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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
七章 限界を超えろ!
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7-7 ウォーズ平野を駆け抜けろ!

 地面に降り立ったと同時に、一気に前へと駆け出す。

 少し高かったこともあって足に衝撃が走ったが、一切構わなかった。周りに鉄鬼が群れている今、少し怯んだだけで命取りになりかねない。駆けて駆けて、駆け抜ける。

 争い合う鉄鬼の隣をすり抜け、先行するシルクを追う。もう、大分前に進んでいる。遠目に見えるその背は、結構小さく見えた。

「グルアアアッ!」

 何体かの鉄鬼がホムラたちに気づき、勢いよく向かってきた。そのいずれもが尖れた巨大な爪や腕の刃を振りかざし、一息に引き裂こうと殺意を向けてくる。

 隣を走るサラと飛んでいるツクノと一度目だけで見合わせ、頷く。そしてすぐに、それぞれ左右の斜め前に進路を変えた。

 獲物が増えたことで、鉄鬼の動きに微かな迷いが生まれた。どちらを狙うか。目移りしているほんの僅かな一瞬だけ、鉄鬼の勢いが確かに弱まった。

 そこを、逃す手はない。

「立ち昇れ、炎よ!」

 言い様に剣を横薙ぎに振り、一度胸の内で強く念じる。自身の加護に呼応して生成された炎が、鉄鬼たちの眼前へと立ち塞がるように燃え上がった。

「ガアッ!?」

 突然現れた炎に、鉄鬼があからさまに怯んだ。その隙を衝いて、さらに前へと駆け出す。

 ちらと、サラに目をやる。素早く駆けながら、軽い身のこなしで鉄鬼の攻撃をかわしている。鉄鬼の前へと突っ込んだかと思えば、ぶつかる寸前で左へと最小の動きで跳んでかわし、猛スピードで突っ込んでくる鉄鬼に対しては、ひらりと前に跳び上がっては頭上を越していった。

 その動きの流麗さに、思わず見惚れてしまいそうになる。それだけ、サラの動きは流れるように軽やかだった。

「ホムラ!」

 サラの叫ぶような声に、ハッとして前を向く。両手を大きく広げ、掌から銃口のようなものを剥き出しにした鉄鬼が、こちらを鋭く睨み据えていた。

 ホムラを見つめる赤い瞳が、一瞬妖しい光を放つ。

「グルアァァッ!」

 吼え声と共に、ひと際高い砲声が轟く。無数の弾丸が灼熱を纏い、ホムラ目掛けて飛び込んでくる。

 その勢いは凄まじく、回避は間に合いそうもない。ならば、正面から受け止めるまでだ。

炎の鉄板(フレイム・シールド)!」

 咄嗟に、炎に纏われた盾を構えた。瞬間、風の唸り声が響き、強い衝撃が手へ、体へと走る。特に脇腹の辺りは、焼けるような熱さが瞬間的に襲い掛かってきた。

 ――掠ったか。

 熱さと共に感じるひりつくような痛みに、内心で舌打ちする。炎の鉄板は確かに鉄鬼の攻撃を防いだが、その全てを叩き落とすことはできなかった。何発かは盾を貫き、体を掠めていった。大分勢いがあったらしく、血が滲んでいるのを走りながらでも感じる。

 鈍い痛みが走るが、構わず駆け続ける。鉄鬼が再び銃弾を放とうとしていたが、それよりも早く炎の壁を現出させ、怯んだ隙に隣を通り抜けた。

 ――まだ、足りない。もっと、自分を信じないと。

 駆けながら、強く思う。この程度の攻撃など通さないくらいに力を想像し、具現化しなければ、朱雀とまともに向き合えない。

 鉄鬼をあしらいながら、前へ前へと突き進み続ける。争い合う鉄鬼が、右、左から次々と迫ってきた。異様な勢いで距離を詰めてきた鉄鬼を剣で捌き、炎であしらう。

 それでも、やはり全てを振り払うことはできず、攻撃がまた体を掠めた。直撃ではないが、掠めたところから微かに血の霧が舞う。思わず顔をしかめたが、それでも足は止めない。

「ホムラ、一つ提案があります!」

 いつの間に隣を飛んでいたツクノが、大声を張り上げた。この喧騒の中では、声を張らなければちゃんとは聞き取れない。

「わたしを、纏ってください! そうすれば、襲ってくる鉄鬼にもっと早く対応できるはず!」

「ケイトとやってる、あれか? 俺にもできるのか」

「ホムラが望んでくれるなら、ちゃんとできます! どうします!?」

 顔をずいと近づけたツクノが、爛々と輝く目を向けてくる。

 考える必要はなかった。今は、自分たちができることを目一杯やる時である。ツクノが力を貸してくれるというのならば、乗らない手はない。

「よし、やろう!」

「そうこなくちゃ!」

 にこりと強気の笑みを浮かべたツクノが、すぐにホムラの背へと乗っかるようにして降りてくる。

 途端に、肌に様々な感覚が触れてきた。あちこちの鉄鬼の動きや気配が、手に取るようにわかる。感覚は、異様に研ぎ澄まされているように思えた。

 ただ、体が少しだけ重い。まるで鉛を背負っているかのようで、一歩前に進む度に荒い息を吐き出してしまう。体が、大きな負担を感じている。

 何故だ、とホムラは思ったが、その理由はすぐに掴めた。ツクノの持つ力が、異様に大きいからだ。意外だが、あまりにも強いそれに、ホムラの道具の加護が対応し切れていない。

