【エリスレルちゃん】次回、なんで僕らがいじめられるのか会議【ゲスト登場】
少し期待した。
だけど火の玉がぎゅるりとガートランドのまわりを回転して、改めて僕に向かって飛んできたとき、それは打ち砕かれる。
魔法はかばえない。ヘルプの戦闘欄を思い出す。魔法はターゲッティングした相手を狙い、ある程度の障害は自動的に避ける仕様だ。これはWWの時から同じで、壁越しのハメは非力なメイジソロ狩りの常套手段だった。
ガートランドの行動は嬉しかった。ヤツのとっさの動きにはときに感服する。本人曰く戦況の把握などできないそうだけど、もしカンでやってるならとても真似できない。
火球が迫る。
どうすれば生き残れたかを考えるのは今では意味が無い。僕はすでに一回死にかけていて、助けてくれたユージンは結果的に死んだ。だから結局、これまでの積み重ねで今がある。
それでも僕は、これは反射なのだろうけど両腕で顔をかばった。ゲーム的には全く意味が無い。だけど迫る熱が顔を焦がすのはどうしたってイヤだ。
正しい判断はかばわずに耐えるべきだろう。今回は死ぬけれど、死なない状況で魔法を食らうことはこれから腐るほどあるはずだ。そんなときは自分から視界を制限したりなどせず、食らいながらも状況把握に努めなければいけない。それを学ぶ、今は絶好のタイミングだというのに。
だって仕方ないじゃないか。
腕に衝撃が来て、火炎が僕を包み込んだ。
「ぐっ!」
熱い。
熱い。
熱い!
僕の服といわず髪といわず、全身が瞬く間に焦げていくのを感じる。皮膚がめくれ、肺に灼熱が吹き込む。
これが焼けるってことか。経験が無いのでリアルかどうかはわからないけど、ここまでしつこく再現しているなんて運営はなに考えてやがるんだ!
悲鳴を上げるわけにはいかない。本当はすぐにでも大声で転げ回りたいけど、一度エイタローに偉そうなことをいった体面がある。これ以上無様な姿は見せられない。
瞬く間にHPが減少していき……フレイムショットは初撃の他に二秒間、継続ダメージがある……絶望的なまでに残りが足りないのを、それでも目を離さないで見る。
ダメージを食らった場合、そのプレイヤーは『よろけ』状態になる。物理攻撃なら実際に体がよろけるけど魔法の場合は特に身体的なリアクションはない。だけど『よろけ』状態になっていることには変わらず、具体的には能動的なアクションが一切取れなくなる。スタンの下位互換みたいなものだ。だから自分でアイテムを使うのは無理だし、そもそも二秒間でアイテムを使うのが難しい。
炎と熱と痛みにまかれながら自分でゼロへのカウントダウンをするのは滑稽だが、そうでもしないと意識を集中できなかった。
そして最後、HPが1から0に変化しようとした瞬間、僕の体が淡い緑色の光に包まれる。
なにが起きたかわからない。だけど死んでいない。
HPが八割ほどまで回復し、そこからさらに継続ダメージで七割まで減って、炎が消え失せる。
「ジェストくん、大丈夫!?」
背後からイイリコさんの声。
僕は慌てて構えた。振り向くと同時に、姫代子と殴り合っているウォーゴブリンにブラインドを放つ。
ヒット。直後の攻撃でHPは三割まで減った。
「ありがとうございます!」
やっぱりガートランドには感謝しないといけない。あいつが割り込んでフレイムショットが回り道をしたおかげで、イイリコさんの回復がぎりぎり間に合った。姫代子を向かわせてなかったらイイリコさんが僕を確認する余裕はなかっただろうし、僕がイイリコさんを回復していなければ、先に自分の回復を優先しただろう。
これは……運がよかった。マジで運がよかった。
ユージンを死なせておいて自分が生き残ることに罪悪感はあれど、死ななかったのなら最善を尽くそう。
イイリコさんの不意打ちが決まって、ウォーゴブリンが瀕死状態になる。エイタローとガートランドの方のウォーゴブリンも、二人でいけば安定する。
乗り越えられた。
全滅は避けられた。
メニューに追加された『クエスト』の欄にクリアフラグが立った。クエストをクリアしたかの判定は個人で行われるので、ユージンは不成功となる。
成功報酬も個人でとなるので、パーティで判定していたWWよりも報酬は安い。これがどのような意味を持つのかはわからないが、とにかく今回の報酬はアイテムなのでとりあいにならなくてすむ。
「ジェスト」
姫代子に呼ばれて振り返ると、杖を投げられた。
受け取る。ゴブリンシャーマンのドロップ品だろう。僕が使っているスタッフと同クラスだが、炎属性のファイアスタッフ。武器の属性は防御に影響せず、たとえばファイアスタッフを装備すると物理攻撃が炎属性に、炎系統の魔法が強化され、反対属性である氷の魔法が弱体化する。
ようするにネクロマンサーの僕にはあまり縁がない。ただし魔力補正がスタッフよりも高いので持ち換える意味は十分ある。ありがたくいただいておこう。シャーマンがどちらもドロップしたので、せめてユージンの分も持って帰るとする。
「ウォーゴブリンは一体だけ。アイアンチェイン……うちだとガートランドくんとエイタローくんのどっちかがいいかしら」
イイリコさんも装備可能武具ではある。が、敏捷が下がるのであまりうまくない。
「こっちはユーくんと合流してから考えましょう。今はダンジョンを出た方がいいわ」
その通りだ。戦闘時間は五分ほど。後ろの連中は遅くとも地下二階にはいるはずだ。できるだけ会いたくない。
