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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
ジェスト、ゲームオーバー対策に乗り出す
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次の戦いを負けないために

「さっきの全滅にイイリコさん、ショックうけたみたいで」

「体に異常があるとか、そういうんじゃないんだな?」

「それはたぶん。他に死んだ人たちも普通にしてるですし、まあ念のため一休みもかねてログアウトしてもいいと思うっすけど」


 イイリコさんは泣きながらみんなに謝ったらしい。


 全身を襲う予想以上の痛みと、エイタローが殴り飛ばされたあの光景を楽観視していた自分にリーダーの資格がないといったそうだ。


 その痛みとかを確かめるための全滅だったんだからイイリコさんに責任があるわけない。むしろなに言ってるんだ、的な。


 むしろ責められるべきは僕と姫代子だ。ウルフキングを遠巻きに見て、全滅は来たるべき必然のときでもよかったんだ。

 僕らの考えは特攻前に言ったとおりだし、必要な全滅だったとは思う。


 でもイイリコさんは小隊のリーダーとして、この結果をかなり重く受け止めてしまった。これは僕には予想外だ。


「エイタローさんがちょっと放心してたのも拍車をかけたっすね。立ち直りも早かったんで大丈夫とは思いますけど」

「で、姫代子とエイタローは説得しに?」

「です。僕ら、とりあえずジェストさんを待って森の果物を取るかイイリコさんをおっかけるか話し合おうと思って」

「時間はどれくらいたってる?」

「三十分くらいっす。だからまあ、リアルでは一瞬です」


 ああ、そうだ。そうだった。

 ここでの一年がリアルでの一日。ということは、


「暇だから計算したんだけど、こっちでの約十五日が一時間。七日と半日が三十分。四日が一五分、二日が七分、一日が四分。半日が二分、四半日が一分、三時間が三〇秒、一時間が十秒、ってなる」


 ガートランドがやたら詳細に説明してくれるけど、要するに半分にしていっただけだ。


「だから、イイリコさんがログアウトしてから五秒だな。たぶん姫代子もエイタローも筐体出てない」

「ちょい待って。姫代子もエイタローも、リアルのイイリコさん知ってるのか?」

「二人とも知らないっす。でもいざとなったらスタッフに聞くってことで。そんなわけで時間だけはたっぷりあるんで、最善を相談するようにって姫代子さんのお達し」


 さすが効率厨。


「……僕らが行って、なんかできるかな」

「どうっすかねぇ。俺らイイリコさんとは知りあいっすけど、中の人とはボイチャ以上はなかったっすから。同性に任せるってのがアンパイな気も」

「てか俺、たぶん見たらキモがられる」

「僕も。リアルじゃうまく話せないし」

「いやいや謙遜しないで。ジェストさんなんか良い声してるじゃないっすか」

「謙遜じゃないよ。僕引きこもりだし」

「ねえ俺は? 俺は?」


 たまにガートランドはうざい。


「長年のパーティですし、邪険にはされないと思うっすよ」

「ユージン、俺にはフォローは?」


 ううん、どうするかなぁ。


 心情的にはイイリコさんを追いかけたい。かなりの部分が僕のせいだし、これが原因でイイリコさんがログインしなくなっちゃったらコトだ。


 だけど同時に、リアルでは僕はかなりキモいことも忘れちゃならん。なにより実際に対面したところでまともに話せるかもわからんのだ。ジェストでなくなった僕に一体何ができるだろう。


 ユージンのいうとおり、同じ女性の姫代子とエイタローがいくのならそれがベストな気もする。いやいやいや、姫代子が男に残っておけといったのはたぶんこの考え方で、そりゃ効率を求めたらこの結論になる。


 だけど人の繋がりってそういうもんじゃないだろう?


 いかん、どうどう巡りだ。


「それじゃ……とりあえず姫代子にメッセージ送っとこう。送れるっけ?」

「送れますね。部屋のPCか筐体で見られるっす」

「一日がリアルで五分ってのはありがたい。しばらく残って、襲撃が来ないかを確かめとこう。まだチキンも多いだろうし、僕ら全員がいなくなったら、イイリコさんが戻ってくるどころかゲームオーバーになりかねない。うぬぼれてるかな」

