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優柔不断ネクロマンサー、その名はGeste

「モンスター、来た」


 エリスレルの言葉。

 やっぱきた。

 僕らは港街からわずかの距離まで接近している。といっても「鷹の目」でやっと把握できるくらいなので、出てきたモンスターがすぐに驚異になるというわけじゃない。


 問題はモンスターがなんであるか、だ。


「ファットオークが二体。ハウンドが二体。ブラッドスワローが二体。いあ、ちょっと厳しいね」


 確かに厳しい。が、とりあえず今は前進する。


 鷹の目で得た街までの距離から考えるに、接敵まで五分ほど。まだ補助魔法などをかける状況じゃない。というか、正面からぶつかるようなことは勘弁だ。今の戦力じゃ無傷で勝てない。

 フォレストベアは結局、時間切れで霧散してしまった。一体刈り取ろうかと思ったが、しばらく戦っても出てこなかったので諦めたのだ。


 参考までに比較すると、この中での強さはスワロー<ハウンド<オークとなる。ただしそれぞれモンスターの特性が違うので単純比較にあまり意味はない。オークは攻撃力、ハウンドは機動力、そしてスワローは飛んでいることが特徴だ。


 順当に当てるならば、一番の高レベルであるオーシーをオーク二体に当てる。一人では厳しいが、フィジックをかけた上でファーマシストの援護があればそれなりに耐えうる。その間に残りのメンツでハウンドを屠り、ガートランドがオーシーに合流。ハウンドを躁屍で操って一緒にぶつける。僕とエリスレルがスワローを相手にし、片付けた後、全員でボコる。


 ただその場合、問題は僕とエリスレルの火力不足だ。蛇の件でわかったように、ガンナーは小さい敵には攻撃を当てづらい。空を飛んでいるとなればなおさらで、おそらくこれからハンターなどにとっても悩みの種のはずだ。


 オークとハウンドも、初日の襲撃時のモンスターと比べたら2ランクほど強敵である。フォレストベアなんかよりも強いから油断は禁物。スワローがかなりの時間邪魔になるから手こずるに違いない。


 だから僕はとりあえず、エリスレルに頼ることにした。


「エル、モンスターの情報を共有してください」


 すぐに目の前にステータスが現れる。どれもWWと共通している。そこまでは問題ない。

 だが、山の上で僕が提案した進み方は不可能だ。思ったよりモンスターが強い。


「オーク狙撃までどのくらいの距離が必要ですか」


 エリスレルは驚いたように僕の顔を見た。


「オークは遅いからちょっとくらい遠くても大丈夫……って言いたいけど、失敗したくないから20メートルくらい」

「外した場合、連発はできますか」

「リチャが一分あるから、エンカウントまでは無理だね」

「それじゃあ、70メートルまで近づいたらストップ、モンスターを待ち受けます。エル、オークを狙撃してください。デスがうまくいったら僕が操ってもう片方を殴らせます。オークは遅れるから、ガートランドとOC=Uさんでハウンドをお願いします。僕とエルはできるだけ早くスワローを落とす。これでどうでしょう」


 僕らの強みはネクロマンサーとガンナーだ。この二つの新職業のおかげで、WWではできなかった戦略が取れる。


 ただ、それらの斬新なアイデアは、つまり今まで一回も採用されていないってことで……


「大丈夫か?」


 と前衛二人は心配顔。特にエリスレルの腕前に疑問を抱いているようだ。まあ、しかたないことではある。


「狙撃が失敗しても倒せない敵じゃない。その場合、ちょっと痛いかもしれませんがオトメノさんがいるので死にはしません」

「痛いの、あんま好きじゃないから。成功してくれよ」


 とオーシー。あんまりプレッシャーかけんなっての。


「まま、任せてよ。No1ガンナー、エリスレルちゃんだよ」


 それはガンナーが一人しかいないからだ、と心でツッコむ。いや、スパルタンとガンナーに関しては人数を確認してないから、もしかしたら数人いるかもしれない。


 予定地点にたどり着いた僕らはモンスターを待ち受ける。


 そのとき突然、ハウンドとスワローがスピードを増した!


「落ち着いて。エルは予定通りオークを。ユージン、前衛にフィジック。前衛は少し前に出て、ハウンドがエルまで届かないようお願いします」


 ちょっと予想外だが、そもそも相手の足の速さには違いがあるのだ。先にこちらを攪乱して、その後オークが突撃してくるのなら戦略として不思議じゃない。


「僕はモンスターにブラインドを。エル、心配しないで、オークだけに集中してください」

「お、おっけ」


 おもむろに地面に伏せるエリスレル。肘をついて、両腕でロングバレルを構える。


「任せて」


 よし。とりあえずは作戦通りに。


 モンスター達は互いに位置が離れている。ブラインドは対象から4メートル以内の複数に盲目を付与する魔法なので、今回はどいつを狙っても一体だけだ。


 となると、こちら側に盾がなく、エリスレルを直接狙いうるスワロー二体にかけるのが最適解。


「フィジック、行きます」


 続けざまに二回、ユージンから光が飛んで前衛二人を包む。

 同時に、


「よっしゃ、こいや!」


 オーシーが挑発しつつ、ガートランドと共に躍り出た。ハウンド二体、スワロー二体とエンカウント!


