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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
七章 限界を超えろ!
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7-12 不死鳥

 爆風と黒煙が振り撒かれる中、それらを切り裂くように何かが勢いよく頭上へと飛ぶ。朱雀だ。炎で形成された翼を大きく羽ばたかせ、火の粉を振り撒きながら宙を舞っている。

 だが、いつまでも空中で制止しているわけではない。姿を見せて一拍もしないうちに、朱雀はシルクへと突っ込んでいた。

 シルクは、一切止まらず駆けたままだ。互いの距離は、瞬く間に縮まった。

「はあっ!」

 間合いに踏み込んだ瞬間に、シルクが大太刀を斬り上げた。異様に速い一撃だ。その軌跡を、目でほとんど追えない。それでも刃が空を裂く音だけは、離れていてもよく聞こえる。

 しかし朱雀は、その一撃を急停止し、後方に下がることでかわした。完全に見切っているのか、大太刀の切っ先すら掠っていない。

 回避したのとほぼ同時に、朱雀が右のバズーカ砲を構えた。

 ――また砲弾か。

 そう思ったが、違った。砲口からは、白い炎が勢いよく噴き出して来ていた。飛び散る炎のいずれにも道具の加護が宿り、先が鋭く尖っている。

「甘い!」

 シルクが大太刀を真横に振り抜き、放たれた炎を断ち切る。いや、それだけではない。断ち切った炎をいつの間にか出した針で全て貫き通し、一つに纏めては地面へと突き刺した。その炎はまるで縫い付けられたように、地面で身動きを取れなくなっている。

 ――あれが、シルクの能力。

 武器の届く範囲内のモノを裁縫物化して、自在に裁断し、縫合できる、シルクのハイ・ユーザー能力。本人から前もって聞いて知ってはいたが、間近で見るとその凄まじさがよくわかる。激しく燃える炎だろうが何だろうが、全てを切り裂いて自在に縫い付けている。恐ろしい能力だ。

 だが、それでも朱雀が怯んだ様子はない。バズーカ砲から構わず砲弾を放ち、今度は即座に破裂させてきた。

「チッ!」

 至近距離の炸裂に、さすがのシルクもすぐの回避は間に合わなかったようだ。ほんの僅かに反応が遅れ、爆風に撒かれながら後方へと跳んでいる。

 爆裂に巻き込まれても、朱雀は当然問題にしない。ばかりか、すかさず追撃しようと前に出る。バズーカ砲の攻撃から遠距離型かと思ったが、近接でも十分戦えるようだ。いや、もしかしたら、今のような自爆特攻をまた狙っているのかもしれない。

「させないよ」

 ホムラと同じ思考に至ったのか、サラが即座にカードを四枚放った。その全てが、朱雀の翼に張り付く。あの翼h炎でできているというのに、不思議とカードは燃えずにいた。

「大富豪、革命」

 サラが、小さく唱える。瞬間、朱雀の翼が途端に小さくなった。羽ばたこうにもそれはあまりにも小さく、満足に動かせないでいる。

 異変に気づいた朱雀がすかさず地面に降り立ち、怯まず自らの足で駆け始めた。なかなか素早いが、翼を使った時ほどではない。

 駆けながら、朱雀が砲口から素早く砲弾を放った。ただ、まっすぐサラを狙ってはいない。彼女の足元付近にそれらは落ちていく。

 瞬間、炎を撒き散らしながら、砲弾が地面を踊るように動き始めた。その動きは不規則で、炎がどこに向かっていくのか読み辛い。

 サラが咄嗟に下がったが、それを見越していたのか、朱雀がいつの間にか先回りし、横合いから間合いを詰めてきていた。さっきとは違って、異常な速さだ。少し目を切っていただけなのに、そこそこあった二人の距離は、もうほとんどない。

 間合いに入った朱雀が、全身から炎を噴き出させた。それは生き物のように動き、サラへと襲い掛かっていく。

「サラ!」

 思わず叫んだが、サラは焦った風を見せない。

「残念。そこは通行止めだよ」

 足元に八枚のカードを放ったサラが、いじわるっぽく笑む。

 サラへと襲い掛かった炎が、寸前で何かにぶつかったような音を立てて止まった。やや遅れて突っ込んできた朱雀自身も、壁にぶつかったようになり、少しだけよろめきながらのけ反った。

