[第二幕.うちは先導者《リーダー》。]
そんな事とは知らずおれと武野は内田に耳を傾けた。
「ねぇ、これちょっと気にならない?」
差し出された携帯の画面を覗き込んだ。
「ん? サイトか?」と武野。
内田は「そう」と言ってそのサイトの肩書きであろうモノを読みあげた。この時、おれ等と言えば背筋がゾクッとするような悪寒を感じていた。
「『今宵、貴方は奇妙かつ不思議な体験をする』―――」
どうやら今度もオカルト関連らしい……。
どうでもいいが一応「本文は?」と訊いてみた。
「え~と。『我らが故郷、イシナカ村に残されし暗号と我が村の校歌に潜む暗号を解きし者求む―――』……」
……異様な視線を感じる。
「おい、武野、こいつ眼がヤバイぞ」
「ああ、何かキラキラしてる……。ヤバイ。来るぞ来るぞ来ルゾ―――」
ご機嫌な彼女の直球が飛んで来る。
「ねぇ! 参加しようよ!!」
《やっぱりかぁ……》
呆れ果てた武野・関元、撃沈。
「だって、面白そうじゃない?クイズみたいだし。ねぇ、やって見ようよ!」
そういうモンには大抵裏があるもんだ。
弁解の意も込めてこう言ってやった。
「なぁ、明らかに危険だっての。ソレ。やめろって。おれは、イ・ヤ! だからな」
「そうだぜ、面白半分でやると、えーとな、うん、アレだよ。ドラマや映画とかマンガとかであるだろ? ヘンなことに巻き込まれる、とかさ。後悔する前に諦めろって。勿論、ボクも、不・参・加! だからな」
―――言いすぎてしまった…かな?
内田は俯いて今にも泣きそうだった。不味かったな、と思いおれと武野は「言い過ぎた。ごめん」と彼女の傍によって言った。
しかし、次の瞬間、おれ達は頗る損をした。
「だからいいんだよ。遭ってみたいなぁ~。そーゆーの」
満面の笑みだった。
彼女の真ん前に座っているおれ等メンズは目の前の奴の人間的感覚を疑った。武野の時以上に笑顔が似合うこの女子高生を引いた。
「一番危険なのは、実はコイツじゃないか?」
ひそひそ声で武野はおれに同意を求めて来た。
「確かに」
どんな奴でもそう思う、ハズ。
そんな事は他所に彼女は手まで合わせ祈るように詰め寄って頼んで来た。
「お願い!一生のお願いだって!」
おれ達はキッパリと言ってやった。
《絶対に断る!!》
初めから決まっている。
「ええー」と内田はふくれっ面をした。そして本日おそらく3度目の溜め息を吐いた。何か上手い話ないかな、とでも言いた気に再びケータイの↓キーを押してサイト内容の下の方まで眺めていた。まぁ、もう大丈夫だろうと思っていたから、こちらはこちらでまた雑談をしていた。話の内容と言えば、
『内田の感性』……。
パッ内田が顔を上げてこちらに振り向いた。つかぬ間の休息に終わりが来たんだなぁ~、とおれは内心思った。しかし、彼女から発せられた言葉は意外にもおれ達の心を惹きとめた。
「ふ~ん。残念だなー。賞金付き、なんだ、け・れ・ど……」
《えっ!?》
条件反射の様におれ等は顔を上げた。
「そーれ~はー……どのくらい?」
恐る恐るおれが訊く。
「えーっと。いちまん、じゅーう、ひゃくぅ……」
「おいおい、そんなにか!?」
武野ががっつく。
内田が数えた金額は驚きのものだった。
「130万円……」
おれ等は半信半疑で「うっそォ~」と叫んだ。
すぐに「ホント」と事実を肯定する声がした。
130マン・エン・あったら……。
「欲しィ~!」
「是非とも」
「遊び放題!」
「買い物し放題!」
バカな男子ども(=おれ等)はニンマリした。
「あっでも―――」と武野。
「どうした?」と訊くと、
「『13』って縁起悪ッ」
「……そこはまぁまぁ」
……武野っち、やっぱ何処かズレてる気がするよ。おまえ……。
内田がキリの良いところで入ってきた。
「じゃあ、参加するってコトだよね!?」
「えっ、だけど……」
おれ等は狼狽えた。
「よろしくない気がするンだけど……」
でも内田にとって最早そんなことはどうでもイイらしい。
「えッでも、もう送信しちゃったけど。『3人で参加』ってサイトに」
………。
《勝手だぁ!!》
教室に怒声が飛び交った。でも、内田はやっぱりいつも通り陽気だった。ニコニコと嬉しそうだ。
「まぁ、いいじゃんいいじゃん」
良かねぇよ!
