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序盤の四日間で三デスとかシャレならんしょ

 開戦ののろし、と表現するには鋭い一発。


 エリスレルの銃声がまずダメージを与えたのは僕の耳だ。手でふさいでいたのでずいぶん緩和されていたはずだが、針で刺したような痛みが耳を襲った。

 だが念のため覚悟はしていた。だから、バトルオークのHPが一割ほど減ったのを認識できる。


 即死耐性がある。


 この時点でエリスレルの伏兵が解除され、周りのモンスターが敏感に反応した。それとほとんど間を置かず、バトルオークを囲んでいた前衛が一斉に斬りかかる。即死かどうかの確認を待たずにという決まりだった。


 ダメージは一割ほど。エリスレルの一発と八人の前衛の攻撃がほぼ同じダメージ。これは狙撃のダメージアップ効果と弱点部位狙いのダメージアップ効果、そして伏兵のクリティカル効果が累積しているからだ。前衛達も伏兵でクリティカル扱いになっているが、それを考えると狙撃の威力は恐ろしいほど高い。


 それに併せ、今度は僕の番だ。バトルオークを対象にとりブラインド。やはり伏兵の効果で自動成功になる。


「ブラインド、行きます!」


 前衛がノリアキングを残して離れ、ブラインドがバトルオークの頭部を直撃した。僕がブラインドを撃つのは『即死失敗』の合図。


 僕の伏兵もはがれた。エリスレルの銃声からわずか三秒。奇跡的な連携だ。


 この時点でバトルオークが吠える。ゴリラのようなライオンのような咆哮が響き渡り、答えるようにオークやハウンドの鳴き声。


 本格的な戦闘開始である。


 僕の目の端にエンカウントを示すエフェクト。

 同時に僕の体を一瞬だけ赤い光が包んだ。


『軍師の指導』という単語が視界の左下あたりに表示された。僕がもっとも期待する部分、タクティシャンと共闘することにより得られる。ステータスアップ補正。


 あまり時間は無い。僕は自分のステータス画面を見る。まず小隊を6人で組むことにより一割のステータスアップ。この数字だとさらに一割から二割ほど上昇しているようだ。どちらでも計算が合わないから、たぶん一割五分といったところか。


 戦闘に参加するだけで一割五分。


 これは使える。もうなんの言い訳もさせないぞ。


 バトルオークに目を戻すと……くそ、盲目にはなっていない。


「盲目無効! 気をつけて!」


 ノリアキングに向かって叫ぶ。彼はちょうど何かのスキルを発動したところのようだ。防御姿勢をとっているから、おそらく大防御あたりだろう。


 そのノリアキングに向けてバトルオークが斧を振りかぶり……


 様々な属性の魔法が着弾した。


 派手なエフェクトが続けざまに巻き起こり、オークの全身をまんべんなく攻撃する。魔法は弱点部位などの概念がないのがネックだが、滅多なことでは外れない。


 全部の合計で四割。よし。ここまで完璧。思ったよりバトルオークの防御力が高いが、それを差し引いても十分以上の威力。

 というか攻撃一ターンでこれだけなのだから、あとはゴリ押しでなんとかなるんじゃないか。


 僕の目の前で、ガートランドとオーシーがオーク二体と交戦に入る。雑魚が動き始めた。それぞれの小隊も雑魚とリンクし出す。

 数では一対一ぐらい。だが前衛でなければまともに殴り合えないから、必然的に前衛が受け持つモンスターが増える。


「エル、メイジの援護いきます!」

「了解だよ。ちょっと待ってね」


 といいながらリロードするエリスレル。僕が状況を見ている間に、全弾撃ち尽くしたようだ。そうか、さっきの四割には彼女の銃撃も含まれていたのか。


「あ、まず」


 嫌な予感。


「クイックリロ失敗しちゃった。ちょっと時間かかる」

「了解です」


 エリスレルの銃は銃身の長いリボルバーだが、シリンダーが横にずれるようなタイプじゃない。凄く説明しにくいけれど、彼女によればゲートローディング方式、ロマンなのだそうだ。そのせいでリロードが凄く面倒くさい。


 銃のデメリットはリロード。その間は無防備だし、その度に弾丸が必要。後衛にあるまじき物理攻撃力を引き替えにした、短所である。


 左手のメイジにハウンドとオーク、あわせて六体くらいが襲いかかり、それをふさぐようにルシェイナ小隊が飛び出してくる。メイジ組はなにがあってもバトルオークを攻撃だから、それをサポートするのが僕ら通常の小隊。


 ところが僕らは、戦況の移り変わりを見定めるようにノリアキングからの指示が出ている。ようはイイリコ小隊におけるユージンとガートランドを同時にやるようなもんだ。まずそうな部分を見定めて、適宜フォローすることが求められる。まあ、僕らは攻撃としても盾としても中途半端な小隊だから器用貧乏みたいなもんだ。役割も器用にいこう。


