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山の上からコンニチワ

 連戦。


 ベアはそれほどでもないが、この林には蛇が多い。次から次に降ってきて相当神経が削られた。苦手なんだよ、悪いか。


 マウンテンボアというモンスターで、一体一体は弱いがとにかく量で攻めてくるのが特徴だ。前衛が少ない僕らのパーティでは、斬り漏らしたものが後衛に寄ってくるためやっかいである。


 こういうときに活躍するのが躁屍で操っているフォレストベアで、序盤の雑魚の中では高い攻撃力でブチブチと蛇を踏みつぶしていくのが爽快だった。そのおこぼれをオーシーとガートランドが頂戴する。


 蛇を相手にした場合、エリスレルは驚くほど役立たずだった。敵が小さく細長いため、狙いがつけられないのである。ある程度の補正があるとはいえ、ガンナーはハンターと同じくプレイヤースキルが重要らしい。


 最初の方は乱発して弾を無駄にしていたが、途中で諦めた。僕とユージンが中衛に出て、杖で攻撃した方がよほど効率的だ。金もかかるし。


「ネクロマンサー、便利だねぇ。熊が味方なら楽勝だね!」


 エリスレルが言った直後に、ベアが霧散して消える。


「え、あれ? いあ、あの、ええと、あたしのせい?」

「ただ制限時間が来ただけです。しばらくはOC=Uさん、ガートランド、頑張って」

「まあ、漏らさないように頑張るよ」

「てか、長いな、この山。いや、丘だっけ?」


 すでに一時間半は上っている。ちょっとづつ息があがり初めて来て、ネクロマンサーの体力のなさを実感する。リアルの僕よりずいぶんマシだけど。


 そのとき、目の端でメールアイコンのエフェクトがひらめいた。ジュリアさんからだ。


 もしかしてタクティシャンの件か?


『タクティシャンがやる気を出しました。お時間あればご連絡ください』


「うお、きたっ」


 みんな警戒する。

 しまった、言い出しにくい。みんなモンスターのことだと捕らえたらしい。


「あ、ごめん、メッセージが来ただけです。ガートランド! ちょっと休憩しよう!」

「はあ? まだ全然いけるって」


 空気読めよこのヤロ。でも確かに、疲れてきているのは僕だけ……みたいだ。


「一気に山頂まで行って、そこで休憩すんべ」


 オーシーの意見を、まあ、採用。ジュリアさんも特に急がないだろう。むしろ急ぎたいのは僕の方だ。


 というわけでここからはさっさと飛ばす。


 もう一度現れたフォレストベアを操って、さらに上ること一時間。午前九時のあたりで、僕らは山のてっぺんについた。うむ、丘だと思っていたけど予想以上に高い。サンダマスヴェリア城がかなり小さく見える。


「うわあ……」


 エリスレル感激。


 そう、ここからだと半島が一望出来るのだ。


 絶景かな、半島の南半分はかなり広いが、その周りを囲んでいるのは青々とした海。さらに向こうは果てしなく、水平線までなにもない。途中で海の青は空の青と混ざり、今度は頭上を遙かに仰ぎ、どこまでも広がってゆく。


 風が心地よかった。


 それよりも注目すべきは、半島の本当に先にある、小規模の街。


 港を兼ね備えた、まさしくそこは、


「あったぞ」


 僕はこのときほど、自分を信じてよかったと思ったことはない。


 五人が頷く。この山登りが徒労に終わらなくてよかった、という安堵と、これから敵地を見に行くという緊張、そして、明日にでも攻め込むための布石を打つという興奮。


 人類の反撃は僕らから始まるんだ。







 でもとりあえずはジュリアさんに連絡。

 みんなから少し離れたところで(ユージンにはわけを話して、適当にみんなの相手をしてもらうよう頼んでいる)、僕はジュリアさんを呼んだ。


『どうも。ジェストです』

『ジュリアです。今、どちらに?』

『城の南の山にいます。攻める拠点、見つけました』

『え……本当ですか?』

『まだ可能かはわかりませんが。今から戦力を調べます』


 この遠くからではさっぱりわからない。街自体が小指の先ほどの大きさだ。中腹ぐらいまで降りて、見晴らしのいいところでエリスレルに鷹の目を試してもらおう。


 問題は敵戦力が大きすぎた場合である。サンダマスヴェリアから一番近い拠点だから、バカみたいな難度だとは考えづらい。が、あの港街よりも近い東の平原でウルフキングが出たりもするのがCHだ。


 念のためタクティシャンを考慮せずになんとか占領出来るくらいの規模が望ましいが、多少であればバクチに出てもいい。しかし、それでもなお手が届かないとなれば、違う拠点を探しにもう一日程度の妥協が必要である。


「今は攻められない」という情報も大切だし、リアル時間には大して影響ないとはいえ、このままでは本腰入れての攻略ができない。

 せっかく選ばれたんだ。僕らの中でイイリコさんが一番楽しもうとしていたんだ。このままログアウトしたままなんて、それだけはあってはならない。


『それで、あの……タクティシャンですが』

『彼は私の小隊で引き取ります』


 そうか、そりゃよかった……え?


