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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
七章 限界を超えろ!
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7-10 せめてもの手向け

 クロウズは、体を動かそうと微かに力を籠める。何とか、動かせそうではある。ただ、何かに縛られたかのように、感覚が鈍い。

 いや、実際に縛られている。よくよく目を凝らせば、透明に近い色の糸が体中に張り巡らされている。そしてそれは、リオネの手元に繋がっていた。

 ――成程な。

 人形遣いらしい、なかなか特異な能力を持っているようだ。元々はそんな力はなかったはずだが、鉄鬼になったことで図らずも能力が開花したのかもしれない。

 しかし、相手が悪かった。

「残念だが、俺を人形にすることはできねえな」

 一瞬自身の加護を解き、すぐさま再び身に纏う。体を縛っていた糸は、もうどこにもない。

「ギ……!?」

 リオネが、驚いたようにまた呻いた。

「驚くことじゃねえだろ。俺は、衣類の道具使い。自身の加護を衣服のように纏っているんだ。それを脱ぎ捨て、また身に纏うなんて、おかしいことじゃねえ」

 ――尤も、その分加護を消耗しちまうがな。

 その言葉は、口の中で呟いた。

「ギイ……!」

 怯んだリオネが、もう一度糸を出そうとしてくる。しかし、同じ手は食わない。一気に高く跳び上がり、その攻撃をかわす。

 それでも攻撃を仕掛けようとしたリオネが、頭上を見上げる。

「ギャ……!」

 苦しそうな声を上げ、リオネが束の間動きを止めた。

 見上げた空には、丁度太陽が居座っている。クロウズを見ようにも、眩い陽光がその視界を晦ませてしまっているはずだ。

 そこを逃さず、急降下しては拳を繰り出す。

「サセヌ……!」

 低い声が聞こえ、いつの間に現れたのか、スミスが間に割って入ってきていた。リオネを守るように立ち塞がり、刀を目一杯後ろに引いては、今にも刺突を放とうとしている。

 だが、それはわかっていた。寧ろ、こうなるのを待っていた。二人が場に揃う、この瞬間を。

 距離が縮まり、間合いに入ったと同時に刺突が放たれる。それを、こちらが先に放っていた右の拳が捉えた。鉄の折れる鋭い音が鳴り、刃が真ん中から吹き飛ぶ。その軌跡を見送ることなく、クロウズは左の拳を思い切り突き出した。

「まずはお前だ、スミス!」

「グ、ガ……!」

 喉の辺りを拳が捉え、硬い感触が手に伝う。それでも、構わず拳を振り抜いた。瞬間、鉄が砕け、何かが潰れる音が響き、スミスが大量の破片を振り撒きながら地上へと勢いよく落ちていく。

 それを、じっと見ているつもりはない。放置していたら、スミスはまた動き出す。いや、スミスだけではない。リオネを倒さない限り、この場にいる全てのモノは、死んでも動く。

 スミスを打ち抜いた勢いそのままに、クロウズはリオネへと迫る。既に視界は回復したのか、リオネは両腕を前に突き出し、手を大きく開いていた。また、糸を使って操ってくる気だろうが、そんなことはさせない。この戦いは、もう終わりだ。

 前へ行く足に力を籠め、次の一歩を瞬間的に速くする。異様な勢いをつけて前進し、荒れ狂う風を纏った拳を一息に振り抜く。

「これで最後だ。暴風の拳(テンペスト・ナックル)!」

 リオネが攻撃を仕掛けるよりも早く、右の拳が顔面を捉える。ただ、一瞬だけだ。拳がリオネを捉えた瞬間に豪風が巻き起こり、リオネを地上まで吹っ飛ばしていく。

 勢いをつけて落下したリオネが、大地に思い切り叩きつけられた。激しい衝撃音が鳴り響き、土煙が束の間舞い上がる。

 確かな手ごたえを感じるが、その余韻に浸っている暇はない。致命傷を与えたのか、巨人人形が力なく倒れ始めている。

 地上の近くまでは人形の腕の上で待ち、大地が見えたら巻き込まれないように高々と跳躍した。その直後に、巨人人形が地面へと倒れ込んだ。地響きが鳴り、さっきの比ではない土煙が舞う。

 地面に降り立ち、クロウズはゆっくりと歩き始める。視線の先には、倒れる二人の姿がある。奇しくも、二人は近い場所に落下していた。

 彼らの傍で立ち止まり、クロウズはそっと目を向けた。ドクロの面の一部が崩れ、右目があらわになったリオネと、鬼面が砕けて顔が見えるようになったスミスと、視線が交わり合う。

