試しに死んでみようの会 ~これからのゲームライフを100%楽しむために~
訓練、というのは、昨日大いに苦しんだリアル判定とキャラ挙動についてだ。
門を出ると、すでにいくつかの小隊が平原に向かっている。まだ朝は早い。ゆっくり行こう。
「たまに思った通りの動きができないことがあって。こう、刀が重かったりするせいだと思うんだけど」
特にエイタローは顕著だった。
姫代子のなじみが早かったのは身軽だったことも影響しているのかもしれない。確かに昨日見た限り、装備が重くなるガートランドやエイタローが動きにくそうだった。
「それを考えると、あのノリアキングってナイト、よっぽどっすねぇ」
ユージンと僕は防衛戦のとき、他小隊の様子も見ていた。決壊したらその分のモンスターがリンクする危険があるからだ。
「なんか途中、ポーズ決めたり笑ったりしてたっすよ」
僕も知ってる。ナイトは初期職業で一番重い(代わりに筋力も高いため、敏捷はそこそこ)。それにもかかわらず無双していたというのだからやばい。
なんか真っ先に防衛戦に乗り出したり、食料のことに気づいたり、かなりスペック高いなノリアキング。リーダーに向いてる。
「ええー、見たかったわあ」
「平原でウルフ狩ってるはずだからすぐ見られると思いますよ」
僕は新たに「魔力Lv1」「スポイル」を取得した。残りは後回し。
ヒーラーがユージン一人だけなので、薬草を用いない回復手段は欲しい。ただMP消費量が多いので、ブラインドを撃つとしばらく待たなければならないのが難点だ。
まあ、プラントベビーには目が無いのでブラインド自体が無効である。森に行くなら躁屍以外のダメージソースとしても重宝するだろう。
草原に着いたときには、すでに5つの小隊がウルフを狩っていた。ノリアキングとジュリアさんの小隊ももちろんいる。
しかしここに来るまでに見た小隊が7つ。昨日の最終参加者に比べてずいぶん少ない。
宴会の後で寝こけている連中も相当数いるんだろうが、攻略すべく働いているのが100人に満たないのは問題だ。
生産職は戦闘が苦手だから城の近くで草や鉱石などを荒らしている。いくつかの小隊はその護衛に当たっているとしても、400人近くが城でゴロゴロしている計算になる。おいおい、やる気あんのかよ。
ここからしばらくの戦闘に関して特筆すべき点はあまりない。
新しい操作方法に慣れるのが目的なのでアイテムなどを使うのは勿体ない。ユージンのMPが切れたら城の近くに戻って休みフィードバックというルーチンを繰り返した。
最後まで慣れなかったのはもちろんエイタローだ。
「ごめん、僕のせいで」
と謝るエイタローが不憫である。
「大丈夫だって、俺もまだ距離感つかめてないし」
「あんたはもうちょっと焦りなさい」
ガートランドに突っ込みを入れる姫代子。
「俺らはあんまWWから変わらないっすからねぇ。死にそうになっても回復するんで、ばんばんいっちゃってください」
「そうはいうけどな、ユージン。痛いのよマジで。こればっかは勘弁だわ」
「それも問題よねぇ」
イイリコさんがため息をついた。
「痛みのせいでもう一息が踏み込めないし、あたしももうちょっと引きつけないと行けないのにねぇ」
「姫代子はあんま変わらなそうにみえるけど」
腕を組んでいる姫代子に向かって僕はいった。
「痛いわよ。でもまあ、慣れてるし」
「慣れてる?」
「いってなかったっけ。私、ボクシングやってるから」
マジか。初耳だぞ。
ガートランドとエイタローも知らなかったようで、三人揃って目をむいている様は滑稽だろう。
「遊び程度だけど」
「遊びでボクシングなんてできるの……?」
「ジムいったらそういうコースとかやらせてもらえるよ」
「グラップラーやってるのって、だからなのよねぇ」
イイリコさんとユージンは知っていた。
僕よりイイリコさんの方が姫代子との付き合いは長いからそれはわかる。でもなぜゆえユージンが知っている?
