ドクターストップ
「ブライト、いきます!」
ユージンが叫んで、まばゆい光がワームの体内に溢れた。
僕は暗視を解除して、ほんのわずか振り返る。
ガートランドと利家も後ろを見ていた。ほとんど走っているような早歩きの中、今まで光が届かず見えなかった脅威を確認しなければならないと思ったのだろう。
たぶん後悔している。僕もだ。
モノクロだった風景は、暗視を解除したこととブライトの青白い光のおかげでずいぶんと明るくなった。そして強い光は濃い影を作って、だから小さな芋虫みたいなのの一つ一つの輪郭がはっきり見えている。
足の踏み場もないほどに。
手をつくところもないほどに。
うじゃうじゃと動いている虫たち。マジで吐きそう。
一匹の動きは遅い。たぶん僕たちが普通に歩いても、追いつけないと思う。だけど問題はそこじゃない。
次から次に、僕たちが通る道の、固くなったワームの皮を突き破って湧いてくる。ワームの体内はチューブみたいになっていて、その壁のどこからでも湧いてくる。
ぐちゃ、と靴が何かを踏んだ。
何かって、わかるよそんなもん。
「少しスピードを上げて」
マトノの悲鳴は収まっている。だけど頭の中は尋常じゃないはずだ。よりによって首筋を虫が這ったんだから誰だってゲンナリする。それに加えて怖がりなマトノは、たぶん目を瞑っているのだろう。サクラさんの服を掴んで話さず、言葉も出さずに俯いて歩き続けている。
隣の陽炎を見た。殺気よりも顔色が悪い。僕も多少ストレスに感じている閉塞感が、きっと何倍にも増幅されて彼を襲っているんだと思う。虫のことなど頭になさそうで、眉間にしわを寄せて脇目も振らず歩いている。歩き方はぎこちなくて、口元がこわばっている。それに僕から見える誰よりも汗をかいている。
「ジェスト、ドラゴンがきた。炎吐くぞ!」
ガートランドの声が聞こえて、間髪入れずにバーナーのような音と、ブライトに負けない程の赤い光、そして熱風が僕らを包む。
ギィギィという不快な断末魔と、生き物が焼ける臭い。
このダンジョンを作ったヤツは誰だよ。
マトノの手が一瞬緩んで、すぐに服を掴み直すのが見えた。僕の予想じゃ両手で耳を塞ごうとしたんだ。
虫に追われ始めてからもうそろそろ十分ほどになる。ブライトでかなり先まで見えるけど、出口らしきものはない。
「リチャージ二分」
ガートランドの声。二分。
ずいぶん長く感じる。
結局の所、僕たちは逃げるしかない。相手が小さすぎるのと大きすぎるのが原因だ。魔法職がもっと多ければ、いや、現状でもマトノがもう少し丈夫だったら、多少は落ち着いて進めたはずだ。
イイリコ小隊とサクラ小隊で、明確な後衛火力は僕とマトノだけだ。しかも元がネクロマンサーであるヴァンパイアの魔法職としての火力はなかなか低い。虫のHPがほとんど無いのはさておき、ダークもスポイルももともと単体攻撃。密集してるから多少マシとはいえ、一面虫だらけな現状、使い物になるとは言いがたい。複数を対象に取るアシッドアローは、虫が酸属性なので無意味。範囲攻撃を持つグレイトマギに比べるべくもない。虫なんか操ってもしょうがないし。
ガートランドが最後尾でよかったと思う。ドラゴンのブレスは、レベル1だから大して強力なわけじゃない。けど今回に限っては最も有効な攻撃手段だと思う。
だけど、根本的な解決にはならない。
すでに虫は、僕を追い越してメンデル達のあたりからも出てき始めていた。ブレスを前に吐くわけには行かないし、物理攻撃で潰すには細かすぎるし、ほとんど打つ手が無かった。
おまけに先が見えない。
「ブライト、もうすぐ切れます」
ユージンの告げる、無情な事実。
ブライトは四十分。すなわち僕らは、すでに一時間半近くこの中を歩いていることになる。
