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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
五章 新たな戦い
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5-3 ツクノが隠していたこと

 まず、何から話しましょうか。やはり、わたし自身のことからでしょうか。

 わたしは、最初から付喪神であったわけではありません。今から千年以上も前の大昔の、まだ世界が一つであった頃は、わたしはまだ人間でした。何の変哲もない、普通の人間の間に生まれた子どもでした。

 ですが、わたしは普通の人間ではありませんでした。何故ならば、物心ついた頃から、わたしにはこの世界に生きている精霊の姿が見えていたからです。それだけではありません。声も聞こえていました。つまりはそう、わたしは生まれながらの道具使いの素質を持っていたのです。

 でも、当時のわたしはそれには気づいてなくて。精霊が他の人にも見えていて、声も聞こえているものだと思っていました。

 そのことが違うと知ったのは、誰もいないところで楽しそうに話しているわたしを、他の人が気味の悪そうな目を向けているのに気づいたからでした。

 尤も、気づいた時には時既に遅しというやつで。本当ならば守ってくれるはずの両親も、わたしのことを気味悪く思い、狐に憑かれた忌まわしい子どもとまで言って蔑みました。そればかりか、ある日わたしが眠っている間に、どこかへといなくなってしまいました。

 わたしは途方にくれましたが、一人になってからは精霊と一緒に過ごすようになりました。奇異の目はたくさん向けられましたけど、わたしは頑張って無視しました。当時は、まだ少女でしたからね。人目を気にしていたら、生きていくのは難しかったのです。

 そんなある日、わたしは運命の人に出会いました。月が綺麗な、静かな夜のことです。

 それが伝説の道具使いと伝えられている、鬼一法眼さまです。

 法眼さまは人間の陰陽師でありながら、モノの姿を視認できる道具使いでもありました。そして、精霊たちが驚くほどに道具の加護が強い人でもありました。

 なんでそんな夜に出会ったのかと言うと、法眼さまは誰かに呼ばれて来たのだと答えました。でも、誰も呼んではいません。わたしたちは不思議でしたが、この出会いが単なる偶然ではないと、何となく思っていました。

 おそらく、法眼さまもそう思っていたのでしょう。精霊が傍にいるとはいえ、一人のわたしを放っておけなかったのか、手を引いて住まいに連れ帰りました。

 一応断っておきますが、やましいことはありませんでしたよ。法眼さまは厳粛な方で、とってもお堅い人でしたから。

 その法眼さまは、どこかの偉い人に仕えていて、自身も結構身分が高い人だったみたいです。法眼さまの傍に仕える人も結構いましたし、敬われたりもしていました。

 わたしは、その法眼さまの傍に仕えることになりました。もちろん、いきなりの環境の変化に右往左往するばかりでしたが、同じ歳くらいの五人の巫女が、わたしをフォローしてくれました。

 五人の巫女も、道具使いでした。法眼さまほどではありませんが、結構な力を持っていたのを、何となく覚えています。

 法眼さまやその五人、そして精霊たちは、わたしに色々なことを教えてくれました。この世界の在り方、モノの存在、道具使いや能力などを知ったのは、その頃のことです。

 それらはわたしを驚かせましたが、一番衝撃的だったのが、二つの世界をさらに密接にし、過干渉を起こして支配しようとする人が少なからずいることでした。

 過干渉は、互いの世界へと直に影響を与える、危険な事象です。起きた事象を共有してしまうのも恐ろしいですが、何よりも危険なのは、命さえも二つの世界で共有するようになることでしょう。共有するということは、どちらかの世界で消えてしまえば、もう一方でも消えてしまうのも同じです。一歩間違えれば、どちらの世界も命がなくなり、滅亡してしまいかねません。

 それでも、時の権力者は過干渉を起こしたがりました。世界が繋がり、命さえも二つの場所で共有できるようになれば、不老不死になれる。そんな眉唾な話が密やかに広まっていましたから、無理はなかったかもしれません。

 権力者は不思議と道具使いが多く、モノとの繋がりを持つ人ばかりだったと聞きます。誰よりも権力を持ちたいという欲望や、いつまでも生きていたいという願いを胸に、権力者は共鳴道具と共に好き勝手していました。

