【臨時】ジェスト小隊結成【エリスレルちゃん()登場】
二分ちょっと。
僕がジンジャーゼルに降り立つと、ちょうど朝日が登り始める頃だった。城門で待機している狩り組が打ち合わせの真っ最中。
少しオーバーしたみたいで6時半だった。
ちょっと待て。
最後の帝の言葉は何だ?
このままだと全滅?
馬鹿な。まだゲーム内時間で三日目だぞ。そんなに早い段階で進行具合がわかってたまるか。
いや、だけど状況として芳しくないのは事実だ。まさかこんなに大量のニートが発生するとは思ってなかったし、食料事情は全然解決していないし、周辺の地図はほとんどわかってないし、何よりイイリコさんがログアウトしてしまったのは僕にとって大問題だ。
確かにゲーム進行として最良じゃないのは事実。
しかし帝のあの言い方。なんかありそうだな。
有益な情報は得られた。ゲームオーバーの条件。これは時間があればなぜヘルプに書かれていないかも聞きたかったが、今はとりあえずいい。外に出たときにイイリコさん達と連絡が取れる方法も、ある。襲撃の周期についてはダメ元だったから問題なし。
軍団長が変更できる。これはルシェイナさんに知らせておくべきだろう。ただ今は早朝だから、一応メッセージで送っておくとする。
よし。
帝の言葉は脇に。今はとにかく、攻めるところを探しに行こう。
『ユージン、起きてる?』
通信で呼びかける。
『うす。メンツも揃ってるっす。どこっすか』
『外門の前』
『じゃあ南側の門まで来てください』
『了解』
南門に向かうと、ユージンの白いローブが見えた。五人揃っている。ガートランドと……あとは、ナイトが一人、ファーマシストが一人……あと、誰だ?
「間に合ったっすね」
「ごめん。ええと、ジェストです。目的は聞いてますか」
ナイトは頷くと、
「南に村を探しに行くんだろ。盾は任せて」
それぞれ、ナイトがOC=U(以下オーシー)、ファーマシストがオトメノ、最後が、
「ガンナーのエリスレル。エルって呼んでね! 鷹の目、持ってるよ」
ロングバレルを胸元でビッシと構える小柄な少女。でも十年続いてるMMOの上位陣だからどんなに若くても普通に二十代のはずだ。ううむ、複雑。
なるほど。最後の新職、ガンナーだったか。
西部劇に出てきそうな皮の衣装にハット。既存職に比べてずいぶん雰囲気が違うが、新職はだいたい格好は浮いている。真っ黒なネクロマンサー、中華風のタクティシャン、同じなんちゃってヨーロッパでも古代風味なスパルタン。
職業もさすがにネタ切れだったか。
「後衛が多いな。前列二人で行く?」
「その予定っす。回復はオトメノさんに任せて、俺は補助に回ります」
「まあ、後衛も二人攻撃係がいるから大丈夫か。ええと、オトメノさん。つかった薬はあとで請求してください」
「オッケー、その辺はユージンさんと話ついてるから大丈夫だよ」
「あと、エリスレルの弾代な」
ガートランド。そうか、ガンナーは弾丸に金がかかるのか。
「いあ、メンボクない。薬と違って私しか使えないから請求するつもりはなかったんだけど、初日の防衛戦で弾使い切っちゃって。お金もらっちゃった」
とりあえず出発し、話しながら行くとする。小隊長は一応僕。ホストで一番歴が長いのが理由。
「ええと、エリスレルさん」
「エルって呼んで! もしくはエリスレルちゃん!」
ビッシとロングバレルを(略)
「……それじゃあ、あの、エル」
「なあに」
「防衛戦では見なかったけど、戦ってたんですか? レア職だから見てたら忘れないと思うんですけど、忘れちゃったのか」
「たぶん見てないんじゃないかな。城壁の上にいたし」
