表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第二部 クエスト「洞穴の魔物を退治せよ」
41/115

死ぬ→クエスト報酬が減る→無音耐性防御が減る

 問題は僕らがたかをくくっていたことだ。いや、僕らに責任を求めるのは難しいと思う。なんたってこのクエストは攻略され尽くしている。宝箱から入手出来るアイテムから各種モンスターのデータまで、攻略組の血と汗の結晶が詰まっている。ちょっと気持ち悪い表現だが、だから普通、こんなことは起こりえない。


 今まで固定だったはずのシャーマンが二体。まったく出てこなかったはずのウォーゴブリンが二体。


 どれだけ確率が低いと言っても、僕らが初めてってことはないはずだ。


 考えられる可能性はノリアキングがあえて情報を隠したこと。だけどこれはいくつかの点で不自然である。


 僕の頭上に棍棒が迫る。


 ノリアキングがデータを隠したとして、僕らがちょうどこの組み合わせに遭遇しなかったら何の意味も無い。何かの条件を満たしている場合に起きるとしても、ノリアキングは特に指示は出さなかった。攻略情報にも『なにをせよ』というようなことは書かれていない。マップとそこにあるアイテム、モンスターの情報。このダンジョンに凝った仕掛けはない。


 それにこれは僕の主観だが、ノリアキング自体は僕らに嫌悪感をもっていない。こればっかりは断言する。周りの連中がどうだといって、ノリアキングの態度は今までと寸分変わっていない。ラメが嫌悪していたとしても、なにを話すか、どうするかといった権力はノリアキングの方が強いはずだ。なんだかんだで、ノリアキングの小隊にいるということは彼のカリスマに惹かれているのと同義だから。


 となると、今の状況は全く初めての異質なケースである。


 こんな時に悠長に分析しているのもなんだが、体を動かして逃れるにはネクロマンサーはのろい。代わりに考えるのであれば僕の得意分野だ。死ぬまでにせいぜい可能な限り頭を働かせてもらおう。


 とはいっても、さすがになにもしないまま脱落するとは思わなかった。僕がいなくなったとして、クエストのクリアはできるだろうか。いや、僕よりもエイタローだ。ネクロマンサーがいなくてもクリアはできるかも知れないが、サムライがいなくなっては非常にまずい。


 エイタローがパニックから一時も早く回復しなけりゃ、イイリコ小隊は全滅する。


 それはまずい。ユージンがなんとかしてくれるだろうか。いや、僕を殺したらそのウォーゴブリンの狙いはユージンかエイタローかのどっちかだ。どちらにしろ、ユージンは貧弱なライトメイジでウォーゴブリンと相対しなければならない。


 これはもしかしたら詰むか?


 どちらにせよ、僕にできることはなくて……不本意ながら、一足お先に離脱。


 とはならなかった。


 突然飛び出してきたユージンが、僕のかわりにウォーゴブリンの一撃を食らったのだ。


 その瞬間しかなかった。転がるユージンを見送る暇はない。できることは一つ。

 再度棍棒を振り上げようとしているウォーゴブリン。今度は間に合う。


 寝転がったまま、僕はブラインドを放った。


 ゼロ距離から直撃。ヒットかミスか、どちらにしろ一瞬は相手の視界は暗闇になる。ひるみもする。その間に這いずって、立ち上がって、振り向く。


 暗闇、かかってるぞ!

 右袖から回復薬を取り出す。僕が死んでないのだから、ネクロマンサーよりは防御の高いライトメイジが死ぬはずはない。案の定危険域になっているユージンに回復薬を投げて、今度はイイリコさんが食い止めているウォーゴブリンにブラインド。


 ウォーゴブリンはWWと同じであれば「雄叫び」で暗闇を解除できる。だから一体目は完全に緊急避難用だ。だけど二体目へのブラインドは明確な狙いがある。

 暗闇とは視界をゼロにするステータス異常。そして視界がゼロならば、必ず『不意打ち』が発生する。


 リチャージが必要なので連発はできないが、相手が解除するまでに一回、大ダメージを与えられる。頭への弱点攻撃を含めて、イイリコさんの一撃は半分ほどHPを削った。攻撃力に乏しいシーフでは十分な威力だ。


 目を戻す。まだウォーゴブリンは雄叫びを発動していない。ウルフキングの物とは違ってスタン効果はなく、代わりに本人の攻撃力がアップする。これ以上のダメージ増はきついけど、とにかくやらなきゃならんことがある。