「ク、ロウ、ズ、様……」

「申シ、ワケ、アリマ、セ、ン……」

 それが、最後の言葉だった。一瞬正気を取り戻したような眼をしたが、二人はすぐに、そっと瞳を閉じた。名残を惜しむ暇もなく二人の体は砂のようになり、やがて崩れて消えた。

「……馬鹿野郎共が」

 胸の内の思いを堪え切れず、クロウズは知らず知らずのうちに言葉を紡いでいた。

「謝るのは、俺の方だろうが。解放軍を作ったせいでお前たちを死なせてしまった、俺の方だろうがよ」

 懺悔の言葉を吐いても、誰も聞くことはない。声はただ虚しく空に響き、吹き荒ぶ風が持って行くばかりだ。

 クロウズは、少しの間立ち尽くした。目を瞑り、いなくなった部下へと祈りを捧げた。

 ふと後ろから足音が聞こえ、クロウズは振り返った。戦い終えたホムラたちが、こちらに向かって来ている。

 その足が、近くで止まった。

「やったんだな」

 少し寂しげな顔をして言ったホムラに、クロウズは苦笑した。

「おいおい、なんでてめえがしけた面してやがる? 関係ねえことだろうが」

「いや、だってよ。クロウズ、お前にとっては大切な人たちだったんだろう? それを自分の手で壊すなんて、寂し過ぎるじゃないか」

 クロウズは、何故か何も言えなかった。いつものように否定しようとしても、言葉が出て来ない。

 いや、否定できないのだ。寂しいのは、多分嘘ではない。自分の手で部下を壊したことも、胸の内で痛みとなって襲ってきている。

 だからと言って、表に出すわけにはいかない。ちっぽけな自尊心が見栄を張り、クロウズはごまかすように別の話題を口にしていた。

「……ちゃんと足止めできたみたいだな。やるじゃねえか」

「えっ。そりゃあ、あの状況じゃ力を尽くさなきゃいけないだろう」

「はっ、それもそうか」

 いつものように、クロウズは勝気に笑う。ホムラが釈然としないような顔をしているが、それでも構わずに笑い続ける。

 ――大分、強くなってるじゃねえか。

 ホムラからにじみ出る加護を感じながら、つくづくそう思う。

 都合二度戦っているが、ホムラの成長は著しいものがある。本人ははっきりと感じてはいないようだが、体を覆う道具の加護は随分高まっている。あと少しきっかけがあれば、能力はさらに一歩花開くはずだ。

「それで、これからどうするんだい?」

 シルクが割って入ってきて、クロウズは睨むようにその顔を見た。どこか諦念の滲むシルクの顔は、正直好きではない。

「決まってるだろ。俺は」

 言いかけたところで、何かが割れる音が聞こえ、クロウズは言葉を呑み込んだ。音は、確かに自身の近くから聞こえた。

 直感的に、クロウズは懐に入れてあった小瓶を取り出した。その小瓶に、大きなひびが入っている。

 それを見た途端に、クロウズの心臓が跳ね上がったような音を立てた。鼓動が、いやに大きく聞こえる。

 ――まさか。

 漠然と感じる嫌な予感に、冷たい汗が背を伝う。確証もないのに、クロウズは無意識のうちにシルクたちへと背を向けていた。

「ちょっとあんた、どこに行く気だい?」

「答えるつもりはねえ」

 たったそれだけを返し、クロウズは歩みを始める。追い縋るような声が聞こえたが、足を止めようとは思わない。

 だが、一度だけ振り返った。足は止めなかったが、まっすぐホムラを見て言葉を紡ぐ。

「一つだけ言っておくぜ。ホムラ、二度と弱気になるんじゃねえぞ」

「えっ、あっ、ああ」

 唐突に言われたことに困惑したのか、ホムラがしどろもどろになりながら頷いた。

 その様に一度苦笑を浮かべ、クロウズは再び前を向いた。歩みを、少し速める。

 嫌な予感は、依然として全身を駆け巡っていた。心臓も、うるさいくらいに高鳴りっ放しである。背を流れる汗も、一向に止まらない。

 それらが、嫌でも最悪の想像を描こうとしてくる。感傷に浸る暇もなく、自身を急き立ててくる。ジェネレイト山岳へ急げと、まくし立ててくる。

 ――何も、起きていてくれるなよ。

 自然と祈るように思いながら、クロウズは無意識のうちに駆け出していた。

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