「城壁の上?」
「そう」
ガンナーの狙撃スキルなのだ、とエリスレルは小さな胸を張った。
狙撃。ガンナー専用の新スキル。
遠距離からエンカウント状態にないモンスターを狙い撃つことができるとのことだ。射程距離は装備する銃のタイプによって増減するが、平均して十メートル。初期装備であるロングバレルでは五十メートルまでいけるらしい。弱点部位を目視で狙い、見事打ち抜けば即死もあり得るとのこと。
「まあ、プレイヤースキルに寄ることになるから、結局近い方が有利なんだけど。ちなみにあたしはジェストくんのこと知ってるよ」
「……どうして、です?」
「レア職だから見てたら忘れないのだ」
こいつ、やりおる。
しかしガンナーも結構難儀な職業らしい。ハンター系職業があまり優遇されていなかった理由として、WWは後衛に物理攻撃力があまり求められない。前衛が十分な火力を持つために、様々な状況への対応力に需要があるのだ。唯一の取り柄として高空を飛行するモンスターに物理攻撃が仕掛けられるが、つまり通常の狩りなんかには呼ばれにくい。
エリスレルの話によると、彼女はWWではハンターの三次職、サジタリウスをやっていたらしい。
「運良く選ばれたんだけど、こっち来てみたらガンナーが新職であるってゆーじゃん? あたしワイアット・アープにあこがれてるから、考えるより先に選んじゃった」
ずいぶんマニアックだな。いやワイアット・アープ自体は西部劇に詳しくない僕でも知ってるくらい有名だけど、女子で西部劇のヒーローにあこがれているというのはマニアックだ。間違いない。
「鷹の目の性能はシーフと同じ?」
「うん。上位スキルは取得できないけど、スキル自体の性能は同じ」
じゃあ問題ないな。
「ジェストくん、かっこよかったよ、この前」
「はい?」
突然なにを言い出すのだ。
「後ろから小隊の人たちにどんどん指示出してたでしょ。ああいうの、やり手だねぇって。ブラインドもうまかったし」
「……まあ、後衛は殴り合いしないですからね」
「いあ、フツー出来ないって、ああゆーの。なんだかんだでWWってゲームだからね。あそこまで臨機応変に指示が飛ばせるのってジェストくんと、あとなんとかキングの人だけだったよ、見てた限りじゃ」
ノリアキングか。あいつみんな知ってるな。
まあこちとらWWは遊びじゃないと言い切れる程度には人生を捧げてきた引きこもりだ。イイリコ小隊は長年付き合ってきた気の置けない仲だし、前からイイリコさんやユージンの指揮で戦ってきたところもあるから、僕らにとっては普通のことである。
「あんな偉そうには言わないんで、いつも通りにやってください。この辺の雑魚だったら気楽にいけるでしょうし」
「ええー、あたし、命令されたい」
あのな。
……と、これが僕とエリスレルの出会いだ。正直、ちょっと変な人、ぐらいにしか思わなかった。
前を歩くユージンがたまに、視線を僕らに向けてくるのがちょっと気になった。
エンカウント。
フォレストベアが二体。
「よっしゃ、こいやっ!」
と挑発しつつ、オーシーが前に出る。ガートランドも続いて、オトメノは後方に。ユージンとともに最後尾に迎え入れ、入れ替わるように僕とエリスレルが中衛に出た。
「フィジックいきます」
ユージンが杖を掲げて、オーシーにフィジック。僕はベア一体を対象にブラインド。よし、ベアは攻撃力が強いから、倒したら躁屍で操ろう。
そのとき、そばで爆発音。
僕らは思わず身をすくめた。攻撃に向かっていたオーシーとガートランドが慌てて回避運動を取り……しまった、ベアの攻撃をもろに食らったぞ。
なんてことはない。今のは銃撃だ!
