え? 死んだよ、当たり前だろ。
「すっごぉい、ねえねえ、どうやって当てたの?」
ドヤ顔で水を飲むユージン。最後の水だぞそれ。結局川に立ち寄る暇なんかなかった。
つーか僕ら、全滅したし。
僕の心配もよそに、エリスレルは元気だ。やるなエリスレル。オトメノはまだ机に突っ伏しているのに。
「ジェストさん、肝心な所でへたれっすからね。イイリコさんっていう大義名分があるから強引にタクティシャンに迫ったり俺らに指図してましたけど、逆にエイタローさんやイイリコさんのあの様が原因で、二度と全滅するつもりなんてなかったはずっすよ」
なんだこいつ。
「だから勧誘のときにみんなに伝えておきました。山での作戦が妙に消極的だったんで確信したっすね。なんすか、デス戻りはできるだけしたくないって。遠くから見ただけじゃ建物でリーダーなんか見えるはずないっすから、逃げるのが不可能な距離まで接近しなけりゃいけないのは出発前からわかってたでしょうに。中途半端なんすよ」
言いたい放題言いくさりやがって。
「説明ご苦労さん。死ね」
「ただ従順なイエスマンだと思ったら大間違いっすよ、ガートランドさん。特に伏線とかしいてないっすけど」
「俺はたまにお前がなに言ってるのかわからん」
ようするにこいつは、僕がいろいろ指示を出すのに同調したり頷いたりしてる裏で、どっかでのサプライズを企んでいたわけだ。
うぜえ。
「でもおかげで、リーダー、見つけたじゃないすか。感謝してください」
僕らはサンダマスヴェリアの食堂にいる。
デス後の復活、それに伴う痛みが治まって、今だ。
だからしばらく時間を戻そう。
「お、おい、待って!」
「まーかせろ。承知済みで引き受けたんだ」
言いながら、のしのしと歩いて行くオーシー。こいつ、さっきはエリスレルの銃声でびびってたくせに。キャラも薄かったくせに。今じゃガートランドの方がなんか薄いぞ。
「それに、ウルフキングよりは勝ち目がありそうだし」
「ユージンさんからきいたよ。死ねるときに死んでおく、でしょ」
エリスレル。ユージンのやろう、そんなことまで言いやがったのか。てかなんでユージンはさん付けなんだよ。
「ホントに……言った……俺、そんなこと言わない方に賭けてたのに」
死ねよ。
あ、ちょっと待て。てことはオトメノも……?
「あとでちゃんと請求するので」
承知済みか、ちくしょう。なんか悩んでたのがバカみたいだ。
「……じゃあ、念のため、エルとオトメノさん」
「なあに」
「痛いんで、半端なく」
「うわあ、なんか仕返しに脅された気分」
言ってろ。そっちが悪いんだからな。
……
よし。
「ここからエルは戦力外です。リーダーを見つけるまで鷹の目集中で」
「おっけ」
「オーシーとガートランド、二人はエルがリーダーを見つけるまで死んでも死なないように」
「なんだよその指示」
「ってかなんで俺のことオーシーって呼ぶの」
あ、しまった。
いいや、もう知るか、そんなん。
「今からだとMP回復間に合わないから、フィジックはなし。ユージンとオトメノで前衛を全力回復。僕は好きにやります」
「なんすかそれ」
「考えてなかったんだよ。文句たれるな」
来る。
今や一つの小規模の波となり、モンスター達が攻めてくる。
「鷹の目、いきます」
迎え撃つは六人。
僕らが、今度こそ、人類の先鋒だ。
「エンカウント!」
表示されたモンスターの絶望的な数!
ハウンド十二体!
「よっしゃ、こいや!」
「竜の加護よ!」
二人が挑発とドラゴンハートを発動し、踊りでる。
その間に僕は見る。僕らを囲むようにハウンドは広がろうとしているが、この数だ。
「ブラインド、行きます!」
ターゲット、ブラインド発動。
今まさに飛び散ろうとしていた五体に直撃し、全てに盲目が付与される。マジで運がいい。
もういっちょ!
「ブラインド、行きます!」
今度は逆サイド。今度は四体中三体に付与。
実に十二体中、八体が盲目!
第一波の大半を無力化に成功した、とはいえ、ほくそ笑むような状況じゃない。目の端にエフェクトがかかって、リンクだ。
空からブラッドスワローが七体!
どうすんだこれ。
今のブラインド二回でMPは種切れだ。一回分溜まるには少し待たないといけない。それにスワローは空を飛ぶ分、ハウンドよりも範囲魔法は効果が薄い。
「オーシー、ガートランド、とりあえずどれか一匹に集中して!」
この量だ。ハウンドの大半は突然の暗闇に恐慌をきたしているが、二人じゃとても抑えきれない。僕も殴りに行かなければいけない。この非力なネクロマンサーで、どうにかなるか?
いや、ハウンドに大してネクロマンサーの攻撃は蚊も同然だ。ここは――。
「ジェストさん! スワローっす!」
だよな、やっぱ。
ブラッドスワローが狙うのは、鷹の目で無防備になっているエリスレルだ。もともと鷹の目は戦闘中につかうスキルじゃないし、遠くを見ているから逆に近くを見ることができない。聴覚だけで場を把握することの恐怖!
それでもエリスレルは鷹の目を続けている。そこに容赦なくスワローが襲いかかる。
だから、彼女を守るのは僕の役目だ。
WWのゲームであれば、いったんタゲを取られた場合、かばうなどのスキルがない限りは必ず攻撃される。だがCHではリアル判定が導入されている。
……そういや、そう考えていただけで実際に試してはいなかったな。
ええい、ままよ!
