[第四幕.ようこそ、我が廃校へ。]
あれから数分後。
おれ達はイシナカ村の一軒の廃校、イシナカ小学校に辿り着いた。
廃校だけあって得体の知れない何かが棲み付いていてそうで不気味だし、この校舎の裏側にある林からは静寂した雰囲気を切り裂くようにして木を吹き抜けた雪を伴う風が『ヒューヒュー』音を立てて鳴り響き、その風が校舎の窓を『ゴトンゴトン』と揺さ振る。閑散とした中で鳴り響くそれらの音は一層、不気味さと恐怖心を煽り立ててた。
案内通りに下駄箱へ着いたのは良いが誰もいない。人の気配すら感じないのだ。だが、その代りに張り紙が出されていた。
『挑戦者たちよ。ようこそ我が催しに。貴方方が宿泊する部屋はコチラです』
それを見つけた森口は読み上げた。ふと彼が目線を下げるとそのチラシ上の端に校舎内の図が描かれてあり、赤で書き込まれた矢印が挑戦者である彼らの向かうべき部屋を示していた。
「自分たちでどーぞってことか」
愛想が悪いなと思いながら武野は言った。
「出迎えぐらいはしてくれても良いじゃないかな……」
おれが感じ悪そうにそう言うと皆が頷く。
「あやしいけど、肌寒くなって来たし、とにかく中入ろー」
手を擦って寒そうにしている内田が言う。
「そうだな」と皆が賛成し、校舎へと入っていった。
*
ジャンケンをして一発目で負けたおれと武野はビクビク怯えながらも渋々先頭に立ち、前へと進んだ。
歩いてゆくとあちらこちらに小さな紙に印刷された赤の矢印が貼られてあった。
分かりやすいといえば分かりやすいが、こんな面倒なことするのであれば初めっから関係者が出て来て案内すればいいのに。
それになんか怖いし。
そうこうしている内に宿泊場についた。掛けれたプレートには『3-4』と記されていた。
教室だった。
*
「……それにしても落ち着かないトコですね」
森口が口を開いた。
「確かにそうですよね」
武野が相槌を打つ。この学校の雰囲気もそれだが、ここの村に来て誰一人として村人らしき人にすら出会ってなかった。
「ですけど、生活に必要な支給品はあるから安心ですよね。それに真新しいようですし」
武野は、黒板側(窓辺)に置いてあった紺色の寝袋に人差し指を指した。
「ん?」と内田は気になって寝袋の方へと近寄った。
「ホントだ、新品。でも――」
「どうした?」
おれは彼女の元に寄った。
「ん? ひぃーふぅーみぃー……」
「ね?」
「三組しかないぜ?」
「そりゃぁそうだろ。内田は〝参加者″は『3人』で、って送ったんだから」
そんなやり取りにガンとした先生は少しショックを受けたらしかった。
「そんなー。僕はどこで寝たら良いのですか?」
内田は腕組みして考え軽いノリでこう言った。
「じゃあ、そこどうですか?ソコ」
内田が指さした先は……
ごみ箱。
「―――僕はゴミですか……」
声が暗い……。
そんな声とは正反対に武野っちがツッコむ。
「いや、むしろゴキブリちゃん辺りですかね」
武野、お前「ゴキブリちゃん」ってなに?「ちゃん」って……。
武野の言動はともかくとして、これを聞いた先生は流石に言い返した。
「誰がです!? 僕一応、教師ですよ! 何か恨みでもあるのですか……?」
怒鳴っているようにも聞こえるがむしろ嘆きに聞こえるのはおれだけだろうか……。語尾(というより全体)が気が弱くなっている様な気がする。でも、今に始まったことじゃないかなぁ。そんな森口先生に内田が否定する。
「ないですよ。自分達は」私たちは無害ですよと掌を上に向けてニコニコと笑って内田は「あっでも」と思い出したように続けて言った。
「先生、教師って大抵そういうもんじゃないですか?うちの勝手な偏見ですけどね」
森口はその疑問に答えて良いのかと少し悩んだが一言だけ「まぁ」と言って頷いた。
そんなことより彼はこっちの方に不服だったらしくて文句を言っていた。
「あのね……。第一、狭過ぎです。僕身長が170cm以上あるのにムリです」
170cmならおれと対して変わらないんだけどな。そんなに大きいとこで寝たいのならと思いおれは教室の出入り口にまでより、扉をガラッと開けた。
「では、廊下で―――」
廊下はゴミ箱よりも広いですよ、先生。廃校の廊下はかなり不気味ですけど……。
おれが最後まで言う間もなく言い返される。
