じょうじとかやめて
「……で、これからどうすんだ」
ノリアキングが言った。
「このためだけに俺を呼んだとは考えにくい。なんかあるんだろ」
「いや、まあ、話したことの延長なんだけど」
僕からノリアキングへの依頼は単純。
帝の『ゲームとして違和感のあるところ』を積極的に探して欲しいという、一点。
まさか帝が彼に接触してるとは思ってなかったから蛇足になる可能性もあったけど、ノリアキングの様子じゃ、なにも言わなかったら気に留める程度だっただろう。そういう意味では必要なお願いだと思う。
「そりゃできる分には請け負う。だが知っての通り、俺はかなり動きにくいぞ、立場的に」
「それについては、僕らがお膳立てをしておくよ。そっちがやったみたいに」
多少、皮肉を込めて。レツリンが同席しているという事実から、ノリアキングは自分のお節介がバレていることはわかってるはずだ。
案の定、不敵な笑みを浮かべる。
「なら、文句はない。好きにしろ。面白けりゃこのゲームがリアルだってことでもいい」
よし、一番重要なノリアキングの協力を取り付けた。そもそもノリアキングのセリフを聞けばわかるように、説得自体はそう難しくないとふんでいた。
付き合いは長くないけど、ゲームを満喫しようという姿勢はまったくぶれない男だ。
「次に、レツリン」
「私は君と行く」
そうは言うけどな。
実際のところ、レツリンが来るのは頼もしいといえば嘘じゃない。多少の人的な問題はあるにしろ、僕が気をつければいいだけの話だ。
そうは言うけど、レツリンには仲間がいない。男爵一派はレツリン自ら新たなメンバーを入れさせて、またどこかへ旅に出た。彼女の性格からいって、元鞘に戻る気はかけらもないだろうし、ゲーム内の小隊メンツはこの一年でかなり固定されてきている。はぐれものは確かにいるけれど、サクラさんのようなまとめ役にレツリンがなれるとは思えない。
「一人でどうするんだ」
「アテはある」
それが意外で……いや、なんといっても元夕闇男爵のレツリンだからなにがあっても不思議じゃないんだけど……とにかく意外で、僕は思わず聞き返した。
「誰と?」
「後の楽しみにとっておくといい」
ホントにアテなんかあるのか、おい。でたらめ言ってんじゃないだろうな。
「……念のため、陽炎が復帰するまでサクラ小隊はゲームに戻らないらしいぞ」
「サクラではない。驚くと思うが、まあ、なんにせよ年が明けてからだよ。どうせ年内は城で過ごすんだろう?」
頷く。それに異論はない。城にいなきゃいけない理由はないけど、さすがにな。
「ユージン、僕らには選択肢が二つある」
「南西に行くか、東に行くかっすか」
その通り。南西に行って新たな侵攻拠点を見つけるか、ノリアキングがログインするまでに東をある程度攻めるか。
「ノリアキングさんは新規開拓するような立場じゃないっすから、指揮を取る機会を増やすとなると、俺らは南西に行った方がよさそうすね。今の話だと」
そうなる。ノリアキング達のログイン予定はゲーム内時間で二月だから、探索のための時間は十分にある。
「レツリンの見つけた『ジンジャーゼルが現実に存在する』証拠も確かに気にはなる。でも現状、それを確かめるためだけにいちいち地下まで行くのも考えものだから。帝の情報によれば、地下を完全に攻略するには三次職はなってなきゃいけない。つまりラスダン」