くそ、生物の体内だぞ。なにか条件を満たさないと出口が見つからないとかさすがにないだろ。この先に、ちょっと想像するのがはばかられるけど、何かしらの出口があるはずだ。だってさっきまでは下り坂だったのが、今はちょっと上っているんだから。
そう、上り坂。
今僕らの敵は、長い間こんな所にいるストレス、そしてそこからくる疲労。
最初に域が荒くなったのは陽炎だった。バンディットは職業の特性上、長時間の行動に対する負荷が少なくなっている。筋力と体力と敏捷からはじき出されると予想される、いわば忍耐値。戦士系が高く、後衛は低い。たぶんこの中で一番ひ弱なのは元ファーマシストのメンデルだと思う。
そのバンディットの息が荒い。
きっと精神的なものだ。ちょっと前、ジェストと新藤がケンカしていた時のような、体での移動を頭がどうしようも無く拒否するような、あの感覚に似ているかもしれない。
とすると、やっぱり陽炎は置いてきた方がよかった、のが理性的な後悔だ。
「陽炎さん、慌てないで」
でも感覚が似ているなら、僕は陽炎を応援する。あのときイイリコ小隊のみんながやってくれたように、後ろ向きなことは言わず、耐えてくれと祈りつつ。
ログアウトしろとは、言わない。
本当なら体の心配をすべきなんだろう。だって死にはしないだろうけど、こんな状態で神経がすり減らないわけがない。体調を崩す可能性もあるし、熱でも出したら残り六年の半分を失ってもおかしくない。
ただし自分を省みると……この25年間、いや、正確にはゲーム内での感覚ではすでに26年、その半分近くを、僕はこのゲームに費やした。
どれだけ高熱が出ても、本気で体が動かなくなるような時以外はWWにログインしていた。
リアルから目をそらしていた、というのを否定するつもりはない。その結果として、僕はWWにのめり込んでいたんだ。
陽炎も、程度の差はあれ同じかもしれないんだ。
閉所恐怖症とかそういうリアルの事情で、ゲーム攻略に参加できなくなるのは論外なんだ。少なくともサクラさんの意見ではあるけど。
だから僕からはネガティブなことは言わないようにしようと思う。それに危なくなったら、僕の時みたいに運営が強制ログアウトさせるはずだ。それがないんなら、まだ余裕はあるはずだ。
ブライトが切れて、松明の赤い光が揺れた。
「ガートランド、あと何分」
「十五分」
レベル1ドラゴン召喚は、一回五分程度で効果が切れる。ザコ戦ならじゅうぶんな時間。リチャージは二十分ほど。すでに二回召喚して、三回目のリチャージ。
幸か不幸か、虫との距離は変わらない。ついに這い出る場所は先頭から二番目、すなわち姫代子とサクラさんまで追いついているけど、まだ完全に出る前に通り抜けられる。背後からの虫はガートランドがあらかた燃やして、距離を離してくれる。
そしてもし完全に虫に追い越されても、僕たちはまだ走ることができる。松明じゃちょっと頼りないから、次のブライトの時に決断する必要があるかもしれない。
間に数人挟んでいるからわかりにくいけど、イイリコさんはあまり余裕がないはずだだ。索敵系のスキルは自分が移動しているとかなり精度が落ちる。どちらかというと、前から来た敵からの諸撃は覚悟した上で、たまにぎらつく短刀と松明で応戦するつもりらしい。そしてエイタローは、いざというときにイイリコさんの盾になる心づもりのようだ。前からいつ攻撃が来てもいいように、歩きにくいだろうに大楯をずっと構えたままだった。
一時間四十分。
途中から速度を上げていることもある。地図上の湿地の大きさで言えば、そろそろ抜けるはずなんだ。丸一日さまよってたせいでかなり広いような感じだけど、湿地はそれほど広くない。
スコイア湿地帯はトラップを仕掛けていた。立ちはだかる障害を排除して現れた道なら正解のはずだろ!
