どうすんのこれマジやっべぇんですけど(痛み的な意味で)
結論から言うと、僕らは全滅した。
平原に到着したとき、すでにウルフ狩りの連中はほとんど壊滅していた。
残っていたのは数人の後衛ばっかで、命からがら逃げ出していたヤツラだ。
「ちょっと待った! 逃げるなら補助くれ補助!」
ガートランドの声に、
「いや、逃げろって! 倒せねぇよ!」
と返ってくる。そりゃそうだな、常識的に考えて。
それでも数人のライトメイジがエイタローとガートランドにフィジックをかけてくれた。どんだけ足しになるかわからんがありがたい。
僕らがエンカウントすると、巨大ウルフの名前がわかる。ウルフキング。安直な名前だけど強さ的にはわかりやすいバロメータだ。要するにリーダーより強いのは間違いないってことだ。
WWにはいなかった新規モンスター。
エイタローが突進し、
「僕が相手だ!」
と叫んだ。これは単なるフレーバーではなくて「仁王立ち」のジェスチャーマクロである。自身の防御上昇と、相手のヘイトを大幅に稼ぐ効果がある。
近くに来ると、ウルフキングの大きさが浮き彫りになる。これはやばい。僕ら、ヤツの前足の四分の一くらいだぞ。ダメージ通るのかこれ。
だけど、まあ、
「ブラインドいきます!」
とにもかくにもこの小隊の攻撃の起点は僕だ。通じるかはわからないがエンカウントしたらとにかくブラインド。
黒いもやが遙かに高く、ウルフキングの顔に命中した。そのまま残ったところを見ると、どうやら暗闇は有効のようだ。
「ええと、これは……」
と、イイリコさんは考え込んでいる。イイリコさんのスキルで相手に影響を与えるのは、今は猫だまししかない。その猫だましは相手が暗闇のときには意味が無い。目が見えないから。
「と、とりあえず盗んでみましょうか」
といって、大回りにウルフキングのサイドまで走る。NMのアイテムなんかほとんど盗めないけど、攻撃してもたかがしれてるからシーフの高い運に身を任せるのも悪くない。
「これ、どっから攻撃すればいいのよ!」
姫代子は半分やけくそ気味で叫んでいる。そりゃ僕らの攻撃は相手の顔まで届かないから、足くらいしか攻撃できないもんな。よく考えたら僕も「躁屍」をかける雑魚がいないから、攻撃手段がスポイルしかないぞ。
と、ここからがあっという間で、
「ウオオオオオオオオオッ!!」
異常な大音量でウルフキングが雄叫びを上げた。全身をびりびりふるわせるほどに大きく、鼓膜が破裂しそうなほどで……やべっ!
「スタン! スタン!」
と叫んだけど誰にも届かなかった。それくらいの大きさだ。
目の前で、小隊のみんながよろけている。僕も身体から力が抜けて、腕も動かせない。
状態異常「スタン」。一時的に入力を受け付けなくなり、棒立ちになる。
防御姿勢が取れないからこのままだと……
「エイタロー!」
ウルフキングの目の前にいて、なおかつ仁王立ちでヘイトを稼いでいたエイタローがターゲットされる。
動かない。ちくしょう、スタンはたいてい5秒程度だ。だけどその5秒がこんなにも長い!
ただ畏怖したかのように立ち尽くすエイタロー……実際はスタンが回復してない……を、ウルフキングの前足が撫でた。
そう、きっとウルフキングの攻撃は全力じゃなかった。勢いをつけるように振りかぶったわけじゃないし、まともに食らった訳でもない。
それでも風圧は少し離れていた僕まで届いたし、その一撃でエイタローのHPは0になった。フィジックかかってんだぞ。
ダメ元っていったって、こんなところで出てくるモンスターかよ!
軽く10メートルは吹っ飛んで、さらに数回転がるエイタロー。
その直後、僕らのスタンが回復する。
「エイタロー死んだ! ガートランド、姫代子!」
叫んで、僕は違和感を覚える。
まだ二人がスタン状態なんじゃないかと、ちょっと思った。未だ棒立ちの二人。
「なにやってんだ! イイリコさん!」
「ジェストさん、もっかいブラインド! さっきの雄叫びで剥がれたっすよ!」
ユージンの声。わかってるよ畜生。
姫代子とガートランドは、そしてイイリコさんは、呆然と動かなくなったエイタローを見ていた。くそくそ、わかってたことだろ!
でもまるで交通事故にあったようなあの飛び方を……
僕らは誰も予想してなかったんだ!
あそこまでリアルな、ショッキングな光景だってまるで思ってなかったんだ! WWじゃその場に崩れるだけだった!