僕は矢のように飛来したスワローに向かって、エリスレルの前に飛び出した。
できるか?
できるよな。
できますように!
ずん、と右肩を貫くような衝撃、痛み。
「ぎゃっ」
と前世紀の漫画のような悲鳴を上げる。これ、マジなんだって、この悲鳴。
痛いんだよ、マジで!
あまりの衝撃に、僕の体が仰向けにすっころんだ。時速何メートルなんだよ、こんな突撃してきて、刺さってるじゃねぇか。スワロー、こっからどうするつもりなんだよ。
と、僕は運がいいのか悪いのか、ここで左目を閉じていた。痛みのためだが、それがコマンドになって、メニューが表示される。
HPが三分の二になっている。
マジかよ! いくらレベル7だからって、スワローみたいな雑魚相手に!
じゃない、僕は今ネクロマンサーなんだ。ナイトじゃない。ホーリーナイトじゃない。
だから、
「ジェストさん!」
がむしゃらに起き上がる。右肩の痛みに耐えながら、起き上がる。
巻き込んだのは僕だ。承諾したオーシーや、エリスレルや、オトメノがどうだったかなんて関係ない。
だからこういうときは、絶対に役目を果たさないといけないんだろ。
わかってるよ。
視界に、三羽のスワロー。弾丸のように飛んでくる。
右腕に刺さったのを抜きながら(半端なく痛い)、今度こそ、僕は覚悟を決めた。
だってさ、杖振ったって当たんないじゃん。
だから中途半端な動きをして、万が一にもエリスレルに攻撃が当たったらアホだろ。
僕の役目は、空からの攻撃、その盾。
うん。
「ジェストさん、ブラインド!」
オトメノの声!
それと同時に僕の体が青い光に包まれた。
そこから僕はあまり覚えていない。
MPが回復したような気がしたから、僕はブラインドを撃った気がする。思えば、なんであらかじめオトメノの持ってる薬の種類をきいていなかったのだろう、と不思議だ。
それこそ、たぶん僕が及び腰だったことの証明だったのだと思う。MP回復薬が必要な状況を想定するのを無意識に避けていたたのだ、きっと。
三体のスワローが目標を失って、僕の直前でぎゅるりと進路を変えた。そのまま直進すれば、少なくとも僕を殺せたはずなのに、アホだ。
内二体は地面に激突して自爆。一体はあらぬ方へと飛び上がり、旋回を始める。
僕はその瞬間、躁屍を発動した、気がする。
死んだばかりのスワローがバタバタと羽ばたき、飛んだ。
なにを考える時間も惜しい。一直線に、前衛二人が相手しているハウンドに突撃させる。かなり削れていたHPが、スワローの矢で一気に無くなった。二人は驚いたようだが、いい加減ネクロマンサーのやることにも慣れている。今度はばらばらに、三体のハウンドを相手に。
そこでさらにリンク。十体のハウンド、六体のスワロー。
僕はすぐにハウンドに躁屍をかけ、ガートランド達に援護させた。
そのガートランドにユージンのヒールが、そして僕に薬草が飛んだ。
僕のHPが満タンに。
その直後、さらなる衝撃。激痛。
二カ所。
あ、やべえ、これスワローだ。確か最初の七体の内、死んだのは四体。
だから、残っていた三体が、
「――見えたっ」
僕の背後で、エリスレルが叫んだ。
「リーダーは見たことないやつ」
エリスレルは僕らの視界に、鷹の目で得たモンスターのステータスを表示させる。
うむ、確かに見たことない。
オークに近い。だがオークはこんなゴツい鎧着てないし、鋼鉄製の斧も持たない。そういったことまで知恵が回らないのが特徴のモンスターだ。
だがこいつは、鎧に身を包んだオーク。
「バトルオーク」
安直だなおい。レベル13。
目を見張るのはHPの高さだ。1200。これがどのくらいなのかというと、ハウンド十体分。シャレならん。
ガートランドの攻撃でハウンドに一回30ほどのダメージなので、大体どれくらいかわかるだろう。防御も高そうだし。
だが、これはランサーの攻撃力が前衛にしては低いのも関係している。ナイト三人で持久戦に持ち込めば、回復をミスらない限り負けない、気がする。斧の攻撃力がわからんけど、たぶん。ふと狙撃も浮かんだが、こういうの、たいていは耐性があるんだよな。
「これ、妙な部分だけわかってるな。バトルオークのステ自体はレベルとHP、MPしかわからんけど、街のモンスターの総数がなんでわかるんだ」
ガートランドの指摘はもっともだけど、そういう仕様なんだろう。上位スキルであれば、もしかしたらさらに詳細がわかるかもしれない。
その表示されている戦力によると、港の街を守るのはオーク60、ハウンド80、スワロー50。
アホか。なんだこの数。
「いい案ある人」
「エリスレルちゃんが狙撃してあげるよ!」
却下。いや採用してもいいけど、耐性はともかくとして、エリスレルの射程に届く頃には大規模な戦闘圏内だ。どちらにしろ敵の戦力に対抗しうるだけの人数が必要である。
だとすると、やはりノリアキングに協力を要請するほかない。というか僕らだけじゃどうしても侵攻するための人数がそろえられないのはわかりきっていた。
だがこの位の戦力が待ち受けているのなら、こちらとしても大体願ったり叶ったりではある。
タクティシャンのお披露目にはちょうどいいじゃないか。
僕はジュリアさんとノリアキングに連絡を取った。




