[第一幕.おれ達3人組。]
おれは関元 僚。ついでにおれの目の前にいる彼女は、内田 郷美。で、内田の真ん前(というよりおれの横)にいる彼は、武野 翔。『翔』と書いて『ツバサ』と読む。本人曰く、よく『ショウ』と間違えられる、と苦笑している。まぁ、それはさておき。要するにおれ等は昔からつるんでいる3人組というワケだ。
そして今、おれと武野は内田に説教されている。
「なんで部活サボったワケ?」
「えーと、それは、なぁ……えーと―――」
おれが戸惑っているのを見て武野は透かさず助け舟を出す。
「こんな寒い時期というのに仔猫が寒さに震えて捨てられていたんだよ」
「ウソ言いなさい!」
冗談も踏まえた怒鳴りだったがそれでも叱られているおれ等からしたらそれなりに貫禄というものがある……気がした。
それとこれは別だが、共犯である友人は在り来たりな嘘をついても誤魔化せると思っていたらしい。あのなぁ、と言い掛けて声には出さなかったがその続きは、
(武野、もう少しまともな嘘付こうよ。嘘丸見え)
と心の中で言うことにした。
「さ、訳を言いなさいよ。さあ、さあ!」
どんどんと迫ってくる言葉におれ等はうッとなった。こうなったら仕方ないと思い2人とも正直に言った。どうなってもいいや!と思いつつ。誰でも呆れるであろう答えを口にした。
《ホントはゲーム買いに行ってました~》
「はァ……??」案の定 内田は口をあんぐりさせた。
「だって欲しかったしー」
「今日が発売日だったんだよー」
《それが何か~?》
「あんた達ねぇ……」
そのガキっぽい理由と息ピッタリに内田はと呆れ返った。オマケに溜息も吐いた。
そんな内田を他所にまたもや逆鱗に触れるようなコトバを続けた。
「でもさぁ、演劇部で、しかもこんな冬に外周を何度も走らされるのもどうかと思わないか?武野」
「そうだよなー。あんなのキツ過ぎ。死ぬぅ~……――痛ッッってェ!」
「痛ッ!」
まるで反省していないおれ等を見て内田が即ゲンコツが飛んで来た。
「ウソ付くもんが悪いんでしょうが」
叱られながらも未だ「痛ェ」と、武野とおれは殴られた頭を押さえ、わざと大袈裟に痛がった。
「そこ! オーバーにしない!大体あんだけ走っといてまだ反省しないの?」
「い、いやしてるって」
「分かったって。次からちゃんと参加するって。多分」
「たぶんって何?たぶんって」
もう一発いかが?とでも言いた気にもう一個拳を作る郷美サン……。
観念して諦めたおれ等は謝る(ワケがない!)。
「ボクも次から参加するから、さ。おそらく!」
またしておれ等の悪ノリに内田は、
「……あんたらは―――」
もう最後まで言うのを止めてしまったらしい。憐れみも含まれているようだ。ツッコむ気力も失せてしまったようだった。
「ゴメンって!! 次こそ絶対に行くって。先輩らに任せっ切りも悪いし」
「それに行かないと先生や先輩より内田の方が怖いし」
だから武野、それはタブーだって。
「オイ。いい加減にしないと先生に反省してないことチクるよ?」
「わかったって」
流石にそこまで言われるとつい引き下がってしまうものだ。
「あ、じゃあ内田が今やりたいこと、出来るコトなら何でもするからさ。許してくれって」
おれがそういうと彼女は「えっいいの?」と目を輝かせて一瞬こちらを見た。そのまま自分の鞄に手を入れてやたらデカイ一冊の雑誌を取り出した。おれと武野は嫌な予感がした。そして「そんなことあいつに言うべきじゃなかった」と意中で後悔をした。
ドンッと目の前に如何にも怪しい雑誌が出された。2人はシゲシゲとそれを見詰めた。おれはその本のタイトルを読み上げる。
「『ミステリアス~これであなたも信じる~』―――か……」
その文字はデカデカとゴシック体で書かれていて主タイトルはどうも血をイメージして赤で書かれているらしい。因みにサブタイトルは明朝体で青文字。表紙の絵は怪し過ぎる化け猫(たぶん『猫又』だ)のイラストが描かれているし、左端にはラインアップとして『オオカミ男は実在した』とか『ネッシー湖畔に現る!』だの『取材班、宇宙人ト接触ス』とか載っている。しかも付録は『冥界の石』や吸血鬼の絵が描かれた『ヴァンパイヤポスター』だった。
物怪しげにジーと本を眺めるおれ等は黙っていた。そこへ「どう?」と内田は期待して感想を訊いて来た。だが、答えは初めから決まっている。
《胡散臭せえー!!》
絶叫とも近い大批判をした。
「…何だよそのタイトル!」
続けておれが言った。
大体、誰がどう見てもそう思うだろう。おれ等は目を細めた。武野といえば眉間に人差し指を立て当てて悩んでいるポーズをした。しかし、当の本人はこちらの反応を気にすることもなく話を続けた。
「けっこう流行っているんだって。一部の女子の中では」
……一部の女子って――?
