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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第八次侵攻 あるいは謎解きの逢瀬
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男爵現る。うぜぇーっ!

 地響き。


 雷が落ちて地響きって、どんだけだよ。


 だけど落ちた雷の大きさは尋常じゃない。どれだけ大きい台風でもこんなのはなかったし、それにこんな至近距離で落ちたこともなかった。


 気がつけばモンスター達の波も止まっていて、戦っていたはずのプレイヤーも呆然と、空を見上げている。


「三の雷」


 静寂の中にトシヒコの声。


 それに呼応して、三つ目の雷が落ちた。


 近い!


 視界を覆う強烈なフラッシュのなか、前線のプレイヤーの近くの地面が、モンスターを巻き込んでえぐれ上がった。鼓膜が破れそうな爆裂音と共に、衝撃波みたいな力が僕を僅かに押した。


 舞い上がるモンスターのHPは、当然のことながら一撃で0。見えた限りじゃ一つの雷で十体以上は巻き込んでいる。それがすでに三回。特に最初の二回はモンスターの密集している後方に落ちたから、数はもっと多い。


「ガ、ガートランド!」


 地面からじゃよくわからん。僕はガートランドを呼んで、ドラゴンを召喚してもらう。コウモリはあんまり高くまで飛べないし動きも遅い。


「だ、大丈夫だよな? 俺らに落ちたりしないよな?」

「知るかそんなの!」


 落ちたところでデスするだけだ。むしろ味方に落ちる可能性があることがわかる分収穫ありとみていいと思う。


 もっと上から、大局的に見ないと。


「私も見ます。ユリアさん、ドラゴンをお願いします」


 ジュリアさんも僕らに続いて空に上がった。


「四の雷」


 それとタイミングを同じくして四回目。あんまりな光と音にバランスを崩しかけたけど、ガートランドの鎧に捕まって耐える。


「でっけ!」


 と思わずガートランドが漏らしたように、かなり大きなクレーターが開いている。直径五メートルくらいが綺麗にえぐれてて、四つだから雷が落ちたところだ。モンスターが密集しているところのなかにぽっかりと空間が出来ている。


 遠目じゃよくわからないけど、クレーターの近くのモンスターもあまりのことにビビっているようだ。進撃の足はとまったままだ。


「だ……だっ、だけど……」


 そうだ。


 威力はもの凄い。単純なダメージなら、おそらく雷系の魔法の中でもかなり上位に入る。ちょうどベスラムが使っていたライトニングスコールの上位にあたる効果みたいだ。


「だけどこれ、狙ってるのか……?」


 唐突に五回目の雷が落ちる。雷雲から一閃、振り下ろされる光の筋は目を眩ませ、そこにいたモンスターを焼き焦がし、吹き飛ばし、また新たなクレーターを作った。


 ずいぶん遠い所だぞ。大地を埋め尽くすモンスターの、遙か奥の方。


 僕は真下のトシヒコを見下ろした。詠唱から発動までに時間がかかる、と言う割にかなり早い。もしこの詠唱速度でこの威力なら、狙いがランダムだったところで異常に使えることに変わりはない。


 トシヒコの体が紫色の光で覆われていた。地面から風でも吹いているかのようにローブと髪がたなびいていて、あれはトランス状態だ。


「まだ詠唱中だ」


 六つ目の雷。


「じゃあ、もしかして詠唱が終わったら今よりすげえことになんのか」

「いや……そうじゃなくて」


 そうじゃなくて、詠唱中に効果が発動するんじゃないか?


