表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
八章 託された願い
94/155

8-4 激突

 雷鳴が、クロウズの気持ちを表したかのように、激しく鳴り響く。

 地に伏せたオウリュウを横目に、クロウズはすぐさまメディに近づいた。

「クロウズさん……?」

 後ろ手に縄で縛られていたメディが、驚いたような顔をしながら見上げてくる。

 そのことは意に介さず、クロウズはすぐさまメディの戒めを解いた。見たところ、縛られていただけで怪我は全くない。自由になったメディがそっと立ち上がり、束の間呆然としていたが、感情でも込み上げてきたのか、大きな瞳に涙を浮かべて抱き着いてきた。

 メディを落ち着かせるように頭へと手が伸ばし、優しく撫でる。自分でも意外に思えるほどの自然な動きに戸惑ったが、悪い気はしなかった。

 しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。

「メディ、離れてろ」

 抱き着いたままのメディをできるだけ優しく離し、クロウズはオウリュウの方へと顔を向けた。

 地に伏せていたオウリュウが、ゆっくりと起き上がる。顔面にまともに食らい、口の端から血を流しているというのに、オウリュウは涼しい顔をしながらこちらに目を向けてきた。

「案外早かったね。僕がここに来るのはいずればれると思っていたけど、こんなにすぐとは思わなかったよ。よっぽど、餌が上物だったのかな?」

「さあな。そんなことは、どうだっていい」

 腰を落として拳を構え、クロウズはオウリュウを鋭く睨む。

「さっさとやろうぜ」

 言い様に、クロウズは駆け出した。対等な戦いを、この男に対しては望んではいない。やるかやられるか。ただそれだけを決める殺し合いに、ルールなど一切ない。

 一気に間合いを詰め、拳を振り抜く。使う特性は、風通しだ。

暴風の拳(ストーム・ナックル)!」

 唸りを上げながら、右の拳がオウリュウに迫る。しかし、当たらない。軽い身のこなしで左に動いたオウリュウが一撃をかわし、すぐさまクロウズから距離を取った。

「いきなりだね。僕がここで何をしようとしているのか、聞く気もないのかな」

 涼しい顔で言ったオウリュウに、クロウズは何も返さない。拳を振るうために前へと出た勢いを利用し、再び距離を詰める。

 間合いに入り、もう一度拳を繰り出す。右、左。立て続けに、暴風の拳(ストーム・ナックル)を放った。

 それでも、やはり当たらない。最小の動きで避けられ、拳は虚しく空を捉えるばかりだ。

「っと、危ないな。これじゃ、会話を楽しむこともできないじゃないか」

 その口振りの割には、オウリュウの動きは余裕があった。顔色だって変わっていない。余程実力に自信があるのか、負けることなど微塵も思っていないように見える。

 それでも、クロウズに焦りはなかった。守護獣という化け物と戦うのに、生半な戦いになるとは端から思っていない。こちらの渾身の一撃が最初から軽々と避けられることなど、想定の範囲内だ。

 ――隙さえ作れれば。

 自分の実力に圧倒的な自信を持つ相手ほど、一度崩れたら脆いものだ。その隙は待っていても来るものではなく、自ら作らなくてはならない。

 ――やるか。

 口の中で呟き、クロウズはもう一度右、左と拳を立て続けに放つ。右を思い切り振り上げ、左はオウリュウ目掛けて突き出す。

「ふふ、物凄い勢いだね。触れたら、また吹き飛びそうだ」

 口元に余裕の笑みを浮かべながら、オウリュウはやはり軽々と避ける。最小の動きで、横に跳んでいる。

 だがこちらも、それは織り込み済みだ。左を打ち込んだのと同時に軽い靴(フェザー・フット)を発動して前へと強く踏み出し、超速で移動してオウリュウの背後へと回る。回った時には、もう拳を振り抜いていた。

