バトルオークをすりつぶせ
CH豆知識:デスペナの時間は睡眠時間としてカウントされない。カウントされても30分くらいだけど。
妙に頭がすっきりしている。昨日の夕方前から今まで寝続けていたんだから、そりゃまあ当然か。半日以上眠りこけてたからな。
ユージン達は僕を部屋に放り込んだあと、日没までレベルアップに精をだしたらしい。おかげでトシヒコですら僕と同じレベル7になっている。これで『伏兵』のMPには十分だ。
港が見えている。
この山の麓からは、急いで30分ほどだろうか。一応城からここに現地集合。
もっと近づかないのは相手側の哨戒範囲による。僕らが昨日見つかったのは、ちょうどモンスターが出てきたあたりだと考えられる。よって哨戒範囲をそこと推測。それより内側はない。
WWでは、哨戒範囲内での見つかりやすさは集まっている人数による。だからおよそ160人の今回は大事をとってこの場所。
各小隊の隊長達が集まって、作戦の確認だ。
小隊は全部で28。微妙に人数と会わないのは六人に足りない小隊がいくつかあるからだ。臨時を組んだ人たちで、職業構成も後衛に寄っていたりとセオリーから外れている。余り者で組んだらしい。
正直、乱戦になりそうな今回だと、それでも多少は無茶が効くはずだ。
「拠点を奪還するには敵リーダーの排除が必要だ」
ノリアキングがさんざん話合った(らしい)ことを改めて話し出す。僕も一応、道すがら聞いていた。だが最初に話してくれたのがエリスレルだったのが問題だ。
あっちに飛びこっちに飛びで筋を把握するのが異常に困難だった。諦めてユージンに助けを求めたけど、それでも把握が困難なほどの後遺症をエリスレルは残していった。
だけどまあ、とりあえずここでどうにかしよう。
こいつな、とノリアキングはバトルオークの情報を共有する。
「だから全員でこいつをボコせばいいかっていうとそうじゃない。物理的に不可能だ。サイズは人間の倍くらいだからな」
せいぜい4人でも同時に殴れればいい方だろう。射程の長い後衛がいればどうにでもなりそうだけど、そうは問屋が卸さない。問題がある。
ちなみにその『問題』を僕はさっき知った。恥ずかしながら。
「集中攻撃は得策じゃない。誤射があるかもしれない」
そうなのだ。
今まで気づかなかったのが異常、というか僕があまり前衛に注意を払っていなかったからかもしれないが、CHにはいわゆるフレンドリーファイア(以下FF)、同士討ちがある。
実はいろいろとゴタゴタがあったらしいんだけど、僕らはイイリコさんのことにかまけてて知ることがなかった。いや、どうやら僕の小隊でもユージンとガートランド、オーシーとオトメノは知っていたらしい。
「なんでしらなかったんすか」
うるせえ。ヘルプに書いてないじゃないか。てかエリスレルはなんで知らないんだ。
言い訳だが僕が気づかなかった原因は結構ある。前衛の世話をユージンやオトメノに任せていたこと。イイリコ小隊に限っては一度もFFが出ていなかったこと。僕自身にFFを誘発するダメージソースがないこと、などなど。
だけど情報の共有が大事だと言っている割に、ノリアキングは教えてくれていない。知ってて当たり前だと思っていたのか、それとも僕がいろいろ頼み事をしているからそれとギブアンドテイクなのか。
まあ、今はいいよそれは。問題はこのFFのせいで後衛もあわせてのバトルオークフルボッコ計画が使えないことである。
フェアリーメイジやグローバの魔法が、オークを殴る前衛にあたってしまうのである。
実際のところ、ルシェイナさんが初回防衛戦の時に「突っ込みすぎて死んだ」のも、スーパーマギのFFが原因だったらしい。らしい、ばかりで申し訳ないが、僕は本当に話を聞いただけなので真偽のほどは知らん。言ってしまえばみんなが僕を担いでたっておかしくない。
「だから、バトルオークを囲む前衛は最小限で行く」
それを受けた上での、これはノリアキングの案だ。
