレルがとどめを刺したんでボス撃破のボーナスも丸儲け。しかも僕らイイリコ組はすぐにログアウトして、その後の攻略は丸投げ。つまり、そういうことです」


 だから厳密にはイイリコ小隊ではなくて『臨時ジェスト小隊』のメンバーが嫌われている。それにつるむ連中、つまりイイリコさん達もあおりをくっているわけだ。僕らと交流のあったプレイヤーにはジュリアさんやルシェイナさんの小隊員もいるけど、彼女らは、ほら、貢献してるから。それにもともと、地位というかそういうのが高いし。特にジュリアさんは城主として面倒ごとを引き受けているから人気は高いらしい。美人だし。


「だけど通常、ここまで敏感に受け取られることはありません。ノリアキングがこっそり教えてくれましたけど、僕らを嫌っている小隊は十五程度。多くは港侵攻戦に参加したメンバーと話を聞いたニート復帰組。特にノリアキング小隊と親交が密なプレイヤーです」

「それってノリアキングが話を流してるってこと?」

「それならそもそも教えてくれない。中心にいるのはノリアキング以外の小隊員、特にラメという女性プレイヤー」


 ここから話はもうちょっと続く。


 僕らの行動がなぜこんなにも敏感に受け止められたか。それはノリアキングが進めていた団体行動重視の体制が大きく影響している。


 ゲーム開始時から独自のスタイルを持っていたプレイヤーは少なかった。初回防衛戦に参加したノリアキングやジュリアさん、ルシェイナさん、エリスレルやオーシーたちなど、僕が関わってきたのは運良くそういった、ゲームへのなじみが早かったメンバーだ。序盤の参加プレイヤーの少なさからわかるとおり、大半はこのゲームにびびっていた。煽りまくったノリアキングがいなければ、第二波をまとめたジュリアさんがいなければ、現状はもっと悲惨だったに違いない。


 そしてノリアキングはここからが超人的だった。初日の内に大体のプレイヤーと渡りをつけただけじゃなく、プレイヤー達の行動指針まで示した。食糧難という目前に迫った問題を提起することで、プレイヤー達に『遊び方』を与えた。ここまで大局的に把握するのはとてもじゃないが常人には無理だ。特に始まったばかりでシステムもろくにわかっていないゲームについてである。メニューにある『城』の項目に、あのどんちゃん騒ぎの中で注目したのも含めて、ゲーム適正はプレイヤーいちといってもおかしくない。


 ただし、今回ばかりはこれが敵になるのである。


 食糧難を踏まえて、ノリアキング達はプレイヤーに遊び方を提供していった。CHが協力型であることをとって、全体で同じ目的を共有させることでモチベーションを上げようとした。


 港開放戦のような『集団での大規模な作戦』。多くのファンタジーや戦国物で描かれる大人数対大人数は、MMOでは意外と例が少ない。プレイヤー達にそれぞれリアルでの時間があるから当然と言えるけど、ノリアキングはこれを利用した。大規模戦闘の楽しさをプレイヤー達に与えたわけだ。


 問題はヤツのカリスマ性である。乱暴な言い方をすれば、ノリアキングは独裁者になる資質を持っている。


 プレイヤーに楽しさを提供した彼は、これからの大規模戦闘を踏まえてある程度の連絡網を構築した。それを紙に書き出すと、一つの組織図のようになる。その頂点に君臨するのは、本人が意図していなくてもノリアキングだ。


 組織。これはプレイヤーが気ままに遊ぶのとは違い、統制の取れた集団である。


 同じ目的に向かって突き進む集団。僕らはそれからあぶれた。

 そもそもの原因は、そこだ。


 食糧難という早急の問題を無視。ノリアキングを手駒として利用。ノリアキングの立てた作戦を無視。


 つまり僕らは……厳密には僕は、ヤツの構築した『食糧難解決のためにノリアキングを中心としてまとまったプレイヤー達』全員にケンカを売ったのである。 

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