 勿論、みんながみんな、過干渉を望んでいたわけではありません。世界が密接に繋がる危険性を察し、反抗する人やモノもいました。権力者と争い、その蛮行を改めさせたり、時には敗れ去ったりと、表沙汰にはならない戦いを繰り広げていました。

 ただ、結局それは、不毛なものでしかありませんでした。だってそうですよね。世界は、繋がっているのですから。いくらその時争いを止めても、次の争いがなくなるわけじゃありませんもの。

 事実、わたしが生まれるずっと昔から、この世界では暗闘が繰り広げられていたそうです。過干渉を起こそうとする者と阻止する者が、延々と戦う。そんな、無意味なものが続いていたと聞きます。

 まさに、負の連鎖です。わたしはそれを、どうにかしたかった。一番真っ先に思いついたのは世界を離すことでしたが、わたしにはどうすればいいのかわかりません。自分が道具使いであると意識し、能力を行使しようにも、力が世界に及ぼす影響などあるはずもなく。せめて目の前の精霊たちが傷つかないように、見守ることしかできませんでした。

 それから、どれくらいの時が過ぎた頃でしょうか。世界が危機に陥ったのは。

 悪しき共鳴道具が権力者と共に、精霊たちを殺し始めたのです。

 当時の精霊は、まさしく世界を形成するモノでした。世界というモノを成り立たせるための力の一つで、たくさん存在することで、その力を安定させていたのです。

 精霊の数が減ってしまえば、世界の存在は揺らいでしまう。道具使いはそのことはわかっていて、だからこそ精霊に手を出すことはなかったのです。

 でも、その二人は違いました。破壊と破滅を望み、手当たり次第に精霊を殺していったのです。理由は、さすがにわかりません。ただ、笑いながら精霊に手を上げていたのを、わたしは見た記憶があります。

 精霊の数が減ったことで、世界は見る見るうちに弱っていきました。地面は栄養を失ったかのようにひび割れていき、緑は枯れ、水は濁るようになりました。

 世界が弱っていくのを目の当たりにしたわたしは、居ても立っても居られなくなり、無謀にもその悪しき存在に立ち向かおうとしました。

 わたしが全然強くないのを知っている巫女や精霊たちは、必死に止めようとしました。そんなみんなを、わたしは何とか説得しようとしました。勿論、互いに譲らず、言い合いながら時間ばかりが過ぎていきました。

 わたしたちの話を聞いていた法眼さまは、自分がやると言って、悪しき存在に立ち向かっていきました。わたしは驚き、すぐに後を追いました。いくら法眼さまが強い加護を持っていても、たった一人では危険だと思ったのです。

 実際、危険でした。法眼さまは悪しき存在に苦戦し、体はたくさんの傷を負ってボロボロになっていました。血も異常なほどに流し、生きているのが不思議なくらいでした。

 それでも、法眼さまは勝ちました。どうなったのかは少し記憶が飛んでいますが、気づいた時には法眼さまは、ボロボロになりながらも悪しき存在の何かを断ち切り、彼らを完全に動けなくしていました。

 後々に聞いたのですが、その何かは繋がりの糸と呼ばれる、モノとモノを繋ぐ不思議な存在だそうです。その糸は道具の加護の通り道だそうで、繋がっていないと力を伝えることができないらしいです。

 そしてそれは、本来ならば誰にも見ることはできず、モノを視認できる道具使いであっても、目に映すことはできない代物だそうです。

 ケイトさまならば、わたしの言葉の意味がすぐにわかるでしょう。わたしたちには見えない、糸のようなもの。それが繋がりの糸です。

 法眼さまには、その糸が見えました。ばかりか、悪しき繋がりを断ち切る力を持っていました。だから、世界を脅かした彼らにも勝てたのです。

 悪しき存在に打ち勝った法眼さまですが、何故か浮かない顔で何かを考えていました。わたしが不思議に思って聞くと、世界を一度切り離さなければならない、と法眼さまは答えました。一つの世界を切り離し、二つに分けて再度繋ぎ直す。人とモノを救うには、今はそれしかない、とも。

 法眼さまが行動を開始したのは、傷が癒えてからです。ですが、何をしたのかはよくわかりません。というのも、法眼さまが世界を切り離そうとした時には、わたしは人柱になって死にかけていたからです。

