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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
七章 限界を超えろ!
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7-13 目覚めた力

 異様なほどにはっきりと聞こえる鼓動に、ホムラは微かな戸惑いを覚えた。

 ――これは、一体何なのか。

 ホムラの問いに答えるかのように、体の奥底がカッと熱くなる。それとほぼ同時に、異様な力が沸き上がって来るのを感じた。これまで使役したことのない、力強い加護だ。その力が、一気に全身へと駆け巡る。

 それが体中を満たした時、ホムラの視界は束の間暗転した。

 僅かの間、真っ暗になった視界の中で、ホムラはあるものを見た気がした。鉄鬼となった、自分の姿。それが、鏡が割れるように砕けて消える。

 その中から、自分が現れた。道具としての、自分だ。まっすぐにこちらを見る自分が、凍りついた剣を差し出しながら、ゆっくりと口を動かす。

 ――ここからだ。俺たちの道は、ここから始まるんだ。

 口元で笑みを浮かべる自分に、ホムラは大きく頷く。よくわからない状況だが、何の疑問も抱かず、差し出された剣を手に取った。

「ホムラ、その力は!?」

 暗転した視界が元に戻った時に、ツクノが慌てたような声を上げた。共有した感覚によって、体に溢れる力を感じ取ったのかもしれない。

 ホムラは、その力を噛み締めるように感じた。これまで使っていた道具の加護とは、段違いの強さだ。掌の上にそっと火を熾してみようと思ったが、加減を間違って太い火柱が立ち昇ってしまった。その勢いも強さも、やはり今までとは違う。

「……これなら、やれるかもしれない」

 頭の中に思い浮かんだ可能性に、微かな希望を感じる。これまでどうしても使いこなせなかったもう一つの能力を、今ならば使えるかもしれない。

「ホムラ、どういうことです?」

 憑依をしていても、さすがに真意までは掴めなかったのか、ツクノが即座に問いかけてきた。

「俺には、まだみんなに見せたことがない力がある。凍らせるっていう事象を具現化した力がな」

「えっ? ど、どうして使わなかったんですか?」

「使わなかったんじゃない。使えなかったんだ。あの力は、俺には強過ぎたから」

 いくらか前に、氷を扱った技の特訓をしたことがある。しかし、まったくうまくいかなかった。制御して扱おうにも、氷はホムラの自由を奪うばかりだった。思った通りの動きはできず、逆に体を凍らせてしまうことなど毎回のことである。酷い時は、近くにいた人を巻き込み、氷漬けにしかけてしまったりもした。

 あまりにも暴れ馬のような能力に、ホムラは氷の力を使うことを諦めていた。自分だけでなく、他者さえも巻き込んでしまいそうな危険な力は、あまり使うべきではないと判断したのだ。

 だが、今は違う。以前は荒れ狂う海のように暴れ、力を使うことを拒んできたのに、今は一切の波紋も立たない湖の中で、ホムラを待っているかのように思える。

 いや、待っているのだ。力はもう、手渡されている。あとは、ホムラが使うだけだ。

 ――もう、待たせない。だから、応えてくれ。

 口の中で呟き、ホムラは無意識のうちに両手を前に伸ばしては、一気に左右へと振り抜いた。

 瞬間、冷たいものが周囲に広がる。辺りが、ひんやりを通り越して異常に寒くなった。

「これは……!」

 目の前に広がる光景に、驚きのあまり続きが出て来ない。

 辺りが、凍りついている。大地も、周囲で燃え盛る炎さえも、氷漬けになって固まっている。

 手から冷気が立ち昇り、肌をひんやりとさせる。冷凍を具現化し、一気に辺りへと放出したのを、ホムラは唐突に理解した。

 尋常ではない力に、ホムラは一度大きく息を吐いた。体が、少し重い。加護の消費も、慣れていないからか相当なもののようだ。まだ、何度も使うのは難しいだろう。

 しかし、戦える。この力があれば、皆と一緒に戦える。

「すっごーい……。ホムラ、これってもしかして……!」

「あ、ああ。信じられないが、この力は」

「ハイ・ユーザー能力……!」

 二人揃って口にし、また驚いたが、いつまでもそうしてはいられない。

 すぐに気を引き締め、ホムラは朱雀の方へと顔を向ける。辺りが唐突に氷漬けにされて不意を衝かれたのか、誰もが唖然としながらこちらを見ていた。

 まさしく、隙だらけだ。

 ――やってやる……!