「あ……ごめん」
と、やっちまった感の強い声でエリスレル。そりゃ、びびるよ。WWで銃撃音なんかなかったからな。初めてのSEに驚いたんだ。
エリスレルの発砲は右側のベアに命中し、一割程度のHPを削り取っている。
「こっちの攻撃だから気にすんなっ!」
二人に向かって叫ぶ。
連続でオーシーが食らう。すぐに飛ぶオトメノの薬草。
「ガートランド、右、お願い!」
「おっけ!」
オーシーを殴っているベアはブラインドがかかっている。なんであそこまで正確に当たるんだ? WWでもベア系にはブラインドは有効だったはずだ。
ガートランドへフィジックが飛んだ。同時にガートランドのドラゴンハート。「竜の加護よ!」という発声がジェスチャーマクロになっていて、見なくても発動したのがわかる。
「エル、ガートランドの援護お願い。僕はOC=Uさんを援護する」
「了解だよ」
オーシーは態勢を立て直しつつある。が、黙って見ておく手もない。僕は左手の杖の頭を右手でつかんだ。
「スポイル、いきますっ」
暗黒魔法スポイル。対象のHPにダメージを与え、その三割を自分のHPとして吸収する。ダメージソースとしてはあまり優秀じゃないが、ダークを覚えてないから仕方が無い。
フォレストベアの胸のところで、暗闇がはじける。幾筋もの黒い軌跡がベアを貫き、よろけさせた。
そのまま光の筋は、僕のところまで戻ってくる。HP回復、のはずだが、今は満タンなので意味は無い。
銃声。連発。ガンナーってうるさいな。まあ、着実にダメージは与えられているから大丈夫か。仁王立ちで淡々と打ち続けるエリスレルはすでに大物ガンマンの風格が漂っている。さすがワイアット好き。
復帰したオーシーがベアに反撃を開始した。これで一安心か。
オーシーのレベルは8。ガンナーの銃撃にびびっただけで、本来ならフォレストベアはソロでも倒せるはずだ。
これ以上はまあ、特筆すべきことはない。オーシーの立ち直りとともに、フォレストベアに勝機はなくなった。一応ガートランドも前衛で頑張った。
「マジでびびった……」
ベアのアイテムを剥ぎながら、案の定オーシーの愚痴りが始まる。本来なら楽勝のところ、ファーマシストの職業特性、三倍回復(アイテム使用時)の恩恵に預かってしまったのだから照れ隠しの意味もあるのだろう。
ちなみに剥かれていない方は僕の躁屍で操っている。
「いあ、ごめんごめん。新職ってこと忘れてたよ」
弾丸をリロードしながらエリスレル。
彼女の「いあ」はたぶん「いや」なんだろうけど、これはキャラ作りなのか素なのか判断しかねる。二十代二十代。
城から二十分ほど歩いた林の入り口だった。この林の始まりとともに、かなり長い間上り坂になる。ほとんど山みたいなもんで、道が続いてなけりゃ絶対に迂回しただろう。
実際に迂回するような道も延びている。ただあまりにも裾が広いので、どれくらい時間がかかるかわからない。少数だし、出来るだけ早く向こう側に行きたいし、迷わずに山道を選択。
「そういやユージン、この辺の情報ってある?」
「ないっすね」
ほとんど獣道のような狭い木立の中を2列縦隊で歩く。先頭がベア。その次がガートランド、オーシー、中がオトメノ、エリスレル。そして最後尾が僕とユージン。
ネクロマンサーを見たことがないオーシーは、前を歩くベアがいつ振り向くかとびくびくしている。
「オトメノさんもそうでしたけど、昨日の採集組は北側の森に集中したみたいっす」
オトメノが振り返る。オトメとついているが男だ。
「こっち側より近かったからね。森の向こうには湖もあって、だから果物も豊富だった。おかげで明日くらいまではなんとか食料、保つんじゃないか」
「食べ物、あったんですね。よかった」
肩をすくめるオトメノ。それがどんな意味なのかははかりかねる。
昨日、僕がログアウトしたあとの話を聞く。
ウルフキングのせいで、ついに平原には踏み込めなかった。僕らが城の中をうろうろしている間、ノリアキングを初めとした攻略組は森の一点に絞り、採集組と併せて獣やら植物やらを乱獲したらしい。日が暮れるまでにかなりの経験値と物資を補強できたらしく、彼らのレベルはだいたい11前後まで上がっている。だからオトメノも僕より高い9。
「……そう考えると、このゲーム、レベル差が結構激しくなりそうだな」
僕は二分ログアウトしただけで、半日以上遅れていることになる。前に言及したとおり、食べたり風呂に入ったり(まあ、これは必要としない連中もいるだろうけど。僕も含めて)で一時間単位で抜けるヤツも多いと思うが、一時間とはゲーム内で大体2週間だ。あっという間に時間は過ぎていく。
「バランス取れるのか、そんなんで」
「大丈夫だって、あたし、4だし。まだ」
とエリスレル。あまり威張っていうことじゃない。
「だって昨日は弾がなくて、狩りにも出られなかったんだもん。いあ、失敗だったよね。城壁の上からだと攻撃は受けないけどドロップも取れないんだから」
ああ、なるほど。だから金がなくて弾丸が買えなかったのか。新職らしいミスだ。