 といっても、モンスターは当然僕らも標的にするわけで、


「回復、行きます!」


 背後からオトメノの声。同時に回復薬がガートランドに飛ぶ。


「気をつけて! たぶん『戦いの咆哮』っす!」


 今度はユージンの声。


 そうか、バトルオークのさっきの雄叫びはスキルか。

 自分から一定範囲の味方の攻撃力とクリティカル率をアップするスキル。プレイヤーは二次職から覚えることが可能なちょっと上位のスキルである。先ほどのモンスター達の反応を見るに、おそらく街の全てのモンスターが対象になっているはずだ。


「ブラインド、行きます!」


 ガートランド達の殴り合いをスルーして僕らの方に来ようとしたハウンド二体を盲目にする。便利な魔法だが、二発で僕のMPは足りなくなる。少しの間無力。


「終わったよ。任せて」


 僕が念のため防御姿勢を取っていると、エリスレルが銃を構えてオークに連射しだした。いちいち撃鉄を指でひいているが、それでも速い。おいおい、FFのことを知ってからだとガートランド達にあたらないか怖いぞ。


 撃ち尽くしたところでオークのHPがゼロになる。攻撃動作がほとんどないため瞬間火力が異常に高い。こりゃガンナーも間違ってもハズレとは言えないな。金がかかるのが難点だけど。


 僕はすぐさまオークに躁屍をかけた。ここまでがネクロマンサーの一段落だ。


 現在の状況は優勢、前衛の防御を抜けてポロポロモンスターがメイジに到達するけれど、回復要因のフォローもあってか死者はいない。他の小隊員の回復にはユージンも参加している。


 作戦通りの展開、メイジ達の第二波で、バトルオークのHPは半分以下にまで削れた。


 ノリアキングが同じ小隊のナイトと交代。


 そのタイミングをまさに狙ったかのように、バトルオークが地面を蹴った。

 立ちはだかったナイトに向かって、全体重を乗せての突進。


 やばい。


 僕の直感はたいてい当てにならないが、あの攻撃はどう見てもまずい。


「ユージン!」


 叫んだ。同時にオークがナイトを吹き飛ばす。

 一気にHPが半減。


「ナイトを、」


 止まらない。バトルオークは続いてノリアキングとも接触。構えが間にあわなかったノリアキングもまた同様にはじき飛ばされ、


「回復!」


 次の瞬間には、並んでいたメイジの列に突っ込んでいた。


 他のモンスターを警戒し、立ち位置を詰めていたのが問題だ、三方を囲んでいたメイジの内、僕から見て右手の5人、そのうち実に4人のHPが危険域にまで減った。運が悪かったら死んでいたかもしれない。


 バトルオークの攻撃はさらに背後に控えたノリアキング小隊の後衛にまで届いた。噴水から一直線に、広場を囲むように建っている何かの商店、50メートルほどを、槍が貫くように走り抜けた。


 派手な破壊音と共に、商店の壁に大穴があく。バトルオークの姿が消える。

 残されたのは死屍累々。ノリアキング小隊の内、HPがゼロになったのが二人。


「逃げられるぞ!」


 僕は叫んで走り出す。リロードを終えたエリスレル、ユージン、オトメノが続く。ガートランドとオーシーを呼び、雑魚の対処は操っているオークに任せた。どうせ捨て駒だ。


 ああいう攻撃でこられたらどうしようもない。一撃でノリアキング小隊は壊滅的打撃を受けた。


 そこに殺到するモンスター達。ノリアキングとナイトには他小隊からの回復が飛ぶが、後衛まで手は回っていない。


「ユージン、回復お願い! オトメノさんは僕らの方に!」

「うす」


 ユージンを残して僕らは商店になだれ込む。商品が並んでいた棚はバトルオークの攻撃かもとから荒らされていたのか、ほとんどゴミの様相を呈している。バトルオークの姿はない。