 ――ケイトは、これを平然とやってのけていたのか。

 改めて、ケイトの凄さを思い知らされる。初めて会った時からそうだったが、備え持った能力も加護の強さも、実力さえも尋常ではない。まさしく、選ばれた存在って感じだ。

 ――だったら、尚更負けていられないな。

 体へ押し寄せる負担を、気合で捩じ伏せる。乱れそうになる息も無理やり噛み殺し、前へ前へと突き進んでいく。感覚が鋭敏になったことで、鉄鬼の動きはある程度は読める。難なくとはいかないが、さっきよりかは攻撃を避けることができた。襲い来る敵が行動を起こす前に、先手を打って動けるのが大きい。

 だが、油断はできない。

 ある程度進んだ時、別の鉄鬼が立ち塞がってきた。背負ったロケットのような発射口から砲弾を放ち、辺り構わず吹っ飛ばそうとする。避けようとしたが、不意に近くにいた鉄鬼が、割り込むように眼前へと出てきた。その鉄鬼が直撃を食らい、瞬間、爆風が舞う。鉄鬼は、声を上げる暇もなく破片を撒き散らしながら四散していった。

 その破片が、勢いよく飛んでくる。意識を持たない物の挙動までは読めず、飛び散る破片を避け切ることはできなかった。尖れたものが体を掠め、あるいは腕に突き刺さる。

「くっ!」

 すぐさま破片を引き抜いて捨て、注意を前方に向ける。さっきの鉄鬼が、また砲弾を放とうとしている。

「このっ!」

「待って、ホムラ!」

 反撃しそうになり、ツクノの声で何とか思い止まる。火球として出しかけた炎を咄嗟に引っ込め、変わりに水の壁を自身の周りに立ち昇らせた。

 ほぼ同時に、砲弾が勢いよく放たれた。水の壁とぶつかったそれが微かに動きを鈍らせ、押し戻される。ただ、そう見えたのは一瞬で、次の瞬間には激しい音を立てて砲弾が炸裂した。

 もらった衝撃は、殆どない。水飛沫を浴びるくらいだ。水を操る能力は消費が激しいから、あまり乱発はできないのだが、そんなことを言っている暇はない。

 爆風を避け、鉄鬼の隣を潜り抜けて、さらに前へと進む。もう大分駆けたのだが、まだ終わりが見えない。遠目に前進を続けるシルクの姿も、一向に止まる気配がない。

 息が、さらに乱れてきた。気合を入れても、蓄積する疲労ばかりは騙しようがない。

「くそっ……! なあ、どこまで行けば終わりなんだ……!?」

「あと、もう少しのはずです! 魔法の撚糸の気配を、肌で感じますもん!」

「じゃあ、あともうひと踏ん張りだね」

 いつの間にか隣を走っていたサラが、強気の笑みを向けながら口を挟んできた。ただ、相当痩せ我慢しているようで、息は激しく切れ、顔は紅潮するどころか青白くなっている。

 今は過干渉から守られているとはいえ、その影響が皆無であるわけではない。最初に鉄柱が繋がれたことによる過干渉が、サラの体を弱らせているのは十分に予想できた。

「サラ、お前」

「大丈夫。ちょっとだけ辛いけど、大丈夫だから」

 にこりと余裕そうに笑んで見せるサラに、思わず苦笑する。そんな風に強がられたら、こちらからは強くは言えない。

 右の方から、弾丸が迫ってきた。標的はサラのようだが、すぐさま炎を出して防ぐ。火力は相当上げてあり、鉛の弾は炎に呑み込まれると、瞬く間に溶けて消えた。

 サラが一瞬、むっとしたような顔をした。このくらい、自分で何とかできた。そう言っているかのようで、ホムラはもう一度苦笑した。

「ったく、無理はするなよ!」

「そっちこそ!」

 互いに頷き合い、それからさらに足を速める。いくつもの鉄鬼の隣をすり抜け、降りかかる攻撃をかわし、長い時を駆け続ける。

 ――何か、変だな。

 駆け続け、多くの鉄鬼を横目で見ていて、少し違和感が出てきた。

 出会う鉄鬼の大多数は、こういうのも変だが、ちゃんとした形をしている。装甲が錆びたり、欠けたりはしているが、姿かたちは結構整っているし、何よりも妖しいほどに瞳が赤く光っている。

 しかし、いくつかは違った。体のあちこちが圧し折れ、瞳の色は暗くなっているにも拘らず、動いていた。ばかりか、無差別に攻撃を仕掛けてきた。その動きにはまさしく生気を感じられず、ツクノを纏っていても、ホムラは攻撃をかわせなかったことが何度もあった。

 ――あの鉄鬼は、一体何なのか。

 考えても仕方がないが、少し気にかかった。ここには、自分たち以外の異物が混じり込んでいる。そう思った。

 そのことを共有しようとサラに話しかけようとしたが、彼女の足が不意に止まったことに気づき、ホムラは急いで足に力を入れた。急ブレーキがかかったように足が滑り、乾いた地面が擦れたような音を立てる。

 サラだけでなく、いつの間にか追いついたのか、シルクも足を止めていた。不思議に思って周りを見渡すと、さっきまでの喧騒が遠退いていることに気づいた。どうやら、考え事をしている間に、ウォーズ平野の戦場を抜け切ったらしい。

「よく頑張ったね、って労いたいところだがね。お前たち、まだ油断するんじゃないよ」

 表情を強張らせたままのシルクが、大太刀を引き抜いて構えた。

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