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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
七章 限界を超えろ!
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7-2 気付いた想い

 人の弱みにつけ込むような感じがして少し気が引けるが、サラもまた問いを口にする。

「ねえ、ボクからも聞いていいかな? シルクは、力をできる限り使っちゃいけないって言われてるけど、どうしてなの?」

「ああ、それはね、私の道具の加護の量が限られているからなんだよ」

 徐に立ち上がったシルクが、窓辺へとゆっくり近づき、サラたちに背を向けて佇む。暖かな陽光を遮ることで差した影が、妙にその背を寂しく映した。

「私は、命というモノの具現体。具現化したその命の分だけ、私はこの世界で力を発揮できる」

「えっ、命の分だけって、それじゃあ……!」

 シルクの言葉の意味を咄嗟に理解し、サラは声を大にして言っていた。

 背を向けたままのシルクが、小さく笑ってから答えを口にする。

「お前の想像通りさ、サラ。私は、力を使えば使った分だけ、自分の加護を消費してしまう。その加護は私の命そのものだから、一度使った分は回復することはない。だから、ツクノもウルも、私に力を使わせたがらなかったんだよ」

「で、でも、シルクはこれまでずっと戦っていたんだよね? もしかしなくても、加護は大分減ってるんじゃないの?」

 自分でも恐ろしい質問だと思ったが、聞かずにはいられなかった。

「そうだよ」

 短く答えたシルクが、ゆっくりと振り返る。顔には、何故か柔らかな微笑みが浮かんでいた。その表情はとても落ち着いているような感じがするのだが、どこか痛々しいものを孕んでいる気がしてならない。

「私の加護は、もう半分は失われている。だから、オウリュウに封印を解かれてしまった。最強の道具使いと謳われていても、実際は死にぞこないの老いぼれに過ぎないってわけだ」

「いや、それはないだろ……」

 すかさずホムラが言い、サラも頷く。加護が半分しか残っていないとはいえ、シルクの動きはこちらとは比べ物にならないほどに凄まじい。あれで死にぞこないなんて言ったら、自分たちは一体何なのだろうか。

「……ふふっ、はははっ。冗談だよ、冗談。力が衰えていると言っても、まだまだ若輩者に負けるつもりはないよ。何せ、五十年以上も磨いたユーザー能力だ。そう簡単に超えさせはしないさ」

 二人揃って深刻な顔をしていたのか、シルクが声を上げて笑いながら言った。

「だから、そんなに気にしなくてもいいよ。セイラとは大分やり合ったが、それでもケイトのおかげで大分温存できている。まだ、しばらくは持つから」

 朗らかに笑いながらシルクは言ったが、気にしないというのは土台無理な話だ。シルクの力は、彼女の命そのものと言っていい。

 ――力を使い、その全てが失われてしまったら。

 命というモノが壊れ、シルクが消えていなくなる。

 思わず、ホムラを見る。そのことにちゃんと思い至ったのか、ほぼ同じタイミングでホムラがサラを見てきた。瞳には緊張の色がありありと浮かんでいて、表情もいささか強張っている。

 ――わかってるよね?

 目で問いかけ、ホムラが頷く。シルクを死なせないために、必死に力を尽くす。ケイトが倒れている今、それができるのは自分たちだけだ。

「……あっ。そういえば、もう一つ聞いていいかな?」

 ふと思い出した事柄を、サラは問いかけた。

「ケイトとシルクって、何か関係があるのかな?」

 サラが口にした途端に、シルクの表情が少し硬くなった。しかし、それはほんの一瞬だけで、すぐに柔らかなものが浮かんだ。

「そうだね。関係は、もちろんあるよ。だって、ケイトは」

 シルクが感慨深そうにしながら、ケイトとの関係を語っていく。

 そのことはサラの予想通りで、あまり驚きはしなかったが、ホムラは想像もしていなかったのか意外そうな顔をし、何故かシルクと付き合いが長いはずのツクノもまた、驚いたような顔をしていた。

 ツクノの反応を見咎めたシルクが、途端に呆れ顔をした。

「何だい、ツクノ。お前まさか、気づいていなかったのかい?」

「だ、だって、そういう話をあんまりしなかったじゃないですかぁ」

「しなくてもわかるだろう。接し方とか話の内容とか、私と同じユーザー能力とかで」

「えー、でもぉ……」

 不満そうに頬を膨らませたツクノに、シルクが一度大きく溜息を吐いてから苦笑いした。しかし、それ以上のことはせず、話の続きをシルクがすることもなかった。

 サラとしては、もう少し深く聞いてみたい気持ちがあった。特に、ケイトがどんな子だったのかを、シルクから詳しく聞いてみたい。

 どうしてそう思ったのかは、正直よくわからなかった。ただ、ちょっと前から、ケイトのことが気にかかっている。最初に出会った頃はそれほどでもなかったのに、最近では寝ても覚めても、彼のことばかりを考えている気がする。

 ――どうしてかな。

 少し考えて、サラは内心でハッとした。自分はケイトに、恋をしている。唐突にだが、それをはっきりと自覚してしまった。

 途端に顔が熱くなるが、悪い気はしなかった。寧ろ、正直とても嬉しい。病院暮らしでずっと一人ぼっちだったサラにとって、誰かに恋をすることなど夢物語だったのだ。

 意識したら、尚のことケイトについて聞きたかったが、その機会は今はないようだ。

「私の大きな秘密は、大体こんなものかな。ユーザー能力は単に鍛えに鍛えただけだから、秘密ってほどのものじゃないしね。まだ、他に聞きたいことはあるかい?」

 シルクが、サラとホムラを交互に見てくる。ホムラは特にないらしく首を横に振り、サラは知りたがる気持ちを押し隠し、もう大丈夫、とだけ答えた。折角の機会に少し残念だが、今はそういう話を深堀する時ではない。それくらいは、ちゃんとわかっている。

 大きく頷いたシルクが、ゆっくりと立ち上がった。それから、部屋の入口へと歩いていく。

「じゃあ、私の話はこれくらいにして、今後のことを話し合おうかね」

 振り返ったシルクが、真剣な顔を向けてきた。

「お前たち、さっきの部屋に戻るよ。今度はウルも交えて、次にどうするかを話し合おう」

「う、うん」

 頷いたサラたちを尻目に、さっさとシルクは部屋を出て行ってしまう。ツクノも、すぐに着いて行く。

 その動きが早過ぎて、サラとホムラは束の間呆然としていたが、シルクの怒鳴るような呼ぶ声が聞こえてきて、慌ててその背を追った。

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