 エイタローだ。


 今度こそ僕はエイタローに走り寄って、うずくまっている彼女の肩をつかんだ。炎はほとんど消えかけているが、すでに声もなく縮こまって震えている。


 仕方ない。注意されていてもあれは想定外だった。いくらなんでも完全に対応しろってのは無理だ。


「おい、エイタロー、エイタロー!」


 エイタローのHPは六割。回復すると焦げていた肌が綺麗に戻っていく。それにつれて


「……ジェ……ジェスト、くん」

「僕だ、エイタロー。わかるな。立てるか?」


 ユージンに目配せ、は意味なかった。すでにユージンは現状把握に努めており、姫代子にヒールを放ちながらもウォーゴブリンからは注意をそらしていない。雄叫びを使うのは時間の問題だ。


「あつくて、い、いたくて」

「もう大丈夫だ、回復したから。痛みはないだろ? 肌も、ほら、綺麗だ」


 エイタローの背後でウォーゴブリンが雄叫びを上げた。エイタローが身をすくめる。


「さっきのは運が悪かった。エイタローはなにも悪くない。誰だってああなる。だけど盾なら、ここからが大事だ」


 他のメンバーは聞いてないだろうけど、できるだけ声を落として、その分顔を寄せる。ショックを受けている相手にちょっと厳しいが、エイタローに踏ん張ってもらわないと勝ちの目がなくなってしまう。特に盲目が剥がれたウォーゴブリンは危険だ。僕ら後衛じゃひとたまりもない。


「シャーマンは姫代子とガートランドが引き受けてくれてる。魔法を撃つ暇はないはずだから大丈夫。仁王立ちはしなくていい。援護するからウォーゴブリンを止めてくれ」

「ゴ、ゴブ……」


 予想以上に精神的なダメージがでかそうだ。だけど頼む、頷いてくれ。


「エイタローならできる。さっきも死ななかったし、ユージンがちゃんとサポートした。最初はまずったけどもうピンチにはならない」


 半分本当で半分嘘だった。いずれにしろピンチなのは変わらない。だけどエイタローが復帰してくれれば、ある程度引き戻せる。


「僕の目を見て。いいか、僕がブラインドを撃つ。ミスしてももう一回撃つ。エイタローはその間に一回斬って、あとはガン防御。ユージンが回復してくれるから心配しないで」

 人形のように頷くエイタロー。腕を抱えて立ち上がらせて、振り向かせる。ウォーゴブリンの前にユージンが構えている。一回は食らうな、こりゃ。


「ユージンがダメージを受けたら突っ込め。絶対援護するから迷うな」


 偉そうな口調になっているけど、この場合はわざとだ。僕がいまからやることに自信を持っていないと、エイタローの決心も鈍る。


「WWじゃ数え切れないほど倒したモンスターだ。今更怖がることなんて無い……」


 ユージンは杖で防御していたが、棍棒の一撃で横に吹っ飛ぶ。


「行けっ!」


 そのことにエイタローが気を回す前に、僕は背中を強く叩いた。ユージンは死んでいない。だけど二回食らったら死ぬ。だからすべきことは、ユージンからタゲを引きはがすことだ。そのためにはエイタローが立ちはだかる必要がある。


 僕はブラインドを放った。MPが枯渇。もう惜しんでいる場合じゃない。MP回復薬をインベントリから出して、すぐに使用。青い光が僕の体を包み込んで、MPが最大値まで回復する。


 視認。ブラインドは……命中している!


 すぐに二発目を構えた。命中とステータス異常にかかるかは別判定だ。どちらにせよ足止めにはなるが、受け流しが不安定なエイタローには暗闇が欲しい。相手は雄叫びで攻撃力も上がっている。


 斬れっ。エイタロー、斬れ!


「うわああっ!」


 恐怖をこらえるためか、エイタローは叫んだ。反応したウォーゴブリンに向かって、上段から刀を振り下ろす。


 よくやった。ヒットしている。だけど暗闇にはなっていない。二発目を発動。ユージンが起き上がるのを目の端に見る。今は回復している手間がない。すまん、自分でやってくれ。


 返しの一撃をエイタローは受け流す。今のはかなり精度がよかった。ほとんどHPが減っていない。直後に二発目のブラインドが当たり、さらなるエイタローの斬撃がウォーゴブリンを襲った。よし、今度は暗闇もいけてる。


 僕は全体を見渡した。戦闘が始まってから二分くらい。その間に……。


 ガートランドがやばい!