 人柱と聞いて、皆さんぞっとしたのではないでしょうか。正直、わたし自身もそうです。一番薄れて欲しかったその時の記憶は、何故か鮮明に覚えています。

 世界を切り離した後に、再度繋ぎ直すには、わたしの道具の加護が必要だったみたいです。どうやらわたしは、わたしが思っている以上に強い力を持っていたらしく、法眼さまが作り出した魔法の撚糸の力を、一番増幅させられました。

 選ばれた時は、わたしには迷いがありませんでした。こんなわたしでも、役に立てる。そう思って、喜んで人柱を引き受けました。

 人柱としてどこかに閉じ込められたのは、その後すぐです。でも、無理やりではありません。法眼さまが涙を流しながら謝り、力なくその場所の入り口を閉ざしたのを、ちゃんと覚えています。最後に、「もしも再びこの世に出て来られたら、世界を繋ぎ続けてほしい」と言ったのも。

 何にもない真っ暗な場所に、わたしは一人残されました。眼を開けていても何も見えないほどの、本当に闇の中でした。

 そこにいると、自分の力が抜けていくのを痛いほどに感じました。命が、徐々に弱っていくのも同様です。

 最初は座って耐えていましたが、そうしているのも辛くなりました。やがて、倒れるようにして横になり、息を乱すようになりました。それでも、命と力が抜け出て行くのは、止まりません。

 自分が死に近づいていくのを感じ、わたしは不意に恐怖に駆られました。どうして、わたしがこんな目に遭うんだろう。どうして、死ななきゃいけないんだろう。頼まれたことを喜んで引き受けたのなど忘れ、わたしはその時の境遇を恨んでしまいそうになりました。

 でも、辛うじて踏み止まりました。法眼さまの辛そうな顔を思い出すと、何とか心を保つことができました。何度も惑い、苦しみましたが、この命が尽き果てるまで、堪え切ることができました。

 そう。わたしは、死んでしまいました。ですがそれは、人としてのわたしだったようです。不思議と目が覚めたわたしは、気づいたら今の姿になっていました。モノの世界に生きる、羽衣に宿る付喪神のツクノ。そういう存在になっていました。

 付喪神になっても、人の頃の記憶はほんの少しだけ残っていました。わたしは、すぐに状況を掴むべく、世界をあちこち飛び回りました。

 それで、色々なことを知りました。世界はちゃんと二つに分かれ、わたしの力を糧にした魔法の撚糸によって繋がれていること。法眼さまが生きていた頃から、既に何百年もの時が流れていたこと。五人の巫女がハイ・ユーザーとなり、撚糸を守る守護獣になっていたこと。その守護獣が、記憶と力を継承して代替わりしていることなど、実に様々です。

 守護獣が記憶を継承していることは、わたしにとって救いでした。だって、大昔のことを知っている存在なんて、他にいるわけがありませんでしたから。あの子たちがわたしを知っていてくれたことで、間接的にとはいえ一人ぼっちにならずにすみましたし、自分が何をすべきなのかを思い出せましたからね。

 世界を繋ぎ続ける。それが、わたしの役目です。そのことは、今になっても変わりません。幸い、人だった頃に得意だったモノの気配を掴む力は健在で、寧ろより鮮明に感じ取れるようになっていました。撚糸は特殊な気配を発していますから、何かがあったらすぐにわかります。

 実際、現代に至るまで、何度か撚糸の力が弱まったことがありました。でも、その度にわたしが、撚糸の力を元に戻しました。元々、わたしの力が具現化したものみたいでしたからね。大分疲れますけど、守護獣と協力することで、力を供給できたんです。

 あら、嘘だと思います? でも、本当なんですよ。隠していたつもりはないんですが、わたしはまだ、道具使いみたいなんです。まあ、何の使い手なのかは忘れてしまいましたが、とにかく道具の加護は持ち合わせています。膨大な量の力も、実は半分は健在なのです。

 だからわたしは、何度も何度も撚糸に力を注ぎ続けました。糸が繋がっていれば、世界は安定する。そう信じて、世界のために力を尽くしてきました。

 法眼さまとの大切な約束を守るために、長い時を、ずっと。

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