『え?』

『ちょうど私もメンバーを探していたところですし、一晩かけてトシヒコさんとも話合った結果なので』


 いや、ちょ、おいおい。


 タクティシャンを小隊に入れる問題点はジュリアさんも認識しているはずだぞ。だからこそトシヒコは引きこもり、僕らは頭を抱えてたんだ。


 それを「小隊に入れるから」ってのは、確かに根本的な解決には違いない。だが僕はそういうことを期待してジュリアさんに説得を任せたわけじゃないぞ。


 ジュリアさんも長年のプレイヤーで、これがゲームだってことも心得ているはずだ。そんなにお人好しなイメージはなかったが、もしこれが僕らに同情しての措置なら困ったことになる。


『ご心配なく、と申し上げておきます。まったく違う事情が関係しているので。それでも気になるのであれば、城に戻られたときにお話しします』


 僕の心情を読み取ったかのように、通信先からジュリアさん。


『これで私の小隊もメンバーが大体決まったので、今からトシヒコさんのレベル上げもかねてウルフ狩りに行きます』

『ウルフキングは日が変わるとカウントし直しですか?』

『そのようですね。夕方頃には城に戻りますので、なにかあればご連絡ください』

『わかりました……その、すいません、なんか』

『そういうときはお礼を言うものです。攻め込み先の件については期待してますよ』

『はい、説得、ありがとうございました』


 通信が終わっても僕は考えをまとめきれずにいる。


 タクティシャン……ええと、トシヒコ……がやる気を出したのであれば僥倖だ。だがそれがなんだかジュリアさんのCHライフと引き替えにしたような気がして微妙な気分である。


 というよりも。


 僕がネクロマンサーを選んだのが原因でエイタローに盾をお願いすることになり、僕がウルフキングでの全滅を主張したことでイイリコさんがログアウトし、ユージンとガートランドには指図してばっかだし、ノリアキングには人捜しに付き合わせてばかり。目の前の食糧問題も任せっぱなしだ。僕らがログアウトするためにトシヒコも引っ張り出した。


 うわ、なんか自己嫌悪。


 自分ではゲームを堅実に進めるための、少なくともイイリコ小隊では最適な選択をしてきたように思っていた。だが実際は、いろんな人に迷惑をかけっぱなし。仲間頼り。


 仲間だけでなく、小隊外のプレイヤーにも寄りかかっている。


 うわあ……


「引きこもりって、気づかないうちにワガママになりがちなんだよな……」

「引きこもりなの?」


 うわああああっ!


 気がつくとすぐ後ろにエリスレルが立っている。ユージン! なにしてやがる!


「お話終わったみたいだから!」


 ビッシとロングバレルを胸にキメるエリスレル。


「それ気に入ってるみたいですけど、アープのポーズとかですか?」

「自分で考えたよ」


 さいですか。尋ねて損した。


「お察しの通り通信は終わりました。出ましょうか」

「まだジェストくんが休んでないでしょ」


 いや通信してる間は棒立ちなので、十分全快している。ということを伝えると、


「休憩ってそういうことじゃないでしょお」


 と背中を押され、ユージン達の元へ。


「お帰りなさい。順調っすか」

「……順調、だね。戻ったら一度挨拶しよう。偵察の準備できてる?」

「出来てるっすけど、ジェストさん、ちょっとくらい腰下ろしてくださいッス。ネクロマンサー、体力無いんだから」

「大丈夫だって」

「鷹の目で見てもらったが、ここから街まで二時間ほどある。戦闘と復路を考えると、十分過ぎるくらい休んでも罰はあたらない」


 オーシー。といっても、戦闘も激しいわけじゃないし、どうせ帰ったら死ぬほどゴロゴロできるので、別に今じゃなくてもいいと思うぞ。


「いざとなったらオトメノさんの薬でなんとかしてもらうよ。時間が惜しい」

「高いですよ」

「今日中には攻められないんだ。日が沈むまでに帰れればいいじゃねえか」


 今度はオトメノとガートランド。なんだこいつら。気味が悪い。なにを企んでるんだ。


「……まあ、いいけど。時間があるなら」

「水分補給もね」


 エリスレルの水を受け取る。そういえば、さっきのオトメノの話だと水は補給できていないようだが大丈夫か。


「あ、これあたしの水だからへーき」


 いや平気じゃないだろ。城にも空っぽなのに受け取るわけにはいかんぞ。


「ほら、あそこ」


 エリスレルの指さした先を見ると、この山の東を川が流れている。城からは見えなかった。どっから出てるんだろうか。


「あそこで補給できるから問題なし。水は多めに持ってたからね」

「ええと……ありがとうございます」


 つーかこれは大発見だ。あそこの港を占拠したら、安定して水が得られることになる。念のため水源を探しに行くことも出来るし、やはり是非とも占拠したい。


「それで、どの辺まで近づくっすか」

「敵のリーダーまでわかればいいけど、せめてどんなモンスターが中心になってるかは最低限。こっちが攻め込むための人数把握に、おおまかな戦力は欲しい。場合によっちゃ戦闘になるかもしれない。ないのが一番だけど、そういう場合はある程度逃げて少数だけ釣ろう。鷹の目はWWと同じように、ステータスまでわかる?」

「わかるよ。ヘルプ読んだ限りじゃリーダーも見たら判別できるし」


 それはありがたい。


「それじゃあ街に近づいたら、ガートランドとエリスレ」


 視線。


「……エルを入れかえる。どうせ隠れるところないし、できるだけ素早く近づこう。鳥系は僕とエリスレルで対処。OC=Uさんとガートランドは港からモンスターが出てくるのに注意して。出てきたときは鳥は僕一人でなんとかするから、エルは情報収集をお願いします。ユージンとオトメノさんはメンバーの状態に気をつけて。特に鷹の目やってるときは全員、エルのフォローに。デス戻りは……できるだけしたくないから。水は帰りに余裕があればってことで。質問は?」

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