もう少しのはずだろ!
「見えた! 見えたよ!」
先頭でイイリコさんが叫んだ。たぶん全員が前を向いた。その先に見えるはずの出口を……見えん。
「見えた……で、出口!」
隣で陽炎が叫んだ。
そうか。バンディットが認識できる範囲か。
バンディットの特性は素早さの他に、白兵職や魔法職に比べて目がいいことが上げられる。これはハンター系統、そしてたぶん、ガンナー系統も同様だと思う。このゲームにおいてリアルの視力なんか関係ないことは、僕が眼鏡を必要としないことでわかると思う。どこまで遠くを見ることが出来るかは職業によって異なる。それがバンディットは長いわけだ。
WWでは、バンディットが詳細に把握することが出来るのは一キロ程度。目をこらす的なアクションが職業特性で備わっている。他の職業ではわからない細かな所まで把握できる。もっともWWは描画の限界とかもあって、実際には目の前に拡大鏡のような別画面が出る形式だった。鷹の目を使うと更に遠くまで見える。今イイリコさんや陽炎がどう見えているかはわからない。
もしWWと同じように一キロ先を把握できると仮定して……今見えたのが、出口のような小さな光だとすると、たぶん長くて二キロ先。それより長いってことはないはずだ。
急げば二十分もかからない。
ぎゃっ、と聞こえた気がした。考えに集中してたから反応するのが遅れたけど、今のはたぶんマトノの悲鳴。
見れば、ついに虫はエイタローの前から出始めている。
「走りましょう、イイリコさん!」
イイリコさんは即答しない。ダンジョンの中を走る、というのは常にリスクが伴う。どんな罠を踏むかわからないし、出口で待ち伏せていたモンスターに出会い頭の一撃を食らうかもしれない。そうでなくとも、こけたら間違いなく虫に飲み込まれる。常に先頭を歩くシーフ系職業のプレイヤーにとって、戒めなければならないのが『一寸先は闇』だ。例え明るい場所でも。
それでも僕は主張する。マトノと陽炎は限界だ。サクラさんの励ましの言葉を聞いているのかすらわからない。出口が見えたことで、陽炎の心には希望の他に焦りが生まれているはずだった。このままだと暴走しかねないし、それとは別問題として、すでに僕のマントにも、落ちてきた虫が這い始めている。後ろの二人はなにをかいわんや。
ドラゴンも召喚できない。今のところ、この閉鎖空間を埋め尽くす虫に対する攻撃手段が乏しすぎる。一度山に戻って、アルケミストのメンデルに攻撃アイテムの素材を発掘させておけばよかったと、これはマジメに後悔する。
だけど、なにはなくとも出口だ。
「あたしも賛成」
姫代子が言った。虫をグチャグチャと踏みながら、
「このままだと靴が溶けちゃって、出口につく前に歩けなくなるわ。走ったら一時的に虫から離れられるし、だからこけたとしても少し余裕がある。ジェストの魔法でもほんの少しくらいは時間稼げると思うし、とにかく今の状態はちょっと危険だと思う」
いい理由だ。姫代子とはたまに同意見になるけど、具体性がある分、姫代子は頼もしい。
それに魔法職や鎧を着るメンバーはともかく、姫代子とイイリコさんはかなり肌を露出している。体液が酸の虫が相手の場合、ダメージが大きい。WWと違ってダメージの判定箇所がリアルになった。これはその弊害だと思う。
暗闇のステータス異常が妙に強かったり、バランスは理想的とは言いがたい。きっとリアリティを重視した結果なんだろうけど。そんでたぶん、このイベント結果をもとに調整が入るはずだ。もうちょっとゲーム的な調整を入れて、リリース。
リリースできるのかこんなの。
すぐ近くの虫から気をそらすためにいろいろ考えていると、僕の目にも、ほんのわずかな光が見えた。こうなりゃあと少しだ。
「マトノちゃんのこと、お願いね。ジェストくん達は陽炎さんをフォローして」
イイリコさんが叫んだ。
「走ります!」
陽炎の目に火花が走ったような気がした。
「落ち着いて、冷静に。慌てたらこけます」
僕の声が届いているかわからないけど、とにかく言うしかない。できることはそう多くない。
「追い越そうとすると絶対にバランス崩します。バラリヤさんの後ろで十分追いつかれないんで。念のため持ってますから」
僕はワンドをインベントリに引っ込めて、陽炎の裾を掴んだ。目を見開いたまま、前を向いたままがくがくと頷く陽炎。このままだと絶対に暴走する。
「ブライト切れます!」
ユージンの声。
こんなときに!
