僕らはルシェイナ軍団所属だった(初耳)
トシヒコが地下に逃げ帰ったあと、あまり問題点を理解していないガートランドに説明する。ユージンとジュリアさんは気づいているだろうけど、共通理解のための確認でもある。
「ああ……ああ、そうか」
自分の無神経な言葉を振り返っているようだ。
ガートランドはイイやつだ。だが戦闘以外ではあんまり気が利かない。空気を読まない発言で姫代子をよく怒らせたりもする。
それは今は……っていうか基本、言及するまでもないレベルだ。今回のような場合でなければ気にするほどじゃない。
「場所が必要なんだ」
トシヒコ、タクティシャンが受け入れられる、つまりメインの小隊。メインとまでは行かなくても、WWだったらログイン後に最初に呼びかけて、集まって狩りに行くような、そんな連中が。
いるのか?
だってタクティシャンだぞ。僕がネクロマンサーを選んだときに懸念した「ゴミ職」だ。いや、厳密に言えばタクティシャンはゴミではない。ないが、活躍の場所が限られるという意味ではグローバをも凌ぐ扱いにくさだ。特に重要なのは「大規模戦闘以外ではまったく役に立たない」というところ。
「結構やっかいかもしれないっすねぇ」
「バランス考えろよな、マジで」
「……そうですね」
ジュリアさんは何事か考え込んでいる。
「他のタクティシャンはいそう?」
ガートランドが首を振った。
「たぶん、いないな。たぶんだけど。片っ端から聞いてみたけど誰も見てない」
「こりゃタクティシャン方面は行き詰まりか……?」
「交代でイイリコさんの様子を見ますか」
とユージンは言うが、それなら全部姫代子とエイタローに任せるのとあんま変わらない。僕らの心情的に。
何か用事があってならともかく、イイリコさんがCHを拒否している状態でのうのうとプレイする気にはなれないんだ。それはユージン本人もよくわかってるだろう。
「プランBは」
「ねえよ、んなもん」
十年以上前のゲームのネタだぞおい。つかこんなときにネタするなよな。答える僕も僕だけど。
とはいえ、現状行き詰まっているのも事実だ。他の選択肢はないものか。
要するに城が落ちない戦力の確保、もしくはここしばらく襲撃がないという保証が欲しいわけだ。襲撃がないってことを予測することはできるか?
「……んー」
モンスターの襲撃はサプライズイベントの要素が強いように思う。だけど運営側はそんなことちっとも言ってない。周期的に来る可能性だって大いにある。城の中にヒントでもあればいいけど、あるかどうかもわからないヒントを探すのに時間は使いたくない。
考えろ。
メタ読みをすると、WWには似たような襲撃イベントがあった。モンスターの襲撃から教会を守るってヤツだ。このイベントは毎日午後十時からゼロ時の間、ランダムな時間に一回攻めてくる。
これを踏まえて考えると、ある程度の周期性はあるように思う。だけどWWは他の生活なんかがあってのことだ。すし詰めでプレイするCHで、時間に関しては同じ考えは危険な気がする。
いや待て。
待てよ、メシだ。
僕らはゲーム内でメシを食っている。だけどこれはあくまでデータであって、リアルでは腹はふくれない。食事が必要だ。
その食事のために食堂があるし、メシを食うとなれば一時間くらいかけるヤツもいるだろう。
それを運営が考えていないはずはない。ない。
もっとメタに考えるぞ。リアルでは今、午後6時を少し回ったところだろう。一般家庭では早ければ夕食を食べるところもあるだろう。
500人だ。食堂にはとても入らない。となると、ピークの時間をさけて早めに行くヤツもいるに違いない。つまりこれからの時間、普通にプレイしているヤツもメシを食うためにログアウトする可能性が高い。
戦力が薄くなる。
そんな状態で、一歩間違えばゲームオーバーなこの情勢で、襲撃イベントなんて起こすか?
しないね。
しない、これはサービス側として一番やっちゃいけないことだ。WWはいい。ゲームオーバーなんかないからな。だけどCHにおいては違う。
これが運営と僕らの勝負なら、食事の時間帯に襲撃を起こすこともあるだろう。
でもそういうんじゃないんだ。運営はWWの十周年記念でCHを開催した。だから僕ら参加者には喜んでもらわなくちゃならない。つまり僕らがゲームを楽しめば、それこそが運営の勝利なんだ。となると、
「あの、ジェストさん」
うぇっ!?
「は、はい?」
いやー……やべぇ、完全に自分の世界に入りこんでたわ。
「少しお時間いただけますか。そうですね……明日の朝まで」
「なにか考えが?」
「ええ。まあ、とりあえずは。確約はできませんが」
どうする?
