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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
六章 危機を乗り越えろ!
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6-5 邪龍襲来

 王都に戻って一日を準備などに費やした後に、ケイトたちはハーベストへと向かった。

 ハーベストまでは、それほど距離はない。少し前に徒歩で移動した時も、思ったよりも時間がかからなかったのを覚えている。今回は馬車で移動だったため、半日も経たずに辿り着くことができた。

 日はまだ十分高いが、ひとまず宿屋を確保することから始めた。サラの調子は依然として気掛かりだし、これから先に何が起きるかわからない。万全を期しておくのは重要だった。

 サラを宿屋で休ませてから、ケイトたちは村の中を歩き回ることにした。ブリズ平原が近いということもあって、何か起きていないか気になったのだ。

「なんだか、落ち着かないわね」

 ウルが、辺りに目を向けながら言った。

 確かに、村中が浮足立っている感じがする。すれ違う人々は表情に焦ったようなものを浮かべ、歩く速さも軒並み速い。交わす声も、いくらか早口だ。

「何かが起きているんだろうね。どれ、一人掴まえてみるか」

 シルクが不敵に笑み、前から向かって来る髭面の男に立ち塞がった。

 男が怪訝そうな顔をする。それでも、シルクは構わず口を開く。

「ねえ、あんた。この村の中が妙に慌ただしいんだが、一体何があったんだい?」

「あんたたち、旅人か? まったく、間の悪い時に来たな」

 大男が溜息交じりに言った。

「その口振りだと、何かあったみたいだね。どうしたんだい?」

「最近、ブリズ平原がおかしいことになってるんだよ。いきなりめちゃくちゃ風が吹いて来たかと思ったら、鉄鬼が大量に湧いてきやがったんだ。この村にも時々襲い掛かってくるもんだから、毎日防備を固めなきゃならねえ。その備えのせいで、みんな慌ただしくしてるのさ」

 男の言葉に、ケイトたちは顔を見合わせた。思った以上の異常事態である。これは、あまり悠長にしていられないかもしれない。

 それに、何故だか胸騒ぎがした。嫌な気持ちも常に付き纏い、背筋がぞくりと寒くなった。

「シルク、ブリズ平原に急ごう」

「ああ、そうだね。サラを迎えに行ったら、すぐに出発だ」

「あんたたち、本気か? あそこの鉄鬼は、普通の奴と違って物凄く強いんだぞ。それなのにわざわざ向かうなんて……。ん?」

 男がケイトの顔を見た途端に、言いかけた言葉を呑み込んだ。それから首を傾げ、ケイトの顔をまじまじと覗き込んでくる。

 不思議そうにしていた髭面の厳つい顔が、いきなり笑顔になった。

「おう、やっぱり間違いねえ。少し前に鉄鬼をぶった切った兄ちゃんじゃねえか。いやぁ、あの時は助かったぜ」

 男が大きく笑いながら、ケイトの背中を何度も叩いてくる。存外勢いが強くて少し痛かったが、悪気があるわけではないのはわかっている。けれど、やはり背中は居たくて、思わず苦笑いを浮かべた。

 それでも、ケイトがそうしていることに気づいていないようで、男は笑みを崩さずに続けてくる。

「無事な姿が見られて嬉しいぜ。兄ちゃんのことは、みんな心配していたんだ。解放軍の動きが弱まっていったから、多分無事なんだろうとは思っていたんだがよ」

「この村は、あれから何ともなかったの?」

「ああ。鉄鬼が時々現れることはあったが、みんなで何とかしていたよ。前は、兄ちゃんが頑張って倒してくれたからな。俺たちも負けていられねえって、気合を入れ直してな」

「そうなんだ。僕も、この村が無事でよかったよ」

 男が嬉しそうに頷いたが、その表情はすぐに曇った。

「今は無事だが、いつまで持ち堪えられるかわからねえ。さっきも言ったが、ブリズ平原から湧く鉄鬼の数は、尋常じゃねえ。いつか大勢が押し寄せて来ることでもあったら、ハーベストはもう終わりだ」