「平均レベルが高い小隊を三つ、バトルオークにあてる。俺のところ、ルシェイナ隊、マルコ隊な。前衛は全部で八人。ナイトが五人いるから、順番に挑発。サムライが仁王立ち、グラップラーは内気功で攻撃を耐える。それを後衛が回復でサポートしてくれ。薬は多めに持たせてある。その上で魔術師組が集中して叩く」
小隊戦の、ちょっと規模を大きくしたものだ。
ただ通常であれば雑魚を無視してバトルオークに吶喊するのは難しいだろう。どうしても正面から削っていかなければならない。
そこでだ。
「ただし、これは開戦後の話だ。今タクティシャンがみんなに伏兵をかけている」
今回のキモ。タクティシャンの『伏兵』。
任意の対象を不可視に、そして動作音も聞こえなくする。接触するか声を発した場合、無視できないほどの大きな音を立てた場合、相手が看破スキルを所持していた場合に解除される。つまり殴りかかったりスキルをつかったら効果が切れるわけだが、そのアクションはいくつかの例外を除き自動成功、もしくはクリティカルになる。これは以前に確認したこととあまり違わない。補足事項として、『伏兵』状態のプレイヤーがエンカウントした際、タクティシャンが同じ軍団に所属しておりなおかつエンカウント状態でなかった場合も解除されてしまう。
「トシヒコのおかげで、俺たちは雑魚との戦闘を回避してバトルオークに近づける。港に入ったら探す。見つけたら武器を掲げて合図してくれ。ちなみにトシヒコは自分にかけることができないから、10小隊とともに港の外で待機。雑魚を引きつけてもらう」
10小隊。多いか少ないかは相手の出方によるが、バトルオーク討伐隊のことを考えると妥当な線だ。
「戦闘にあたっては奇襲を仕掛ける。人類側には一人だけ、遠距離からの即死スキルを持つヤツがいる。ガンナーのエリスレルだ」
いまさらガンナーのことでざわついたりはしないようだ。エリスレルは昨日、ずいぶんと有名になったらしい。
「最初に仕掛けるのはエリスレル。バトルオークを狙撃してもらう」
僕は反対だった。今回はタクティシャンの有用性をはかるため、是非とも正面突撃がよかったのだ。それに、こんな策を弄するような相手だとも思えない。
だがうまくいけば無傷で勝てるとなれば、賛成の手を上げるヤツが多いのも事実。
「それでオークが死ねばよし。だが即死耐性持ちだった場合は、最初に言ったような陣形にシフトする。あとは集中攻撃で、手早く倒すぞ」
ノリアキングも、あまり説明がうまい方ではない。この説明は順序がバラバラだからまとまりにかける。といっても、昨日の時点で全員が知っている作戦だ。多少わかりにくくても問題ない。
僕もユージンの話とエリスレルの雑音で補完することで、やっと理解出来た。策を弄しすぎているキライはあるが、こうやって最初から組織だった戦術をとるのになれていると、後々有効そうだ。
まさかそれを考えてやってるのか。
「オーク討伐隊はノリアキ隊、ルシェイナ隊、マルコ隊、閃光のジェスト隊、もとちゃん隊、カトー隊。最後の二組は全員が後衛だから、ボストロール隊、オオトモ隊が護衛。残りの20小隊を街の中と外、半分にわける。外組には伏兵はかけないから、見えるまま突撃。雑魚を引きつけてくれ。注意点として、必ずトシヒコをエンカウント状態にすること」
ノリアキングから見て右手の小隊長が頷く。
「その間にオーク討伐隊と中組は迂回して街に入り込む。オークを探し、見つけたら武器を掲げて知らせる。全員が位置に着いたあと、エリスレルの狙撃を市街戦の合図にする」
今度は左側の小隊長が頷く。
「じゃあ、伏兵をかけたら開始だ」
本当に見えていないのか、これが気になる。
僕ら人類側からは、伏兵状態になってもお互いに認識可能である。逆に言うと『見えないと確認できる人間がいない』。これは初めてつかうスキルでは少々心許ない点だ。
ちなみに伏兵がかかった時点から、僕らは一言も喋ってはいけない。だから平原を小走りの今、誰もが無言だ。
僕の小隊は変わらず前衛がガートランド、オーシー。中衛が僕、エリスレル。後衛がユージン、オトメノ。
ちょうど前、先頭をノリアキングとルシェイナさんの小隊が走っている。城を出たあとは戦いながらでもベラベラ喋っていたルシェイナさんも無言。
