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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
四章 奇襲急襲、そして
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4-9 見えた勝機

「何……?」

 飛び散る血を見たクロウズの表情から、余裕が消えた。

 斬った。加護も繋がりも、その下に覆われていたクロウズの肉体さえも、ケイトの刀は切り裂いた。

 ――生身を、斬った……!

 自分でも驚いた瞬間、腹に強い衝撃が走り、ケイトの思考は一瞬止まった。拳が見えなくなるほどに、一撃が腹にめり込んでいる。反撃をまともに食らってしまい、体は勢いよく吹っ飛び、大分後ろの方にあったガラクタの山にぶつかった。

「ケイト!」

「よそ見は」

 こちらに気を取られたホムラに、クロウズが瞬く間に距離を詰めては拳を振り下ろした。

「するなって言ってんだろ」

「ぐっ……!」

 拳をまともに受けたホムラが、地面を勢いよく滑るように転がっていく。

 そこまで見てから、ケイトは刀を杖に立ち上がった。すぐに構えを取るが、あまりの痛みに動けない。

 対するクロウズも、動くことはしなかった。自身の腹から流れる血を一瞥してから、こちらに再び視線を向ける。

「……やるな。まさか、斬られるとは思ってなかったぜ」

 真顔のまま言ったクロウズが、腰を低く落として構える。

「これで、ようやく俺と対等に殺し合えるってわけだ。楽しくなってきたじゃねえか」

 言葉の割には、クロウズの表情は真剣なままだ。声も、沈んだように若干低い。

 痛いほどの殺気を感じるも、怯むことはしない。精神を極限まで研ぎ澄まし、太刀鋏から湧き出る力を、余すところなく感じ取る。依然として凄まじい力が迸っていて、今ならば本当に何でも斬れそうな気がする。

 ただ、体への負荷が激しいことに気づいた。息は大分上がっているし、クロウズから受けたダメージもそれなりに重い。加えて、この手に襲い続ける焼けるような痛みは、結構辛いものがある。力を使いこなせていない今、長く戦うのは難しいだろう。

 加えて、一つの懸念がある。

 ――ここで一歩間違えてしまったら、クロウズを殺してしまうかもしれない。

 加護や繋がりだけでなく、肉体さえも斬れてしまった今、ケイトの力は相手の命を脅かす。やり方次第では、取り返しのつかないことになりかねない。

 ――だけど、今はやるしかない。

 クロウズの強大な加護を打ち破るには、この力に頼るしかなかった。危険だろうが何だろうが、力があれば突破口を開ける。

 それに、何と言ってもケイトは一人で戦っているわけではない。ホムラがいれば、殺さない戦い方だってできる。

 ちらと、吹っ飛ばされたホムラに目を向ける。何とか起き上がったホムラと、束の間目が合う。額から流れる血によって、右目を閉じていたホムラが、何かを察したように小さく頷いた。

 眼だけで頷いてから、クロウズを見る。両の手の刀を構え、一気に駆け出した。クロウズは動かず、拳を構えたまま待ち構えている。

 間合いに入り、右の刀を横薙ぎに振るう。即座に屈んだクロウズが、立ち上がると同時に左の拳で突き上げてきた。それを、左の刀で受け止める。

 乾いた金属音が鳴り響くも、その余韻を聞いていることはない。すかさず、右で切り上げる。クロウズの体に、刃が届いた。腹の少し上を、切っ先が切り裂いた。

 しかし、クロウズもただで受けたわけではなかった。一撃を食らったのとほぼ同時に、右の拳を突き出してきていた。攻撃している最中だったケイトにかわす術はなく、顔面への重い一撃をまともに食らった。

「ぐうっ……!」

 倒れそうになるのを何とか堪え、すぐさまクロウズに目を向ける。腹から血を流しながらも、平然と打ち込んできている姿が目に映った。

 ――違う、そこじゃないんだ。

 狙いたい場所は、別のところにある。

 クロウズの次の一撃を防ぎながら、ケイトは口の中で呟いた。

 狙うべき場所は、先程油を吸った右手の辺りだ。すぐに気づいたとはいえ、それなりに吸ってしまったようで、クロウズの右肘の辺りまで油は侵食している。

 ――右腕の加護を斬り、油を漏れさせる。

 そうすれば、ホムラの炎で激しく燃やすことができる。衣服に油が含まれていれば、たとえクロウズでも防ぎ切ることはできないはずだ。あの油は、ホムラの加護が具現化したものだからそう簡単には消えないし、何よりも加護が見えるケイトにとって、いい目印である。

 多分、クロウズもそのことに気づいている。現に、右腕を覆う加護はどの部分よりも分厚く覆われているし、狙いを絞らせないように激しく攻めてきている。こちらは、防ぐのが精一杯だ。

 ――だけど、勝機はある。

 クロウズは先程から、青色の糸のまま戦っていた。多分だが、電気を発する黄色では発火の危険があって使えず、凄まじい速さを誇る風の緑は、傷ついている体では使うのは厳しいのだろう。ただでさえ、超速の一撃を放つのだ。血が出たままの体で放てるほど、柔なものではないだろう。

 実際どうなのかはわからないが、ケイトにとって少しだけ有利になったのは間違いない。

 ただそれも、手が持ち堪えている間だけだ。手が痛みに負けた時、こちらの勝機は完全に消える。

 ――ならばその前に、勝負を決める。

 放たれた右の拳を弾き返し、ケイトの方から斬り込む。クロウズはかわすが、手を緩めることなく攻め続ける。その分握力が失せていくが、構わなかった。

 一撃、二撃。唸りを上げて迫る刃を前に、クロウズは防御することなく回避を続ける。ここまで与えた二度の斬撃によって、こちらの一撃をまともに受けるのは危険だと思っているのだろう。

「ちっ」

 露骨に舌打ちをしたクロウズが、後ろに飛び退く。

 だがそこには、罠が仕掛けられている。

「くそっ、またか……!」

 いつの間にか後方の足元に撒かれた油に気づいたクロウズが、地面へと降り立つ時に少し体勢を崩した。着地の際に、足元が乱れている。

 クロウズが飛び退いた時、ケイトはすかさず追撃のために前へと出ていた。クロウズが着地し、体勢を崩した時には、既に間合いに入っていた。

「はあっ!」

 裂帛の気合と共に、両の刀を振り下ろす。右腕の加護。クロウズが咄嗟に左手で防御の構えを取ったが、右の刀でそれを弾き、残った方で右腕目掛けて思い切り振り下ろした。

 クロウズが、何とか体をのけ反らせる。そのために、切っ先は腕そのものには届かなかった。

 だが、その腕に纏う加護を、刃は確かに切り裂いた。加護の赤い光を宿した油が、そこから飛び散る。

「くっ!」

 顔へと明らかに苦いものを浮かべたクロウズが、さらに距離を取るべく地面を蹴ろうとした。

 そこを逃す、ホムラではない。

「燃え上がれ、火柱!」

 大木の太さほどもある火柱が、油を撒き込みながら立ち昇った。火の粉があちこちに舞い、たちまち辺りが熱気に包まれる。

 そして、その熱気は、クロウズが撒き散らす油にも反応した。

「くそっ……!」

 急いで離れようとしたクロウズの右腕が、炎に包まれる。体を走る糸の色は赤だが、油が染み込んでしまってはどうしようもないらしい。クロウズが、叫び声を上げながら前によろめいた。

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