「それって……『マニアック』な奴らってことか」
言いにくそうにしていたおれが言う前に武野は代弁した。
「さぁ……うちの場合、友達に薦められて買ったんだよ」
短い沈黙が続いた。
「内田ァなんかおれ、お前に同情したくなってきた」
「ボクも」
ある一種の洗脳だなぁ……と哀れむおれ達の様子を見て彼女は「なんで?」と訊き返した。あっまずい。雲行きがあやしい……?
おれはその疑問を無視してこちら側の疑問で流れを戻した。
「っていうかさぁ、前から思ってたけど何で女子ってそんなモノ好きなんだ?」
すると彼女は言いたかったと云わんばかりの様子でこう教えた。
「皆が皆そうじゃないと思うけど。うちの場合、これがもし作り話だとしても本当にあったら面白いし、なんかこう惹き付けられるっていうか……」
教えているっていうより最早語っちゃっている。おれはそんな本に一切興味をもってなかった。というよりはこんな表紙を見たら誰だってそんなことは思わないだろう。
だが、唯一人、おれの隣にいる友人は違っていた。以前から何処となくズレてるなとは思っていたが、彼は首を縦に振り如何にも納得した様子で、
「ボクも気持ちは分かる!」
この怪しげな本の持ち主に共感した。
「え!?」おれは仲間だと信じていた彼を多少引いた。
「何でだ?」と彼に疑問を投げ掛けようとしたが敢え無くスルーされた。好奇心が強い彼女によって。内田はおれ等の前に手にした本を押し付けた。
「まぁ、取り敢えず見てって」
やむを得ずおれはその奇妙な本を受け取りパラパラっと頁をめくった。横から「で、中どぉう?」と興味なさ気に武野が言い一緒にこの本を見た。
「やっぱり嘘くさい」と呟くおれ等の前では、デタラメな本の持ち主である内田がポケットからケータイを取り出してキーを弄っていた。冬休みとはいえ、校内で堂々とそれを使うのはどうかと……。
武野はそんな彼女に呟くようにして感想を述べた。
「て、いうかこの記事……っていうよりやっぱり全体的に怪しくないか?」
「そう?」何を言われても彼女は平然としていた。
「そんなの、表紙からしてそうだ。分かり切っているし。やっぱ胡散臭ぇ~!!」
「でも、面白いじゃん。ホントに起きたら、さ」
その言葉におれと武野は即答する。
《起きねえよ》
おれ等の同時ツッコミに内田は「はぁ」と溜め息をまた一つ吐いた。
そして返って来た言葉は、
「夢がないねー」だった。
「オカルトで『夢がない』と言われてもなぁ……」
とおれ。武野もそう思っていたらしい。顔に出ている。
内田は「ハハハ、そうだよね」と笑って言った。武野とおれは本に向き合って雑談をした。その間内田といえば再びケータイに向きなおっていた。おれ等はこの時これが“悲劇を招くもの”とは思いも寄らなかった。
そんな事とは知らないおれ達の直ぐ傍でケータイを手にした友人は、口を開いた。
「ねぇ、ちょっと気にならない?」
今思えば悪夢の始まりだったのかもしれない……。




