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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
七章 限界を超えろ!
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7-8 クロウズの戦い

 突然の行動に面食らうも、その理由はすぐにわかった。

 いきなり鉄鬼が、前方の地面から湧き出すように現れた。一体二体ではない。数えるのも億劫な数が、地面からゆっくりと這いずり出している。そのいずれもが体をボロボロに崩し、ひどいものでは体の半分以上が失われているのもいた。まるで、ゾンビのようだ。

「こいつらは、一体……!?」

 目の前の脅威に怯みながらも、ホムラはあることに気づいた。今現れた鉄鬼たちは、目の光がどれも暗い。ウォーズ平野で見た変な鉄鬼と同じだ。

 その鉄鬼たちが、声もなく一斉に突っ込んできた。

「どうする、シルク!?」

「迎え撃つ!」

 短くも単純明快な答えに、ホムラもサラも大きく頷いた。この鉄鬼は倒しても大丈夫なのかと思わでもなかったが、シルクがやれと言うのならば、躊躇する理由がない。

 迫り来る鉄鬼を迎え撃つべく、シルクを先頭にホムラは得物を構えて突っ込もうとした。

 刹那。

「邪魔だぜ」

 怒りの籠った低い声音が割って入り、激しい打撃音がいくつも鳴り響いた。

「なっ!?」

 目の前の光景に、唖然とする。無数の鉄鬼が一瞬にして全てバラバラになり、鉄屑となって横たわっていた。

 その近くで、一人の男が佇む。見慣れたその顔に、ホムラは表情を引きつらせた。

「クロウズ! お前、何故ここに!?」

 ホムラの声に気づいたクロウズが、ゆっくりとこちらに目を向けた。途端に、鋭く睨まれる。相変わらず凄みのある眼光に、僅かながらも気圧されてしまった。

「何だ、てめえらか。もう、ここまで来やがったのか」

「その口振りだと、私たちを助けたってわけじゃなさそうだね」

 呆れ顔をしたシルクに、クロウズが鋭く睨む。だが、歳の功もあってか、シルクは怯まない。

 それが気に入らなかったのか、クロウズがあからさまに舌打ちした。

「んなわけねえだろ。今蹴散らしたのは、俺の獲物の邪魔者だ。さっさと蹴散らさねえと、獲物には手が届かねえんだよ」

「獲物?」

 その問いには答えず、クロウズがまた舌打ちした。

「……ったく、余計な時間を使ったせいで、また無駄になっちまったじゃねえか」

「それは」

 どういう意味だ。

 その言葉は、驚きと共に飲み込まざるを得なかった。

 バラバラになって散っていた屑鉄がゆっくりと近づいていき、くっついていく。それらはどんどん形作っていき、やがて無数の鉄鬼が再び姿を現した。

「な、何だよ、これ……」

 それだけ言うのが精一杯だった。サラもツクノも驚きのあまり何も言えず、シルクさえも顔を引きつらせている。

 その驚きを乱すように、不意に地面が揺れた。地震かと一瞬思ったが、どうやら違うらしい。揺れは、一定の間隔で起きている。さらには、重々しい音も聞こえてきた。おそらく、巨大な何かが歩いて来ているのだと思われた。

「来たか、リオネ」

 表情を真顔に引き締めたクロウズが、音の方へと顔を向ける。

 つられてそちらへと顔を向け、思わず目を見張った。

 人の何倍もの大きさもある人型の何かが、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。

「あれは」

 見覚えのある姿に何かが引っ掛かり、ホムラは瞬時に思い出した。以前、村を襲った巨人人形だ。

 ただ、姿は大きく変わっていた。体の至るところが腐敗したようになっていて、ところどころ真っ白な骨組みが見える。遠目ながらも目に映る人形の顔は、左の半分が肌を失い、白いドクロを露わにしていた。

 そして、巨人人形の近くに、何かが飛んでいる。人の形をしているが、鉄の装甲を纏っているように見え、その顔はドクロの仮面に覆われている。

 その飛んでいる何かに向かって、クロウズが鋭い眼光を向けた。

 ――あれが、リオネとかいう奴なのか?