 剣を地面に突き刺し、強く念じる。道具の加護が反応し、地面を伝って力が放出されていく。

 何かを感じ取ったのか、朱雀が真っ先に動いた。再びこの場を火の海にし、赤々と燃え盛る翼を大きく広げては、一気に飛び立とうとしている。

「させるか!」

 冷気を手に集め、二発三発と一息に放つ。狙いは、まずはその翼だ。

「……ッ!」

 翼が瞬く間に凍りつき、その動きが一瞬だけ止まる。一瞬だけというのは、朱雀がすぐさま氷を溶かし尽くしたからだ。

 ただ、すぐには翼を動かせないようだ。飛ぶのを諦め、一気に駆け出すべく地面を駆けようとしている。

 まさしく、狙い通りだ。

 朱雀が一歩前に踏み出した瞬間、何かに足を取られたように体勢を崩した。

 その足元には、氷が張られている。

「いつの間に?」

 感覚を共有しているはずなのに、ツクノが不思議そうに声を上げた。

「剣を地面に突き刺した時だ。あの時、朱雀の足元に水を張った。その水を、さっき放った冷気で凍らせたんだよ」

 元々、水を操る技は降らすか放つ、もしくは油などを混ぜるぐらいしかできなかったのだが、今は地面に湧かせることもできるようだ。

 多分それは、火も例に漏れない。自身のハイ・ユーザー能力は、自身からある一定距離にまで影響を及ぼせるものだ、とホムラは唐突に理解した。

 うまく使えれば、もっと色々なことができるかもしれない。しかし、考えるのはこの戦いが終わってからだ。

 思考を巡らせている間に、体勢を崩した朱雀が必死に翼を動かし、何とかバランスを取ろうとしていた。それでも、まだ体は若干傾いている。

 そこを逃す、シルクではない。

「でかした、ホムラ!」

 最大の隙を衝くべく、シルクが朱雀へと一気に間合いを詰め、大太刀を振り下ろした。風が唸るほどの、物凄い勢いだ。

 その勢いに危険なものを感じ取ったのか、朱雀がさらに翼を動かして横へと飛ぶ。転瞬、刃が空を切り裂いた。惜しくも、寸でのところでかわされた。

 しかし、それで終わりではない。いや、終わりにはさせない。今は、相性が悪かったさっきとは違うのだ。

「逃がさない! くらえッ!」

 もう一度冷気を放ち、朱雀を狙う。だが、今度はさっきのように、まともに受けてはくれなかった。空中を左右に激しく動いては高速旋回し、勢いよく前に突っ込んでくる。

 尤も、こちらとしても避けられるのは織り込み済みだ。冷気を放ったのは、ホムラが最初にしたことから意識を逸らすためだ。

 朱雀が迫って来るのを見ながら、両手に力を集める。手に氷が張り、異様に冷たくなったが、それでも構わなかった。集めた力を、両手を左右に振り抜いて、一気に放出する。

氷の領域(アイス・レンジ)

 冷気が一気に広がり、辺りを瞬く間に凍らせていく。イメージ通りだ。冷凍の事象を想像し切り、一定の範囲を凍らせる、特に、ホムラに近ければ近いほど、この場のものは冷たく凍りつく。

 それは、朱雀とて例外ではない。まっすぐ距離を詰めてきていた朱雀は冷気をまともに浴び、体を凍らせていた。ただ、ほんの僅かの間だけだ。さすがに、ホムラの今の力では、守護獣朱雀を上回る力はない。

 しかし、十分だ。僅かでも凍ったことで、朱雀の動きは再び鈍っている。シルクが距離を詰めるには、本当にそれだけで十分だ。

「取ったよ、ヒバリ」

 もう一度間合いを詰めたシルクが、冷たい声音で言い放ち、それから大太刀を振り抜く。

 朱雀が避けようとしたが、今度は間に合わなかった。鋭い音を立てて迫る刃を、まともに受ける。

 鬼の面が真っ二つに割れ、体の装甲がいくらか吹っ飛ぶ。整った女の顔が露わになり、額からそっと血を流した朱雀が、それでもシルクをキッと睨みながら咄嗟に下がった。

「まだ、ダメなのか……!?」

 あの斬撃を受けても倒れない朱雀に、ホムラは驚くことしかできなかった。どう見ても、重く鋭い一撃だ。真っ二つになっても、おかしくはない。

 こちらの驚きをよそに、朱雀がバズーカ砲を頭上に向け、勢いよく砲弾を放つ。とりあえず、今は驚いている場合ではない。その砲弾目掛けて、ホムラはすぐさま冷気を放とうとした。

「お見事」

 しかしそれを、静かな声音が制した。

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