 いや、実際に壁がある。うっすらとだが、ホムラはその姿が見えた。

「七並べ」

 余裕の素振りを見せたサラが、呟くように言った。

 その言葉と足元のカードで、ホムラは何となくだが効果を察した。サラのハイ・ユーザー能力は、トランプにまつわることを具現化するものだ。ゲームだったら、そのルールを技として行使する。

 今、サラの足元には四枚の七と六のカードが置いてある。ルール通りならば、五か八のカードを置けるはずで、おそらくそれを出さない限り、壁は消えないのだろう。通行止めと言ったのも、理解できる。

 朱雀もそれを察したのか、無言のまま後ろに跳び、萎んでいたはずの翼を大きく広げた。そのまま勢いよく跳び上がり、サラの背後に回り込もうとする。サラの後ろ側に壁がないのを、すぐに見て取ったのだろう。

 それでも、サラからは余裕は消えない。彼女は今、一人で戦っているわけではないからだ。

「もらったッ!」

 回り込もうとしていた朱雀へと、先回りしていたシルクが襲い掛かる。大太刀が振り上げられ、前に出ると同時に振り下ろされた。豪風が唸り、肉を裂く嫌な音がやや遅れて響く。

「……ッ!」

 血の霧が舞い上がり、一瞬だけ朱雀が声を上げた。身をよじってかわそうとしていたようだが、シルクの斬撃の方が上回り、胸元から腹の辺りにまで深い切り傷ができていた。

 さっと後ろに跳んだ朱雀が、着地と同時にバズーカ砲から炎を放つ。しかし、シルクたち目掛けてではない。驚くことに、朱雀は自分自身の体目掛けて攻撃を放っていた。

「あれは……!」

 目の前で起きたことに驚き、ホムラは思わず声を上げた。

 朱雀の傷が、炎が触れる度に塞がっていく。それは尋常ではない速さで、瞬きをした時には、シルクが与えた傷は跡形もなく消えていた。

 何が、どうなっているのか。いくら考えても、ホムラの理解は追いつかない。

「あれも、ヒバリの能力ですよ。炎を浴びることで、傷を癒すことができるんです」

 ホムラの疑問を、ツクノがすぐに答えてくれた。答えてくれたが、俄かには信じられなかった。

「炎を浴びたらって、能力が花火だからか?」

「そうですね。ヒバリは火薬や炎そのものですから。炎を浴びれば浴びるほど、自身の体を強くするんですよ」

「だったら、無敵じゃないか!」

 傷を受けても、自身を炎で攻撃すれば回復できる。そんな理不尽な能力があるなんて、信じたくない。

「……はい。守護獣の中で、最も死に遠いユーザーである彼女の異名は、不死鳥。あの白虎のコハクや青龍セイラでさえ、ヒバリに勝ったことはありません」

「そんな……。じゃあ、どうやって勝てばいいんだよ……?」

「うろたえるんじゃないよ、ホムラ!」

 弱気の声を聞き咎めたのか、シルクが怒鳴り声を上げてきた。

 思わず肩を震わせ、そちらに目をやる。不満そうな顔をしたシルクと、すぐに視線がぶつかった。

「確かに、ヒバリは異常な力を持っている。でも、奴とて不死身じゃない。私たちならば、必ず勝てる」

「そうだね。今の連携は、確かに手応えがあった。何度も繰り返せば、きっとやれるはずだよ」

 シルクの言葉を引き継いで、サラが自信ありげに言った。実際、自信があるのだろう。表情は、最初に出会った時のように勝気なものに満ちている。

 それでも、ホムラは何も返せなかった。返す言葉を、見つけられなかった。何かを言いたいのに、その言葉がわからなくて、ただただ二人を見つめることしかできない。

 ホムラが何も言わないことで、二人はすぐに視線を朱雀に戻してしまう。意識も、もうこちらには向いていない。

「行くよ、サラ!」

「任せて!」

 二人が再び、朱雀に攻撃を仕掛ける。

 シルクもサラも、動きが敏捷過ぎて、ホムラは目で追うのがやっとだった。特にシルクは、移動速度も斬撃も、残像が残るほどに速い。

 サラはサラで、朱雀とまともに渡り合っていた。能力を駆使して朱雀の攻撃に対抗し、シルクが攻めるための隙を作り出している。ばかりか、朱雀の攻撃を読み切り、まともに直撃を受けるようなことはしない。