 トシヒコの唱えている呪文は、途中から雷の数を数え出す。そのカウントに合わせて雷が落ちて、だから普通の魔法みたいに『呪文やジェスチャーマクロが終わってから効果が発動する』のとは根本的に違う。


 呪文詠唱中に攻撃が行われ、そしてトシヒコはトランス状態で詠唱中断できない。


 大体の特徴や弱点がわかってきたぞ。


「ジェスト、動くぞ」


 七つ目の雷が落ちて、それとだいたい同じくらい、モンスターが動いた。具体的には惚けていたプレイヤー達に攻撃を仕掛けたり、その間を縫って突破してきたり。


「降りるぞ!」


 先にショックから立ち直ったのはモンスターの方だった。そりゃ立ち止まったら攻撃され続けるんだから当たり前だ。攻撃されたプレイヤー達は戦闘中だってことを思い出して、応戦しだす。


 抜けたモンスターは七体。まっすぐにトシヒコに向かってくる。


「ジュリアさん、ここから全部見ててください! 僕らでトシヒコは守ります!」


 応えも聞かず、僕らは急降下する。エイタロー達に合流するためにドラゴンから飛び降りると、ジュリア小隊の残り三人に、まわりに注意するように通信を飛ばした。ジュリアさんが上にいる間はどうしても守りが手薄になる。


「八の雷」


 トシヒコのカウントが多ければ多いほど、スキルの威力は高いと言うこと。ただしそれに比例して、トシヒコがトランス状態、つまり移動も回避もできない時間が延びるということでもある。


 どのタイミングで詠唱が終わるかわからないけど、ここまで来たら最後までやってもらおうじゃないか。この一回で、スキルの効果を全部ジュリアさんに見てもらうんだ。


「一匹も通さないように!」


 ホグマスター一体にワイルドホグ六体。こんなの敵じゃないけどホグは移動スピードが速い。突進してくるヤツに抜かれたら追いつけないから、足を止めるのが必須だ。


「僕が相手だ!」


 エイタローが盾を構えて突っ込む。仁王立ちを発動しても、おそらくトシヒコの方にヘイトが溜まっているから無視される。エイタローもそれがわかっているから、弾丸のようなホグの真正面から体当たりした。


 エイタローの盾に吹き飛ばされた一匹が別の一匹にあたってもつれる。その脇をすり抜けて四匹、一体を姫代子が殴り倒して、一体をガートランドがなぎ払う。イイリコさんがナイフを投げて、二体転がった。


 一体が前線を抜け、僕とユージンの所に達する。


 その頃には僕はブラインドの発動を終えていた。黒い霧に視界をふさがれたホグが地面を滑る。


「まだ来ます!」


 ユージンが叫ぶ。新手のホグマスターが二体。もともと人数が少ないから抜かれるのはしょうがないけど、よりによって数の多いホグマスターを抜かせることはないだろ!


「とどめは後回しで、足止めお願いします!」


 といってもホグは総勢十。一匹は弱くてもこれだけいると、範囲攻撃の少ない僕らじゃ心許ない。出来るだけ止めて、二匹くらいならジュリア小隊の少ない人数でも抑えられると信じるしかない。


『ジェストさん』


 唐突に、空からジュリアさんの通信が入った。


『後ろ、まさか男爵では』


 ……


 ……


 なんだと!







 ブラインドを放って、僕はホグから目を切った。後方、トシヒコの光っている近くに意地の悪い笑い顔で立っているのは……クソ、誰が見間違えるものか。


 男爵だ。


 どっかで僕らのこと見てたな。こっちの状況は正確に把握されていると考えて間違いない。僕らがトシヒコの所までモンスターを進めないように死守していることも、この数を食い止めるのに手が一杯だってこともわかってて出てきたはずだ。


 男爵の予告。


 この防衛戦の間に、ブラガワームのドロップ『ラクトペンダント』を盗みに来る。そのために現れたんだ。


「ち、ちくしょう!」


 どこかで、とは思ってたけど、こんな嫌な時に出てきやがって!


