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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
六章 危機を乗り越えろ!
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6-12 勝利の代価

 ケイトの気持ちに呼応したのか、両手の刀が暗い光を帯びた。刀身の銀を覆ってしまうような黒い光が広がる。前に使った時と変わらず、荒れ狂う力を感じた。全てを断ち切ってしまいそうな、恐ろしい力だ。

 しかし、今はそれを拒むことはしなかった。この力で、セイラを斬る。知らず知らず、そう決めてしまっていた。

 決めたら、行動は早かった。まず、巻き込まないために、ツクノの憑依を解く。いきなり離れさせられたツクノは少し驚いたような顔をしていたが、感覚を共有していたことでケイトの思いを理解しているのか、再び憑依してはこなかった。

「シルク、みんなを頼む」

「待ちな、ケイト!」

 シルクの制止も聞かず、ケイトは鉄柱に向かって駆け出した。

 前へ進む度に、風の刃が襲ってくる。数が多く、それでいてひどく鋭利な形をしているため、避けるに避けられない。

 そのうちの一つが、頬を削った。たちまち鋭い痛みが走り、どろりとしたものがそこから溢れる。確かに、迂闊に触れてしまったら、真っ二つになるだろう。

 だが、そんなことでは怯まない。昂った気持ちは、ケイトから一切の怯えを取り払っていた。

 駆けながら刀を小さく振るい、迫り来る風の刃を切り払う。乾いた金属音を立てながら、形を持った風が真っ二つになって地に落ちていく。

「ふふっ。少しはやるようだが、いつまで避けられるかしら?」

 セイラが咆哮を上げ、風がさらに吹き荒ぶ。より数を増やしたカマイタチが襲い掛かってきて、さらに小刻みに刀を振る。いくらか切り落としたが、全てに対処することは難しかった。全方位から迫る攻撃に、防御が間に合わなくなってきた。カマイタチが体を掠め、赤い霧が何度も舞う。

 それでも、前へ前へと駆け抜けていく。一歩進む度にボロボロになっていくが、体を傷つけるのは、カマイタチだけではない。この黒の加護もまた、ケイトの体を切り裂いていく。得物を振るう度に、斬撃のような衝撃が襲い掛かってくるのだ。それはカマイタチよりも鋭く、深い傷を作っていく。

 しかし、やはり怯むことはない。傷つきながらも前へ前へと進み、鉄柱が間近に迫ってくる。

 瞬時に目をやり、鉄柱の道具の加護を見る。鉄柱の真中に、丸太ほどもある繋がりの糸が見えた。さらには糸の近くでは、何かの力が働いているのか、光の球体が電流のような閃光を迸らせていた。

 ――あれらを、斬れば。

 気持ちが乗った状態で思えば、それはすぐに行動へと移される。駆けながら刀を構え、鉄柱が得物の間合いに入ったのと同時に、ケイトは両の刀を思い切り横へと薙いだ。

 鋭い金属音が鳴り響き、一度、激しい衝撃が周囲を襲った。

 暑さにやられ、しなびながらも風に揺れていた草花が刈り取られ、一瞬宙に浮く。それらは、絶えず吹き荒ぶ風が、どこかへと運んでいった。

 その行方を、目で追う余裕はない。全神経を集中し、鉄柱へと叩きつけた刀を目一杯押していく。

 抵抗するように、鉄柱が光を放つ。その力が異様に強いのか、それとも自身の加護が暴れているからか、ケイトの体はさらに傷ついていく。

「くうっ……!」

 額が割れ、右目に血が入る。思わず瞑るも、手で拭うことはしない。今はまさに、力と力のぶつかり合いを繰り広げているところである。互いの加護が押し合い、相手を力を撃ち砕こうとしている。二つの力はほぼ拮抗していて、ここで刀を押すのをやめたら、確実に抗ってくる柱の光にやられる。

 ならば、どれだけ傷つこうが、このまま押し続けるしかない。

 柱を斬り倒すべく、力をさらに入れる。思い切り叩きつけた刃を振り抜くべく、全神経を集中する。

 必然、ケイトは隙だらけになる。

「ふふ。なかなか強い力を持っているみたいだが、注意が疎かですわね。脅威は、目の前だけじゃないのよ」

 頭上でセイラの声が聞こえ、瞬間、突風の唸りが耳に届いた。同時に感じる、鋭い痛み。多くの血飛沫が舞い、束の間視界を覆った。

 左右からカマイタチが駆け抜け、ケイトの胴を切り裂いていた。

「ぐっ……」

 多量の出血と痛みで、思わず膝をつきそうになる。しかし、堪えた。がくがくと震えそうになる体を必死に抑え、ケイトは歯を食い縛って刀に力を籠め続ける。

 襲い掛かってくるのは、カマイタチだけではない。黒の力を放出していることで、さらに傷は増えていく。全身は無数の切り傷が刻まれ、衣服はこれ以上染まりようがないくらいに赤黒くなっていた。足元には、波紋が立つくらいの血溜まりができている。