 エリスレルの言った20メートルにオークがたどり着くまで30秒ほど。それまで彼女を守り切る。


「ブラインド、行きます!」


 続けて二回ブラインド。黒い霧が飛び、スワローの頭にそれぞれ命中、まとわりつく。よし、きいた。


 視界を奪われたスワローは一瞬態勢を崩したが、なんとか飛び続けた。だが僕らの位置を把握できなくなったようで、大きく旋回し始める。


 僕のMPは多少残っているが、ブラインドには足りない。躁屍の必要MPは1なので問題ないが、これ以上の援護はできん。フィジック2発のユージンもそんなところのはずだから、回復はオトメノに任せる。


 エリスレルの射線に前衛が被ってないかが心配だが、なにも言わないので大丈夫だろう。たぶん。


 さっきからエリスレルは微動だにしない。


 これが集中力のたまものなのか、もしかして僕らの動きは全部感じ取っていて実はまったく集中できていないのを隠しているのか、とにかく言葉をかけてよいものかわからず、僕はスワローの動きに注意することにした。


 そして、


「いきます」


 と一言。


 ガウン、とロングバレルが火を噴いて、僕は反射的に杖の先をオークに向けた。ターゲッティングしたオークの頭に、血しぶきが飛んだ。


 HPがゼロに。


 きたっ!


「お前の体は俺のもの!」


 両手で杖をつかんで『躁屍』。

 ユージンが吹き出す。まだ慣れてないのか。気がつけばエリスレルも伏せたままぷるぷる震えている。山の中からずっとこれで、なんか気にするのもめんどいからマクロ変えようかな。大事なところでこのせいで笑って死んだ、だとシャレならん。


 とにかく、オークへの躁屍は成功。ただしレベル差があるからあまり長くは操れない。すぐさま隣を歩くオークを攻撃させる。棍棒で一撃。


 減ったHPの量を見るに、倒せるまでは行かないようだ。だが確実に足止めはできるし、かなり削れるはずである。他のモンスターに対処するため、細かい操作は放棄してただ殴らせる。


「エル、ハウンドをお願いします。スポイルまで結構かかる」

「おっけ」


 立ち上がるエリスレル。まだ顔がニヤついている。そんなに面白いかコレ?


「前衛、エルがフォローいきます!」


 叫んだと同時に、オトメノの薬がガートランドに飛んだ。フィジックがかかってるとはいえレベル7。HPの減りが早い。


 スワローのブラインドはまだ切れない。十分。僕のMPは回復しつつある。





 作戦がはまれば楽なものだ。倒れたオークを確認し、スワローも退治した僕らはさらに前進する。


「やっぱかっこいいよ、ジェストくん」


 エリスレルの声。


「それより、他にモンスターは出てきてないですね」


 ここまで近づけば街の感じは目視でつかめる。正確を期すため、というより、話をそらす意味で僕は尋ねた。


「出てきてないよ」


 素直に応じてくれるあたり、彼女も協力的である。


 しかしちょっとおかしいな。


 さっきオーク達が出てきたということは、それが単なる偶然でない限り僕らは街から捕捉されているということだ。にも関わらずあれ以降の反応が見えない。


 AIがただ単にバカなのか……もしかすると、僕らが一定以上近づくと、一斉に主力が出てくるという罠かもしれない。


 ただし、それもある程度(僕の中では)想定済みではある。避けたい避けたいといいつつも、いざとなったら僕らは死ねる。


 だから、ここはあえて強行で行こう。雑魚を釣り出すかどうかは出てくる戦力による。ハウンドやブラッドスワローは僕たちより足が速いから、そういうのが大挙してきたらもとより逃げ切れない。


 さっきは小隊の安全を確認といいながら、心の中ではこんなことを考えている。


 つくづくクズだな、僕は。イイリコさんを早く迎えに行くため、という言い訳が出てくるあたり救いがない。


 道中確認したところ、このメンツでデスを経験していないのはエリスレルとオトメノ。オーシーは僕らと同じくウルフキングにやられている。


 だから、死んで怖いのは二人だ。できるだけ死なせたくない、という気持ちは確かにあるにはある。それと時間的な制限を天秤にかけているだけだ。


 いったい僕はなにがしたいんだろう。


 ゲームを攻略する。これはもちろん。イイリコさんを迎えに行きたいのももちろん。そのためにこの強行が必要なのもわかっているし、その結果、小隊が全滅する可能性も考えている。


 にも関わらず、死にたくはない。死なせたくはない。


 自分の方針すら定まっていないのに、なんで指揮官きどりなんだ。


「来た」


 戦闘のガートランドが、不意につぶやいた。全員が緊張する。


「やべえ、とんでもねぇ量だ」


 それが契機で――

 数える。点がいち、に、さん、よん、ご……じゅう、じゅういち、じゅうに……じゅうご!


「退却! 逃げろ!」


 これが僕の出した答えだった。


「え、ちょ」


 振り向いたのはユージン。僕はすでに増えていくモンスターを数えることは放棄している。


 わかってるよ、台無しだって言いたいんだろ!


 でもやっぱ、ウルフキングは僕にも強烈な後遺症を残しやがった!


 僕のせいで誰かがログアウトするなんてごめんなんだ!


「って考えてるっすよね」


 うるせえバカヤロ。



 ……ん?


「俺、結構ジェストさんのことわかってるんっすよね」


 なんでユージン、笑ってんだよ。エリスレルも。

 ガートランドはなにを驚いてるんだ。


「……げえ、本当に言った」

「なにを」


 誰も逃げない。遠くから迫ってくるモンスター達に、なかば悠然と構えて、


「絶対逃げ出すって言うと思ったっすから、あらかじめみんなに伝えておきました」


 僕も……あまりのことに、逃げ出すことも忘れて、


「行くよ、ジェストくん」


 はあ?





「敵の戦力、確認するんだからね」 

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