「ジェスト、よこせ」
もう仕方ない。僕はガートランドに松明を渡す。ガートランドとイイリコさんが同時に松明をつけて、ユージンのブライトが切れ、僕は陽炎の補助が出来るよう、暗視を発動した。
モノクロの世界、やっかいなことに、目指すべき前方にイイリコさんの松明がある。そのあたりは真っ白になっていて先を見るのが困難だ。そのへんは陽炎の視界と声での情報に任せて、僕は自分たちの周りがどうなっているかを把握することに努める。
前が走り出した。
マトノもさすがに顔を上げたようだ。肩までくらいの髪が揺れていて、でも右手はしっかりとサクラさんの服を掴んでいる。走りにくそうだけど、そのおかげであまりスピードは出ていない。サクラさんがうまくペースをあわせていることもあって、足がもつれるとかもなさそうだ。
行ける、行ける。暗いけど今まで障害物は無かった。ひたすら筒みたいな中を一直線だった。ワームの体がこんなに長かったのにもびっくりだけど、それ以上に、ここまで続いていたダンジョンの最後に意地の悪いしかけがあるとは思えない。ここのコンセプトは、虫から如何にして逃げ切るか、だと決めつけて、僕は足を速めた。
ぐちゃ、と嫌な感触。これにはついに慣れなかったな。慣れるのも嫌だけど、体液で滑るのが一番怖い。全力はダメだ、あくまで小走りに、確実に進め。
松明の向こうがどうなっているかはわからない。暗視の中では炎も太陽光も同じ白だから、重なっていると本当にわからない。周りが見やすい分、デメリットみたいなもんだろう。そしてそのせいで、僕は自分たちがどうしようもなく虫に囲まれていることがわかってしまう。
足を速めたら、その分出てくる場所も僕たちにあわせてくる、と言うことも。
くそっ!
いや、落ち着け。少なくとも虫の出てくる場所は、マトノのあたりまでになっている。先頭は完全に虫から脱出している。僕たちの走る速さのほうが上だ。あと少しもしないうちに、固い足場を感じることができるはずだ。
陽炎を掴んでいた左腕が、不意に引っ張られた。
「ダメです、バラリヤさんと接触する!」
僕は叫びながら左手に力を込める。陽炎は僕の腕を振り払おうとして、暴れる。
そもそもバンディットは足が速い。すぐ前のバラリヤがブラックスミスの二次職、マーチャント。こっちはどちらかというと遅め。だから同じように走ると、どうしてもバンディットが追い越す。しかもこのままだと陽炎は全力疾走しかねない。いくら平坦な上り坂とはいえ、周りの暗さを考えると危険すぎる。
「いいですか! 落ち着いて、滑らないようにしっかり足をつけてください!」
舌噛みそう。
「後ろは俺がいる。大丈夫だ」
見かねたガートランドも呼びかけている。ちらりと見てみたら、頬の虫を剥がしていた。そのあたりからブスブス煙が出ていて、その他にも鎧に多くの虫がついている。真後ろの利家は見えない。けど、最後尾の二人はかなり危険そうだ。
二人とも耐えている。
「か、陽炎」
その利家がいるはずの、つまり僕の真後ろから、聞き慣れない声がした。
いや、聞いたことある。でもこんなに大きな声、利家は出したことない。
「こ、こけたら俺たちも、巻き込まれるんだ。ぜったいに、こけるな。しっかり、歩け」
突然の声に僕は驚いて――陽炎は思わず振り返って――
足を滑らせ、僕の腕もろとも体が引っ張られて、
マジかよ。
こけなかった。
足を滑らせた陽炎は、ギリギリのところでふんばった。
本当に奇蹟としかいいようがない。僕の方もかなり危なかった。