『よう、元気してたか』

『こんな時に通信使うな!』


 怒鳴りつけて、僕はホグに目を戻した。最初にブラインドを当てた内、二匹が倒れ込んでもがいている。三匹はぐらついたようで進路が揺れているけど、暗闇には陥っていない。


 そしてもう五匹はまったく無傷。


「エイタローくん、そっちの三匹、できるだけ止めて! あとはこっち!」


 五匹に対してイイリコさん、姫代子、ガートランドの三人で止めに行く。


「ユーくん、今回は期待してるからね! もし漏らしたらお願い!」

「うす。当てるくらいならいけるすよ」


 とにかく男爵は後回しだ。ペンダントは今、僕の手元にはない。ブラガワームを倒した夜、イイリコさんに渡している。だから僕に盗みを仕掛けてくるなら問題ない。イイリコさんが持っていることは僕とイイリコさんしか知らないから、さすがに男爵に漏れているとは考えられない。


 ――二人だけの秘密ね。


 そう、二人だけなら、大丈夫だ。


「エイタロー! ブラインド行くぞ!」


 叫ぶと同時に、ブラインドを発動。三つの暗闇の玉が飛んで命中。一匹が暗闇になる。


『予告通り、ペンダントをいただきにきた』


 だからこんな時に通信使うんじゃねえ! ジュリアさんからの通信が聞こえなかったらどうすんだ!


 一瞬だけ背後を見る。十三発目の雷。いつまで続くんだこれ。


 トランス状態のトシヒコを通り過ぎて、男爵は悠々と歩いてきている。他の連中はいない。ヤツ一人だ。


「二匹抜けた!」


 イイリコさんの声。僕は目を戻す。二体のホグがイイリコさん達を抜けて、僕らの方に突撃してくる。


「一人じゃ二匹は無理っすよ!」


 杖を構えながら叫ぶユージン。


「もう一匹は僕がやる、確実に一匹仕留めろ!」


 ユージンに指示していると、ジュリアさんからの通信が入る。


『男爵は……』

『放っておいて大丈夫です!』


 男爵がここにきた理由をはかりかねているんだろう。ジュリアさんには男爵より戦況を見てもらう必要がある。男爵の狙いはあくまで個人的なものだから、ジュリアさんが気にかける必要はない。


「ほっ」


 進路をずれたホグに合わせて位置取りしたユージンが杖をスイングした。杖を使う職業は、だいたい攻撃方法がゴルフスイングやバットスイングに落ち着く。勢いをつければ威力が増すし、両手だから狙いも定めやすい。


 ホグの下あごから綺麗に振り上げ、ユージンの一匹は転がった。僕はワンドをしまって素手になる。朝だけど日光はトシヒコのスキルで遮られている。夜までとは行かないけど、ある程度ステータスの弱体が抑えられている。


 もちろん素手で止めるわけじゃない。僕は腰から、新たにサクラさんに作ってもらった剣を抜く。


 ネクロマンサーからヴァンパイアになって、一番上昇したのが筋力だ。もともとモンスターのヴァンパイアは肉弾戦が主だから、それにならって強化されているんだと思う。


 悪く言えば器用貧乏な感じだけど、WWでホーリーナイトをやってた僕からしてみれば、杖よりも剣の方が扱いやすい。


 一年近く使ってなかった。だけどここ数日、カンを取り戻すため、そしてリアル判定での剣になれるために振り回していた。大丈夫だ、行ける。


「ジェストくん!」


 エイタローの声。


 ホグを切り裂いて、僕は息つく暇もなく右に走った。エイタローが僕を呼ぶ理由なんか、今は一つしかない。


 エイタローの盾を抜けた一匹が、猛烈に突進してきている!