だから地下は、とりあえずナシだ。レツリンが少し面白くなさそうな顔をする。
「そこで僕らはユージンが言ったとおり、南西を探索する。そんでノリアキングが戻ってきたら、東と南西、一気に攻めよう。出来れば二年目のうちにこれはやっておきたい」
「ずいぶん速いペースだな。一年かけて奪った施設が三つ。一つの地域に三つか四つの施設があるとして、単純に倍だ」
それはなんとかなるだろ。初期の頃は襲撃のタイミングがわからなくて城から離れられなかったし、引きこもり組もずっと多かった。なによりみんな、CHに慣れるのが大変だったんだ。
「それに攻略順が指定されていないことを考えると、南東域、つまり城から同程度の距離にある南西と東は、だいたい同じ難度だと考えられる。いままでより楽だと思う」
「メタな考えは好かん。南西の敵が強かったらどうすんだ」
僕はこう答えるしかない。
「その時はデスるさ」
会合、終わり。ちょっと時間がかかった。おもに集まるまでに。だから僕たちは急いでゲーム内に戻る。
年越しはもうすぐ。
「五分で一日、って、ちょっとずれてるんだ」
「おおざっぱな計算すからね」
ログインした時、すでに大晦日。一日分余裕を見たつもりだったけど危なかった。
「まあ、早い分には最終日の終電とかじゃなくなるんで助かりますけど」
ユージンの言葉に、僕はさらなる帝の情報を思い出す。
――最終日はないものとしてプレイされたし。
あれはどういう意味なんだろう。
「ユージン、いちおう、見せたいものがある。地下の石碑」
「ロダンっすか」
「うん。見せたからってなんになるわけでもないけど、知っといてもらいたいんだ。顔とか」
僕らはそのまま地下に移動して、暗い石碑の部屋に入る。ユージンのブライトで一気に明るくなる。
初めてルシェイナさんと会って、この前ジュリアさんと見た石碑。
すでに倒したボスは暗くなっている。その上、わずかに光を放つ、まだウルフキングを初めとした未討伐のボス群。
そのほとんど頂点に位置する、魔王の血族。そこにロダンの顔がある。
「キザそうっすね」
「間違っちゃいない」
ようするに、ゲーム内で一番怪しいのはこいつなんだ。会話とかはもしかして運営の誰かがやってるのかも知れないけど、だけど、リアルではほとんど一瞬の時間で、なんかの間違いみたいに転移してしまった僕らの対応が現実的にできるだろうか?
そう、時間の流れが違う。この一点で、運営がNPCやモンスターを操作しているというのは考えにくくなる。一日が一年という速さ。だから新藤が出た時も、ゲーム内で一週間くらい経って始めて強制ログアウトの措置になった。
ゲームとして考えると、どうにも辻褄が合わないことが多い。
「……そういや、レツリンさんのことっすけど」
「なに、急に」
ユージンは真顔で僕のことを見てきて、
「もしかして気づいてないかもしれないけど、惚れてますよ、ジェストさんに」
……
いやいや。
「あれは同族を見つけた時の過剰反応だと思うよ」
「そんなんでキスしますか」
するんじゃないのか。そもそもレツリン、おかしいし。
「忠告しときましたからね。いいすか。ジェストさん、確かに今までは人と関わらなかったかも知れないっすけど、だからって誰もジェストさんのこと好きにならないわけがないんですから」
「エイタローが好きでいてくれただけでも奇跡みたいなもんだろ」
――奇跡がもう一度起きたら、どうするつもり?