体勢が崩れたから立ち止まったけど、陽炎は頭を持ち上げる。
目が、心なしかしっかりとしていて、
「悪い」
それだけ、利家に言った
「ジェストさん、ガートランドさん、すいません」
僕たちにはそう言って、
「大丈夫です」
小走りに進み出す。
僕とガートランドは目を合わせて……とにかく、すぐに追いかけた。僕の左腕はもうなにも掴んでいない。
「利家、ナイス」
背後からガートランドの声が聞こえた。
マジかよ。
あれだけ言っても効果があるか疑わしかったのに、利家の言葉で立ち直りやがった。
いや。
当たり前だ。二人は同じ小隊なんだから。
それで十分説明出来る。サクラさん、実利とか言ってたけど……そりゃ、そうなるよな。
とはいえ……パニックじみた恐慌から立ち直ったとは言え、陽炎が閉所恐怖症なのには変わりない。
僕はバラリヤに追いつく陽炎に注意したまま、先を急ぐ。
途中で暗視を切った。松明の光を飲み込むほどに出口の光が強くなって、視界に影響しだしたからだ。色の戻った世界では、もう松明が無くても周りが認識できるくらいに明るい。
先行していたイイリコさん達が、ついに外に飛び出した。
続いて少し先を走る姫代子たちが飛び降りる。
……飛び降りる?
『いった……み、みんな、足下気をつけて!』
たぶんこけたままのイイリコさんが、それでも全員にあてて通信を送ってくる。直後に「きゃあっ」と悲鳴が続いて、たぶん姫代子がイイリコさんの上に落ちたんだ。通信切れた。
最後にちょっと難関だ。
直前を走っていたサクラさん達が飛び降りて、服を掴んでいたマトノが引きずられて体勢を崩したまま、倒れるように飛び出す。
それと同時に、僕はコウモリ変化で飛び立った。
あまりのまぶしさに目を閉じて、とにかくまっすぐ飛んだ。したの方で悲鳴が聞こえて、目が慣れた頃に旋回すると、折り重なる遊撃軍団の面々が見える。
うーん。僕の前はイイリコさん、姫代子、サクラさん、マトノだったから、利家は幸か不幸か、女性のマットに墜落したようなもんだ。せっかくだから感触を楽しむといい。
ガートランドはジャンプしたんだろう、一人だけかなり出口から離れて華麗(笑)に着地している。そのほかはみんな山になっていた。
そのガートランドは、みんなの所に向かうこともせず……そう、僕からも見える。
誰かいる。
地面に降りたってコウモリ変化を解除。利家の手を引いて立ち上がらせた。
いたいいたいとうめく面々。最後の最後にいやらしいトラップだよ本当に。
こっち側の出口は、驚いたことにワームの口だった。つまりブラガワームは両端が頭の超キモいモンスターなわけで、片方を倒したからその影響でもう片方の頭も死んだんだろう。たぶん東の海岸を回り込んできたのなら、ここでワームと戦うことになったはずだ。
湿地は終わって、後は東に水平線。大陸の端までそう遠くなさそうだ。
全員を立ち上がらせた頃に、ガートランドが戻ってきた。
「あ、あんたなにやってんの、来なさいよ……」
クレームを入れようとした姫代子が、黙る。
ガートランドの後ろに見慣れないプレイヤー。
いや、きっとプレイヤーじゃない。
「陽炎、あんただ」
ガートランドがそういった瞬間、誰もが理解した。
村人Aみたいな地味なアバターの男は一礼して、
「陽炎さんの体調が崩れていますので、一度ログアウトして診断を受けるようにお願いします」
無情にも言い放った。
僕たちが意地でも口にしなかった言葉。