 悲しそうに顔を俯かせながら、男が言った

 それが、あまりにも悲痛に満ちていて、見ているだけで辛くなってくる。

 だからだろうか。

「……大丈夫だよ。僕たちが、きっと何とかするから」

 気づけばケイトは、そう口にしていた。

 男がすぐに顔を上げ、驚きと喜びがないまぜになったものをこちらに向けてきた。

「本当に、やってくれるのか?」

「うん。ここの危機を、このまま見過ごすことなんてできないから。必ず、何とかしてみせるよ」

「へへっ、兄ちゃんがそう言ってくれると、何だか安心するな。本当に、何とかしてくれるって思えるぜ」

 満面に笑みを浮かべた男が、もう一度ケイトの背中を強く叩いた。

「俺たちにとって、ここはかけがえのない場所なんだ。だから、頼んだぜ」

「任せて」

 力強く返すと、男が嬉しそうに頷き、それから大きく手を振りながら去って行った。

 男に手を振り返しながら見送っていると、シルクに肘で横腹を小突かれた。

「必ず、ねぇ。大きく出たものだね、ケイト」

「だ、だって、やらないわけにはいけないだろ? それとも、気弱になった方が良かったって言うの?」

「いいや。よく言ったって思っただけさ。ちゃんと言葉にした方が、気も引き締まるってものだしね」

 ほら、とシルクが視線を後ろにずらす。その先を目で追うと、両手の拳を握って気合を入れるツクノと、表情を引き締めるウルの姿が見えた。

 思いがけず、鼓舞した形になったらしい。意識していたことではなかったとはいえ、これはこれで良かったのだろう。暗くなって後ろ向きでは、できることもできなくなる。

「早速、ブリズ平原に向かおうか。まだ日は高いし、時間には余裕があるから。もちろん、サラを迎えに行ってからね」

 皆が頷き、ケイトたちはすぐに宿へと戻った。

 早めの出発を予想していたのか、サラはとっくに準備を整えて待っていた。相変わらず顔色は青白いが、体調としては少し良いらしい。誰の支えもなく、自分の足で歩けるほどだ。

 それでもケイトは少し心配だったが、サラの体調が良い間に出発しようということになり、すぐにブリズ平原へと向かった。

 平原までは、そこまで距離はない。三十分も歩けば、広大な緑の草原が見えてきた。

「……これは」

 平原に足を踏み入れた途端に、異常を感じた。

 妙に熱い風が、激しく吹き荒れている。打ちつけてくるような、強い熱風だ。あまりにも熱く、勢いの強いそれは、ただこの場にいるだけで汗ばみ、吹き飛ばされそうになる。

 襲い掛かる風に堪えていたが、何か変な感じがして、ケイトは前方をキッと睨むように見る。吹き荒ぶ風が、微かな光を放った。間違いない、繋がりの糸だ。

 ――この風は、ユーザー能力なのか……?

 だとしたら、操っているモノがいるはずだ。これほど強い風を僕たちの近くで起こしているのだから、離れたところにいるとは考えにくい。

 辺りを見渡そうとしたが、風が遮ってきて視界がうまく定まらない。

「でも、これがユーザー能力なら……!」

 刀を出し、力一杯振り抜く。刃が唸り声を上げ、空を裂く。同時に、吹き荒ぶ風の糸の光を、刀が断ち切った。

 途端に、風が少し弱まる。まだいくらか強い方ではあるが、少なくとも耐えられないほどではない。

「あら。さすがにこの程度では、足止めにもならないか」

 不意に、どこからか落ち着いた感じの女の声が聞こえた。

 声の出所を探ろうと周囲に目を移していると、不意に空が暗くなった。いきなり届かなくなった陽の光に訝り、頭上を見上げると、鋼の装甲を纏った巨大な龍がそこを悠然と飛んでいた。

「あれは……!」

 ホムラを連れ去った龍だ。見間違えるはずもなかった。

 その龍がケイトたちの真上に来ると、いきなり眩い光を放ち始めた。ただ、それも一瞬のことで、光が消えた時には龍の姿は消えていた。

 突然のことに驚いている暇はなかった。龍は消えたが、目の前にはいつの間にか見知らぬ女性が現れていた。

 顔の半分を仮面で覆った女性である。すらりと伸びた長身と背まである青い髪が目を引いたが、何よりも気にかかったのが、その体を包み込む道具の加護の分厚さだ。尋常ではない加護の厚さが、この女性が只者ではないことをはっきりと示していた。