「そんな簡単に奇跡が起きてたまるか」
「……だから、忠告しときましたからね。もう一人怪しいのもいるし」
僕はユージンの方が心配だぞ。どっかから『デキる』って情報、いつの間にか仕入れてるし。リア充ならなんか、そんなのやってそうじゃんか。ユージンだし。
そんなことを口に出そうか迷っていると、僕らの後ろで扉が開いた。
ジュリアさんが立っていた。
「あ」
僕が思いだしたのはトシヒコの言葉だ。
――友人がログインしていないか、毎日見まわっている。
それを思い出して、
「ジェストさん、ユージンさん」
軽く挨拶しようとして――
「ね、念のためお聞きしますが、こ、こ……ここでなにをされてました?」
なんだその質問。
ユージンが喉を鳴らした。
「あの……すいません、よく聞こえなかったんでもう一度」
即座に殴る。
「ですから、その、さ、最近ですね、地下が人目につかないのをいいことに、その――」
「いいです、いいですから」
止める。顔をほのかに赤くしたジュリアさん、清純派。
だいたいわかったかもしれないけど、ようするに『ヤってる』連中がいる。しかもカップルなんて大人しいもんじゃなくて、いわゆる乱れて交じるような、そんなブレーキが焼き切れたような連中。
ここもよく舞台になっているらしい。それを聞くとなんかニオイが……
「ふ、風紀というか、図書館もここもたまに人が来るので、見つけたら注意しているんですが……どうも、ゲーム内は妊娠の可能性がないからと」
うわ、生々しい。そんなことジュリアさんに言わせるのはなんか申し訳ない。
というかジュリアさん、少なくとも複数回、遭遇してるのか……いかんいかん。
「だからってですね、僕とユージンがどうのって本当、勘弁してほしいです。ちょっとショックうけました」
「す、すいません……まさかとは思ったんですが」
僕、そんな風に見られてたとか。
そんな可能性がなきにしもあらずみたいなのは凹む。
「と、とにかく。ジェストさん達は心配してませんが、女性もいらっしゃいます。十分気をつけていただければ……」
ええと、あ、はい。
僕らは連れだって石碑の間を出た。
大体いくらゲームの中だからって、そういうリア充みたいなイベントに僕が遭遇するわけないと思う。出会い厨とか不倶戴天の敵みたいなもんだし。ゲーム内の団結の邪魔ばっかりしやがって。あー、なんか嫌なこと思い出してきた。むかつくむかつく。爆発してしまえ。
「……ぁン」
だから、かすかに聞こえた喘ぎ声に、妙に敏感に反応してしまった。
歩みは止めない。他の二人もそう。だけど確実に二人にも聞こえたはずで、ユージンは変わりないけどジュリアさんは歩き方が妙にぎこちなくなった。
おいおい、こんなタイミングでかよ。
「……そ、その。さっきはいなかったんですが」
じゃあ、僕らが話してる数分で始めやがったのか。なんてヤツらだ。
「と、止めないと」
あたふたと図書室のドアに近寄るジュリアさん。見てて痛々しい。
始めたばっかなら、まだドアを開けても大惨事にはならないはずだった。とはいえ僕らがいて、ジュリアさんに任せるのはそれだけでセクハラな気がする。
「ユージン、まかせた」
「えええ」
リア充なら仲間みたいなもんだろ。
「……まあ、仕方ないっすね。ジュリアさんもマジメなんすから……」
ぶつぶつと呟きながら、ジュリアさんに割り込む。あの自然な挙動、やっぱリア充だよなあいつ。
ガチャ、とドアが開いた。微かな喘ぎ声は……お構いなしに続いている。
「普通やめますよね、誰か開けたら」
ユージンも思わずツッコまずにはいられなかったようだ。
「服着てください。粗末なもん見せないで」
中から、なんだお前、みたいな男の声が聞こえた。
「ジュリアさんに言われてるんすよね。そういうの自室でやれって」
「禁止されてないならどこでも一緒だわ」
ユージンがドアを開ききった先、ブライトの明かりに照らされた図書室。
見覚えのない男女。一応、服は着たようだった。
「もう部屋飽きたし、人数はいんないし」
すごい論理だ。
「禁止されてないならいいって、小学生じゃないんすから」
「そのしゃべり方うぜえ」
うーん、核心をはずして煽るスタイル、僕も見習おうかな。
「とにかく、ここで用があるんすから、帰ってください」
プレイヤーはヨッシー、ルパという名前のようだ。二人はぶーぶー文句を言いながら、
「……あんた、ここ使うんでしょう。ちょっといい男だし、混ぜてもいいよ」
「あのですね」
「そういう下品なの、嫌いだ」
あ、やべ、思わず口出してしまった。
中の二人は僕を見て、
「これもCHの魅力だろ?」
と言ってきた。
マジでか。
アホか。
いやでも、確かに『デキる』のをわざわざつけてる当たり、そういうのがないとは断言できない。さっきの喘ぎ声から察するに性感帯とかも……いや、そうじゃなくて。
「狭くても部屋でやりなよ。見せびらかすとか変態っぽい」
「問題あるなら運営から警告とかくるだろ」
だからそういうことじゃなくてな。
いったいどうなってるんだこのゲーム!