いや、もしかしたらユージンはわかってたのかもしれない。気休め程度だろうけど、姫代子にフィジックをかけている。すでに動き出している。
「ブラインドいきます!」
再びブラインドで、MPはほとんどなくなる。相手の攻撃力を考えると、魔法は撃ち納めだ。あとは近づいていって、どうにか頑張るしかない。死ぬための覚悟を。
「前衛ダメだこりゃ、俺らもいきましょう。また後で」
ユージンが言ったとき、ウルフキングがまた雄叫びを上げた。
……と、まあこれが顛末だ。
「お帰り」
目覚めた僕をノリアキングが見下ろしている。
僕は身体を起こそうとしたけど、途端に全身を痛みが走り抜けて思わずうめいた。
「うげっ」
ノリアキングが声を上げて笑った。うるさいって。
「まさか突っ込むヤツがいるなんて思わなかったわ。なにしてんの」
「いや、まあそれなりに考えがあって」
「ま、それぞれだな」
天井がある、ということはここは中庭じゃない。リスポンは中庭じゃないのか?
「城の医務室。死んだらここか、教会で復活。さっきまでは足の踏み場もなかったぜ。一気に40人くらい送られたから。あとリスポンまでは20分くらいかかる」
「あんなのだと仕方ないですね」
「でも君ら早かったな。あっという間に全滅したみたいだけど」
「スタン二連発で、前衛があっさり崩壊しちゃいました」
「スタン二連発? そりゃ運がなかった」
「運じゃないです、きっと」
戦いを思い返してみる。エンカウント直後にエイタローが仁王立ち、僕がブラインド。その直後に雄叫びが来て全員スタン、エイタローが死ぬ。その後ユージンが姫代子にフィジックをかけて、僕が再度ウルフキングにブラインド、雄叫び。
僕がブラインドをかけた後に雄叫びが来ている。
「ステータス異常、少なくとも暗闇にかかったら解除するために雄叫びするみたいです」
「ははあ、だからか」
ノリアキングにも覚えがあるらしい。ってことはハンターかシーフがいたんだろうな。ネクロマンサーは僕以外に見てないし。
「ステータス異常が効かないなら、ガチンコしかないなぁ」
「もしかしたら弱点あるかもしれませんけど」
「おいおい考えるか」
なるほど、ノリアキングはあまりにも早い僕らの全滅の理由を知りたくてここに残ってたのか。抜け目ない。
「そっちはなんかわかったことあります? 情報は共有しときたいんですけど」
「そのつもりだよ。協力、大切ね。まだ予想段階だが、ウルフキングはウルフを倒した量が出現条件になってるぽい」
それはだいたい予測がつく。
「現場にいた小隊で計算してみたら……まあ、厳密にカウントしてた訳じゃないからだいたいな……150匹くらいがラインだな」
150。
これは結構まずい。
「これだと、食料が足りないんだよなぁ」
ウルフは倒したら高確率で獣肉をおとす。これを一つ城の厨房に寄贈すると、食料が3増えて功績値が1増える。
簡単な算数だ。一人が一日に必要な食料は2。贅沢しなきゃこれでなんとかなるけど、500人分となると一日に1000の食料が消費される。
ウルフを150匹狩って全てが獣肉をおとしても450。一日の半分にも満たない。
「モンスターはウルフだけじゃないし、森には果物もあるだろうし、なんとかなるとは思うんだが」
「となるとこれ、城の食料上限も結構厳しいですね」
「そうだろ? 三日分しか保管できないってのもなぁ」
「城壁みたいに拡張できませんかね」
「できる。しばらく城待機組には城壁よりも食料庫の拡張をやってもらおうと思う」
その後の話では、まずファーマシストにより結構な数の薬が集まったこと、ブラックスミスにより装備の修復が可能になり、また少し質の良い装備品が提供されるようになること(むろんタダじゃないけど)、新規職業が少なくとも各一人いることがわかったこと、などを聞いた。
その間僕は医務室を見回したけど、小隊のメンバーはいなかった。
僕が死んだのは最後だったから、先に目覚めて出て行ったか教会にいるんだと思う。
しかしデスは厳しい。この痛みは筋肉痛のように体全体を刺してくる。動けるようになるまで十分くらいかかった。歩き方もぎこちない。
「肩貸そうか」
「死んでるたびに誰かの肩を借りるわけにもいかないんで」
ノリアキングの好意を辞退して、僕は大階段に向かった。この痛み、慣れないとな。
城の中庭にはWWで見慣れた光景が広がりつつあった。ブラックスミスやファーマシストの一団、合計で二十人ほどが座敷露天を開く準備をしている。開店したら見回ってもいいか。
大階段の脇にはガートランドとユージンがいた。
「時間かかったっすね」
二人の顔は、少なくとも晴れやかには見えない。
「ノリアキングと情報交換してて。結構痛いなこれ。女性陣は?」
「外っす」
「なに、僕らおいて狩りにいったの?」
ガートランドが首を振った。
「ログアウトしたんだよ、イイリコさんが。姫代子ちゃんとエイタローが追っかけてった」
なんだと。