 奥の壁にやはり大穴が。


 突き抜けたか。


 見失っては大問題だ。僕らはそのまま商店を通り抜けると、路地を挟んだ民家に空いた穴に飛び込んだ。


 バトルオークが振り向いたところだ。


 しまった。思ったより狭い。代わりに高さがあり、吹き抜けになっていて二回への階段がある。すぐ左から上れば、攻撃を受けずに上がとれる。


「エル、オトメノさん、二階に! 前衛はあたれ!」


 叫んで、僕は商店から飛び出した。オークの躁屍を解除し、近くのオークに向かってかけ直す。死んだばかりでまだロストしていなかったヤツだ。


 すぐさま中に向かわせ、穴から中をのぞき見る。オーシーが挑発を、ガートランドがドラゴンハートを発動したところだ。

 ヤツがさっきの攻撃をするにはまだ時間がかかるはずだ。あれほど強力な攻撃をチャージタイムなしでやられたらまずい。

 念のためオークを先頭に出す。


「エル、二階はしばらく安全だと思います。狙撃を。前衛はガチンコで、オトメノさんは二人の回復を」


 背後に違和感。


 まずい。


 慌てて飛び退くと、ちょうど僕がいたところに二体のハウンドが突っ込んできた。あぶねえ。死にはしないけど食らってたら悲惨だった。


 だけどこの状況がまずいことに変わりはない。相手はハウンド二体。こっちは僕一人。

MPはまだブラインド一回に届かない。


 急いで通信をON。ユージン。


『援軍! 僕らだけじゃどうにもならない!』


 まだオークのHPは四割程度ある。魔法の集中攻撃が使えない今、必要なのは十分な前衛だ。


『行かせました。こうなったら時間稼いでください。モンスター駆逐ってから残りで向かいます』


 そう、この状況での最善はこれだ。屋内戦では最初の案は使えない。メイジ全員が入るほど二階は広くないし、外からだと魔法が壁を通らない。


 作戦が使えないなら、相手の戦力を減らした上で余裕をもってバトルオークにあたるのが一番だ。雑魚を全滅させてバトルオーク一体にしてしまえば、入れ替わり立ち替わり全力で攻撃できる。


 問題は、僕らが保つか。いや、僕が保つか。


 態勢を立て直したハウンドが僕に狙いをつける。


 これは死ぬ。


 死んでしまう。


 一昨日から死んでばっかだな僕。これならわざわざウルフキングで死に試ししなくてもよかったじゃないか。安全策をとっていれば、今頃はまだイイリコ小隊全員が……いや、その場合でも死者が出た段階でイイリコさんはログアウトするから、それはただ問題を先延ばしにしてるわけで、でもあの時全滅しなかったら僕らが急いでこんなのと戦う必要はなかったわけで……。


 あ、MP届いた。と同時にハウンドが飛んだ。


 ブラインドには時間が足りない。


 チクショウ。なんだかんだで僕、読みを外してばっかな気がする。もっと余裕で勝てると思ってた。


 こんなに早く脱落するなんて、






「どっせい!」


 ハウンドのあごが僕に届こうとしたまさにそのとき。

 気合いのこもったかけ声と共に、ハウンドの横っ面を誰かが殴り飛ばした。


「だしゃっ!」


 続けてもう一匹にラリアット。背を向けているから顔が見えん。だけどこの古代っぽい衣装……


 やべ、涙でそう。超かっこいい。


「参、上! イエッス! オークどこ!? あたしのけ者にするなんて絶対許さないんだから、待ってなさいなんとかオーク! このあたしの拳が、ゴッドハンドが! 脳天かちわってメタボな腹引きちぎって、豚足にしておいしくゴチソウサマしてあげるからね! 邪魔! のいて! なにこいつ、殺していいの!? だめ? なんでよ!」


 ベラベラと叫びながら、ルシェイナさんは民家に飛び込み、僕の操るオークを昇天させた。確かに躁屍を見たことないだろうから不思議じゃないが、全然気にしてない様子でバトルオークに突っ込んでいく。なんか実況中継してるみたいだ。


 嵐のように僕を助けて行ったルシェイナさん。彼女の被害にあったハウンドたちは絶命していて、元からHPが減っていたのか、スパルタンの攻撃力が異常なのか。最初にバトルオークを攻撃したときはそんなにダメージを与えたようには見えなかったからたぶん前者なんだろうけど、生死確認を全くしなかったあたりが手強い。もし生きてたら僕死んでたかも。


 という僕の心配は杞憂だったみたいだ。後ろからえみさんとナイトが一人、駆けつけてきた。


「ル、ルシェたんあんなに嬉しそうに……」


 全速力だったようで、スパルタンとライトメイジの敏捷の差がよく表れている。そういうのも考慮しての辻斬りだったのなら、ルシェイナさんもやっぱり相当慣れてるな。

 僕はハウンドの一体に躁屍をかけて、民家に送り込んだ。


「ルシェイナさん、そのハウンド殺さないで!」

「なんでよ!」


 叫びながらも、一応は攻撃しないでいてくれる。というより、バトルオークのHPがなかなか削れないからかまってる暇などないのが本音だろう。オーシーが盾になっているが、リーチの短いスパルタンはどうしてもバトルオークの攻撃射程に入らなければならない。


「ルシェたんのお世話は任せて」


 えみさんがオーシーにフィジックをかけてくれる。もう一人のナイト、ええと……カイトだ……は、他のモンスターが近づいてこないか見張っている。


 さあ、ここから正念場だ。


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