 とっさにワンドを取り出した。このままだと追いつかない。ブラインドを放ち、よれてスピードの衰えたホグに続けてダーク。


 浮く。こんだけ稼げば十分だ。暗闇にならず、再びトシヒコに向かって走り出そうとしたホグに剣を突き立てる。


「姫代子ちゃん、私たちに任せて、さっきのヤツらのとどめさして!」


 イイリコさんが叫ぶ。この数十秒でさっき転ばせたホグ達が体勢を立て直しつつある。


 前線を見ると、今度はキラーマンが一体抜けてきていた。


 今回一番ありがたかったのは、空を飛ぶモンスターがいなかったことだ。そういう意味じゃ賭けに勝ったといえる。だけど面倒くさい戦いであることに変わりはない。


 もう雷の数を数えることもできない。断続的に続く雷は今だ終わる気配を見せなくて、これはちょっと計算違いだ。威力を見てから城に後退しいつもの戦闘に切り替えるはずが、未だにモンスターを抜かせないための場当たり的な戦いが続いている。


 しかも、


『こっちは見なくていいのか。もう着くぜ』


 こいつが邪魔してくる!


 また振り返ると、かなり近くまで歩いてきていた。余裕なのか何かの作戦なのか、一足飛びにこっちには来ない。あくまで悠々と、マイペースに。それが僕をいらつかせてるんだから大成功だ。


『これはサービスなんだぜ。早くなにかの対策を取った方がいいんじゃないのか』

『うるさい! 黙って盗めばいいだろ! こっちは忙しいんだ!』


 ゲームオーバーのかかっている防衛戦の邪魔するなんてCHのプレイヤーとしてどうなんだよ!


 と毒づくのはいい。ヤツだってわかってるんだ。これがあくまで、守り切るための余裕を残している上での戦いだってことを。僕ひとりの邪魔したところで、今回の防衛戦でゲームオーバーになる可能性はほとんどゼロだ。


 だからこそ、こうやって堂々と邪魔してくるんだ。


『ほらみろ、やっぱあらかじめ対策してるんじゃねえか。例えば誰かに持たせるだけでも十分だ。プレイヤーのインベントリを覗くには近づいて盗みを仕掛けるか、誰かが漏らすのを待つしかないからな』


 くそ、黙って盗めとか言ったからヤツが深読みしてきやがった。余裕ないな僕も。


『だが、お前が初めてってわけじゃない。一番簡単な対策で誰でも思いつくことだ』


 そんなのわかってる。もっと簡単なのは持たせたヤツをログアウトさせること、つまりサクラさんにでも渡しておくのが確実な方法だ。だけど、僕は男爵に用がある。持ってるプレイヤーがログアウトしているとどこかで気がつかれたら、その時点で接触はかなり困難になるだろう。


 待ってたんだよ。


『どんな対策やったところで無駄だけどな。一度でいいからこっち見な。いいものあるぜ』


 そのセリフに僕は違和感を覚えて、


 今のところキラーマンが僕の所まで来ないことを確認して、振り返る。


 男爵がいやらしい笑顔のまま、右手を持ち上げていた。


 そこに、金でできた首飾りが――


「なっ――」


 なんでだ?


 なんでそこにあるんだ?


 男爵はあれから一度も、僕にも、イイリコさんにも接触していない。少なくとも僕には接触していないし、この城に戻ってからは寝る時以外、基本的に小隊員は全員で行動していた。少なくともイイリコさんと僕は離れていない。それが不審にならないよう、狩りに行ったり作戦会議したり気を使ったんだぞ。


 それなのになんで男爵の手にペンダントがあるんだ?


 まさか――


 まさか、ミウルの里で男爵に口説かれてたイイリコさんが、実は落とされてたとか……いやさすがにそれは……そうだったとして、僕とずっといたんだから物理的に渡す暇がないだろ。


 雷の音。


『……イイリコさん』


 口の動きを悟られてはいけない。聞こえてもいけない。僕はマントで口を隠して、小声でイイリコさんに通信を送る。


『首飾りがあるか確認して――』

「イイリコだ! バロン!」


 すぐ目の前で、いきなり叫び声がした。


 意味がわからず驚く僕の目の前に……さっきまでいなかったはずのハンマーナックルが……バスと呼ばれていたハンマーナックルが立っていた。


 脳裏にレツリンの顔がよぎった。マーシャヴェルナ奪還の時に使った、これは……


『伏兵』なのか。

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