謎は全て解けた……わけないじゃん。
違和感を集めて、集積して、おそらくこれで筋が通るのだという風に並べる。
だからこれは推理なんて上等なものじゃなくて、全部想像だ。
「今回、僕がランタン奪還を依頼されてからこれまで、いくつもの不自然な点があった。一つ、ノリアキングの持っていたランタンの情報をどこから男爵が手に入れたのか。二つ。ノリアキングからランタンを盗み出したのが十月。それから僕らと接触するまでの二ヶ月近く、男爵はなぜ東域に留まっていたのか。三つ、ノリアキングは男爵の追跡を何故僕にやらせるように提案したのか」
どれも表向きの答えはある。ダークミストランタンは、知っている人数は少ないとは言え、秘密にされていたわけではない。情報を得るチャンスはいくらかあった。男爵が何かを盗もうと画策していたなら、ボスドロップであるランタンを狙うのは自然。二ヶ月間ぶらぶらしていたのは、砦の地下にいるボスの打倒方法を探っていたと言い訳できる。僕を探しに行かせたのは、僕を嫌悪派から離し、東域を探索させるついでだと説明出来る。
ただ最後に関して、ノリアキングが提案したというのはおかしい。
もし奪還を急ぐなら、遅くても年末近くにログインするはずの僕をアテにするのはNGだ。時間が経ちすぎているし、もし時間を気にしないのならアイツは自分で探しに行くはず。
それなりの地位にいて身動きが取れないのはそうだけど、いつまでもそれに甘んじているわけじゃないだろう。いずれは自由に冒険できるように考えているだろうし、そうなったときに行くことを望むはずだ。男爵に奪われた宝を取り戻すって、ノリアキングにとっちゃ垂涎のイベントだろ。
それを何故か僕に任せた時点で、一つのほころびができる。ノリアキングは自分で行くつもりはない。つまり『男爵に盗まれた』ことについて、執着していない。
「四つ目、男爵は何故僕らに自ら接触してきたのか」
男爵の捜索は困難を極めるというのが事前の予想だった。にも関わらず、東域探索の目標であるどの施設よりも先に、逃げているはずの男爵と出会った。
ミウルの里で僕らを捕らえたからといって、姿を現す必要はなかったんだ。男爵の存在は伏せたまま、ミウルに相手させてればよかった。そうしなかったから男爵は僕と決闘することになって、ランタンを奪われるハメになった。
その理由が、男爵の雑な性格に埋もれてしまっている。アイツが『どんな行動も気まぐれに』やっているような適当さだったのは、一つのブラフだったんだろう。なんの意味も無いイイリコさんへのアプローチなんか最たるもので、かりに決闘で僕が負けたとして、男爵の小隊は六人と六人できりがいい。まさか逃げられないようにずっと『捕虜』にするわけがないし、あの決闘で得するのは僕だけだ。
つまり。
男爵が僕らに接触して、決闘をしかけたのには男爵側のメリットが欠片もない。僕らの協力を取り付けるのが目的だったとして、初期職では使い物にならないから結局、アールター神殿の場所を教えることになる。つまり決闘に勝っても負けても、僕らは目的の何割かを必ず果たせる。
男爵一派は僕らを煽っているように見せかけて、その実、初めから協力していた。
「五つ目。ノリアキングは一度、タクティシャンのプレイヤーを知っていると僕に漏らしていた」
最初の最初。
このゲームが始まった直後。
僕らがログアウトしてしまったイイリコさんを追いかけるため、タクティシャンを探してたころ。
ノリアキングはタクティシャンを一人知っていた。
あれがトシヒコのことである、と考えると、それに付随する『引きこもっている』という強烈な情報が欠片も出てこなかったのが不自然だ。レア職で、新規職で、しかも大問題になっていた引きこもり。ノリアキングの情報源は絶対に引きこもりだって伝えているはずだし、知っていたらノリアキングも僕に伝えたはずだ。
それがなかったのなら、ノリアキングが言っていたタクティシャンはトシヒコじゃない。
「トシヒコじゃないなら、もう一人のレツリン、あんたしかいない」