そんな心の声も空しく届くことはなかった。
一方、武野は、
「はぁ、なんでこうなるんだ?もう、送っちゃったからには引き返せないぜ……」
と嘆いていた。 「そうだな」とおれも同じ気持ちになった。
「でも仕方ないよな……。なあ、内田ぁ。いいのかよ」
「ん? 何が?」
「だからさ、おれ達だけで行ってイイものか?真面目に、とかそういうのじゃあなくてさ」
「ボクもそう思う。それに聞いたこともないし。『イシナカ村』って所なんて」
行ったこともない村にしても多少は危険なのに、聞いたこともない村に行くなんて高校生だけでは周りが許さないだろう。あと、
「それに、賞金、多いし」
ニッとしたおれに透かさず、
「解けたらの話だけどな」と武野にツッコまれた。
「ハハハ、そうだな」とおれは笑った。その流れのまま内田に顔を向けて問い掛けた。
「で、どうすんだ?ついて来きてくれる保護者探しは。親は五月蝿いからダメだし、先生なんて以ての外だ。あてが無いぞ。……仕方がないけどやっぱり黙っておれ等だけ行くか?」
その言葉を聞き終えると、彼女はいきなり「フッフッフッ」と笑い出した。そして、
「心配御無用! うち、あの先生弱味、握ってんだよね……」
教師の弱味なんておれがプロの役者に成るよりも難しいことだと思う。でも、人間誰かって叩けば埃が出るものなのだが……。それを内田は知ってしまったらしい。
「誰の?」おれは好奇心を見せつつ訊いた。すると、その人物はおれ達にとって意外な人だった。
「森口センセーの」
《はぁ!?》
おれと武野は目を丸くした。
因みに〝森口先生″とはおれ等のクラスの副担+国語の先生だ。下の名前は、確か、誠修。人柄も良いし、面白いし、それでもって、背も高く、顔もまぁまぁ良いため周り(特に女子)から好かれている。おれ等3人組ともよく喋っている先生だ。それなのに。
「あのイイ先生が隙を見せるような弱味あんの?」と武野が訊く。「そう」と一言だけ言って彼女は頷いた。
「どんなコト?」そう訊くと彼女も意外がってその時の状況を語りだした。
「それがさぁ、この前の塾帰りに森口先生を見掛けたんだけど、なんか様子がおかしくってさ。気になって後をつけたんだけど、そしたら―――」
男子一味は息を呑み込んだ。
「そしたら……?」
「 『ギラめくピンクのSM~あなたのハァトにごーるいん~』って店に入って行った」
《えええ!!!》
なんちゅうゴッツイ いや~な名前……。
「内田ッそれホントか?」
「ものすごいイメージダウンじゃん!」
その証拠品であるケータイの画像を内田は「ほい」とばかりに見せつけた。そして、おれと武野は再び「うっそ~~ん」 と驚愕の叫びをあげた。
そんなことは気にせず持ち主は、
「証拠あるし。コレ使って頼んでみる」
彼女には悪気は無い(かもしれない)がこれはちょっと……。そんな彼女に武野が、
「お前はモンスターペアレント以上に悪魔だ!」
と意味不明な発言をした。
「武野、お前ッなんかツッコミどころズレてる」
フォローも踏まえておれは言ってやった。その隣では腕組みをしている女子高生が笑っている。
「こういうのはプロフェッショナルというの」
無邪気な笑みで正当化する彼女を見ておれはこう思った。
(お前の笑みが一番怖い……)
―――っと……。