「どうしてって、どうして知らなかったんすか?」
そんなこといわれても困る。
姫代子自身は特に隠していなかったようだ。要するに話す機会がなかっただけ。長年やってきて今わかる衝撃の事実。
いや、衝撃でもないか。むしろ納得した感じだ。
「なんか失礼なこと考えてない?」
いえいえ、決して。
「ユージン、MPはどう?」
「実は結構前に満タンになってるっすけど」
「実は、じゃないでしょ。もういっちょ行きましょう。経験値経験値」
「がめつい!」
「がめつい!」
ガートランドとユージンはこういうときは妙に気が合う。
イイリコさんはケチではないが、拾える金は真っ先に拾う主義だから経験値やGの取得には敏感だ。シーフをやってるとそういったスキルが多くなるからなおさらである。
だから自然と「もったいない」発言が多くなり、そこをネタにされたのが「がめつい!」である。
「もうやめてそれ……」
イイリコさんが両手で顔を覆ったとき、平原の方で騒ぎがあった。
モンスターの遠吠えが、
『閃光のジェスト!』
だからもう死ねよ。
『あの、今の僕は「閃光の」ってついてないんで』
回線をON。相手はノリアキングだ。
『来てくれ、すぐに! でかいのきた!』
『でかいの?』
『後衛下がれ下がれ! ラメちゃん伝助にヒール!』
うるさい。通信OFFにする余裕がないらしい。ノリアキングがここまで慌てるとなると、なんか異常事態が起きたか?
「うお、でかっ」
ガートランドが叫んだ。ちょうど平原に背を向けていた僕が振り返ると……ありゃ、なんだ?
でかいウルフが……でかいっていうか超絶でかいっつうか……とにかく、ウルフの百倍くらいありそうなのが誰かを踏みつぶしたところだった。遠近感が狂う。
「ちょちょ、ジェスト君、なにがあったの!?」
そんなこと聞かれても困る。
「ノリアキングからの救援要請です、行きましょう」
「ええ!? 行くって、あれに?」
「経験値でしょ」
姫代子は乗り気のようだ。
「でででも、まだエイタロー君が。あれNMよきっと」
『一個壊滅したぞ! フォローフォロー!』
ノリアキングの通信が飛び込んでくる。指示も手慣れてるが、絶対的にレベルが足りてないなこりゃ。
「姫代子、効率厨の意見」
「せっかくだからデスに慣れておきましょう」
頼もしいね、同意見だ。
「デスの痛みさえ知ってれば、それが痛みとしてはマックス。それさえ知ってれば多少のダメージはどうってことなくなると思うわ。じりじり死ぬより、強敵にやられた方が諦めもつくと思うし」
「俺ら後衛って、昨日は結局ノーダメだったっすからねぇ」
「エイタロー、大丈夫か」
「ええと、その……うん」
エイタローは壁になると宣言したが、それはつまりダメージの痛みを引き受けるということだ。これから一番痛みを感じるのはエイタローだ。
それを自身もよくわかっている。
「……はあ、そういうことね……うーん、ジェスト君と姫代子ちゃんとユー君が言うなら……まあ、いいかしら。エイタロー君も」
「俺は? ねえ俺は?」
哀れガートランド。
「ただ心配なのが、昨日死んだ人たちが城から出るのを怖がってることなんだけど。まあ、ゲーム進めるならデスは避けられないしねぇ。死ねるうちに死んどきましょうか。デスペナってなんだっけ」
「一時間経験値が入らなくなります。あと取得後三十分以内のアイテムがその場にばらまかれるっす」
「肉はどう?」
「なくなるのは二、三個っすね」
「そのくらいならいいか。せっかくだから万が一倒せそうなら倒すってことで、死んだら大階段の脇に集合ね」
僕らはうなずくと、平原に向けて走り出した。
イイリコさんの心配の種は、デスるほどの痛みを受けてもなにも問題はないか、という点である。昨日死んだ連中は現時点でも生きているわけだから、痛みでショック死なんてことはない。WWの時もさんざん議論されたことで、識者の見解を一言で表すなら「催眠でショック死するほどの痛みは与えられない」である。脳が無意識に一定以上の痛みをオミットしてしまうのが原因で、理屈ではわかる。
でも実際ダメージを食らったら痛いんだ。デスだって怖いじゃないか。てか、それを序盤も序盤の死んでもなにも問題なさそうな今、確認するのだから、これはもう腹をくくるしかないわけで。
『ノリアキングさん、お待たせしました。行きます』
『嬉しいけど、俺死ぬわこれ』
『強さどのくらいです?』
『わかんね。強すぎ。ウルフリーダーに比べても桁違い。あ、さらば』
遠くで巨大ウルフが首を一凪ぎして、同時にノリアキングとの通信がOFFになった。
「ノリアキング死亡」
走りながらいうと、
「うええ、マジか」
とガートランドがうめいた。走りながらうめくってのも器用だ。
「ウルフリーダーより強いらしいです。まあ、あのサイズなんで」
ブラインド効くかな。