しかもその後、ノリアキングの知っているタクティシャンはすっぱりと話題にのぼらなくなった。タクティシャンの有用性がはっきりした後も、アーシュア戦にも砦戦にも、その『もう一人のタクティシャン』は参加しなかった。そして不思議なことに、ノリアキングはそれについて全く言及していない。
「ノリアキングは結局あんたを見つけられなかったか……」
今回、男爵達の不自然なまでの協力体制を重ね合わせると、一つの可能性が生まれてくる。
「もしくは早い段階で接触していて、意図的に存在を隠していたかだ」
雷の音。
レツリンの顔は、いつものような無表情に戻っている。
「ノリアキングと男爵は知己関係にあった。この男爵は、バロンでもあんたでも構わない。けれど僕はレツリン、あんただと思う」
そして、ノリアキングが『ランタンを盗まれた』一件で、もう少し想像は膨らむ。
「ランタンが盗まれたのなら、ノリアキングは喜ぶはずだ。堂々と冒険に出る口実ができるし、知り合いの男爵が盗んだのなら余計にワクワクすると思う。そういうヤツだって、知ってるだろ」
なにせ、オルトノグェイク砦に捕まってる時も楽しんでたもんな。
「そのノリアキングが、盗まれたランタンを自分で取り返しに行くんじゃなくて、僕に行かせた」
男爵にランタンを盗まれるのは『予定通り』だったってことだ。
「そして男爵は僕に決闘を申し込んでくる。僕に謎を仕掛けてくる」
理由も心当たりがある。ただし、納得のいく答えは出せていない。
「二人で組んで僕を試したな。どうして、なにを試したのか聞かせてもらおうか」
レツリンはゆっくり下を向いて、しばらくはなんの反応も見せなかった。
喧噪は続いている。雷の音も続いている。戦闘が繰り広げられているまっただ中で、僕とレツリンは立っている。
「……クク」
……
?
「ハハハハ! ……なるほど、ずいぶん想像力が逞しいな。感じた予兆がただの勘違いだったら恥さらしだろうに」
腹を抱えて笑うレツリンが、やけに怖い。ここまで感情を露わにするようなイメージは全く無かったし、妙に艶めかしい。
「もう少し聞きたいな。ジェスト、君はなにを試されていると思った」
それを質問してるんじゃないか!
「……レツリン、里でした話を覚えているか」
「どれのことだ」
「本のことだよ」
レツリンは「荒野に散る」を取り出す。
「そういえば……そうだな。このメモ」
「それはもともと、ただ単純に、僕に興味を持って交渉を続けるようにしむけられたらと思って書いたヤツだ」
メモには『同じ疑問を持っている』と書いてある。会話を交わすことで、レツリンならば気づいているとは思ったけど、念のためこの世界に対して懐疑的な立場であることを伝えておいた。本の文章量から発展する、この世界そのものに対する疑問。
「だがバロンが接触したのはこのメモを受け取る前の話だろう。なにが関係しているのかわからないな」
「一つだけわからないのはそれだよ。ブラガワームを倒した後の話で、あんたが僕に言ったのは『この世界の謎』。その後ララールゥでミウルという種族の生態に関する情報。あんたが僕に対して『どれだけ深い疑問を抱いているのか。頭がどれだけ回るのか』を試しているのは疑う余地は無かった」
だけどそれを邪魔するのが、『僕がそれをレツリンに伝える前に、男爵一派は僕に接触してきていた』という事実。矛盾が生じている。
「だから僕の推理はここまでだ。後はただなんとなく、ぼんやりと考えているだけ」
「予想はしている、けれど話すほどの根拠もないということか」
レツリンは無表情のまま促してくる。それに僕は無言で応える。
「あまり人を疑うものじゃないな」
そしてようやく。
ようやく僕は、答えにたどり着いたんだ。
「だいたい正解だよ。試験だというのなら、成績は良。優には及ばないけれど、まさかここまでたどり着くとは思わなかった。ただ一つ、間違いがあるな」
レツリンはうっすらと笑みを浮かべて、楽しそうに言った。
「ノリアキングに他意はない。あの男はお前の地位回復のために、私に協力するよう要請してきたのだ」
……
……
は?