僕らから離れてタクティシャン護衛組が、こちらは不必要にガヤガヤと騒ぎながら進んでいる。モンスター達の気をひくためで、釣られた連中がポツポツと飛び出していた。
ここが最初の山場だ。
伏兵は、相手が看破のためのスキルを持っていると見破られる。伏兵自体がWWになかったから、WWの既存スキルで見破れるかはわからない。しかしスキル説明にそう載っているのだから、看破の方法があること自体は間違いない。
もしバトルオークが看破スキル持ちだったら、この作戦はいきなり破綻だ。僕としてはそれでもかまわない。どちらにせよ勝てる戦いのはずだし、街の外で見つかった場合、僕らが孤立するわけでもない。
だけど隠れているところを見つけられる、というのはある種の恐怖を想起させる。
「エンカウント!」
しばらく進んだところで、タクティシャン組の先頭で叫び声があがった。
鼓動が早くなる。
剣戟の音、魔法の発動、飛び交う指示。タクティシャン組は戦いながらも、じりじりと港に近づく。それを受けてか、港からはモンスターが続々と出てくる。
……
僕らには目もくれずにタクティシャン組に突撃するハウンドを見て、多少安堵した。
見えていない。
ノリアキングが進路を変えた。
不意に足下の感触が変わる。石畳のそれ。
街に侵入した。
ここから僕らはある程度散開してバトルオークを探し始める。
敵のリーダーだ。モンスターにも作戦本部があるならば、そこにいるに違いない。
モンスター達の気が立っている。わらわらと外に出て行ったり、こんな奥で雄叫びを上げていたり。万が一にも接触しないよう、こっちとしては気が気じゃないぞ。
残っているのは鈍足のオークが中心で、ハウンドがちらほら。スワローはほとんどいない。空を飛ぶスワローがいないのは嬉しい。昨日の全滅やWWでの経験からわかるとおり、あいつらは前衛を無視して後衛を攻撃してくる。
この港町は意外と立派だ。おそらく城下町のような扱いなのかもしれない。二階建ての建物が多く道も広い。地面は綺麗に整備されていて、住んでいるのがモンスターでなく人だったら、花が溢れていただろう跡も見える。
よく作り込んでるよ、まったく。
立ち止まって息をつく。やっぱりネクロマンサーの体力は貧弱だ。
横に並んでいたユージンが視線を向けてくる。
大丈夫だと頷いて、また視線を町並みに戻す。
その視界の端にきらめく、剣。
先頭のガートランドが合図し、僕らは急いで街の中心、広場に向かう。
そこの一段高くなっている枯れた噴水に、そいつは仁王立ちで立っていた。
すげえ目立ってる。探すとか、そういうことをしていたのが馬鹿らしいぞ。
手で合図。ものの数分で配置完了。オーク達が邪魔だが、どうにかノリアキングを初めとした前衛がバトルオークを包囲。その外側にメイジ達がずらりと並び、総数13名。
僕らはバトルオークの背後に回って、いつもの並びに構えた。
ガートランドとオーシーが最前列。僕とエリスレルがその後ろ、最後尾をユージンとオトメノ。
準備にかかる。エリスレルに目で合図すると、僕は両耳に手を当てた。左側を無理にたたむので、ちょっと窮屈だ。
そして、エリスレルが僕の左肩に右腕を添えた。
ガンナーの『狙撃』は、グラップラーの連続拳と同じように、条件を満たしたときに自動発動するスキルである。
その条件は、武器を両手で構えること。そして利き腕をなにかで固定すること。
これで通常よりダメージが上がる。弱点にあたった場合、即死もあり得る。
昨日の戦いで、エリスレルは地面に伏せることでその条件を満たした。だがバトルオークは僕らより高い位置にいる。伏せた場合、狙いをつけるのが難しい。
そのための僕だ。
僕の肩で右腕を固定し、条件を満たす。銃撃が耳に深刻なダメージを与えないよう、僕は厳重に栓をする。
エリスレルが動かなかった場合、それは文句なしの合図。
僕は右腕をそっと耳から離し、オークのすぐ近くに立ってこちらを注視しているノリアキングに親指を立てた。すぐに戻す。
それから一呼吸置いて、
ノリアキングが剣を掲げる。
僕の左肩で、エリスレルの腕に力がこもった。