 右手を袖に通して回復薬を取る。ガートランドは自分のドラゴンハート以外に補助がかかっていなかった上に、ドラゴンハート自体の効果時間も短い。しかも火炎耐性は今回に限りまったく無意味だった。要するに素で殴り合っている。さすがにゴブリンシャーマンの攻撃力はウォーゴブリンほどではないが、無視していい物でもない。ランサーの防御力も高いとは言えず、一回ユージンの回復を受けた姫代子よりもHPの減りが深い。


「ジェストさん!」


 回復薬を投げようとしたとき、ユージンが叫んだ、その意味を僕は理解しかねたが、すぐにわかる。


 背中に衝撃。体がよろける。


 回復薬が手から離れて、地面にぶつかった。投擲の失敗。


 イイリコさんが相手していたウォーゴブリンだ。よくはわからないが、イイリコさんが死んでいないのは確認済みだった。暗闇も回復していないので、でたらめにふった攻撃が偶然僕に命中したんだろう。


 リアル判定と暗闇の組み合わせの唯一の欠点がこれだ。相手は視認できなくなってむちゃくちゃに武器を振り回すが、それに当たれば当然ダメージを受ける。相対しているなら射程範囲外に避けるのは簡単だ。だけど背を向けていたら……WWならくらった際に回避による判定があるけど、CHには無い。


 だからダメージは当然受ける。


 イイリコさんを責められない。暗闇にした相手を誘導するのは難しい。だけどこれは、ある意味で致命傷だ!


 ユージンが気づいてくれればいい。僕が何故回復薬を投げようとしたのか、誰に投げようとしたのか。それに気づけば……そしてユージンなら気づくはずだ。


 顔を上げると、思った通りユージンがガートランドに回復薬を投げたところだった。だけど……だけど、


「ユージン!」


 自分のHPを回復していない!


 そこに飛来した火の玉が……姫代子の切り捨てたゴブリンシャーマンが最後の一撃で放ったヤツだ。HPの低いユージンを狙った……


 直撃!


 姫代子が振り返ったのが目の端に見えた。


 ユージンのHPが、ゼロに。


「ユージン!」


 姫代子の叫び声。信じられない。起こりうるはずがない。


 ゴブリンシャーマンはずっと姫代子がタイマン張ってたんだ。ヘイトは姫代子が溜めていたはずだ。


 ユージンが回復の乱れ打ちでヘイトを溜めていたとしても、姫代子より優先するほどなわけがない!


 HPが低いから……狙ったなんて、そんな……


 人間みたいな考えで行動するわけがない!


「ジェスト! なにぼさっとしてんの!」


 姫代子の叱咤に、僕は現状を気づかされる。ユージンが死んだ今、小隊の回復は僕がしなければならない。回復薬の残量は七。シャーマンを一体やった今なら間に合わない数じゃない。


「姫代子、イイリコさんだ!」

「わかってる!」


 ガートランドのシャーマンは死にかけている。エイタローのウォーゴブリンは、さっきの二発入れても余裕がある。ここは戦闘開始直後から一体を引き受けているイイリコさんのウォーゴブリンを倒すのが先だ。運がいいのか、ヤツは雄叫びを使っていない。暗闇がかかったままだ。


 振り返ってイイリコさんのHPを確認する。四割。となると、被弾は一回か二回程度。さすがのプレイヤースキルだけど疲労も濃そうだ。念のため回復して、姫代子と二人で余裕を持って当たってもらおう。


 視線を戻す。エイタローのHPもすでに半分になっている。ユージンのデスでタイミングがズレたな。となると……回復しておかないとやばい。


「エイタロー、集中!」


 それだけ言って、回復薬を放る。ユージンの体が消滅するのが見えた。

 謝っても謝りきれない。ユージンはリタイアになるから、クエスト成功報酬を得られない。蘇生薬はまだ手に負えない値段だし、そもそもここで誰かが死ぬような心構えは誰もしていなかった。それだけしっかりと対処したのだ。


 なんだこれ。


 なんで僕らのときだけ、こんなに運が悪いんだ。


 ガートランドが、ゴブリンのHPをゼロにしたのが見えた。


 最後の一撃がくる。ユージンと同じなら一番HPが低いヤツだ……主立ったメンバーは全員回復している。


 寒気。


 ユージンが死ぬことになった原因は僕が『ダメージを食らって』よろけたからだ。代わりにガートランドは回復していて、見たところ姫代子のHPは六割程度残っていた。


 しまった。自分の回復を忘れていた。いや、頭のどこかで考えてはいた。それよりも仲間の回復を優先して……


 火の玉が放たれた。軌道は過たず、僕に、


「とうっ」



 その間に、ガートランドがダイブした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