「もうやめるんだ、ケイト! このままじゃ、お前が!」

 シルクの必死な声が、やや遠くで聞こえる。それでも、やめない。風が襲い掛かろうが、力の余波が傷つけてこようが、刀を手放すことはしない。

 ここで、柱を斬る。世界のため、たくさんのモノのため、そしてサラがまたちゃんと過ごせるようにするためにも、何としても斬り倒さなければならない。

 ――僕が、やるんだ。

 こんな形で、世界を繋がせてたまるか。

 強い覚悟を胸に、歯を食い縛って立ち向かう。

 その思いに応えてくれたのか、黒の加護がより深い光を発した。力が、これほどかと思うくらいに湧いてくる。

 何だ、と思うことはしない。ケイトはその力に、自然と身を委ねていく。

「まったく、しぶとい子。でも、これで終わりよ」

 セイラがまた、吼えた。周囲がさらに暑さを増し、風もまた唸り声を上げ始める。

 だが、関係ない。湧き上がる力をそのまま放出し、刀を思い切り振り抜く。

 刹那、鈍く低い音が、空を震わせた。

 刀身が加護を断ち切り、黒の光が柱の球体を捉えては、真っ二つに切り裂いた。一度、球体が小さな炸裂音と共に火花を散らしたが、すぐに形を失って消えていった。邪魔するものがなくなり、刃はそのまま柱の繋がりの糸に襲い掛かる。

「ば、馬鹿な!? こんなことが!」

 一転してうろたえだしたセイラが、いきなり鉄柱から離れて飛び上がった。多分、柱と一緒に斬られることを恐れたのかもしれない。

「こうなったら、お前を先に食い殺してやる!」

 セイラが一度頭上を旋回してから、大口を開けながら勢いよくこちらに向かって突っ込んで来た。

 柱に向き合っているケイトに、避ける余裕はない。横目で、忌々しげにその動きを見るばかりだ。

 横目で見た光景の中に、ふと龍以外のものが見えた気がした。

 ――あれは。

 ちらと視界に映ったものに気づき、ケイトはセイラへの警戒を解いた。もう、避ける必要はない。ケイトはこのまま、刀を振り抜けばいい。

 シルクが高々と跳び上がり、セイラの前に現れたのと同時に、大太刀鋏を思い切り振り被っていた。

「いい加減にしな」

 怒りに満ちた低い声が放たれた瞬間、大太刀鋏が振り下ろされた。

「これ以上、邪魔をするな」

 風を、鋼を断ち切る、低くも乾いた音が鳴る。巨大な龍が大口を開けたまま、真っ二つに切り裂かれていく。

「そ、ん、な」

 掠れた声が聞こえたが、それもすぐに風が掻き消した。二つに分かれた龍はその残骸をゆっくりと地上へと落としていき、それらが地面に辿り着く前に姿を消した。

 そして、セイラが消えたのとほぼ同時に、ケイトは刀を振り抜いていた。

 鉄柱の糸が断ち切られる。支えを失った柱は不思議と倒れることなく、そのまま空に溶けるように消えていった。

 その様を、ケイトはぼんやりと立ち尽くしながら見つめていた。

「やった……」

 僅かな間を置いて出た言葉は妙にか細く、自分のものとも思えない。

 不意に、視界が暗転した。それからすぐに聞こえる、何かが水溜まりのようなものへと倒れる音。

「ケイトさま!?」

「しっかりするんだ!」

 ツクノやシルクの、焦ったような声が聞こえてくる。だがそれも、徐々に小さくなっていく。

 どうしたのか、何が起きたのか。ほんの少し考えれば、わかることだった。

 ――ああ、そうか。

 僕は、自分が流した血溜まりに倒れ込んだのか。

 それだけ思うのが、精一杯だった。

 皆の必死な声が、不意に途切れる。そして、自身の意識さえも、ぷっつりと切れて消えた。

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