「むっ」

 表情を消したオウリュウが、咄嗟に右腕を出して防ごうとしてくる。鋼のような装甲に覆われたそれを、拳が襲う。

 装甲に触れた瞬間、激しい火花と眩い閃光が放たれた。特性は、静電気に変えてある。攻撃も、迅雷の拳撃(ボルテック・ブロウ)だ。

「……っと」

 微かに表情を歪めたオウリュウが、すぐにクロウズから距離を取った。その動きは、感電しているとは思えないほどに軽快だ。

「やるね。手加減して遊んでいたのは、どうやら間違いだったね」

 自身の焦げた装甲に目をやりながら、オウリュウが自嘲気味に笑った。

 その笑みも、すぐに凍りつく。表情は冷たいものに塗り固められ、放たれる気配は途端に刺々しいものを孕むようになった。

「君の実力に敬意を払って、ちゃんと相手をしてあげるよ。最強の守護獣にそこまで言わせたことを、光栄に思うんだね」

 オウリュウが両腕を広げ、大きく手を開いた。途端に地面から黒い柱のようなものがいくつも現れ、オウリュウの周囲を回りながら宙に浮く。

 さらには、オウリュウの体が一瞬だけ光り、光が消えると共に別の装甲が現れた。異様に硬そうなその装甲は、妙に妖しい光を放っている。

 ここからが本番だ、とクロウズは気を引き締め直した。あれがどんな能力なのかは、まだ見当もつかない。

 ――とりあえず、一当てするか。

 警戒しているだけでは、何も掴むことはできない。黙って攻撃を受けるのも、ただ癪である。ならば、自ら攻撃して、能力を探った方が良い。

 そうと決まれば、行動は早かった。こちらから距離を詰め、クロウズは左の拳を下から振り上げた。

 黒い柱が一本、それを防ぐように動いてくる。クロウズは、ためらうことなくその柱を打ち抜いた。拳に、金属を打ったような感触が伝わる。硬さとしては、鉄に近いだろうか。

 その柱が、粉々に砕け散る。それは本当に砂のように粉々になり、辺りに降りかかってきた。黒い粉末が、そこかしこに散る。

 ――何だ。

 妙な違和感を覚えながらも、意識はオウリュウに向けたままにする。別の柱が襲い掛かってきていて、それは今にもクロウズに直撃しそうだった。

「その程度」

 左に避けながら言い、言葉が途中で止まった。避けたはずの柱が、追いかけてくるように急激に動く。もう一度別の方向に跳んでかわすが、柱はまた追ってきた。

 一体どんな理屈なのか。瞬時に考えようとするも、クロウズは咄嗟に思考を閉じた。着地したのと同時に、悪寒が走る。すぐさま、その場を離れた。

 瞬間、クロウズがいたところに、地面から先端が尖った黒い物質が飛び出してくる。それは、クロウズの方へと先端を向けていた。

 ――あれは。

 再び思考を巡らそうとした時、背後から風の唸りを聞いて、振り返り様に拳を振り抜いた。迫っていた柱が、粉末状になって飛び散る。それを、クロウズはまともに浴びた。

 途端に感じる、微かな鉄臭さ。これは多分、鉄粉か。

 その正体を探り続ける余裕はない。二本の柱が、今度は左右から迫っている。その勢いは一段と凄まじく、低い唸りが聞こえるほどだ。

 だが、避けられないほどではない。前へと一気に駆け出し、柱をやり過ごす。そのままオウリュウへと、間合いを詰めていく。勢いがついているのか、大分早く距離が詰まる。

 ――いや、違う。

 勢いはあるが、そうではない。クロウズの脚力以上に、体は前へと進んでいた。それはまるで勢い良く引き寄せられているかのようで、駆ける足を緩めても動きはほとんど変わらなかった。

 まるで、ではなく、間違いなく引き寄せられている。

 ――何に。

 決まっている。目の前で右手を広げている、オウリュウにだ。

 勢いがつき過ぎた体を止めようとしたが、どうやっても止まらなかった。足を止めても、無理やり引っ張られるのだ。必然、体勢は崩れ、大きな隙ができる。

 そこを、オウリュウが逃すはずもない。

「ぐっ……!」

 勢いよく突っ込んできた柱を、今度は避けることができなかった。腹の辺りを強かに打たれ、そのまま後ろへと吹っ飛ばされた。引き寄せられた時と同じくらいの勢いで吹っ飛び、地面に叩きつけられる。