 だがそれでも、二人は完全には攻め切れずにいる。朱雀を倒すための決定打が足りないのだ。朱雀にいくら傷を与えても、僅かな時で回復してしまう。このままでは、じり貧だ。

 ――俺は、何をしているんだ。

 暗い気持ちを抱きながら、口の中で呟いた。

 ホムラも、黙って見ているわけではない。朱雀の砲撃を炎で狙撃し、誘爆させてはいる。しかし、それだけだ。戦闘の危険から遠く離れて、こそこそと攻撃しているだけに過ぎない。

 本当に、何をしているのだろうか。何のために、ここにいるのだろうか。

「……ホムラ、泣かないでください」

「えっ……?」

 ツクノが沈んだ声で言い、そこで初めて、ホムラは自分が涙を流していることに気づいた。

 両の目から零れる涙を急いで拭うが、一向に止まる気配がない。何度も乱暴に拭うが、視界は潤んだままだ。

「ホムラは、ちゃんとやってますよ。二人と一緒に、戦ってますよ。だから、そんなに落ち込まないで……」

 ツクノの悲しみが、胸の内に伝わる。

 憑依していることで、ツクノにはホムラの気持ちが全て伝わってしまっているようだ。悟られたくない惨めさも、隠したい悔しさも、全部知られている。

 今更、それを隠すつもりはない。ごまかせばごまかすだけ、自分が惨めになるだけだ。

「でも、俺は役に立っていないんだ。二人の、お荷物なんだ。どれだけ意気込んでも、俺の力じゃ、どうしようも」

「もう、ホムラのバカッ!」

 ツクノの声が、ホムラの言葉を遮って頭の中に響く。その大きさに、ホムラは思わず唖然とした。

 構わず、ツクノが声を荒げる。

「なんでそんなこと言うんですか! お荷物だなんて、誰も思ってないのに!」

「で、でも」

「でもじゃないです! ホムラがちゃんと頑張ってるって、みんなわかってるんです! なのに、なんで信じないんですか! なんで自分がダメだって、塞ぎ込んじゃうんですか!」

 一気に言われて、ホムラはハッとした。

 前に、サラに言ったような言葉と似ている。その時は、自分も同じようなことを言ったはずだ。

 ――なのに、俺は。

 はっきりとわかる実力の差に、自分がダメだと絶望してしまった。何もできないと、諦めてしまった。そんなことでは本当に何もできないと、頭ではちゃんとわかっているのに、怖気づいてしまった。

 ――こんなんじゃ、本当にダメだ。

 ちゃんと前を向かなければ、仲間の隣に並び立つことさえ許されない。そうでなければ、皆に失礼だ。

 それに気づいた時、不意に脳裏へとある言葉が蘇る。二度と弱気になるな。クロウズの言葉が、はっきりと聞こえた気がした。

「……そうだ。弱気になってる場合じゃない。目の前の現実とか、誰かに言われてとかは、関係ないんだ」

 拳を、強く握り締める。必要以上に力が入っているが、ホムラは構わず握り締め続けた。

「俺も、みんなと戦わないと。余計なことを考えて、うじうじしている場合じゃない」

「そうですよ、ホムラ!」

 嬉しそうに言うツクノに、姿は見えないがホムラは頷いて見せる。

 ――俺は、やる。俺だって、やるんだ。

 今できることを、ではない。今、自分がやらなければいけないことを、やり抜く。

 かけがえのない仲間に堂々と胸を張っていられるために、足手纏いだろうが何だろうが、戦い抜いて見せる。

 そのために。

「こんなところで、立ち止まってられるか!」

 強い決意を胸に、抱いた思いを叫ぶように口の外へと出す。

 その思いに、応えてくれたのだろうか。

 体の中の道具の加護が、ひと際大きな音で鼓動を伝えてきた。

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