今の僕の考えが正しいなら、すぐにでもログアウトできる。一時間、いや、余裕を持って二時間くらいは外にいても大丈夫なはずだ。
だけど……やっぱりこの推測にも確証がない。
「お願いします」
他の手立てがないかを考えつつ、僕らはジュリアさんにお願いした。
確証がないなら、どれだけそれっぽい考えでも絶対じゃない。
それに、僕の推測はかなり甘い。と言わざるを得ない。
「どうしたもんっすかねぇ」
「……」
こればっかりはしたくないんだけどなぁ。
「あのよ」
ガートランドが口を開く。
「これって、城が占領されたらゲームオーバーなんだよな?」
「何をいまさら」
「でも城って、どうなったら占領されるんだ」
……
「いい質問。わからん。門が破れたくらいじゃならゲームオーバーにはならないだろうけど」
「内門ッスかね」
よし、待て。こればっかりは推測は危険だ。なにせ占領されてしまえばそれ以上ゲームが続けられなくなる。
二人が喋ってる間にヘルプを探してみたが、ゲームオーバーの項目には「占領されたら」としか書かれていない。
タンマ、そうだ。僕が考えていた「近場の町村に侵攻してタクティシャンの戦力をはかる」にも影響してくる。どうやったらその村を占領できるんだ?
侵攻の項目を探す。「拠点の開放」がそれだ。
こいつによると、町村を解放するにはモンスターのリーダーの撃破が必要。砦や城を開放するにはそれに加え、最低2パーティの玉座への到達が必要になる。
これを逆転させれば、サンダマスヴェリア城が陥落する条件はリーダーの死亡とモンスターの玉座への到達。
リーダーって誰だ?
「なあ、一回ゲームのシステムおさらいしないか」
「賛成ッス。WWの追加シナリオって触れ込みでしたけど、別ゲーっすねこれ」
「俺そういうの苦手なんだが」
苦手でもやるんだよ。知識の共有が大事。
そこから僕らはざっと、ヘルプを見直す。WWからの変更点はかなりの数にのぼり、ユージンとあれこれ話しながら見ていくとそれだけで三時間はかかった。途中で昼飯を挟み……そういや、食料問題、任せっきりでいいのかなマジで。
今の問題に関わるシステムを記す。
<<軍団>>という項目だ。
朝に確認した<<城>>。そこの駐屯する軍団を表す。
ルシェイナ軍団(487/500)
軍団長:ルシェイナ
近衛隊:おおたま、えみ、カイト、モリツグ、スーパーマギ
所属小隊数:45
平均レベル:4
功績値合計:28668
近衛隊とは軍団長の小隊メンバーのコトだ。知ってる名前がある。
所属小隊数は言わずもがな。全員が小隊を組むと80近くなるから、昨日の襲撃で臨時パーティを組んだ連中がある程度解散したことを考慮してもやる気が感じられない。つっても僕らも今は無職組だけど。
それが平均レベルにもよく現れている。僕の今のレベルは7。昨日の防衛戦で大体の連中が5に上がったはずだから、ウルフ狩り組も僕と同じくらいだろう。僕らは途中で狩りを中止しているから、8から9位まで行ってるヤツがいてもおかしくない。
つまりやる気を出している連中は7前後。そうでない連中は1という極端な構成になっている。この平均はあまり戦力として信用ならんな。
功績値、というのは、まだ用途が不明だ。結構溜まっているように見えるけれど、多いのか少ないのかもわからん。ヘルプにも特に記載がなく、ゲーム開始時の説明の通りに使用可能になった時点でアンロックされるに違いない。たぶん。
軍団名の隣にある数字は所属人数と現在人数だろう。487人とは、13人がログアウト中ってことだ。そのうち3人がイイリコさん達で……他に少なくとも10人がログアウトしている。
思ったより少ない、というのが正直なところだ。まだ一日目だからというのもあるだろうが、体感で24時間以上ログインし続けることがどれだけ異常なことか。
もちろんこの世界が現実としか思えないほどにリアルだっていうのもある。全然違和感がないから、ゲームにつきものの「休憩」をゲーム内で行えてしまうのだ。ワケわかんなくなってきた。
……
『このゲームをプレイした結果、日常生活もしくは生命を損ねることがあるかもしれません』
いやいやいや。
「このルシェイナって誰だ」
「知らねっす」
「ルシェイナ?」
早々に土いじりをしていたガートランドが反応した。
「なに、君いたの」
「えええ、酷くねそれ……別鯖の人だけど、俺のフレの知り合いだよ、たぶん。聞き覚えがある」
「フレって、この近衛隊の中にいる?」
軍団メニューを送る。だがそれを見る前に、
「いや、そいつは選ばれてないから」
ふむ。
「連絡取れるか?」
「たぶん、いいけど……どうすんの?」
「これに気づいてるのかなって。たぶん襲撃の時、この人がやられたらゲームオーバーの危機だ」
なんで、というガートランドを黙殺し(話を聞いていないのが悪い)、ルシェイナへのアクセスを検討する。ガートランドは直接のフレンドじゃないから、また地道に各フレンドに尋ねて回る。だがWWのフレンドは基本的に同サーバー同士なので、別サーバーとなるとちょっと探しづらい。
別サーバーといえばジュリアさんだけど、あんまりあの人に頼り続けるのもな。特に今は別件をお願いしてるし。
「うむ、見つからん」
やっぱ500人って意外と多いな。
「あ、待ってください」
ユージンが言って、しばらく通信先と話した。
「臨時組んだ人がフレらしいです。ちょっと頼んでるっす」
お、これはきたか。