「嫌悪派により、ネクロマンサージェストは優秀ながらも不遇をかこっている。しかも嫌悪派の筆頭であるレイムたちはそれを利用し、嫌悪派を取り込むことでノリアキングの立ち位置を盤石のものにしようとしている。これがありがた迷惑なのは、たぶん本人から聞いているだろう」
……た、確かに、嫌悪派が僕を嫌っている理由は、ノリアキングをトップとした組織の中で勝手に動き回っていたせいだ。ラメ……レイムっていうのか? がそれを引きこもり組に吹き込んで勢力を増やそうとしてたことはすでにわかっている。
「その上で、ノリアキングがジェストを信用していることは周知の事実だ。オルトノグェイク攻略や四回目の襲撃の際に、ノリアキングはお前に指揮権をゆだねているからな。嫌悪派でもその理由がいまいちわからずに混乱しているプレイヤー達がいたのも事実だ」
そこでノリアキングは画策した。まずまったくの悪役である男爵が、大事な大事なランタンを盗み出す。ノリアキングは激務で、またローテーションログアウトで取り返しに行けない。だからジュリアさんと相談して、一人のプレイヤーに奪還を任せた。
僕。
ついでに東域の探索も要請して成果を上げられれば、僕はノリアキングの下でプレイヤー全体の攻略の手助けをすることになる。しかも男爵からランタンを奪還し、転職施設を見つけてきたとなったらなおさらだ。
普通ならまた抜け駆けだとヘイトを溜めるところが、全てノリアキングの手下になって貢献したことになる。
「そしてログインした時に、全員の前でお前を褒め称えるわけだ。さすがにこれだけノリアキングの要望を叶えて、まさかノリアキングに刃向かっているとは思わない。誤解は晴れて、ジェストはノリアキング軍団の一員になるわけだ。今までのように理不尽なことも言われないし、もともと実力で言えばノリアキング、ジュリアに並ぶわけだからな。ヤツとしても、いつまでも待遇の悪いままでグレられたらたまったものじゃない。ジュリアとお前が副官になれば、冒険に出かける余裕も出るだろう……まあ、そこまで打算的ではないと思うよ、私もヤツを知っている。だからバロンがお前達に自ら接触して協力したのは、ノリアキングの要望を叶えたからだ」
「……」
意味がわからん。
「もちろん、私たちはそう単純じゃない。言われた通りノコノコ協力するつもりはさらさらなかった。なにしろひねくれ者の夕闇男爵だからな。バロンの方針は、お前達をからかって遊ぶことだったよ」
実際にノリアキングと親交があったのはレツリンだけど、彼女は反対しなかった。なぜなら夕闇男爵一派のリーダーは、二代目男爵であるバロンだったから。
「まさか決闘に負けるとは思ってなかっただろうが……とにかく、試そうとしたのは私たちだ。正確には私だ。バロンには事情を話してあったが、ノリアキングについては、冤罪だな」
ちょ、ちょっと待て。
「じゃあ、僕を試そうとしてたのは確かなんだな」
「そうでなければ誰があんな回りくどいことをする?」
レツリンは、今は魅力的なおもちゃを見つけたように興奮しているようだった。態度はいつも通りだけど、やけに話すし、顔も少し上気しているように見える。
「世界のほころび。ジンジャーゼルという舞台の謎は、簡単にわかるとは思えない。おそらく運営は気づかせるつもりもないだろう。だからヒントは隠されているし、筋の通った説明を紡ぐには、時には陰謀論にも思えるほど無茶な飛躍が必要になる。だから、ジェスト」
だんだんと近づいてくるレツリンは、
「私はお前に仕掛けた。今回お前を取り巻く状況をどこまで見抜けるか。バロンに言ってもらった。男爵は嘘をついていると。安易な答えに留まるのではなく、欠片も登場していないノリアキングに至るかどうか。そして、それが荒唐無稽であることを理解した上で、私に伝えることができるかを、試したのだ」
僕の手を取って、
「見事だ。合格だよ。だから褒美をやろう」
ビビったままの僕を引き寄せて、
キスを。
……
……
は?
なにが起きたのかわからなかった。
僕はなすがまま、唇を離したレツリンの目を見るしか無かった。
「この世界は実在している」
いや……え?
なんだって?
お疲れ様でした。これにて第三部終了となります。
今回のテーマはプレイヤーVSプレイヤーで、なおかつゲームの舞台、この作品の舞台の根本に関わる情報を主に扱いました。そのためゲームはあまり進行しておらず、目立ったものは二次職になったことくらいです。
ただし今回登場し、全編にわたってジェストと火花を散らした(?)夕闇男爵は今後のキーパーソンです。その正体も含め、知性派であるところのジェストよりも頭がいい(と、ちゃんと描写できていればと願わずにはおれません)という特別なキャラクターですから、登場はインパクトのある物にしました。
さて、このゲームが実は○○、という予想を立てていらっしゃる方もおそらく少なくないと思いますが、今回の真相と同じく、このゲームの真相もあまり単純ではありません。答えが明かされるに際し、読者の方々が納得できるような物語を書くためにより一層の精進を重ねるつもりです。
第四部は、今ログアウトしているメンバーとまた合流し、より一層本格的なゲーム攻略が始まります。まずはサンダマスヴェリア城で新たに発生している、素行不良のプレイヤー達。その問題のあんまりにもあんまりな部分に、童貞のジェストはどう対処するのか。
よろしければ、これからも楽しんでいただければ幸いです。




