へたれタクティシャン その名はToshihiko
「そういえばジュリアさん、どうしてここに?」
「知り合いを探しに来たんですが……その」
彼女が呼びかけるとログアウトしてしまったらしい。
「今から追いかけるつもりでしたが、戦力を確保しておきたいのは確かですね……でもタクティシャンか……」
「協力してくれませんか」
ジュリアさんはなぜか渋い顔をしている。
やっぱり知り合いを追いかけたいのだろうか。僕が時間の流れ方を説明しようとすると、
「タクティシャン、使えますか」
と言った。
ああ、なるほど。新職業で戦力が未知数のタクティシャンに疑問を感じているのだ。
僕だってそれは同じだ。
タクティシャンは説明によると大規模戦闘に特化している。ゆえに小隊単位での戦力は皆無に等しく、その実力は次の侵攻まで不明なままだ。もしタクティシャンがゴミだった場合、僕らがログアウトしている間に城が落ちてしまう可能性がある。
ただし、これは僕に考えがある。まだユージンにもガートランドにも言っていないことで、なぜなら条件が整うかわからないからだ。
ヤツらは僕と同じ境遇だから協力してくれているけど、ジュリアさんにはある程度、僕の考えを明かしておく必要があった。だから、
「それを確かめておきたくて」
「けれど、次の防衛がいつ来るかは……」
「タクティシャンの活躍場所は防衛戦だけじゃありません」
ここまで言えばジュリアさんにも合点がいくだろう。彼女は少し考えて、
「……攻めるんですか?」
と言った。ビンゴ。
城のステータスの中に「支配町村」という項目があった。これは城の近くに町か村があることを示している。そして今はそれが0。
ということは、つまり村なんかは占領する必要があるってことだ。
断言することはできないが、小隊一つではできることじゃないと思う。攻める場合にはかなりの戦力がいる。つまり大規模戦闘。
そこでタクティシャンのお披露目ができる、はずだ。
じゃないとタクティシャンは城から出る必要がない職業になってしまう。使いどころが限られる職業はあるが、WWには「一つの使い道しかない職業」はなかった。各職業のバランスを考える運営が、あまりに偏りまくった職業を作るとは考えられない。
「……一理ありますが」
と、ジュリアさんはなおも考えた。
「攻めるところは見つかってませんね」
「はい。でもたぶん、極端に遠いところはないと思うんです。あくまで予想ですけど、WWでの経験ってことで」
「ではクリアすべき条件は、タクティシャンの説得、攻める拠点の発見、そしてタクティシャンが実際に活躍できるか、という三点」
「それがわかれば、少しくらい戦力が減っても何とかいけると思います」
さらに考えたあと、ジュリアさんはうなずいた。
「わかりました……本来なら城にいる全員が奮起してくれた方が安心できますが、それは今は難しいですね。彼を説得する方が早そうです。それで、説得は?」
「ここに残ってるってことは、まだゲームを続けたいという欲目があるってことです。荒療治ですけど引っ張り出しましょう」
「あまり力に訴えるようなことは」
しかしここにいちゃ説得できるものもできない。僕は図書館に戻ると、震えているタクティシャンの袖をつかんだ。
「ひっ」
と情けない悲鳴を上げて顔を上げるタクティシャン。
「おい、こっち来て」
「や、やめろよ、なななにするんだよぅ」
女々しいヤツめ。しかしタクティシャンは貧弱なネクロマンサーよりも筋力が低い。さらにこいつレベル1だから全く成長していない。連れ出すのは僕でもできる。
泣きわめくタクティシャン……ええと、そう、トシヒコ……を引きずるように図書館から連れ出して、ジュリアさんの助力もあって(担ぎ上げてくれた。さすがナイト)日の当たる場所へと放り出す。
「う、うわわわ」
這いずるようにして地下の暗闇に戻ろうとするトシヒコ。アンデッドかよお前。
呼び戻しておいたユージンとガートランドも駆けつけてきて、ジュリアさんに挨拶。せっかくだからノリアキングも呼ぼうとしたが、ヤツは小隊を組んで外に出ていた。
おい、タクティシャン探すって話どうなったんだ。
『見たってヤツが繋がらなくてさ。どっかで死んでんじゃないかと探しに』
死んだらホームポイントに戻るだろう、たぶん。まあ、ヤツの言葉じゃないけどそれぞれか。ログアウトしてるかもしれないし、そうじゃなくて繋がらないんならノリアキングの言葉通り死んだまま寝ているか、通信不可のエリアに入っているかだ。
「トシヒコさん、ちょっと、なんでそんなに怯えてるんです」
足をつかんできいてみる。
「ばか、ももモンスター来るじゃないか」
「そりゃ来ますよ。最後の城なんだし」
「俺タクティシャンなんか選んじゃったから筋力2なんだ。戦えるわけねーじゃん。どこも小隊に入れてくれないし、城守るの任せてさ、俺籠もってるから、クリアしたら教えてよ」
なんつうヤツだ。
「城守るのにトシヒコさんの力が必要なんです」
とは言っても、ステータスが全て一桁ってのはさすがに同情する。あまりにも貧弱すぎる。流れ矢でも当たったら死ぬレベルだ。
でもこいつが使えないと困るんだ。
「タクティシャンって新職業でしょ。それにステータスが低い代わりにスキル強そうじゃないっすか。チートだったらどうすんです」
ユージンが助け船を出してくれたが、
「チ、チートなわけないだろ。スキルもクソだしホントに失敗したよ」
「そのスキルってなんです?」
「いいから、もう離して! ほっといてくれ!」
「あんた、それでも選ばれた500人の一人ですか」
さすがにイライラするわ。ちょっと語気が強くなってしまい、ジュリアさんに止められた。
そのジュリアさんがトシヒコの目をじっと見つめて、
「スキル、教えてくださいませんか」
あまりにも美人な……つっても作った顔なんだけど……ジュリアさんに、こいつたぶん見とれてるな。さっきまでのわめきが失せてやがる。
「ムッツリっすよあれ」
「バカ、聞こえたらどうする」
背後からユージンとガートランド。お前らもうちょっと協力しろよ。
「……まあ、お、教えるだけなら」
折れた。押してダメなら引いてみろってこのことか?