こういったダンジョンは『通信不可地域』だ。外との通信はおろか、ダンジョン内での通信もできない。メイジ系の通信用魔法を使えば可能になるけれど、そんなに時間がかかるわけでもないから修得していたプレイヤーはあまりいなかった。たぶんCHもそうだろう。
「でましょう。部屋のモンスターはもういないから、エンカウントだけは気をつけて。回復薬はどう?」
かなり使ってしまったので、他のメンバーから少しずつ受け取る。まあ、来る途中もランダムエンカウントは無かったしそこまで気にする必要もないはずだ。部屋のモンスターだけだった。またよくわからん変更があればその限りではないけど。念のため注意しておこう。
部屋を出て十五分ほどで地下一階への階段に。急げばこんなもん。行きはイイリコさんがスキルを使いつつだからどうしても時間がかかる。
とはいっても、こいつら遅すぎだろう。すでに地下二階部分で入れ違いだとおもっていたので、完全に誤算だった。
さっきの小隊が地下一階から降りてきたのだ。なにやってたんだ? 地下一階は一本道のはずだ。ハンターもいるから罠にかかったというのも考えにくい。よっぽどゴブリンの数が多かったのか、前衛がナイト一人しかいないから殲滅に時間がかかったのか。
「お帰りだよ。よく見たら一人足りない」
さっきのフェアリーメイジ……何だっけ。ウサギマツリだったか……が呼びかけて、小隊全員で笑う。
「死んじゃったんだ。こんな初期のクエストでご苦労なことで。いったん撤退するんなら時間をおいてきてくれよ。邪魔されたくないから」
……
なに言ってんだこいつら。
抗議しようとしたガートランドの口を塞いで、先を促す。姫代子にはイイリコさんが。とにかく話すだけ時間の無駄だ。ダンジョンを出るのが先決である。
それにあいつら、思った以上にポンコツだし。
僕らがダンジョンを出るのをユージンが死んだから途中退却するものだと思ってやがる。確かに普通よりは早い。ダンジョンの探索を捨ててまっすぐボスに行ったから。
でもいくら何でも裏取ってない上に的外れな指摘で笑う度胸は僕にはないし、今のでこいつらに対する興味が一切失せた。こいつらに嫌われてもどうでもいいや。
でもこの小隊は僕だけじゃないからそういう態度は厳禁である。少なくともなにが起きているかを話してからだ。
宿に入るとユージンが待っていた。
「うす。うまくいったみたいっすね」
思ったより暇はしてなさそうだった。なにせ同じテーブルにエリスレルがいる。
「おひさ」
ひらひらと手を振ってくるエリスレルに挨拶し、面識のないイイリコさん達を紹介する。
「ジェストくん、女の子三人迎えにいったの? やるね」
なにがだ。
「いあ、それとも一人ずつ?」
だからなにがだ。
協力してくれたエリスレルは全てを知る権利があると思うけど、今はとりあえず成功報酬を受け取る。宿のNPCに話しかけると、成功報酬として無音破りの秘薬をもらった。これを装備作成時に追加で加えることで、無音耐性の装備ができあがる。成功率は初期ブラックスミスでも96%だったはずだから、まず失敗しない。
「今はなにやってるんですか」
「オーシーとオトメノと、あとフレンドをかき集めて小隊組んでるかな」
オーシーと、オトメノ。やっぱり。念のため聞いてみたけど、不安はぴたりと的中してるっぽい。
「ちょっと」
みんなにことわって、エリスレルの腕を引っ張る。宿の外の、人気の無いところまで行く。
「どうしたの、こんなところで。あ、ああー。もしかして愛の告白」
「ハブられてませんか」
いたずらっ子みたいな笑みが一瞬だけ失せる。応えはしなかったけど、その反応だけでわかる。
「すいません。僕のせいで」
「そんなことないって」
帽子を被り直して、エリスレルはまた笑う。
「もともとガンナーは小隊には誘われなかったし、オーシーたちが組んでくれるからむしろ安定してるし、ノリアキングさんはよくしてくれるし。むしろなんとも思ってない人の方が多いしね。ちょっと嫌な気分になるのは特定の小隊の人だけ。あたしたちなんかより、ジェストくんの方が風当たり、強いから。小隊長だったしね。気をつけてね」
「すいません、本当に」
「だーいじょうぶだって。あのとき、みんな納得ずくで参加したんだし。オーシーたちも別に恨んじゃいないし、間違ってるとは思わないし。それにこれからあわせていけばいいだけだしね」
ロングバレルを胸元にビッシと構えて、
「それより、あたしもうレベル20でジェストくんより超強いからね。急がないとどんどん置いてくからね」
この無邪気な明るさには甘えたくなる。例えそれが、半分強がりであったとしても。
「……僕ら、砦進行までに19にはするつもりなんで、すぐ追いつきますよ」
「こっちだってレベル上げするし。そうだ、久しぶりにみんなに会ってかない? なんか用事ある?」
彼女に城に向かう旨を伝える。無音対策の防具を作りに行く。
「あ、そっか、あのクエストやってたんだ。それならちょっと待って。ブラックスミスの知り合い、いる?」
いない。
「私が頼んだ人、よかったら紹介してあげるよ。いあ一応今回の件とは関係ない人だからだいじょぶ」
「ありがとうございます」
「お礼に次からはタメ口でね。他人行儀なんだから」
「善処します」
「それはやらないって言ってるんだよ? 期待してるからね!」