「もっとイヤです!」
ついでにいうと即答だった。この時の先生の顔と来たら弄り甲斐があるようなそんな表情だった。でも、本人にそれ言ったらかなり失礼だけどな。
そんな折、床に胡坐をかいて座っていた武野は立ち上がり、
「でもさぁ」
と口を開いた。武野は長旅で疲れていたのか口数がいつもより少なかったから、おれ達はすぐに振り向いて彼を見た。
「―――どっちにしたって今日のうちに解いてしまえば、関係ないのでは?」
《あっ!》
そんな簡単な考えは3人とも気付いていなかった。そのことに気が付いた内田はあっさり諦めモードに入ったか否や腕組みをしておれとしちゃ迷惑なことを―――。
「そうだよね。解けなくても諦めればいいんだよね」
全ての元凶 内田せこッ!あんたが原因だろうが。
その横で何故かイエーイって感じで先生がカッコつけてダサいことをぬかす。
「見つかってしまえば逃げちゃえば良いですしね」
あの~ どんだけ帰りたがってるのですか?先生。
「先生は実は…―――」とおれが次に喋ろうとした瞬間だった。
『そんなことはダメですよ』
《 !? 》
いきなり教室に男の声が木霊した。
不意に響いたその声に心臓が止まる思いをしたおれ達は幽霊が出たのかと驚きつつも立ち上がってを見回しその姿を探した。だが、この閑散とした教室を幾ら見渡しても人っこ一人の姿すら見つからない。あるのは数台の机と椅子ばかりだ。声はスピーカーからだった。
『いけませんよ。解いて頂けないと』
おれはビビって恐れながらもその声の主に向って怒鳴るような声で叫んだ。
「誰だ! お前ッ!」
おれの対応に一つも取り乱すことなくその男声は紳士的な対応で『これは失礼』
と詫びを入れ、そのまま落ち着いた声で話を続けた。
『ワタシは、今回この催しの案内人です。因みに質問の方は答えられる範囲なら受け付けております。以後、お見知りおきを』
淡々とした紹介にどう返したらいいのか迷い「はぁ」と4人とも気が抜けた返事をした。
おれらの反応を窺うことなく、謎の放送の案内人は本題に入ろうとする。
『さて、本日参加して頂いた貴方方4名にはこちらにある問題を――4名?』
どうやら主催者は内田の勝手な行動を知らないようだった。
戸惑う案内人に森口は「僕は引率の者です」と教えた。案内人は『左様でございましたか。これは失礼を』と納得し、『では、気を取り戻しまして』と気を切り替えて本題に戻った。
『今回、貴方方にはこの村に残されし暗号……というより、発見された暗号ですね。そちらの方と、この小学校の校歌に隠されし謎……と申しましても、むしろ噂、について解いて頂きます』
大雑把で曖昧すぎて分かり難い説明……。それに、
「…なんか、規模が小さくなっていませんか?曖昧ですし」
森口先生までもがツッコんでしまうほどの説明って―――。
気まずさを取り払うべく案内人は一つ咳払いをして話を続けた。
『えー、とにかく、解いてもらいます。問題の方と解答用紙はゴミ箱の中にありますので』
……なんでそんな所に。
4人が一度に疑問を浮かべた。
「気になっていたのですが参加者は何組いるのですか?」おれはここに来る前から気になっていたそれを質問した。すると帰ってきたその答えはこうだった。
『貴方方、一組のみです』
《えッ!?》
淡々と話す案内人のセリフに皆 驚いた。クイズ大会(厳密にいうと違うけど)だというのならもっと人が多い方が楽しいはず。それなのにおれ達だけだなんて可笑しい。
おれは不思議に思い再び訊き返した。
「何故です?」
落ち着いた声で言いた尋問者に返って来た答えというのが―――
『こんなマニアックなイベント、来る方が珍しいものです』
主催者は鼻で笑いながらサラリと言いのけた。そんな理屈を見逃す訳がない郷美組は全員 見えない主催者に「オイッ!!」とツッコんだ。
「でも……」
おれは躊躇いながら謎の案内人に訊ねた。
「でも、暗号を解けば、賞金130万円貰える、と聞いたのですが……」
すると案内人は不可思議に思ったのか困惑して答えた。
『ヘンですねぇ、賞金は一人に付き3万円のはずですが…――』
《少なッ!!》
おれと武野はジィーッと内田を睨みつけた。
だが、そんなことで怯む内田ではなかった。それどころか開き直りやがった!
