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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第八次侵攻 あるいは謎解きの逢瀬
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いわゆる一つの中二的要素

 毎回、襲撃の時刻は決まっていない。だから襲撃があるこの日だけは、城に待機する必要がある。


 八回目の防衛戦。そして今年最後の防衛戦。12月8日、僕らは朝早くから城の外、戦場になるあたりに集まっていた。


「今回は全員、ここまで出て戦います。ある程度の守りは残しますが」


 ジュリアさんの声。集まっている人数は二百人くらい。まだローテーションログアウトの二次、三次組はあまり戻ってきていないし、未だに城から出られない引きこもり組もいる。現状ゲームプレイしている人数は多くない。


「城の方はNPCの傭兵に任せます。今回はあらかじめ、今までの倍の数を雇っていますから、万が一の場合でも私たちが戻るまでの時間は耐えられます」


 おそらく、と付け足さないのはみんなに不安を与えないためだ。ローテーションログアウトが始まったあと三回のログを見直してみたけど、傭兵は呆れるほど弱い。城の規模が大きくなるにつれ強くなるにしても現状では数あわせの役にも立たない。


 とはいえ、いないよりはマシなのだ。僕らは今回、城から五百メートルほど離れたここで戦うことになる。がら空きだったらあっという間にゲームオーバーの可能性もある。


 人数が少ないこの時に城から離れて戦う理由は、ひとえに試すことがあるから。


「こちらの都合で申し訳ありませんが、今回はある作戦を試したいと思います。どれほどの規模になるのかわからないので、城へのダメージを防ぐために離れました」


 二百人の、その中心。ジュリアさんのすぐ近くにはそれぞれの小隊長が集まっている。イイリコ小隊からはもちろんイイリコさんがいて、僕がここにいるのは遊撃軍団の団長だからだ。


 作戦について、あらかじめ聞いてはいる。


「今までの防衛戦において、タクティシャンの恩恵は計り知れないことがわかりました」


 タクティシャン。500人の内たった二人だけの職業。今ではもっと数が欲しいと思っているプレイヤーは少なくない。トシヒコに会った時の立場からずいぶん変わったものだ。


 大規模戦闘に特化した、という謳い文句はダテじゃない。ステータスこそ低いけど、覚えるスキルは非常に強力だ。防衛戦の度にその真価は露わになり、拠点解放にも役に立つことはマーシャヴェルナで証明済みである。ワーム戦時のレツリンのように、規模を小さくしたり、ダメージを与えるような使い方に限定されないのも特徴だ。まあ、あそこまでうまく罠を使うのはレツリンくらいだと思うけど。地雷を足場確保に使うって意味わかんね。


 ただし、その二次職はどうか。


 初期職が強いからといって、その上位職が使い物になるかは未知数なのがゲームだ。特にタクティシャンが当たりだっただけに、その進化形であるコスモリーダーへの期待値は高い。だけどそんなのは、運営のバランス設定が少しでも狂っていたら全くアテが外れることになる。


 つまり、だ。


 僕らが以前マーシャヴェルナでタクティシャンの有用性を試したように、今回はコスモリーダーの有用性を試す必要がある。


 そのための作戦。


 二次職になっても初期職のスキルは使える。だからコスモリーダーが全くのカスだったとしても最悪なわけじゃない。だけど僕らが強くなるように、襲撃時のモンスターも強くなっていく。いずれタクティシャンのスキルでは歯が立たない相手も出てくるだろう。そういったとき、コスモリーダーの実力がわかっていれば慌てなくてすむ。


「今回はトシヒコさんが要です」


 ジュリアさんが言った。


「コスモリーダーのメインスキル『星天変異』は、タクティシャンと同じ大規模な範囲への攻撃スキルです。タクティシャンとの違いは事前の『仕掛け』が不要であること、罠では無く『天災』であることの二点」


 天災。


 コスモリーダーはタクティシャンと同じように、かなりぶっちぎった職業だ。ステータスがカスなのは同じ。だけど『星天変異』は空の星を操作して、定まっているはずの運命を変化させることができる、というスキルだ。設定だけ聞けば恐ろしく万能なチートスキルっぽいけど、出来ることはただ一点。