 重い一撃だが、鎧の特性を纏っていたため、耐えられないほどではない。クロウズは受け身を取り、すぐに構えを取った。

 構えを取りながら、瞬時に思考を巡らす。

 最初の攻撃よりも、柱の速度は圧倒的に上がっていた。それだけならば、敵がさらに力を出してきたと思うだけで済むのだが、おそらくそうではない。柱は、間違いなくクロウズを追ってきていた。

 何故そう言い切れるのか。クロウズが、ただ棒立ちで攻撃を受けたわけではないからだ。回避すべく咄嗟に横に動いたが、柱の照準は腹に向いたままだったのを、直撃する直前に見ている。回避が間に合わなかったのではなく、追尾を振り切れなかったというのが正しいだろう。

 ――じゃあ、どうして柱が追って来るのか。

 攻撃に異様な勢いがつく前に、何をされたのかを瞬時に思い出す。黒い粉末を浴びた。それも、二度だ。その粉を体に浴びたせいで、攻撃が引き寄せられるようになった。

「……そういうことか」

 頭の中で、一つの仮定が閃く。オウリュウの能力が何なのか、クロウズは何となく察した。おそらく、磁石だ。磁石に関する事象を具現化させ、特に磁力を使って攻撃を仕掛けてきている。ただ、まだ確証はない。

 一度、自身の加護を解き、再び纏う。その際、鎧の力は具現化させなかった。予想が正しければ、鉄に関するものは、極力体から遠ざけるべきである。

 また、鉄の柱が左右から迫ってきた。しかし、さっきのような異様な勢いはない。まっすぐ突っ込み、難なく回避する。回避だけではない。一気にオウリュウへと間合いを詰め、踏み込んだのと同時に拳を振り上げた。

「良い反応だけど、甘いよ」

 静かな声音で言ったオウリュウが、地面から黒い棘を突き出させる。それはまっすぐこちらを狙っているが、当然そう来るのは予想している。前に踏み込んだ瞬間に、クロウズは高々と跳んだ。

「無駄だよ。……ん」

 オウリュウが、途端に顔を歪める。

 頭上では、目も眩むような雷による光が瞬いている。たった一瞬なれど、その光は視界を晦ますのには十分だろう。

 眩い光にオウリュウが一瞬目を閉じた時を狙って、クロウズは振り上げた拳を思い切り振り抜いた。低い唸りを上げた拳が、オウリュウの顔面を捉える。落下の勢いも相まって、異様に鈍い音が束の間辺りに響き渡り、次いで地面に叩きつけられる激しい音が鳴った。

「くっ……」

 小さな呻きが、オウリュウから漏れる。苦しそうに顔を歪め、すぐには起き上がれないでいる。

 そこを逃さず、クロウズは追い打ちをかけた。左の拳を、腹に打ち込む。

 瞬間、異様に硬いものを打った感触が手に伝わった。ちらとオウリュウの腹を見ると、そこには眩い光を放つ鎧があった。あまりの硬さに、手甲をつけているとはいえ、凄まじい衝撃が手に走る。思わず表情が歪むも、それでも構わず打ち抜いた。

 一撃の衝撃で、岩肌の地面がひび割れた。打ち抜いた部分の装甲が歪み、オウリュウの体が一段下へと沈む。

 ――まだだ。

 右の拳をすかさず打ち込むべく、振り上げる。刹那、地面から殺気のようなものを感じ、クロウズは咄嗟に後ろへと跳んだ。一瞬遅れて、また黒い棘が地面から伸びてきた。

 クロウズが距離を取ったことで、オウリュウがゆっくりと立ち上がった。表情は、どこか冷たいものに満ちている。

「大した奴だね、お前は。まだ完全じゃないとはいえ、僕とここまで渡り合うなんて。僕の能力も、大方見当がついてるみたいだし」

 感心したような物言いだが、オウリュウの声にはほとんど抑揚がない。表情と同じで、ただひたすらに冷たいばかりだ。

 クロウズは構えを取り、警戒心を強めた。こいつは、まだ何かを隠している。直感が、そう告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