地下3階の重要そうっぷりは異常
というわけで地下3階に。またかよ。
もしかしてルシェイナってヤツも引きこもり組じゃないよな。小隊組んでるから違うと思うけど、地下3階にはどうにも陰気なイメージがつきまとう。
「おい、ホントにここにいるんだろうな」
「通信でアポ取ってもらったっすから、いるはずっすよ」
ううむ。
図書館を通り抜けて、奥の奥に。いくつか部屋があるが、人の気配はない。
地図上では最奥部にあたる大きな部屋。僕らの目の前には、大きな両面開きの鉄の扉があった。
この中かな。
ちょっと苦労して開くと、まぶしい明かりが目に飛び込んできた。
「あ、来た」
と少女の声。
「ルシェたん、来たよ」
地下に不釣り合いなこの光は、少女から発せられているものだった。となると服装からしてユージンと同じライトメイジ、聖光魔法のウィスパーライトだろう。あたりを一定時間照らす魔法。
部屋には三人。女二人に男一人。
「あ、スーパーマギ」
僕は男に見覚えがあった。昨日の防衛戦で助けたフェアリーメイジ。
「ども、あのときは助かりました」
「なに、知り合い?」
「ほら、壊滅したところを助けてくれたネクロマンサーの人」
ああ、と一番奥の女性が頷いて、
「どうも、うちのマギが世話になりました」
明かりの中に進み出てくる。
見覚えのない衣装だった。グラップラーに近い露出の高さだが、なんだか古い映画のグラディエーターを思わせる……んん?
「スパルタン、ですか?」
「イエーッス」
敬語から急にフランクになるスパルタン。してやったりといった顔で、ビシッとサムズアップ。
なんだこいつ。
「ねえ聞いてよ、あたし選ばれた時から絶対に新職選んでやろうって思ってて、元が前衛だったからまあスパルタンなんだけどね、ちょっと笑えるくらいダメージ高くて、昨日も調子に乗ってたら突撃しすぎちゃって死んじゃってさ、生き返ったらこのマギ、いつの間にか臨時組んでんじゃない。ちょっとむかつくよね。まあ戦闘楽しすぎたからしょうがないけど、アタシもそうするだろうし。マジ面白いよねこれ。引きこもってる人多いけどホント勿体ないって思うのよ。一回戦えばわかると思うんだけど、なんかノリアキングって人? が超勧めても動かなかった人たちってナニ考えてんのかなホント。いやノリアキングもなんか妙にキャラ作っててちょっとロープレしすぎかなって不自然なとことかあるけど基本いい人だと思うよ。食料問題に最初に気づいたのもあの人だし、話に寄るとログイン時点でマニュアル読み込んでるって、あの量のマニュアルなんか読んでられないよねホント。どんだけ速いん」
「ルシェたん、ひいてるよ」
なんだこいつ。
彼女ははっとしたように喋りを止めると、いきなりのマシンガントークに唖然とする僕らの前で、
「てへっ」
なんだこいつ!
「もけちゃんのフレの人だっけ」
凄く脈絡なく話を変えてくる当たり、手強い。
「あ、俺俺」
とガートランドが後ろで手を挙げた。さっきの位置からずいぶん下がってるから、物理的にもひいたと思われる。
「ええと、なに、どんな知り合い? リア彼とか?」
「いや普通にフレだけど」
「ホントにぃ?」
リア彼だったらなんか問題あるのか。
僕が事情を説明すると、
「ああ、そうだね。重要インベントリにアタシだけ旗が入ってたから。アタシも軍団は確認したよ。なんだろこれ」
さらに説明する。
……
「ええー、アタシが死んで玉座が取られたら終わりなの?」
「明記はされてませんが、おそらく」
「なんで敬語なの? まあいいけど、それ困るなぁ……誰かに渡せないかな、これ」
「どうでしょう」
「ねえねえ」
割り込んできたライトメイジ。
「ルシェたんがリーダーだとなにかあるの?」
「あ、この子えみちゃん。アタシのリア友なんだけどさ、一緒にWW初めたのがちょうど高校の時で、それからもう十年でしょ? 二人ともゲームしたいんだけど生きていけないからルームシェアしてちょっとづつバイトやってて、後はゲームばっかり。たまに合コンとか行くんだけど話合わない合わない。やっぱさ、ある程度一般的になったっていってもMMOじゃん? オタクじゃん? リアルよりネットを優先したいじゃん? もう結婚なんか出来ないとか話してるんだけ」
「ルシェたん、痛いよ。心が」
なんだこいつ。いきなり嫌なカミングアウトし出した。
「てか今の、年齢ばれちゃうじゃん。17歳でとおしてるのに」
「で、アタシがリーダーだとなにか困るの?」
あのなあ。
まあ、別に困るわけではない旨はちゃんと伝える。これまでのいきさつを話し、ログアウトしている間に城が落ちないよう、システムを見直したらあなたがリーダーとなっていたから、それを知っているか確認したかったのです。
「なるほど。そりゃ……困ったね。友達がログアウトねぇ」
「別に六人減っても、次の防衛戦くらいなら乗り切れると思うけど」
影の薄いスーパーマギ。
「マギくん、彼らが戻ってくる前に襲撃が一回だけなんてどうしてわかるのかな」
「あ……そうか」
「次の襲撃の時、モンスターの強さがどのくらい上がってるかもわからない。だからジェストくん達は負けないためのシステムを考えてるんだね。それで重要なのがタクティシャン、と。そう考えるわけ。アタシもタクティシャンは賛成だと思う」
うん?