 ジュリアさんの言ったように、天災を引き起こすことができる。


「その威力がどれほどのものか、範囲がどれほどのものか。それを今回の防衛戦で試します。このスキル、タクティシャンのものと同じように一度使うと使用制限期間が長い。そのため事前に試すことができませんでした」


 本来、人数の少ないこのときに城を開けるのは愚策とも思える。だけどジュリアさんが実行するなら、そのこともきちんと考えている。


「ほぼ全員が二次職に転職した今が最大の機械です。おそらく今回の襲撃はこれまでで一番楽でしょう」


 二次職になったプレイヤーなら、いや、WWをプレイしていたなら絶対に感じていることのはずだ。二次職は知っての通り、転職するだけで初期職の倍以上のステータスになる。職毎にブレはあるけど、全体でならすと大体そうだ。転職することでザコとの戦いは格段に楽になり、ボスのブラガワームもかなり余裕で倒せた。


 つまり今、襲撃に来るモンスターと僕らの実力にはかなり差がある。これまで襲撃毎にモンスターは強くなってきたけど、あくまで段階を経ているのに間違いはない。今回の襲撃でいきなり強いモンスターが出てくるとは考えにくい。


 だから、何かを試すなら今なんだ。


 次に全員が揃うのはまだ先で、何回かの襲撃の乗りきらないといけない。その襲撃の間、出来るだけリソースを消耗したくない。ここでコスモリーダーが有用であることがわかったら、それが不明なまま戦うよりずいぶん楽になる。


 逆に使えないことがわかったならそれはそれで方針が定まる。なんにせよ、時間が経つにつれ難度が上昇するのであれば、確かめるのは早い方がいい、ということだ。


「コスモリーダーのスキルは事前の準備は必要ありませんが、使用から発動までの時間がかなりかかります。その間、モンスターがここを抜けないように死守してください」


 その時。


 城の方で大きな、大きな角笛が鳴った。


「――早い」


 誰かが呟いた。


 まるでタイミングを合わせたかのように。


 地響きが聞こえてきた。






『全軍に通達。各小隊長は先ほどの話を迅速に周知してください。今回は横に広がって迎え撃ちます。ある程度間隔を開け、小隊毎に並ぶように』


 ジュリアさんの通信に応え、バラバラと散っていくプレイヤー達。さすがに、襲撃への心構えもしっかり出来てきてるみたいだ。ゲーム開始直後の恐慌が嘘みたいだ。


「それでは、イイリコ小隊は私たちの近くに」


 頷く。


 今回はジュリアさんの言ったとおり、トシヒコが要だ。僕の目の前で本を取り出したこいつが『星天変異』を発動するまでの時間、モンスターの攻撃から守り抜く必要がある。


 星天変異。新職業のスキルだから当然、データは無い。広範囲に天災、という説明文では全くその程度が予想できない。だからプレイヤー側のスキルとはいえ、万が一を考えて城から離れて戦うことになった。