「違ったとしても、参加しない戦いでゲームオーバーはイヤだな。じゃあ、何日かこっちで工作して出るか」

「すぐにでも追っかけたいけど、そうしよう」


 がりがりと頭を掻く。どうにも納得できかねる。


「それで……そうだな、三日。リアルで十五分。それだけ経ったら、僕らもログアウトしよう。その間に城の連中もやる気出してくれるといいけど」

「まあ、十五分だと会ってるかもわからないっすけどね」

「イイリコさんをほっといて楽しむ気にはなれないだろ? 城が大丈夫そうだったらもっと早く出られるかもしれない」

「具体的には」

「探すのはタクティシャンだ」






 少なくとも一人。

 新職業の人数である。500人はそう多い数ではないが、一人一人を把握するとなるとかなり大変だ。

 露店をぶらぶらしていたノリアキングを捕まえて、彼がどこからその情報を手に入れたか尋ねる。


「んー、誰から聞いたっけかな」


 腕組みして考え込むノリアキング。

 昨日の防衛戦には参加していなかった。それは間違いない。新職業は嫌でも目立つから、外に出っぱなしだった僕らやノリアキングが見ているはずだ。


「わり、思い出せんわ。調べとくからちょっと待っててくれ」


 だそうだ。

 イイリコさんのことを話すと、ならば食料より先にそっちを片付けろという。


「メシ食ってる場合じゃないだろ?」


 ありがたいよマジで。でも大丈夫だよな。結構お前のこと信用してんだからな僕。


「俺らも探した方がいいな。何人かフレンドいるから聞いてみるよ」


 礼を言い、僕らはまた大階段のそばに戻った。

 ガートランドとユージンがそれぞれ通信を開始する。


 タクティシャン。いわゆる「軍師」のことで、今回CHに当たって追加された職業。この職業は他の職業と比べて異彩を放っている。

 自身はほとんど戦闘能力を持たない代わりに、自軍、敵軍といった大規模な範囲に影響を及ぼすスキルを多く覚えることができるのだ。

 CHの城防衛戦や攻城戦のサポートに特化した職業で、きっとこいつがいるかいないかで防衛戦の難度は結構変わる。


 次の襲撃は二回目。一回目よりモンスターは強くなるだろうが、昨日と同じ人数が参加したとして、彼らもレベルアップしているはず。そこにタクティシャンの補正が加われば、とりあえず安泰だろう。たぶん。たぶんな。


 そのお膳立てをしてログアウト。これが僕の考えるベストだ。


「誰も知らないっすねぇ」

「珍獣だからすぐ見つかりそうだったけど、以外と多いな、500人って」

「じゃ足だ。チキン組なら絶対に城のどこかにいる。いったん別れて探そう」

「うっす」


 さて。

 僕ら三人は、内門を入ったところのホールで別れた。


 サンダマスヴェリア城はメニューの「城」からマップを見ることができる。が、それを見る限りは恐ろしく広い。少なくともWWにはこんなに広い城はなかった。500人が寝泊まりすることを考えてのことだろう。


 地上最大7階、地下3階。7階まであるのは塔ぐらいだけど、平均して3階くらいはある。それを考えるだけでげんなり。


 城の中は賑やかだ。様々なキャラクターが行ったり来たりしていて、つまりこいつら、大半は城にひきこもってやがるんだ。狩りとか採集とかせずに。ゲームの中でまで引きこもりって正直どうよ。


 僕のフレンドは全滅だった。というより、僕にはフレンドがあんまいない。十年もやってたら知り合った連中もやめたりBAN食らったりするから、常にフレンドは流動的だった。それがイイリコさんたちと出会ってからほとんど野良とかにも入らなくなったから、フレンドは減っていくばかり。それだけ居心地がいいってことだけど、イイリコパーティがいなかったときにほとんどソロだったから新しい出会いなんかとは無縁。しかも今回は日本にある18サーバーから集められているから、本当に数人しかいない。


 こんなところでそれが響くとは。


 一応、昨日知り合ったノリアキングとジュリアさんは新規登録している。でもその二人だけだ……ん、ジュリアさん。


『もしもし、ジェストです』


 話しかけてみる。しばらく経って、


『ジュリアです。ご用ですか』

『実はタクティシャンを探してて、ジュリアさんの知り合いにいないかと……』

『タクティシャン?』


 事情を説明する。


『イイリコさんが……はあ、なるほど。では地下3階の図書館までいらしてください』

『はい?』

『いますよ、ここに』






 ええと。

 なんだこのかび臭いところ。マップじゃ図書館ってなっている。


 ろうそくの明かりでなんとか視界はきくが、地下にまで太陽光は差し込まない。陰気で不気味で、んでもってちょっと寒い。


 なんでまたジュリアさんはこんなところに。


「ジェストさん、こちらです」


 本棚からにゅっと顔を出したジュリアさん。ちょっとびびったけど、近寄っていく。


 そこはちょっとした広場になっているようで……うわ、なんだこれ。

 三十人くらいが座ったり寝たり、震えたりしている。


「彼です」


 ジュリアさんが指さした先、体育座りでうずくまっているヤツ。顔は見えないが見たこともない服で、だから新職業だろう。


 左目を閉じるとToshihikoと表示された。以下トシヒコ。


 いやしかし……これは、話しかけにくい。

 凄い静かで声が目立つのもあるし、なんだこいつ。なんでこんなところで引きこもってるんだ。


 僕はジュリアさんを引っ張って図書館の外に出た。


「あいつらなんなんです?」

「ログアウト一歩手前の人たちです」


 ジュリアさんの分類によると、やる気を出しているプレイヤーがゲーム放棄に至るまでに段階があるとのことだ。



 正常:僕らやノリアキング、ジュリアさんを初めとした攻略隊

 第一段階:城の修繕や拡張を頑張る戦闘忌避隊

 第二段階:魔物の侵攻に怯え、城の深くに引きこもっているニート隊

 第三段階:ゲーム放棄。ログアウト隊


「多かれ少なかれ、昨日の防衛戦が引き金となりました。始まってすぐのあの物量で攻められたこと、キャラクターが死ぬ感覚がよりリアルに体感できること。これにショックを受けた人たちです」


 そしてイイリコさんは……魔物たちを恐れたわけじゃないけど、第三段階まで一気に進んだわけだ。


 だけどさ、


「ここの連中はなんだってゲームの中に? 怖いならログアウトすればいいじゃないですか」

「やる気が完全になくなったわけじゃないんです。こっちでは外と比べて時間の流れが遅いですからね。なんとかゲームに関わっていたい人が多いんでしょう。憶測ですが」


 なんという中途半端な。


「ホラーゲームをやってもどうしても進めない人っているじゃないですか」


 ううん、それをいわれるとなんだか納得してしまうな。


 だがせっかく見つけたタクティシャンだ。タクティシャンはネクロマンサーと比べても尖った職業で、個人としての戦闘能力がほとんどないとヘルプに書かれていた。ステータスが嫌になるほど低いんだろうが、そうだとするとまともにパーティも組めないし昨日のような大規模戦闘に打って出るのも怖いに違いない。だけど、その大規模戦闘にこそ必要なんだ。

 

 特に今は。


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