「なっ何よ。いいじゃん、どーせ、50分の1近く貰えんだから。だって、参加したかったもん!」
《お前な!!》
こんな理不尽あってたまるか!勝手に参加者3名だと送信したり、深夜4時に起床してこんな遥々遠いド田舎に来て付き合っている……それなのに―――。
「なあ! どういうコトだ?」
おれと武野は内田を問い詰める。だが、彼女も負けじと言い返してくる。
「こんなイベント滅多にないんだもん。そりゃあ、やるしかないでしょ?」
「いい加減にしろッ。大体、お前が―――」
そんな喧嘩を聞いてか案内人は逃げるようにして、
『え、では、健闘をお祈りします―――』とだけ言い残して消えていった。
一方おれ等といえば未だ喧嘩をしていた。
「話はまだ終わってねえ!これはど・う・い・う・事・だ!?」
「このムダになった時間どう取り戻してくれんだ」
「なぁ!どうなんだって言うんだ」
「人の話をちゃんと聞けぇ!!」
「ああもう。うるさいうるさいウルサイ!」
「あ、あの~、3人とも……」
森口は、「まあまあ」と止めにかかり、「やめましょうよ。こんなとこで」と言った。すぐには収まることは無かったがハッと気がついておれ等は喧嘩を止めた。
「先生 すみません」
「以後気をつけます」
「ごめんなさい」
申し訳ないと頭を下げたおれ等に先生はいつもの優しさで「もう良いですよ」と許した。
「……ところで、問題は何と書いてあるのです?」
森口の言葉に「あっ」となり、おれは早速ゴミ箱の中を探った。
中から、問題用紙である巻物とココの校歌であろう楽譜付きのカードを取り出した。
巻物は何故かやたらデカかった。
内田と武野が「どう?」と訊いてきた。おれは3人に見せてやった。おれは巻物に書かれた文字を読み上げた。
「えーと……。『輪を足し、蠆・刹那・文雄を濃くば、角 そーとも 二画 下 』 」
読んだのはいいが所々やや曖昧。それに『蠆』が読めない。それに「フミオ」って?
「関元クン、この『』は「さそり」って読みます。そして、その『文雄』って言う文字は「ふみお」ではなく恐らく「もんのう」ですよ」
「えっ、そうなんですか? そんなの常用漢字じゃないし。読めねぇって。
「あのー、先生。『もんのう』って何ですか?」内田が訊く。
「江戸時代に使われていた名前の一つです」
普段の日常で耳にする様な名前じゃないのにますます読めないに決まっている。
「それにしても何故、読めるんですか?先生」
内田のその質問におれ等は「ホントだ」と言った。
すると答えは簡単だった。
「一応、国語担当なので……」
《あ~あ!》
3バカの微妙な反応に先生は、うなだれた。
「それよりも早くやろう!」
森口の反応をあえて無視して武野が言った。
「そうだな。まずは、『輪を足し』ってところだな」
問題の意味すら判らない4人は「う~ん……」と考え込んだ。
「三つの言葉の上に『わ』を付け加えてみるとか、どう?」
なに気なく内田が言った。それを聞いて森口先生が試してみた。
「わさそり・わせつな・わもんのう―――」
これでは意味どころか言葉にも成り立たない。明らかにおかしい。
「『輪を足し』ってあまり関係ないんじゃないかな……。それか次のヤツに共通するって意味かな――」武野は呟いた。皆が首を傾げる。
「共通する、か」おれも考えた。
『??・刹那・文雄』。
これらに共通する物…共通するもの……共通するモノ…………か―――。っん?