「タクティシャンが賛成っすか」
「見てわかるじゃん。アタシと、ジェストくん。アタシ達がつかってる新職は既存職と比べても遜色ない性能。ちょっと癖は強いけどね。それなら、大規模な戦闘のために用意されたタクティシャンが使えないことは、ないと思うな」
おお、なんか同じ新職を使ってる人がいうとちょっと説得力あるな。
だがそれだけではダメなのだ、ということも忘れてはならない。
「ま、さっき言ったとおり、試してみなきゃホントのところはわからないけど」
全くもってその通り。
「まあ、今すぐになんかできるわけじゃないけど。とりあえず村とか攻めるなら一枚噛むから呼んでね。こっちは軍団長を誰かに委譲できないか試してみようかな」
よし。これでとにかく『リーダーが自覚無く死んでゲームオーバー』はなくなったわけだ。この人のキャラを考えると似たようなことが起こりかねないが、まぁこの人も500人の一人だし攻略組だし、ある程度任せられるはずだ。
「ありがとうございます。それじゃあ、僕らはまだ準備があるんで」
「待った、ウェイト、ジェストくん。ここは見ていった方がいいね」
ルシェイナさんが言った直後、ライトが切れた。
えみ、のウィスパーライトが時間切れだ。
「えみちゃん、話の腰を折らないように」
「ルシェたんが長話しなかったら間に合ってたよ」
暗闇の中で二人の掛け合い。見ていった方がいいものってなんだ?
「あ、MPなくなっちゃった」
おいおい。
「ユージン、ライトちょうだい」
「うす。ウィスパーライト」
ユージンのウィスパーライトで、僕の後ろに新たな光源が生まれた。しばらく光源は必要なかったはずだけど、取って損にならないスキルだからライトメイジだったらたいていは取得する呪文だ。
「で、どれですか」
「気づかない? この部屋の、おかしいところ」
気づくに決まってる。ルシェイナさんの後ろにあるでっかいでっかい石版のようなものだ。
でも調べるの面倒だから説明してほしい。
「これ見てたんだけど、なんだと思う。ヒント、モンスター」
「ボスですか」
「君、エスパー?」
適当言っただけだよ。モンスターがらみの情報なんてあんまり多くない。特記されてるなら強いモンスターってのは悪くない見方だと思うぞ。
もちろん違う可能性もあるけど、でも……どうやら当たりらしい。
ルシェイナさんの隣まで歩いて行って、見上げる。
古い石版だ。怪物のような絵が表面いっぱいにいくつも書かれている。
その内の一つに、目がとまった。
オオカミのような絵。一番右下の、手前に。
「メニューで名前がわかるよ」
言われた通りに左目を閉じる……プレイヤーの名前を確認するときの要領だ……と、名前が浮かび上がる。
ウルフキング。
「一番上にメッセージ」
見上げる。
よくわからん言葉でなにか書かれていたが、左目を閉じると日本語訳が現れた。
つよきものども めつせしとき ひかりあふれ おわりのとき
「……つまり、これは」
「クリアするまでに立ちはだかるボスは17体。これらを全て倒さないといけないってことだと思うんだけど」
「でも僕らの目的は全域の開放……あ」
「そう。だからたぶん、この世界は17のエリアに区切られているのよ」
なるほど……それで、一番上に魔王がいるのな。その下に二人の配下っぽいもの、さらに下に二人の配下っぽいもの。その下は武装した騎士だったりドラゴンだったり、とにかく禍々しいモンスターが群れている。
「ボスが17体。これ、結構重要ですね」
「そう思うよね? 後で周知しなきゃ」