「お前は」

 女性の姿を見た時、シルクが露骨に舌打ちをした。はっきりとわかる嫌悪感を表情へと出し、眉間に皴が寄るほどに顔を険しくしながら女性を睨みつけた。

 それに対して、女性は口元に余裕そうな笑みを浮かべている。

「この姿では、初めましてかしら? わたくしはセイラ。またの名を、風を司る守護獣、青龍と申しますわ」

「わざわざ名乗って何のつもりだい、セイラ。それより、その仮面は何だ」

 シルクの言葉は、妙に刺々しい。声にも、明らかな怒りが含まれている。

 セイラが、くすりと一度笑った。ただそれは、人を小馬鹿にしたような少し不快なものだ。

「久しぶりですわね、シルク。相変わらず、気が短いですこと。そんなことでは、本当に老婆になってしまいますわよ?」

「口の利き方には気をつけな、小娘。私は、ただでさえ気が立っているんだ。さっさと、私の質問に答えろ」

 困ったように肩を竦めたセイラが、左手に右肘を乗せながら苦笑気味に答える。

「わかり切ったことを聞きますのね。この仮面が何を意味しているかぐらい、考えずともわかるでしょう?」

「鉄鬼になった。そう言いたいのかい?」

「そうですわ。ですが、無理やりなったのではありませんわよ。わたくしは、望んでこの姿になったのですから」

「何……?」

 シルクのこめかみに、青筋が浮く。相当怒っているのか、いつの間にか抜かれていた大太刀鋏を握る手が、小刻みに揺れていた。

 それを、相変わらず不愉快な笑みを浮かべたまま、セイラが見つめている。

「わたくしは、あの子の意志に賛同しましたの。このまま、世界を守っていくことには疑問がありましたから。いっそ、こんな面倒なしがらみはなくなってしまえとも思っていましたわ」

「だから、オウリュウに従って、鉄鬼にもなったって言うのかい」

「そういうことですわね。今の姿の方が、力は段違いに上ですし。何よりも、鉄鬼を従えるには同じ姿の方が楽なのですよ」

 喉を鳴らして笑うセイラに、ケイトははっきりと嫌悪感を抱いた。明らかに馬鹿にしている態度は、シルクじゃなくても頭にくる。

「……僕からも、一つ聞きたいことがある」

 二人に割って入るように、ケイトは口を開いた。外に出た声は、自分のものとは思えないほどに低く、暗いものだ。

「ホムラを連れ去ったのは、お前だろ? ホムラは、どうした?」

「ああ、あの子。うふふ、確かに連れて行ったわ。今頃はそうね、どうしたかしら」

「はぐらかすなッ!」

 激情が、体を一瞬で駆け巡る。気づいた時には、ケイトは刀を抜いてセイラに突っ込んでいた。

「待ちな、ケイト!」

 シルクが止めるも、動きは止まらない。瞬く間に距離を詰め、セイラに向かって斬りかかる。

 二刀が左から右に薙がれ、セイラの首へと迫っていく。

「焦らなくても、すぐに教えて差し上げますわ」

 声が返り、次いで乾いた金属音が鳴り響いた。手に、強い衝撃が残る。

 ケイトとセイラの間に、誰かが割って入っている。その誰かに攻撃を止められ、ケイトは怒りを籠めてキッと睨んだが、それはすぐに驚きに変わった。

 顔の左半分を鋼の仮面で覆い、体の至るところを鉄で固めた金髪の男が、ケイトの一撃を剣で防いでいる。殺意に満ちた目を、こちらに向けながら。

「そんな、そんなことって……!」

 目の前の現実に、思わず言葉が漏れる。

「どうして君が、こんな姿になっているんだよッ! 答えてくれ、ホムラッ!」

 ケイトが叫ぶように言っても、鋼の仮面をつけたホムラは、無言のまま殺意を投げかけてくるばかりだった。

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