「あっ!」
解ったかもしれない。
「どうした?」武野が思わず反応する。おれはすぐに答えた。
「もしかしたら、???といえば毒、刹那といえば緊迫感、文雄といえば江戸時代。
これらに共通するモノと、い・え・ば?」
彼等は少し考えた。だが、3人ともほぼ同時に同じ答えを出した。
それは・・・
《 戦! 》
「正解!」
おれは嬉しくなりニッと笑った。
「―――となると……外?」
内田が迷いながら言う。何で外なんだろうと思っていたおれのすぐ傍で武野が答える。
「そうだよな。戦って大概は外でやるもんだしな」
(あ~あ!そういうことか)
心の中でそう思い武野に対して、めずらしく役立ってるなぁとも思った。
「宝探し的な要素から行けば、庭……かな?」と内田。それに同感した先生はおれの肩をポンッと叩き、
「そうと決まれば関元クン、任せました」とおれに頼んだ
嫌々ながらも渋々と「はい」と答えた。興味がなさそうな先生がどうしていきなりノリノリなのだろうか。
まあ、それはさて置き……。
「さーて、と。ボクは―――」
逃げようとしている奴が約1名。……だけど。
「武野くん、君もです」
即、先生に止められた。
「……外、寒いのにぃ」
そんな武野をジッと見る目があった。
「―――わかりました」
森口のアイコンタクトから逃げれなかった武野は、仕方く承諾した。
(第一 武野。どこに行こうとしてたんだ?どこも同じだぜ……?)
そんなことは聞きはしなかったが意中こんな思いでおれは武野を見ていた。
武野とおれは先生に背中を押されて「では、頼みましたよ。お気をつけて」とまで言われ、内田も一緒に「いってらっしゃーい」と見送られた。
……あのー、先生。結局は自分のためなのですか……?
おれが質問したかった疑問は永遠に解かれないまま2人は校庭へと向かった。
*
「さて、と。僕等はさきに校歌の方でもやりますか。この暗号の続きは彼らが探しに行っているヒントがなければ解けないかもしれませんし」
「そうですね」
うちと森口先生はカードを手に取り、載っている楽譜と歌詞を見た。メロディを口ずさんだ後、先生の「せーの」
という合図でうち等は歌い始めた。
《♪~『 緑豊かに 生きついだ 我ら故郷に榮あれ
絆と優しさ 持ち合わせ 新たな伝統切り開く
我が学び舎 イシナカ小学校 』 》
……その直後だった。
「きゃあッ! 何!?」
突然どこからともなく女のすすり泣く声が聴こえてきた。この世の恨み・つらみを非難するかの様に嘆き声が響く。
『――― …カナシイ…悲しい……ツライ……ダレカァ………!!』
「きゃああ!!」
うち等はさっきよりも騒ぎ始めた。
うちは凄い形相で騒いだ。でも、それ以上の人が……
「う゛ううううゥゥゥ!!!」
(モリグっさん、怖すぎ)
そんな折、今度はうち等の目の前に姿を現したのだ!!
《ウギャアアアア!!!!》
喉が枯れるんばかりに、うち等は目に涙を浮かべ絶叫した。
その瞬間であった。
(あれ、動けない)
そう思った時はもう遅かった。
気がついた時には、うちは床に倒れていた。起きようとしても、起き上がれない!
森口先生の声がする。助けてと声を掛けたかった。でも、声が出せない。でも先生は絶対に、
(助けてくれるだろう)
とうちは確信していた。
……だが、
「うッ! ででで、でたああああああああ!!!!」
彼は猛ダッシュで逃げていった。
オイ! ちょっと待たんかい!!
( おい! おいていくな!! )
うちの声は虚しいことに届くことはなかった。
そしてうちはいつの間にか意識を失った。
その間、うちの身に何があったのかは今となっては分からない。