 確か、解放軍の一人だったはずだ。ケイトが巨人人形を倒した時に、ちらと見た気がする。

 唖然としているホムラたちをよそに、クロウズが前に踏み出す。だがそれを、シルクが遮った。

「待ちな。あれは何だい?」

「どけよ、ババア。てめえに用はねえ」

 一瞬、場の雰囲気が凍りついたような気がした。シルクが、ほんの一時だけ動きを止めたのを見て、ホムラは思わず身震いした。ああいう時は、決まって拳骨を入れられる。それを体が覚えてしまったのか、知らず知らずのうちに怯えてしまっていた。

 シルクが、一度大きく深呼吸する。しかし、怒気が膨れ上がっていくのを、嫌でも感じてしまう。

「……もう一回聞く。あれは、何だ?」

 冷たい声音だが、クロウズが怯んだ様子はない。が、このままだと面倒と判断したのか、また舌打ちをしてから口を開いた。

「屍人形だ。リオネの、暴走したユーザー能力だよ」

「リオネっていうのは、あの浮いている奴かい?」

「そうだ。解放軍の人形遣いで、俺の部下だった。あいつは、人形を操る力を持っていたが、鉄鬼化したことで能力が歪んだらしい。死んだモノさえも、意のままに操れる」

「じゃあ、この再生も?」

「多分な。モノを操って、無理やり動かしてんだろ。どれだけ壊れても、すぐに直りやがる。命がなくなっても、戦いを挑んできやがる」

 クロウズが、リオネをキッと睨みつける。

「あいつを壊さねえ限り、ずっとな」

 言い終えたクロウズが再び歩き出し、シルクを押しのける。押しのけられたシルクは、すぐにクロウズの肩を掴んだ。

「だから、待ちなって。あんた、一人で戦うつもりかい?」

「当然だ。あいつは、俺の部下だ。俺の手で葬ってやるのが、せめてもの慰めだろ。誰にも、手出しはさせねえ」

「だけど、きっとまた、邪魔は入るよ。あの鉄鬼とは、もう何度もやり合っているんだろう?」

 クロウズは何も答えず、シルクをキッと睨んでいる。その沈黙が、シルクの指摘が正しいのを物語っていた。

 束の間、二人が睨み合う。

 シルクが、不意に勝気な笑みを浮かべ出した。

「ここは、共闘と行こうじゃないか。決着をつけたいならば、私たちが手を貸してやってもいいよ」

「何だと?」

「横槍が入らないように、私たちが屍人形を引き受けてやる。お前はその間に、部下と最後のひと時を過ごす。お前は目的が果たせ、私たちは障害を取り除ける。どちらにも利があると思うが、どうだい?」

 一瞬唖然としていたクロウズが、次の瞬間には笑みを浮かべていた。ただそれは、爽やかなものではなく、いつもの獰猛なものだ。

「……はっ、食えねえババアだ。だが、そういうことなら悪くねえ」

 左の掌に右の拳を打ちつけたクロウズが、表情に凄烈なものを浮かべた。

 そのクロウズが、ふとホムラに目を向ける。鋭く、強い眼差しだ。だが不思議と、恐ろしいような威圧感はなく、試されているように思えた。

「まさか、てめえに背を預ける日が来るとはな」

 ぽつりとクロウズが呟くように言ったが、よくは聞き取れなかった。

 クロウズが、右の口角を吊り上げながら、今度ははっきりと言う。

「屍は、てめえらに任せてやる。俺がリオネを仕留めるまで、邪魔させるんじゃねえぞ」

 言って、クロウズが一気に駆け出した。再生しつつある鉄鬼をすり抜け、まっすぐ巨人人形へと向かって行く。

 その背を、じっと見送っている暇はない。既に再生を終えた鉄鬼たちが、無言のままこちらに突撃を仕掛けてくる。

「来な、お前たち!」

 シルクが振り返り、傍に来るよう促してくる。ホムラはサラと共に、得物を構えながらシルクの傍に行った。

「お前たち、行くよ! 奴らをぶちのめす!」

「おお!」

 気合の入った声が、この場に木霊する。

 その声が空に消え入る前に、ホムラたちはシルクを先頭に、鉄鬼の群れへと突っ込んでいった。

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