トシヒコによると、開始時に取れる五つのスキルは「魔力up」「鬼謀」「杖」「モンスター知識」「風土の目」。
この内トシヒコが取ったのは「鬼謀」「風土の目」の二つ。どちらもWWにはなかった新スキルだ。
「鬼謀っていうのはタクティシャン固有アクションスキルの前提条件スキル。『砂塵』『落とし穴』『伏兵』がアンロックされた」
これもやっぱり新スキルだ。どれもイメージとしては沸くけど、どんな使い方をすればいいのやら。
「取ったのは?」
「伏兵」
伏兵。タクティシャンのアクションスキル。
任意の指定した味方を敵から不可視状態(かつ動作音も聞こえない)にする。不可視状態になったキャラクターの行動は自動成功かつクリティカルに。たとえ目の前に突っ立ってたところで見えないが、発声が届いたり接触などのアクションを起こすと効果が切れる。相手側のスキルなどで看破判定がある。ちなみにシーフの盗むスキルは対象外らしい。
風土の目は、今いる場所の未来の天候や状態を知ることができる。レベル制で、スキルレベルが高くなっていくごとに遠い未来までも予測できたり、天候を操作することができるようになるとのことだ。
「なんだこれ」
僕は思わず漏らしてしまった。
「強すぎじゃねぇか」
するとトシヒコは首をぶんぶん振って、
「バカ言うなよ。自分は指定不可で一回使ったら一週間のリチャージが必要なんだぞ。それに指定した味方と同じ軍団に所属して、その戦いに参加してなきゃいけない。俺が死んだら効果が切れる。使用するまでに三時間のチャージ。MP消費量も今の俺じゃ一回分にもならない」
なるほど、効果が大きい代わりに乱発出来ないし準備も長いわけか。それにかけっぱなしを防止するためにタクティシャンがエンカウント状態にいないとならない。
しかしそれを差し引いても強すぎだろう。
「いける、こりゃいける」
「あ、あ、アホか! MP足りねぇっつってんだろ! こんなステータスでモンスター相手にレベルあげもできねぇし!」
「なんで。小隊組めばいいじゃねぇか」
ガートランドの無慈悲な宣告。
「足手まといなんだってわかるだろ!? ステータスは一桁だしスキルもこんなだしで入れる小隊がどこにあんだよ!」
ううむ、確かに問題だ。
小隊はいつでも解散して組み直すことができる。現にイイリコさんがログアウトしたことで、今僕ら三人はフリーの状態だ。
だからこいつを入れてレベリングすることは可能だ。だけどイイリコさんたち女子組が戻ったら当然もとの小隊に戻る。
そのとき、やっぱりこいつはいらないんだ。
僕らの都合でレベルを上げるために小隊に入り、また僕らの都合で小隊を離れて一人。
やる気なくすわな。
どこも似たようなもんだろう。CHの問題は、要所に城攻めや防御などの大規模戦闘があるだけでなく、依然として小隊規模の戦闘も重要なことだ。
大規模戦闘での恩恵は非常に大きいけれど、そのメリットと引き替えに小隊に必要な要素を全部切り捨てているタクティシャンを歓迎するところがあるわけない。かといってソロなんか詰んでる。
トシヒコもそりゃ後悔するわ。なんでこんな職業作ったんだ。
「あ、俺たちが小隊くんで、スキル使えるまでレベル上げ……」
「ガートランド、ストップ」
こりゃどうにかしないと、トシヒコは絶対に引きこもりから抜け出せないな。