 そして発動するための手順がまた、一癖ある。


「よ、よし……い、行くぞ」


 トシヒコは気まずそうに何度か咳払いをして、出した本に目を落とした。どんな理屈か空中に浮いた本がひとりでに開く。


「……」


 それを見て、トシヒコの顔が赤面する。


 僕も聞いてはいる。そして同情する。


「……と、りり……」

「トシヒコ」


 蚊の鳴くような声のトシヒコに、同じ小隊のたなかたろうが言った。


「昨日言ったじゃん? そういうの、中途半端に恥ずかしがるから恥ずかしいんだって」

「わ、わかってら」


 再び本に目を落とし、大きく深呼吸して、覚悟を決めたようにトシヒコは唱え始める。


「――鳥の便りに寄りて、普く大地の者どもよ、汝らに伝う」


 星天変異。効果もさることながら、最大の特徴は『ジェスチャーマクロ登録不可』であることだ。


 つまり公式に設定された、無駄に芝居がかった呪文を唱えなければならない。しかもただの呪文じゃない。


 一ページまるまるの長文。


「災厄は災厄にて払えり。今又、命脅かす悪鬼の在る故、我が秘術の行使あり」


 略は一切不可。


「天に煌めく、いにしえよりの光を頼りに軌跡を成せ」


 トシヒコの足元から、幾筋の光が地面を這った。四方に伸びる光線は、だけど攻撃力があるように思えない。というかまだ呪文は全然……


「前線がモンスターと接触」


 ジュリアさんの言葉で、僕らはトシヒコから目を離す。僕らよりも先、プレイヤーが並んでいるところに、第一波が襲いかかった。


 モンスターはオルトノグェイク周辺。やっぱりまだ弱い。なら今の戦力で十分足止めできる。僕らの役目は間違ってもトシヒコに攻撃があたらないよう、前線を抜けてきたモンスターを狩ることだ。


「御印はエノヴァ、猛き雷の守り人、能く能く御願い申し上げる。御身の下に我は在り」


 星天変異の行使中はトランス状態になる。WWにもあったステータス異常で、つまり全神経を呪文行使にあてているため無防備状態になることだ。こうなっていると、例え危機に陥ってもなんのアクションも取れない。自分からは詠唱の中止もできない状態のことで、強力な魔法には使用するまでのタイムラグと一緒に大体このステータス異常がついている。


「頭を垂れ奇蹟を願うもの也。星々よ動け、意思を届け給え。天よりの裁きを忌まわしき悪魔へと導け」


 トシヒコの呪文に呼応するように、四方へ伸びた光が様々に散った。直径十メートルほどの円が僕たちを囲む。


『第二波! やべえ、抜けたぞ!』


 誰かの通信で、僕らは動いた。ジュリア小隊は最後の砦だ。僕たちはその前、まだ余裕のあるところでモンスターとエンカウントする。


「キラーマン!」


 オルトノグェイクの時に苦しめられたキラーマンだ。だけど今回は平地で、隠れる所はない。無音になっても十分対処可能。


「おお天帝よ! 稲妻の権化よ! 金色の外套を僅かに揺らせば、即ち滅却の光なり」


 なんかトシヒコもちょっと気持ちよくなってる気がする。背後から聞こえる詠唱は力強さを増して、いかにもなんか凄いことが起きそうな気がする。


 僕はワンドを構えてブラインドを放った。範囲内には二体のキラーマン。そいつらに直撃して、一体が暗闇に。


 あらかじめ吸血していたエイタロー、姫代子、ガートランドが突進し、その三人とイイリコさんにユージンがフィジックをかける。


「天地に見せしめ、鉄槌を下せ! 反逆の使徒共に大いなる正義の在らんことを示せ!」


 光の円は複雑な模様を描き、魔法陣を作り上げる。それに従い、快晴だった空に暗雲が立ちこめ始めた。詠唱の内容とこの変化、どんな効果があるのかそろそろ予想がつく。


「召雷の儀はここに至り」


 エイタローが切り捨てたキラーマンを躁屍して、迫り来るモンスターに向かって無音攻撃を放たせた。僕らが受けたように、この攻撃の範囲はえらく広い。最初の一発で交戦中のもう一方のキラーマンが無音に陥り、前線と戦っていた他のモンスターにも影響が及ぶ。


「刮目せよ、これはまさしく神の業に他ならん」


 すでにあたりは薄暗くなっていて、暗雲の間からは断続的に光りと音が見え隠れしている。


 マジかよ。


「第三波、来るぞ!」


 誰かが叫んだ。


「一の雷」


 トシヒコが叫んだ。


 それと同時に、もの凄い轟音が響いた。


 一瞬、目が眩むような光が天から降り注いで、前線の向こう、モンスターの群れる所が爆発した。


 そこかしこから悲鳴が相次いだ。


 僕も思わずすくみ上がった。


 十数体のモンスターが宙を舞う。吹き飛んで、墜落して、


「二の雷」


 そして、また巨大な雷が落ちた。

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